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空に逃げた英雄  作者: こーか
Chapter1.英雄と無くした青春
12/13

11.最たる者。

遅筆過ぎて笑えてきました

6日後


特に何もなく日々が過ぎていった。盗られた剣は帰ってこないまま弓矢だけが手元に残っているが今は関係ない。6日のうちに随分と大きくなったハルホークが窓際で日光浴をしていた。それに手招きをして呼び寄せる。


『名前、そろそろ決めてあげたらどうですか』

「それもそうだな」


首を傾げるハルホークをじっと見つめる。腕の上に止まったそれは容赦なく腕を鷲掴みにしてくるが致し方なしと諦める。


「ハル」

『まんまですか』

「可愛い名前だろう?なあ、ハル」


2回呼ばれたハルホークはそれが自分の名前と理解したのか小さな鳴き声で返事をした。賢く育ってくれて何よりだ。その体に対して小さな頭をこちらにこすり付けてくる。それは親愛だ。


「そろそろお前も初めての狩りの時期か」

『連れていく気満々ですよね?』

「当然だ」


ヘイズは腕に止まっていたハルを窓から飛び立たせ、部屋を出ていった。目指すは正門、今日は集団戦闘訓練その日である。


「ヘイズ!」

「ルビアか」

「一緒に行こうぜ」

「ああ」


バスに揺られて正門へとたどり着く。既に他の2人は到着していたようだ。ゼラチカとメルーが楽しげに歓談している。こちらにやってきた2人を交えて開始時刻まで賑やかにしているとゼラチカがふと気づいたようにこちらの腰を指さす。


「剣は?」

「取られた」

「はあ!?」

「誰に!?」

「あー・・・セル・・・ホルベルン?なんか、そんな名前の貴族様に」

『セルンツィア・リル・フラゼンツだったかと』

「セルンツィア、だな」

「またあの野郎こんなことしやがって・・・」

「何か言われた?」

「剣に魔石は無いのかと聞かれた」

「ああ、魔石は魔方陣魔術の代名詞みたいなもんやから・・・ちょっと前の竜巻がそのせいやと思われたんやな」

「実に遺憾だ」


まあこれがあるからと弓矢を掲げてみせる。訝しげな顔をした3人に基本はなんでも使えると言うとあまり無理をしないようにとだけ言われて先生に直談判しに行った。言い争いをしているのを横目に見ていつの間にか目の前にいるセルンツィアに目を向ける。


「憐れなものだな、弓矢などで戦うなど時代錯誤にもほどがあるわ」

「そうなのか」

「・・・貴様知らないのか?」

「刺されば殺せる。刺さらなければ殺せない。ならば刺さるようにして殺せるようにするのが使い手だからな。」


矢を手に取り地面に突き立てる。深々と刺さったそれは揺らぐことなく地面を、まるで生き物に刺したように貫いていた。対するセルンツィアは怯んだもののまだ上から見下している。


「随分な大事を言うなぁ?ならば見せてみろ。此度の魔物討伐、誰よりも大きいものを狩ってこい」

「いいだろう」


それだけを約束してセルンツィアが離れていく。残った矢の点検を軽くして立ち上がり、集団を呼びかけているところに歩いていった。ほか3人は訴えが退けられたのか肩を落としているが気にするなと肩を叩いて、外へと足を運んだ。


「それでは班で行動すること、危険な事態に陥ったら迷わず空に向けて魔法を放つこと。以上を遵守した上で訓練に励むように。目的はこの森のチェックポイントを最低2つ通過しここに戻ってくること。いいわね?」


では解散というしめやかな言葉を皮切りにそれぞれが森へと入っていく。この班もゼラチカ先導で森へと行くようだ。


「チェックポイント自体はいっぱいあるんや。最低2つなわけやし多く回れば回るほど評価は高なるで」

「無理のないように」

「せやな」


ゼラチカは既に行く所を決めているのかスタスタと歩いていく。・・・頭の上についている耳がぴくぴくと動いて音を拾っている。少し触ってみたい。

しばらく歩いたところでゼラチカが片手を上げた。それを見て他の面々がその場で止まる。それを確認した後、ゼラチカは前方を指さした。向こうには角だけ異常発達したような鹿が草を食んでいる。


