第4話 生徒会長と、二人きりの勉強会
「ミサト、ここ間違ってるよ」
「……え?」
「ほら、ここの計算。符号が逆になってる」
「あ、本当だ……」
「惜しかったね。途中までは合ってるよ」
私の隣で、ユウナがにっこり笑った。
……近い。
ものすごく近い。
同じテーブルに並んで座っているのだから、当たり前なのだけれど。
少し顔を動かしたら、肩が触れてしまいそうな距離。
しかも、ユウナの顔が私のノートのすぐ上にある。
長いまつ毛。
綺麗な横顔。
さらさらの黒髪。
……。
…………。
(……勉強どころじゃないんですけど!)
私は心の中で叫んだ。
◇
今日の放課後。
珍しく、生徒会の仕事が早く終わったユウナと一緒に帰宅した。
夕飯まで少し時間があったので、私は自分の部屋で小説の続きを書こうと思っていた。
ところが。
「ミサト、今日一緒に勉強しない?」
ユウナから、そんなお誘いがあった。
……勉強。
勉強かあ。
正直、あまり好きではない。
いや、嫌いというほどでもないけれど。
小説を書いている方が、何倍も楽しい。
でも。
誘ってくれたのはユウナだ。
「……うん!」
私は即答した。
あまりにも即答だったので、ユウナが少し驚いた顔をしたくらいだ。
仕方ない。
好きな人と二人きりの勉強会。
そんなもの、断れるわけがない。
……ということで。
私たちはリビングのテーブルに教科書とノートを広げていた。
◇
「ミサト、数学苦手?」
「……ちょっと」
「そっか。じゃあ、今日はここをやろう」
ユウナが問題集を指さした。
明後日、数学の小テストがある。
範囲はそれほど広くないけれど、私にとっては十分に難しい。
「まず、この式を変形してみて」
「う、うん」
私はシャープペンシルを握った。
数字と文字が並んでいる。
……。
…………。
何だろう。
この文字たちは、どうしてこんなに仲が悪いんだろう。
足したり引いたり、掛けたり割ったり。
もう少し平和に暮らせないのかな。
「……ミサト?」
「は、はい!」
「手、止まってるよ」
「ご、ごめん!」
私は慌てて計算を始めた。
ユウナは小さく笑った。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
……。
(緊張の原因はあなたです!!)
もちろん、そんなことは言えない。
「ここはね、先に共通する部分をまとめると簡単になるんだ」
「……あ、なるほど」
「でしょ?」
ユウナが私のノートに書き込む。
文字まで綺麗だ。
しかも説明が分かりやすい。
さすが生徒会長。
さすが成績優秀。
……。
(……かっこいいなあ)
私は思わず、その横顔を見つめてしまった。
「……ミサト?」
「ひゃい!?」
「また止まってる」
「あ、あはは……」
「眠い?」
「う、ううん!」
「昨日も夜更かししてたんでしょ?」
……。
…………。
ばれてる。
いや、昨日も寝不足だって話したし。
「小説?」
「う、うん」
「そんなに書くの楽しいんだ?」
「……うん!」
思わず、少し大きな声が出た。
「自分で考えたキャラクターが、色々なことをするのが楽しくて……。最初に決めた展開から変わっちゃうこともあるんだけど、それも面白くて……」
そこまで話して、私ははっとした。
……しまった。
またオタク特有の早口が出てしまった。
「……ご、ごめん」
「何で謝るの?」
「いや、その……」
「楽しそうでいいじゃん」
ユウナが笑った。
「私、そういうの羨ましいな」
「……え?」
「夢中になれることがあるって、いいなって」
……。
…………。
そんなこと。
言われると思ってなかった。
学校ではいつも目立たない私。
その私が好きでやっていることを、ユウナが羨ましいと言ってくれた。
……嬉しい。
「……ありがとう」
「うん。じゃあ、もう一問やろっか」
「……はい」
現実は厳しかった。
◇
三十分ほど経った頃。
「……できた!」
私は問題集の最後の答えを書き込んだ。
「どれどれ?」
ユウナが覗き込む。
……近い。
また近い。
もう、これには慣れるしかないのだろうか。
「……うん。正解!」
「やった!」
「すごいじゃん、ミサト!」
ユウナが嬉しそうに笑った。
……。
…………。
褒められた。
ユウナに褒められた。
しかも、こんなに嬉しそうに。
私は思わず頬を緩めてしまった。
「……えへへ」
「ふふっ。嬉しそう」
「だ、だって……」
「頑張ったもんね」
……。
…………。
(好きぃぃぃ!!)
