第2話 ダンジョンマスター候補生
ダンジョンマスター3次面接。何故か筆記試験が有った、問題自体は簡単な奴だったが、その後小論文まで有ったのは何故なのだろうか? ダンジョンマスターに常識や教養を求めているって事なのか?勿論俺はなろうで鍛えているので物凄い勢いで小論文を書き上げた、いい加減な文章を書くのは得意なのだよ。
そう言えばテストを受ける部屋には50人程の人間が居た、何故か真面目そうな人達ばかりでダンジョンとは関係なさそうなのだが、この人達はダンジョンを何と思っているのだろうか。基本的にダンジョンって蟻地獄と同じで、中に入って来た者を殺すのだが、分かっているのだろうかな?ただ公務員に成りたくて応募したのではなかろうか?
そして面接。政府の役人が10人程並んでいる、俗に言う圧迫面接って奴なのかな? まあ仕事で人前で話すのも慣れてるし、全国会議の副議長とかも昔やって事が有るので10人ほどの小役人が並んでいても別に俺は何とも思わなかった。
「特技欄のダンジョンマスターの経験有りって言うのは何かね? 虚偽の記載は不味いと思うがね」
「虚偽では有りません、事実です」
ザワザワザワ
前に並んでいる面接官がザワザワしていた、俺を可哀想な目で見るものや、馬鹿にした様な目で見る者、そして怒っている者、まあ予想通りの反応だ。
「証明できるかね?」
「出来ませんな」
「では嘘なのかね?」
「それでは、そちらが私がダンジョンマスターでは無かったと証明すれば良いのでは? 信じる信じないはそちらの自由ですから」
「・・・・・・」
「一つ宜しいですか? 質問が有ります」
「どうぞ」
面接官の中に一人だけ異物が居た、短髪で鍛えた体をしていた。多分自衛官かそれに近い職業の奴だな、現場の人間と官僚とは匂いが違うので直ぐに分かるのだ。
「ダンジョンの入口を広げられないのですが、何故だか分かりますか?」
「ダンジョンの壁は壊れません、壊れると下の部屋や最新部まで穴を掘られますから、そういう風に出来てます、これは事実であって理屈では有りません」
「そうですか、有難うございました。質問は以上です」
そして俺が東京から帰ってきて1週間後に採用通知が家に来た。藁にもすがる気持ちで俺を採用した様だ、まあそれでも俺が本当にダンジョンマスターをやっていたと思ってる奴は居ないだろうが。
採用されたのなら仕方無い、長年勤めた職場に退職届けを出して、悲しんでいる職員さん達に別れを告げて再出発をする。依願退職なので退職金が減るが、こんどの所は国家公務員の特別職になるので、まあ良いだろう、生きていればその内元が取れるハズ。給料も高いし休みも多いからな、まあ2度目の公務員なんだがそれも良いだろう。
東京に上京した俺は専用の宿舎に入ることになった、豪華とは言えないショボイ宿舎だった。訳の分からないダンジョン科とか言う新設の部署なので予算が少ない様だった。それでも家賃がタダなのが地味に嬉しかった。
そして引っ越した次の日の朝6時、俺は叩き起こされて整列させられていた。それから洗面、朝食。そして朝の8時から国旗の掲揚、早い話が自衛隊体験コースを受けさせられていたのだ。
「基準!」
「整列! 番号始め!」
「何でこんな事を・・・・・・」
「貴様~! 私語を慎め! 腕立て伏せ30回!」
「ひィ~!!」
現場の班長は2曹、指揮官は3尉だった。俺たち宿舎に居る者は全部で15名、全員が3次試験を突破してきた者達だった。男が13名、女が2名。この中で自衛隊上がりの者が2名いた、2名は他の13名が悲鳴を上げて文句を言っている訓練を鼻歌交じりでこなしていた。
昼の12時になったので、食堂で皆で昼飯を食べる。午前中は体力を付ける為の訓練が多かったので運動不足の者たちは食欲が出ない様で、お通夜状態だった。
「隣、良いですか?」
「どうぞ」
基礎訓練を楽々とこなしている短髪の男、30歳位なのか鍛えた体をしていた。朝の点呼も一番早いので多分元自衛官だと思ってた男だ。
「私もと富士教導にいた秋山一尉です、宜しく」
「へ~、エリートさんか、宜しく」
彼は防衛大学を出て富士の教導にいた本物のエリート自衛官だった、今の服には着けていないが元の戦闘服には空挺とレンジャーの徽章が付いてる事だろう。
「気を悪くしたら謝りますが、お仲間ではないですか?」
「昔の話だよ、もう全部忘れたな」
どうやらやっぱり分かる様だ、昔は歩き方や道の曲がり方で仲間は分かるって言っていたが、本当のようだ。まあ、頼りになりそうなので、何か有ったら彼の影に隠れようと思った。
そしてそこで新人教育の真似事をして1ヶ月程経った後に、俺たちに初の任務が言い渡された。その時俺達は自衛官と一緒に行動するので一応の身分は、自衛隊の三曹という事になっていた。多分民間人が死んだら世論がうるさいので民間人じゃなくしたのだと思う。
「君達全員に初の任務だ、喜び給え。明日、問題のダンジョンに偵察に行く」
「う!」
「よし!」
「ウエ~イ!」
喜ぶ者も居たが、殆どは青い顔をしていた、なにせこの1ヵ月でダンジョンの怖さを教えられたのだ。この2ヶ月でダンジョンに入ったもの200名、その内帰ってきた者1名。絶望の数字である、多分明日の朝には任務を拒否する者が現れるだろう。これは強制では無いのだ、死ぬ確率が高すぎて強制出来ない命令なのだ。全員死んだら命令を出した人間の責任問題になるので、希望者だけを行かせる訳だ。
「参加希望者は遺書を書いておくこと、遺書は本官が預かり必ず遺族に渡すので安心して欲しい」
「・・・・・・」
真面目な顔をして小隊長が言うので、ダンジョンマスター候補生達は青い顔をしてた、これは明日には宿舎から人が居なくなりそうだ。平気な顔をしているのは俺と後2名、エリートの秋山君と何をやらせても駄目なヤツだけだった。
その後晩飯を食べてテレビの有る談話室に居たのは、俺と秋山君だけだった。他の連中は遺書を書くより荷物をまとめて逃げ出す用意をしている様だった。
「遺書を書けって言われると、何か来るものが有りますね」
「そうか? 誰でも死ぬんだけどな。早いか遅いかの違いしか無いんだがな」
「達観してますね、流石は先輩」
「何度も死にかけたからな、もう麻痺してどうでも良くなったよ」
エリート自衛官の秋山君は俺の事を先輩と呼ぶのだ、まあ間違ってないので好きな様に呼ばせていた。そして次の日、偵察任務に向かう為に集まったのは案の定、3人しかいなかった。いや、3人も馬鹿が居たって言ったほうが良いのかな?
そして俺たち3人が連れて行かれたのは空軍基地、そこから空自の飛行機でダンジョンに向かう様だった。そして飛行機の機内で又もや新しい階級章を渡された、正式に任務を受けたので今度は三尉に上がるのだそうだ、これで死んだら三回級特進で凄い勢いで出世しそうだ。やっぱり平が死んだら世間が煩いので幹部が自発的にダンジョンに偵察に行ったと言う既成事実が欲しいのか、それとも死に行く人間への最後の鼻向けなのか、どちらにしても碌な理由では無いだろうと思った。