「避けてくで」


極力近づかず風上にもならない場所を選んでゼラチカが大回りに回っていくが俺だけはその異様な姿をした生き物に気を取られていた。

それに気づいたメルーが声をかけてくる。


「どうかした?」

()()()見る生物だ」

「あれぐらいどこにでもいる魔物よ」

「そうなのか」


首を傾げるメルーを促して先へと進んだ2人を追いかける。振り返ってもう1度見るとその異形の鹿はこちらをじっと見つめていた。襲いかかってくる気配もなくこちらを見ているだけだ。それに背を向けてその場を通り過ぎた。

残された鹿は彼らが進む方向とは逆に歩を進めた。


『初めてのそれらしい魔物を見たご感想は?』

「キモかった」

『はい、そうでしたか』


小声で尋ねてくるフレナに同じく小声で応じて歩き続ける。そしてまたゼラチカがその手を上げた。また、前方に何かがいる。


「トカゲ?」

「毒持ちだから気をつけろよ」

「・・・なんや嫌な感じするわ」

「魔物、また多くなったかしら」


それを避けてもまた別の魔物が目の前にいる。三人の会話を聞いているにこれほど遭遇するのは流石に異常なようだ。・・・


「んん、チェックポイントまでまだかかんのやけどどないしよ・・・」

「一番近いチェックポイントなのか?」

「せやで、道中もできるだけ楽なルートを考えたんやけどこんなに魔物居るなんてなぁ」

「今のところ全部避けれてるしこのまま行ってもいいんじゃね?」

「・・・ん、無理はせんようにして先行こか」

「了解した」


またゼラチカを先頭にして歩き出す。聞こえてくるのは葉の擦れる音だけの森は異様に静かだ。獣の息遣いが聞こえないのはいいとして鳥さえ鳴いていないのはどうなのだろうか。俺の時代よりかは獣が生きているはずなのに。


「不気味やな」

「原因が分からないのが一番怖いわね」


撹乱する音が減って殊更自分たちの出す音が大きく聞こえる。それは、決して勘違いではないようだ。

ガサりと音がなった方を見るとこちらに警戒している熊型の魔物がいた。程なくして狙いを定めて突進の構えを取る。そのまま突っ込まれたら被害が大きい上に陣形が乱れると判断して弓を構え矢をつがえて目を狙って放った。その間、約0.1秒。見つけてからの対処が速かったとはいえやはり先に見つけるべき距離だった。いつも無機物相手に戦っていた癖がどうしても出てしまう。

矢の風切り音と熊の悲鳴にメンバーがやっとその存在に気づいた。


「遅くなったが敵襲だ。既にこちらを獲物として捕捉していたから勝手に狙撃した。」

「助かったわヘイズ!散開や!」

「了解」

「わかったわ」


片目に矢の突き刺さった熊はその痛みを怒りに変換して襲いかかってくる。その熊の姿を見るやいなや全員の顔色が変わった。


「なんでブラッドベアがこんなとこおんねん!?」

『個体名ブラッドベア、森の魔物の生態系の頂点に位置する魔物です。非常に好戦的で縄張りを荒らす者には容赦しません。故に、常に一定数の旅人や商人が街道などで襲われています。毒などのトリッキーな攻撃はありませんがその巨体から繰り出される素早い動きからの力強いパンチは真正面から受ければ吹っ飛ぶこと請け合いです。討伐難度は10段階評価での7。これは熟練ハンターが罠あり、毒ありでぎりぎり1人で勝てるかどうかの強さとなっています。なおこの森に生息するブラッドベアはもっと奥の方を縄張りとしておりここまで出てくることはないはずです。』

「・・・」


よくブラッドベアを観察するとどこか必死な様子が見て取れる。目の前の者が自分より弱いか強いかの区別さえ付いていないようだ。それは野生で生きる上で絶対に必要な本能だろにそれさえ機能しないほどこのブラッドベアは動揺している。片目をなくしたことがさらにそれに拍車をかけているようだ。

そして、動揺しているのはこちらもである。場が完全に敵に掌握される。その殺気に気迫に動けなくなる。


「落ち着け、浮き足立ったら何も出来ないだろう」


止まった時が動き出す。心なしか構えが大振りになっていたルビアを竦めて熊に矢を射掛けてターゲットを移動させる。優先順位をこちらに変更してきた熊の攻撃を避けてさらに矢を射掛けた。