私は心の中で叫んだ。
何なの、この人。
優しすぎない?
もし学校でもこんなふうに教えてもらっていたら、私は数学が好きになっていたかもしれない。
……いや。
それはちょっと言いすぎかな。
◇
「じゃあ、次は古文かな」
ユウナが教科書を取り出した。
「……古文?」
「うん。こっちは私もちょっと苦手で」
「えっ!?」
思わず声を上げてしまった。
「ユウナでも苦手な教科あるの!?」
「あるよ。何でもできるわけじゃないし」
ユウナが苦笑した。
「特に古文の文章って、読んでるうちに誰が何を言ってるのか分からなくなるんだよね」
……。
…………。
あ。
それなら。
「……私、古文は結構好きだよ」
「本当?」
「うん。物語として読むと面白いし」
「へえ!」
ユウナが目を輝かせた。
「じゃあ、今度はミサトが教えて!」
「……え?」
「お願い!」
……。
(私が!? ユウナに!?)
私は思わず背筋を伸ばした。
あの成績優秀な生徒会長に、私が勉強を教える。
そんな日が来るなんて。
「……わ、分かった!」
私は教科書を開いた。
ユウナが隣から覗き込む。
「ここなんだけど」
「うん」
「この人が言ってる相手は、さっき登場した人で……」
「ああ、そういうこと!」
「で、この言葉は今で言うと……」
私は文章の意味を説明していった。
登場人物の関係。
誰が誰を好きなのか。
どうしてこんな行動をしたのか。
物語として考えてみると、古文もそれほど難しくない。
「……なるほど!」
ユウナが頷いた。
「ミサト、説明上手だね!」
「そ、そうかな?」
「うん。先生より分かりやすいかも」
「そ、それは言いすぎだよ!」
でも。
嬉しかった。
いつも完璧に見えるユウナにも、苦手なことがある。
そして、その苦手なことを私が教えられる。
……なんだか。
少しだけ、対等になれた気がした。
◇
「……ふぅ」
一時間ほど勉強して、休憩することにした。
私はキッチンへ行き、麦茶を二つ用意する。
リビングへ戻ると、ユウナは椅子の背もたれに体を預けていた。
「……疲れたぁ」
……。
…………。
あれ?
さっきまで、背筋を伸ばして勉強していたのに。
今は、だらんとしている。
「ユウナ?」
「ん〜?」
「大丈夫?」
「うん。ちょっと疲れただけ」
ユウナは麦茶を受け取り、一口飲んだ。
「ありがと〜」
……。
…………。
語尾が伸びてる。
昨日もそうだったけど。
もしかして、ユウナって疲れるとこうなるのかな?
私は向かいの椅子に座った。
するとユウナが、少し不満そうな顔をした。
「……ミサト」
「ん?」
「何でそっち?」
「……え?」
「さっきまで隣だったのに」
……。
…………。
「えっ!?」
思わず変な声が出た。
「い、いや、休憩だから……」
「こっち座ろうよ」
ユウナが隣の椅子をぽんぽんと叩いた。
……。
(…………何それ!?)
