表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

ゾンネ奪還作戦

ゾンネは暗闇に包まれていた。悪魔たちが支配したその時から、闇の霧が覆っていた。軍師を務めるアインの計画はこうだ。真正面から兵をぶつけ、手薄になった裏からリーヴァたち少数精鋭を中枢に向かわせ、下調べでここを統治しているはずのムルムルを手早く討つ。そういう計画だ。下調べに行った魔術師たちの話では、ムルムルがゾンネの女王の亡骸を操っているらしい。

「厄介ですね。」

アインは言った。

「火の魔術師でもあるゾンネの女王様が敵となる。懐に入っていくのは難しいでしょう。」

ムルムルにはほかにも人形がある。分厚い壁を乗り越えて、喉元に手を伸ばすのは至難の業だ。しかし、今は勇者がいる。

「キーシャ様の力に期待しましょう。」

裏からは秘密の地下道を通っていくことになった。十代以上も前のゾンネの王が作らせた地下道。中は入り組んでいる。魂の魔術師であるステラが案内することになった。

決戦前夜。ゴットの一室でリーヴァは武器の手入れをしていた。二度目ともなれば渦潮は効かないだろう。リーヴァは有効な一手を考えていた。ムルムルの人形躁術は速い。足の速さがいる。風のナイフは前振るったときに効いていた。ナイフで素早く潜る方が有効かもしれない。

「険しい顔をしてますね。」

シンが来た。

「人形の顔で険しいのがわかるものか?」

「わかりますとも。リーヴァ様の事なら。」

ちょっぴり寒気がした。

「有効な戦術を考えていた。」

「手早く突っ込むしかないでしょう。」

「だよな。」

サーガが両手に料理を抱えながら来る。

「何の話ー?」

「前々から思っていたんだが、サーガは食べるのが好きだよな。」

「そりゃね。食べることは生きることだし。」

「戦術を考えてた。」

「なるほどね。有効そうな手はあった?」

「一応は。」

「期待してるし。」

キーシャが来る。

「リーヴァ。」

「これでいつものメンツがそろったな。」

「皆もいたんですね。リーヴァ、明日のゾンネの女王のことは任せてくれませんか。」

「どうして?」

「そうすればほかの三人でムルムルに集中できるでしょう。」

「なるほどな。一人で対処できるか?」

「やってみます。」

「あーしが土壁を立てて隙を作るよ。」

「お願いします。」

「緊張してる?」

キーシャが笑う。

「そうですね。でも、皆さんの顔を見たらほぐれてきました。」

「俺もだ。」

「明日は絶対に勝ちましょう。」

「おう。」


決戦当日。ステラが地下道を通りながら話しかけてくる。

「気を付けてくださいね。私を見失ったら、外に出る事すら危うくなりますから。」

「わかった。」

「リーヴァさん。魂の調子はいかがですか?」

「相変わらずだ。これを今回の戦いで使えそうにない。」

「そうですか。あれから考えていたのですが、糸を制御するものがあってもいいのかもしれません。」

「例えば?」

「操り糸を固定する添え木のようなものがあれば、必要以上に傷つけずにすむかもしれません。」

「そうか。」

ステラの声に緊張が走る。

「出口が近いです。ご武運を。」

出口から這い出る。中枢は目の前だ。目の前に一体悪魔がいた。

「げっ、お前たち何処から出てきて・・・。」

黒い閃光に悪魔が真っ二つにされる。

「ムルムルはこの先でしょうか?」

「だろうな。」

「私が先陣を切ります。」

キーシャが剣を抜く。そのまま中枢まで突っ込んでいく。

「やはり来ましたか。」

「愚かな奴ら。愚かな奴ら。」

「さあ、ゾンネの女王よ。その手で奴らを焼き尽くしなさい。女王に敗北を味わわせた奴らに復讐するのです。」

女王が糸で吊り下げられているように、腕をだらんと上げる。炎が飛んでくる。そう思った刹那。サーガが壁を張る。

「そのままお二人は突っ込んで!」

キーシャの声に頷き、シンと共にムルムルの元へ。炎で壁が崩される。

「くっ。」

サーガが壁を補強する。そこにキーシャが飛びあがり、突っ込んでいく。炎を剣で弾き飛ばす。剣に当たると炎の勢いは弱まった。やはり聖剣は有効だ。キーシャは思った。

一方シンと共にリーヴァはそのままの勢いで突っ込んでいく。雄たけびを上げる。足を鳥の足に変え、素早く切り込む。ムルムルの腕は前に切られた時から、人形の腕に変わっていた。そこを切り裂く。綿が舞い散る。シンが突進する。ムルムルが人形で防ごうとして、脇に隙ができる。風のナイフで切り裂く。無事な方の腕が千切れる。