「っ、ルビアはヘイズの援護!うちとメルーは攻撃に専念するんや!短期決戦にするで!」

「長引けば不利なのはこちらだからな。いい判断だ」


するりと枯葉が舞うように振り回される双腕をくぐり抜けて顔の真下から矢を放つ。刺さらぬものを刺さるようにするが使い手。矢の先端が顎に突き刺さる。先端しか埋まらなかったものの怪我は怪我。それはブラッドベアの神経を焼く。


「甘かったか・・・大口を叩いておいて我ながら情けない」

「ヘイズ!」

「問題ない、次は必ず通す」


大口を開けて咆哮しようとしたそのタイミングで矢を番え、引き絞り、そして放つ。その喉奥から轟音がせり出すその前に口の中へ3本の矢が刺さった。畏怖の音となるはずだったその声は一瞬にして嘆きと痛みの滲む音へと塗り変わる。矢の風切り音のたった一つで緊迫した世界が切り裂かれる。


「ルビア」

「なんだ?」

「口の中に剣を突き立てろ」

「!?」


ヘイズの雰囲気が変わる。ただの一切も感情を漏らさず、押し殺しもせず、淡々と、生き残る道を指し示す。


「そのまま奥まで押し込んで、喉を切りつけ、胃を使い物にできなくし、頬を切り裂き、腹を破れ」

「・・・生々しい表現はやめようぜ」

「鼓舞する仕方はこれしか知らないものでね」


ひゅんっとまた風切り音。


「大丈夫、大丈夫さ。優秀な指揮官と万能の魔術師とここに凄腕の狩人だっているんだ」

「自分で自分を凄腕だなんて言うのか」

「だってそうだろう?君は豪腕の大剣使いだ」


物語をなぞらえるように朗々と謳う言葉に交じる風切り音。不思議と気分が高揚する。何でも出来る気がする。そう、誰があの熊に勝てないだなんて言ったのだろう。


「勝てるさ、君たちは必ず勝てる。だってみんなはこんなにも強い」


それは戦場でのおかしな鼓舞だった。根拠もなく脈略もないその言葉が妙に現実味を帯びて背中を押してくる。押し潰せと言う。

また風切り音。彼しか認知できていない魔力が巻き上がる。


「切り裂いて血は魔術の材料に、骨は防具の繋ぎに、肉は食して他のすべては地に返そう。」


次の風切り音を皮切りにルビアが駆け出す。その足取りに迷いはなく。まるで歴戦の戦士のような負けることなどないという傲慢のような自信を漲らせている。

・・・本来、この程度の演説で人の心が動かせるはずがない。こんな稚拙で芯を感じさせない言葉遣いなどになびくわけがない。それを可能にしたのは魔法。無声の魔法が風切り音を皮切りに言葉の愚かさを隠した。恐怖を取り除き、闘争心を増大させ、力を与える魔法が体の底から湧き上がる意思の力を擬似的に再現した。結果、彼らは全能感を持って兵士になる。


「口は開いたままだ。そう、するりと突き刺すだけ」

「任せろ!」


ドンッと通常なら有り得ない踏み込みの力をもって口の中に剣を突き刺す。血が吐き出される。鍔の部分まで押し込んで、ブラッドベアはその活動を完全に停止した。

腹も胃も切り裂くことなくただ心の臓を貫いていた。


「・・・やった?」


ルビアが剣を脱いても微動だにしない。そのままブラッドベアは地に伏したままだ。


「やったー!」

「勝てた!」

「まじかー、うわーまじかー」


集まって手を取り合って喜び合う彼らをヘイズは死体の横で見守っていた。・・・この熊、まだほんの少し息がある。


「倒した敵に奇襲を受けるなんて笑えないだろう、なぁ?」


気づかれぬようにその無事な片目に矢を打ち込んだ。脳を傷つけぐちゃぐちゃにし熊は今度こそ本当に死んだ。勝利の余韻を台無しにするのは仲間の死を悼むだけで充分だ。


「この獲物はどうする?」

「倒した魔物も点数になるはずやし、持ち帰ろか」

「了解した。全てを飲み込む影よ、汝は大きく、汝は深く、肥大し、喰らいて、管理する。【影式倉庫】」

「名前だっさ」

「わかりやすいだろう」


自分の体から影で出来た触手が伸びて、熊を影へ引きずり込む。どぷんと水が跳ねる音を最後に熊は跡形もなく消え去った。文字通り倉庫に収納されたのだ。


「さて、どうする?異常事態とは言えずともそれに近いことが起こっている事は明らかだぞ」

「チェックポイントには先生が必ず居るはずや。とりあえずいちゃいけないもんが居ったことだけは伝えに行こか」

「了解した。」


ゼラチカの的確な動きでまた森を歩き始める。魔物は奥に行くにつれ見かける頻度が高くなっていく。この森は思ったよりも危険になっていたようだ。今まで浅い層しか歩いていなかったから気づかなかったが開始早々に森の奥へと足を踏み入れたグループはどうなっていることか。