私は固まった。
いや。
別に変なことじゃない。
さっきまで隣で勉強していたんだから。
でも。
わざわざ隣に座ってって。
そんなこと言われたら。
「……う、うん」
私は素直に隣へ移動した。
ユウナが満足そうに笑う。
「ふふっ」
……。
…………。
何なの。
このかわいい生き物。
◇
「ねえ、ミサト」
「うん?」
「学校での私って、どんな感じ?」
突然、ユウナがそんなことを聞いてきた。
「……え?」
「ほら、同じクラスだけど、今まであんまり話したことなかったじゃん」
「……うん」
「どう見えてたのかなって」
……。
…………。
どう見えてたか。
そんなの。
決まってる。
かっこよくて。
優しくて。
何でもできて。
いつもみんなに囲まれていて。
……大好きな人。
でも。
最後のだけは、絶対に言えない。
「……すごい人だなって」
「え?」
「勉強もできるし、運動もできるし……。生徒会長だし……」
「……そっか」
「みんなから頼られてて、かっこいいなって……」
……。
…………。
言っちゃった。
かっこいいって。
本人に。
私は慌てて麦茶を飲んだ。
するとユウナが、小さく笑った。
「……ありがと」
「う、うん」
「でもさ」
ユウナはテーブルに肘をつき、頬杖をついた。
「私、そんなにすごくないんだよ」
「……え?」
「家では結構だらだらするし、甘いものも大好きだし」
「……うん」
「お母さんには、いつも甘えてたし」
……。
…………。
え?
「……甘えてた?」
「うん」
ユウナが当たり前のように頷く。
「家では結構甘えん坊なんだ、私」
……。
…………。
………………。
(…………えええええ!?)
私は危うく麦茶を吹き出すところだった。
甘えん坊!?
ユウナが!?
あの生徒会長が!?
「……い、意外?」
「うん。よく言われる」
ユウナはくすくす笑った。
「でも、学校ではちゃんとしてなきゃって思うから」
「……そうなんだ」
「昔からそうなんだよね。お父さんが亡くなってから、お母さんにはなるべく心配かけたくなくて」
ユウナは少しだけ視線を落とした。
「だから外では、しっかりしようって」
……。
…………。
私は黙って話を聞いた。
ユウナのお父さんが早くに亡くなっていることは、うちのお父さんから聞いていた。
でも。
ユウナ本人から、その話を聞くのは初めてだった。
「お母さん、一人で頑張ってくれてたから」
「……うん」
「私も、できることはちゃんとやろうって思って」
ユウナが小さく笑った。
「そしたら、いつの間にか、しっかり者って言われるようになっちゃった」
……。
そうだったんだ。
私はずっと、ユウナは生まれつき何でもできる女の子なんだと思っていた。
でも。
そうじゃなかった。
頑張ってきたんだ。
ずっと。
「……でもね」
ユウナが顔を上げた。
「家ではお母さんに甘えてたよ?」
「……え?」
「だって、家でもずっと頑張ってたら疲れちゃうもん」
……。
…………。
ユウナがにっこり笑った。
「お母さんも、家では甘えていいって言ってくれてたし」
「……そ、そうなんだ」
「うん。だから、お母さんの膝枕とか大好きだった」
……。
…………。
膝枕。
膝枕!?
私は思わず、自分の膝を見た。
……。
(…………いやいやいや!)
何考えてるの、私!
別に私がしてあげるなんて、一言も言われてない!
ユウナが小さく首を傾げた。
「……ミサト?」
「は、はい!」
「どうしたの?」
「な、何でもない!」
……。
…………。
危ない。
また変な想像をしてしまった。
◇
「……でも、よかった」
ユウナがぽつりと言った。
「……何が?」
「お母さんが再婚してくれて」
その声は、とても穏やかだった。
「ずっと二人だったからさ。お母さんにも、また一緒に笑ってくれる人ができて」
「……うん」
「それに、私にも新しい家族ができたし」
ユウナが私を見る。
「ミサトがいてくれて、よかった」
……。
…………。
私は言葉を失った。
そんなふうに言われるなんて。
嬉しい。
ものすごく嬉しい。
でも。
その言葉が、少しだけ切なくもあった。
ユウナにとって、私は家族。
新しくできた、同い年の姉。
それ以上ではない。
……分かってる。
ちゃんと分かってる。
「……私も」
「ん?」
「……ユウナが来てくれて、嬉しいよ」
私は小さな声で答えた。
ユウナが微笑む。
「……ありがと」
そして。
こてん。
……。
…………。
………………。
え?