「小癪な!」

サーガが土杭を飛ばす。グリフォンが翼を使って小さな竜巻を起こし、それを撃墜する。状況はこちら側に有利だった。ムルムルは明らかに押されている。

「女王よ!」

ムルムルが叫ぶ。

「させません!」

同じくキーシャが叫ぶ。キーシャの刃は女王の両腕に届いた。両腕が飛んでいく。女王は魔法が打てなくなる。

「ごめんなさい。」

ゾンネの女王の胸を貫く。女王は二度死んだ。しかし、表情は不思議と安らかなものだった。土杭がグリフォンに物量で押し勝つ。

「後はあいつだけじゃん!」

ムルムルはピンチを迎えていた。ムルムルは魔王に祈る。

「どうか力をお与えください。」

しかし答えない。

「なぜです?魔王様!」

ムルムルが叫ぶ。シンの剣がムルムルの喉元に迫る。ムルムルが喚く。

「この程度の雑魚に!」

キーシャが逃げ道をふさぐ。ムルムルはその顔面でシンの剣を受け止めざるをえなくなった。血が噴き出す。左の顔とその目が切り裂かれる。

(甘かった・・・。)

シンはもう一度踏み込む。今度は正確に喉を狙う。ムルムルの人形の手が何かをしようともがく。

「させるか!」

リーヴァが完全に人形の手をナイフで八つ裂きにする。喉に剣が突き刺さる。ごぼっと血が流れる。両腕を刈られたムルムルはもはや抵抗できなかった。

「ムルムル様が・・・やられたぞー!」

「逃げろ!逃げろ!」

頭を失った悪魔どもが散り散りに逃げていく。今度こそ仕留め損なわないように。頭を切り飛ばすシン。首が転がっていく。誰かの足元で止まった。それを拾いあげる。

「セーレ!」

リーヴァが叫ぶ。

「これは始まりに過ぎないのでしょうね。」

セーレがぽつりとつぶやく。中枢である宮殿内に声が響く。

「お前、本当は戦いたくないんじゃないか。」

「戦わないという選択肢はないのです。」

セーレがきっぱり言う。

「あの日、故郷を追われた時から、魔王様も私も。次の戦場でお会いしましょう。」

翼の生えた馬にまたがり去っていく。

「覚悟をしておきましょう。お互い。」


「首、持ってかれちゃいましたね。」

「リーヴァ体の調子はどうだし?」

「何ともない。倒したからって元の体に戻れるみたいな、都合のいいことは起きないな。」

「ともかく勝ちました。勝ったんですよ、我々!」

キーシャが聖剣を掲げながら外に出る。

「我、悪魔を撃ち滅ぼしたものなり。」

歓声が沸く。

「キーシャはうまいな。」

「レジスタンスのリーダーは伊達じゃないし。」

「これでゾンネは取り戻した。次は・・・シュテルン!」

「リーヴァの故郷!」

(スターシャ姫、エウロス、フォービ・・・待っていてくれ!すぐにでも故郷を取り戻して見せる!)

ゴットに凱旋するとお祭り騒ぎだった。

「勇者様!勇者様!」

キーシャはもてはやされた。

「私だけの力ではありません。リーヴァ、サーガ、シン。そして共に戦場を駆けた兵士たちのおかげです!」

「百点満点の回答だな。」

「茶化さないでください、リーヴァ!本当の事なのですから。」

「よくぞやってくれました。」

「!セイオウ様。」

「よくぞゾンネを取り戻してくださいましたね。」

「セイオウ様のお力添いのおかげです。」

「私は何も。ゾンネは若き王が納めるでしょう。」

「王がいるのですか?」

「先王の幼い王子が。ゴットは彼が成長するまで力添えすることでしょう。」

「次はシュテルンですね。」

「全力で勇者たちを支援しましょうぞ。今宵はよくお休みください。」

「ありがとうございます。」

「なんだかんだで擦り傷程度で済んだな。」

ほつれたところをミヤギリに直してもらいながらリーヴァは言う。

「全員揃ってる。いいことだ。」

サーガが食べ物を口に含みながら、

「れも、ゆらんれきらいふぃ。」

「なんだって?」

ごくん。

「でも、油断できないし。何があるかわかんないじゃん。」

「シュテルンは未知の領域ですしね。」

シンが言う。

「陥落して以降、状況はわかっておりません。」

「戦士のサガなのでしょうね。めでたい席でも次の戦のことを考えている。」

ミヤギリの言葉に手を振るリーヴァ。

「今はやめよう。ミヤギリの言う通り、今は喜ぶ時だ。」

「もっと食べ物取って来るし。」

サーガが料理の山に引き寄せられていく。シンが俺のほつれたところを優しくなでる。

「今度は無事でよかった。」

「・・・ああ。」

キーシャの声が遠くで聞こえる。演説しているのだろう。皆の士気がより高まるだろうな。完璧に修復してもらって外に出る。

今宵は半月。上弦の月。次の満月へと向かって行っている。シュテルンに着くころには月はまた欠けているだろうな。満月と新月は悪魔の時間だ。満月は月の力が悪魔を強力にし、新月は暗闇が悪魔を強力にする。それを避けられるだけでもありがたい。魔女にも会いに行かないとな。ヘカーテ。この旅を始めるにあたって助言してくれた者。ヘカーテがいなければ、俺はバアルで魔王の膝の上で、寝かされていただろう。

(屈辱的だ。)

今考えても。お祭りのお囃子が聞こえてくる。今夜は皆眠らないだろうな。それがちょっぴりうれしくある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