「あれがチェックポイントの洞窟やで。中に先生がおるはずやからその人に完了の印を貰うんや」


ゼラチカが指さしたのは大きな洞窟だ。ごつごつの岩肌をした普通の洞窟のようだ。だが、少し違う。


「血臭がするぞ」

「え?そんなのするか?」

「確かに・・・どっからや・・・?」


ゼラチカと自分が同時に同じ方を向く。背筋の泡立つ感覚。絶望にも似たその怖気。本能が警鐘を鳴らす。ゼラチカは完全に震え上がっていた。臭いだけで相手を律するほどの強さ。種に込められた根源的な恐怖。


「ぁ・・・・・あ・・・・あ・・・?」

「ゼラチカどうしっ」


声をかけようとしたルビアの口を塞ぐ。ジェスチャーで喋らないよう警告してゼラチカの目を覆った。荒い呼吸音が状態の不安定さを表している。


「呼吸するのを忘れるな。無理矢理にでもいいから酸素を取り込め。」


声に魔力を乗せる。そのことで不格好ながらも引きつった呼吸の中できちんと酸素を取り込めているようで安心した。背中を適度に叩いてやって、冷静さを取り戻させようとする。


「ヘイズ、何が起こっているの・・・?」

「話は後だ。今すぐここを離れるぞ」

「空に魔法を打つか?」

「ここに人を呼ぶこと自体が危険だ。自分の命を最優先に考えろ」


のそりと背後の気配が動き出す。ゼラチカの震えがますます大きくなり、傍目から見ても分かるぐらい怯え始めた。異常事態に2人も動揺し始める。

ーーーー長居しすぎた。


「いいか?今すぐ、森の、外へ、逃げろ」


一単語ずつ区切って命令を下してゼラチカをルビアへ渡し、洞窟へ向き直る。段々と気配が近づいている。これ以上近づかれたら他2人も動けなくなってしまう。そうなったら守るのは、無理だとは言わないが大変だろう。


「え、な、なん」

「早く!」

「っルビア!」

「でもっ」

「行きましょう!」


メルーがルビアを引きずっていく。物分りが早くてとても助かる。今はそれだけで充分だ。


「絶対に後ろを振り向くなよ」


後ろに高い土壁を形成する。それは洞窟から出てくるものを遮る為ではなく視線を切るためだ。ひと目でも見たら動けなくなる。そういう生き物だ。

日の光に照らされ、ようやっと中から出てきたそれは口に人を咥えている。応戦したのか杖を握りしめ、それでも勝てずに引きつった顔で事切れている。着ているローブは上質でかなりの手練であることを思わせたが死骸になってはそれももう昔の話。咥えているものはきらびやかな鱗と鋭い鉤爪、翼を持ち、牙を備えている。誰もが一目見て正体を看破するほどわかりやすい。あらゆる種の頂点。幻想種とも呼ばれるその姿。


『個体名、アースドラゴン。ドラゴン種・・・幻想種の中では最下級のものではありますが竜は竜。一定以下の強さのものを動けなくする威圧を常に放っています。討伐難易度、文句なしの10。倒せば英雄。負ければ愚か者。そういう化物です。その鱗は下級ドラゴン種の中でトップの硬度を誇り、生半可な攻撃では傷をつけるどころか激高させることでしょう。しかしその動きは・・・いいえ、すべてにおいて他の種を凌駕していますからこれも不要でしょう。とにかく、基礎スペックからして違います』


竜が咆哮をあげる。高く、遠く、魂の底まで震え上がらせる畏怖。王の号令にも似たそれ。あらゆるものが平伏すことを余儀なくされるような絶対者の叫び。


「これは見たことのある造形だな」


その中でただ1人、呟く男がいた。

主人公はチートです

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