第17話 マスター冒険者になる
「あ~、もしもしジョン、オレオレ」
「マスターかい? どうしたんだマスターが電話掛けるとは珍しい」
「頼みが有るんだよね、CIAにコネ有る?」
「有るよ、元はそこに居たからね」
やっぱり思ってた通りジョンは元CIAだったようだ、国外の情報を集めるのが彼等の仕事だから、日本に来て俺に接触した時点でかなりの確率で怪しいと思っていたのだ。
「偽名のパスポートが欲しいんだけど、冒険者登録様に俺とコア子とバル子の分。ついでに足のつかない携帯とキャッシュカード」
「ふ~ん、2日程掛かるよ。今何処に居るんだい? 届けようか」
「今から帰るよ、指名手配されてるとは思わなかったんだよね」
「何だって、まだ指名手配されてたのか。でもさ、捕まえてどうするつもりなんだろうね? そもそもマスターを捕まえるのは無理だろう」
運転免許証がトリガーに成って俺の事がバレたって事は、キャッシュカードや携帯も確実に監視されているはずなので、綺麗なキャッシュカードや携帯が必要だ。CIAなら潜入調査用に綺麗なパスポートや携帯、その他諸々の小道具を持っている。そしてそれぞれに確かなカバーストーリーが用意されているハズだ。今回は冒険者登録用なので一々カバーストーリーを覚えなくて良いのでかなり楽になるハズだ、但し偽名になるので人に名前を呼ばれた時に間違えない様に注意するだけで済む。
ジョンにパスポートや変装装備一式を貰うまでは暇なので、ダンジョンに帰ることにした。観光をしたいがレンタカーも借りれないし、キャッシュカードも使えないので何も出来ないのだな。
「ふ~」
「ため息をつくと幸せが逃げますよ、マスター」
「どうした、珍しく落ち込んでるな」
「いやさあ、今まで働いて頑張って貯めた金が下ろせないとか、どんな拷問だよ。それに今まで長年払ってきた年金なんかも全部駄目になってると思うとやるせないよな」
長年の努力がパーになるのは良くある事だが、流石に少し凹むな。たまには努力が実を結んでも良い様な気がするが、一寸先は闇って言うのは本当なんだよね。まあ、生きていれば逆転可能だ、それに金ならまた稼げば良いだけだしな。
「ハ~イ! マスター、持ってきたよ」
「有難うよ、ジョン! CIAに借りが出来たな、その内返すよ」
「ハハハ、マスターに貸しが出来るなら幾らでも用意すると思うよ」
ジョンに貰った道具は、潜入捜査道具一式、パスポートやキャッシュカード、それに携帯等だ。全てが問題なく使えるはずだ、失敗すると不味い事になる物だからね。そして携帯は位置の特定がCIAにしか出来ない様に仕込まれているハズなのだ、なにせ世界一の予算額を持ってる諜報組織なのだから。まあ、この程度の事はイギリスのMI6等どこの国でも簡単に出来ちゃうのだな、今回はジョンが居たからたまたまCIAの物が手に入ったってだけだね。そしてある程度の規模の犯罪組織も同じように出来ちゃうのだ、ただし犯罪組織の作るパスポートは偽造だが、国の機関が造るやつは本物を使って作るので基本的には本物と同じなのだ。
「はいこれ、キャッシュカード。日本円で1億入れておいたよ、好きな様に使ってよ。減ったら又補給しとくからね」
「へ~、これが減らずのキャッシュカードか。昔の友達が持ってたな、まあ金額の上限が違うけど」
昔いた金持ちの友達は仕送りでは無く、キャッシュカードを持たされていた。何時でも一定の額が入っていて幾ら使っても減らないらしかった。俺はそれを魔法のカードと呼んでいたのだ。
さて準備も整った、これで俺も冒険者になれるハズだ。それに俺も魔法のカードを貰ったから、生活が楽になるな。
「さて、行こうか諸君」
「はい、マスター」
「うむ」
「・・・・・・」
今回はコア子とバル子の他にポヨポヨを連れてきた、最近遊んでやって無いので一緒に行きたい様だ。まあ一番最初の相棒だし、ポヨポヨは何でも食べるし、オークなんかより強いので連れて行く価値は十分にあるのだ。そして一々借りるのは面倒なので、今回は車で行く事にした楽だし狭いけど寝ようと思えばシートを倒して寝ることだって出来る。起きた時に体がバキバキになってるけどね。
「へ~マスター、車って便利ですね。音楽が聴けるし、歩かないで良いので楽チンです」
「うむ、周りの人間から見られないで良い所が良いな。ガン見されるとウザイからな」
そして今度は追いかけられた県とは逆の県で冒険者登録を済ました。今度は何の問題もなく冒険者になれたのだ。
「やったぜ、見習い冒険者」
冒険者にはなれたが、全く実績が無いので見習いだった。これからゴブリンを討伐出来たら初心者、そしてオークを討伐したら一人前、Cランク冒険者に成るのだそうだ。そして現在の最高の冒険者はCランク、最高の冒険者チームはBランクなのだそうだ。因みに最高のBランク冒険者になるには単独でオーガを討伐しなくては成らないのだそうだ。チームでオーガを討伐できたらチームがBクラスに成るのだそうだ。
「オーガか~、あれの単独討伐はチョット厳しいかも・・・・・・」
「マスターには無理でしょう」
「うむ、マスターは弱いからな」
オーガはとても強い、2m以下の身長のものは滅多に居ない、大部分が2mオーバーの身長で力は人間の4倍位で身体能力も熊並、人間がオーガに素手で勝つのはほぼ不可能な感じだった。勝てるとすればレベルアップした人間だけだろうと思う。
まあ嫌な事ばかり考えてもしょうがない、難しい事は後回しにして今は楽しまなければな。お金は沢山あるのでキャッシュカードで50万下ろしてレストランに行く、これだけあれば好きな物が食える、もっと下ろしたかったが今は一度に50万までしか下ろせないので仕方無いな。
「コア、バル子、ポヨポヨ、好きなもの食べて良いぞ。俺の奢りだ!」
「太っ腹ですねマスター」
「愛しているぞ、マスター!」
「その代わり明日から頼むな、俺は弱いからな」
「任せておけ! 私が守ってやる」
「勿論守りますわマスター」
「・・・・・・」
そして3人と1匹でファミレスで10人前程食べた、久しぶりの外食は美味しかった。ポヨポヨは俺の体に巻きついて居たので周囲の人にはバレなかった、そして器用に袖から触手を出して、色々な物を食べていた。ポヨポヨが食べた後のお皿は洗ったように綺麗だった。
そして連れの2人は食事中はサングラスや伊達メガネを外しているので、美人が丸分かりだった。店内全ての男達の羨望の眼差しをを受けながら食うのは結構嫌なもんだ、2人は注目されるのに慣れているので平気みたいだったが。まあ俺もまだまだ修行が足らないって事だな。