第19話 たくましい人々
冒険者達の強さを見た俺達は、自分の獲物を探しに少し田舎に行ってみる事にした。人口が多い都市部は既に獲物の取り合いが起こっていて俺達が魔物を狩る様な状態ではなかったのだ。
「逞し過ぎるだろ、何だよこの状態。誰も悲鳴を上げたり逃げたりしね~んでやんの」
「中々に逞しい人達ですね、ネットでは住民が逃げ回って被害が出ているって話でしたが」
「うむ、皆ヤル気が有って素晴らしい。ここら辺の人は自立してる様だな」
そしてやって来た田舎町、ここなら人も少なくて魔物に困っているだろうと思って来たのだが。あいにくと俺の想像は甘かった様で、魔物相手に村人達が大立ち回りを演じていたのだった。
「爺さん! そっちに行ったぞ!」
「任せるべ! ぶち殺してやるべ!」
「婆さん、今じゃ! 包丁をぶっ刺すんじゃ!」
スマホの電波は届かないのでスマホの情報は手に入らないのだが、村には防災無線というものがあって、村の家一軒一軒にスピーカーがついてあり、魔物の情報を素早く伝えていたのだ。そして家の中だけでは無く、電柱に取り付けた町内放送用の拡声器も大音量で魔物の情報を流すので、魔物が現れれば都市と同じ位の速度で情報が拡散されるのだ。
そして村人達は強かった、猪や熊、狸や鹿などの獣に慣れきった住民たちは魔物を見つければワラワラと集まり、魔物を軽々と倒していった。
「うひょ~、魔石いただきじゃ!」
「うひょうひょ、儲かったの~。毎日出て欲しいもんじゃ。晩飯のオカズ代に丁度ええわい」
「んだな、貴重な現金収入だべ」
都会では魔物が出れば住民は逃げるらしいが、ここは戦闘民族九州人が住む所だった。魔物如きで怯むようなら田舎暮らしは出来ないのだ、好景気等見た事も聞いた事も無い田舎、常に不景気で就職難、ブラック企業すら生存出来ない火星よりも劣悪な環境、それが田舎なのだ。綺麗な水と空気、それだけしか無い中で生き抜いてきた彼等は根性が違うのだ。(*あくまで筆者の想像です)
「帰ろう、俺達まで狩られそうだもんな」
「そうですわね、蛮族が住んでる土地みたいですわね」
「ここが有名な修羅の国だったのか~」
俺の作戦は失敗した、もう少し文明の進んだ軟弱な人間達が済む所を探そうと思う。ここでは冒険者の出番が無いのだ、それに彼等の貴重な現金収入に手を出すと、非常に危険だからね。そう言えば、九州は普通に戦車が道を走っていたり、自衛隊の車両がバンバン走って居る土地柄だった、就職先が無いから自衛隊に入るのも普通の土地柄だった、都会とは少し違う様だな。
「あ~もしもし、ステルス君。チョット聞きたいことが有るんだけど、良いかな?」
「ダンさん? 何ですか、聞きたい事って」
「人の邪魔が入らない狩場って無いかな? 知ってたら教えて欲しいんだ」
「競争がゆるいのは、○○街ですね。あそこが一番魔物の被害が大きいみたいですよ。新興住宅地なんですが冒険者登録ゼロの不思議な町です」
現地の事は現地人に聞くのが一番だ、昨日知り合いになったC級冒険者のステルスB君に聞くことにしたのだ。彼はとても優秀なのであらゆる情報を知っていた。それこそオタクの情報網は政府以上の精度と情報量を持っていた、幾ら予想が外れても給料が全然減らない気象庁とは違うのだった。
そしてステルスB君に教えて貰った○○町へやって来た。出来たての町の様で街並みは綺麗だったが、活気が全然無い、人々が怯えて暮らしている所だった。
「マスター、あっちにオークの反応が有る」
「よっしゃ、やっと戦えるな」
現場に向かうとそこにはオークに追いかけられて悲鳴を上げている人々がいた。オークは走るのが苦手の魔物なので人間の方が走れば少し速い、だから追いつかれて殺られるのは子供か年寄りが多かった。
「ヒヤッハ~!!!」
子供を追いかけているオークに背後から襲いかかる、今回は槍では無く冒険者らしく剣を持っているので剣で斬りかかった。
ブキィ~!!!