私の肩に、何かが乗った。
……いや。
何かじゃない。
ユウナの頭。
ユウナが、私の肩に頭を預けている。
「……ユ、ユウナ!?」
「ん〜?」
「な、何してるの!?」
「ちょっと休憩」
「き、休憩!?」
「うん。疲れちゃった」
……。
…………。
私は完全に固まった。
肩に感じる、ユウナの重み。
ふわりと香るシャンプーの匂い。
すぐ横にある、綺麗な黒髪。
……。
(…………無理ぃぃぃ!!)
心の中で大絶叫。
でも、動けない。
動いたら、ユウナが離れてしまうかもしれない。
それは、それでもったいない。
……いや、何考えてるの、私!
「……ミサト」
「は、はい!」
「肩、借りてもいい?」
……。
…………。
もう借りてますけど!?
私はそう思ったけれど、口には出さなかった。
「……う、うん」
「ありがと〜」
ユウナが嬉しそうに笑った。
そして、少しだけ体を寄せてくる。
……。
…………。
(…………近い近い近い!!)
ああ。
駄目だ。
私の心臓。
絶対に今日も頑張りすぎてる。
◇
しばらくして。
「……よし!」
ユウナが体を起こした。
「休憩終わり!」
「……え?」
「勉強の続きしよっか」
……。
…………。
切り替え早っ!
さっきまで甘えていたのに!
もう、いつものしっかりしたユウナに戻っている。
「ミサト、次は英語やろう」
「……う、うん」
私は教科書を開いた。
でも。
文字が頭に入ってこない。
だって。
まだ肩に、ユウナの温かさが残っている気がするんだから。
「……ミサト?」
「は、はい!」
「またぼーっとしてる」
「ご、ごめん!」
ユウナがくすくす笑った。
……。
(…………勉強会、恐ろしすぎる)
◇
夕飯を終え、お風呂も済ませた夜。
ユウナはリビングでテレビを見ていた。
私は自分の部屋に戻り、ノートパソコンを開く。
もちろん。
小説を書くためだ。
……。
…………。
今日も色々ありすぎた。
勉強会。
ユウナに数学を教えてもらったこと。
私が古文を教えたこと。
そして。
……肩に頭を乗せられたこと。
「……ううう」
私は両手で顔を覆った。
思い出すだけで恥ずかしい。
でも。
嬉しかった。
すごく。
私は小説投稿サイトにログインした。
昨日更新した話には、また新しいコメントがついていた。
『妹ちゃん、かわいすぎます!』
『学校で完璧なのに家で甘えん坊って最高ですね』
『主人公の反応が毎回面白いです(笑)』
……。
…………。
「……えへへ」
思わず笑ってしまった。
少しずつだけど、読んでくれる人が増えている。
しかも、ユウナをモデルにしたキャラクターが人気だ。
……もちろん。
本人は知らない。
絶対に知られてはいけない。
私は新しい話を書き始めた。
『第4話 完璧な妹と、二人きりの勉強会』
……。
「……そのまんまじゃん」
思わず自分で突っ込んでしまった。
まあ、いいか。
小説の中では、名前も違うし。
細かい設定も変えてある。
それに、今日は少しだけ脚色しよう。
私はキーボードを叩き始めた。
『「ナツ、ここ分からないの?」』
『アオイが私のノートを覗き込んだ。』
『学校では誰もが憧れる優等生。』
『そんな彼女が、今は私のすぐ隣にいる。』
……。
…………。
うん。
いい感じ。
私は続きを書く。
『「ナツ、ちょっと肩貸して」』
『そう言うと、アオイは私の肩に頭を預けた。』
『「……好き」』
……。
…………。
………………。
「…………」
私は手を止めた。
……好き。
もちろん、現実では言われていない。
でも。
もし。
もし、あのとき。
ユウナがそんなことを言ってくれたら。
……。
…………。
「……無理無理無理!!」
私は椅子の上でじたばたした。
絶対に無理!
そんなこと言われたら、心臓が止まる!
私は慌てて文章を見直した。
……。
…………。
いや。
でも。
小説なんだから。
こういう展開も、ありだよね。
現実では絶対に起こらないことを、自由に書ける。
それが小説のいいところなんだから。
私はそのまま続きを書いた。
◇
一時間ほど経って、ようやく一話分が完成した。
読み返して、誤字を直す。
少しだけ文章を整えて。
投稿ボタンを押した。
「……よし!」
今日も更新できた。
私は満足して、椅子の背もたれに体を預けた。
……。
…………。
それにしても。
今日のユウナは、今まで知らなかったことばかりだった。
外ではしっかり者。
でも家では甘えん坊。
お母さんには、昔から甘えていたらしい。
……。
…………。
つまり。
今まで学校で見ていたユウナは、ほんの一部分だったんだ。
本当は、もっと色々な顔を持っている。
そして今。
その顔を、少しずつ私にも見せてくれている。
「……嬉しいなあ」
私は小さく呟いた。
もちろん。
恋愛感情があるわけじゃない。
ユウナにとって、私は家族。
ただ、それだけ。
……。
でも。
それでも。
嬉しい。
私はパソコンを閉じた。
そのとき。
コンコン。
「ミサト〜?」
「ひゃいっ!?」
また変な声が出た。
「起きてる?」
「う、うん!」
「ちょっといい?」
「い、いいよ!」
ドアが開いた。
ユウナが顔を覗かせる。
部屋着姿。
少し眠そうな目。
「……どうしたの?」
私が聞くと、ユウナは小さく笑った。
「明日も一緒に勉強しない?」
……。
…………。
明日も?
「……う、うん!」
「よかった」
ユウナが嬉しそうに微笑んだ。
「ミサトと勉強するの、楽しいから」
……。
…………。
………………。
(…………えええええ!?)
私は心の中で叫んだ。
楽しい?
私と?
勉強するのが!?
「じゃあ、明日もよろしくね」
「……う、うん!」
「おやすみ、ミサト」
「お、おやすみ!」
ユウナは微笑んで、部屋を出ていった。
扉が閉まる。
……。
…………。
私はしばらく、その扉を見つめていた。
そして。
「…………あああああ!!」
ベッドに飛び込んだ。
枕を抱きしめる。
顔を埋める。
足をばたばたさせる。
「……好きぃぃぃ!!」
小さな声で叫んだ。
……。
…………。
もう。
本当に。
どうしたらいいんだろう。
学校では完璧な生徒会長。
家では甘えん坊。
しかも、私にまで甘えてくるようになった。
……。
…………。
そして明日も。
二人きりの勉強会。
私は枕に顔を埋めたまま、天井を見上げた。
「……明日、ちゃんと勉強できるかなあ」
……。
…………。
いや。
無理かもしれない。
だって。
私の隣には、あのユウナがいるんだから。
……。
…………。
私は小さく息を吐いた。
そして、ふと思い出す。
今日投稿した小説。
あの最後の台詞。
『……好き』
……。
…………。
もし。
いつか、本当に。
ユウナから、そんなことを言ってもらえる日が来たら。
……。
…………。
「……ないない!」
私は慌てて首を振った。
そんな都合のいいこと、あるわけない。
だって。
これは現実。
私が書いているラノベじゃないんだから。
……。
でも。
ほんの少しだけ。
そんな未来を、想像してしまった。
私は枕をぎゅっと抱きしめた。
「……明日も、楽しみだなあ」
そう呟いて、目を閉じた。
今日もまた。
好きな人との、ドキドキする一日が終わった。
そして。
私の秘密のラノベには、また一話、新しい物語が増えた。
第4話 完