背中から斬りかかったが、走りながらの攻撃なので浅かった様で、背中から血を流しているがオークは倒れない、それどころか痛みで怒り狂っていた。
「さあ来いオーク! 冒険者のダンが相手だ!」
「はい、はい」
「不意打ちなのに倒せないとは、マスターは弱すぎだな」
後ろからの不意打ちですらオークを倒せない俺にコア子とバル子が溜息をついていた。仕方無いんだ、ポヨポヨが体にまとわりついて居るから体が重いんだ、普段通りに動けないんだ。
そして1対1でオークと戦う俺、オークの攻撃を盾で防ぎ、剣で反撃する。ポヨポヨのせいで凄く体が重い。米俵を担ぎながら戦ってるのと同じなのだ、ただポヨポヨのお陰で相手の打撃は全く効かない、ポヨポヨは物理攻撃無効スキルを持っている。つまり俺は重さ50キロの鎧を着て戦っているのと同じなのだ。
そして5分程の泥仕合の末に俺はオークを倒した、格好良く勝つはずが素手で戦うより時間が掛かってしまった。まあ仕方無い剣なんて始めて使ったから使い方を知らないし、ポヨポヨが体に張り付いているせいで何時もより体の動きが凄く鈍くなってるからね。
「おい! あんた達」
「うん」
オークを倒したら町の人間達が集まってきた。何やら殺気だってる様だ、獲物を取ったから怒っているのだろうか? まあ俺は金持ちなのでオークの魔石くらい幾らでもくれてやるのだが。オークの魔石なんかたったの1万円だし。
「もっと早く助けに来い! うすのろが!」
「そうだそうだ、逃げるのに疲れたじゃないか! お前らが早く来ないからだぞ」
「お詫びの印に有り金全部置いていけよ! そうしたら勘弁してやる!」
なんだこいつ等? 何言ってるんだろう? 何故俺がこいつらに許して貰わないといけないんだろう?普通は魔物から助けられたらお礼を言う所ろじゃ無いのか?
「さっさと金を置いてゆけ!」
「ヘヘッヘ、良い女連れてるじゃないか。女でも良いぞ、たっぷり可愛がってやる」
さらに住民が集まってきた、オークが現れると逃げ回る癖に人間相手には強気な様だ。欲望でギラギラした目でコアとバルキリーを見ていた。
「マスター、何ですかこれ?」
「何だろうな? 俺にも分からないや。でもまあこの町に冒険者が来ない理由はこれだろうな」
「「「早く金と女を置いてゆけ! うすのろ!」」」
「よいしょっと!」
「!!!!」
面倒なので煩い男の顎を殴る、いい手応えだったので顎の骨を砕けた様だ。これで此奴は1ヶ月以上まともな食物は食えないだろう。強盗なら強盗らしく相手を見てやるべきなのだ、子犬が狼に喧嘩を売れば怪我をするのは当たり前なのだ。
「何するんだ! 凶暴な奴だ、警察を呼ぶぞ。嫌なら金と女を置いてゆけ」
「ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
俺は兎も角、連れの女性の身に危険を感じたので周りに居た住民に漏れなくファイヤーボールをプレゼントした、皆楽しそうに燃え上がって踊っていた。今回の俺は魔道具の指輪をどっさ身に付けているので、簡単な攻撃魔法と防御魔法を使えるのだ。
「さて帰るか、まあまあ戦える事が分かったから十分だ」
「そうですわね、外はあまり面白く有りませんわね」
「食べ物が色々有るだけだったな、ダンジョン都市の方が面白い」
そして俺は本格的に全国指名手配になってしまった、でも何の罪なんだろうな? 魔法で燃やしたから俺は指一本触れてないし、魔法を科学的に立証するのは不可能なんだがな。つまり俺が魔法なんて知らないって言えばそれまでの話なのだがな。




