決戦前夜
日が真上で輝いている。セイオウやアインとも相談した結果、魔女の元へ向かうことになった。敵の情報が少しでもほしい。そんなところだった。最初にたどり着いた町。後から聞いたがクレープスというらしい。そこに着いた。俺はふと思い出して質屋に寄ろうとみんなを誘った。質屋の片隅に見覚えのあるそれは、まだあってくれた。
「リーヴァ。」
「これ、返すよ。セイオウ様から報奨はたんまりもらってるしな。」
「ずっと覚えてくれたこと、嬉しく思います。」
「俺も、あの時はありがとう。」
キーシャにイヤリングを返す。金の入ったそれはキーシャにぴったりだった。俺のうわさは辺境の町クレープスにも届いていたらしい。物珍しそうな顔をされるが、人形が顔を出して歩いていても、驚かれたり、責められたりすることはない。それどころか、子供たちが手を振ってくれた。クレープスを抜け、魔女のいた森へ。変わらずみすぼらしい小屋が立っていた。キーシャが戸を叩く。
「ヘカーテ様。」
戸がひとりでに開く。
「お入り。」
その言葉で俺たちは恐る恐る部屋へと入った。
「ずっと見ていましたよ。リーヴァ。鳥たちの目を通してね。」
「ヘカーテ様。魔王はどこにいるんだ?シュテルンの様子は?」
「一つ一つ答えましょう。魔王はシュテルンの狭間にいます。」
「狭間?」
「シュテルンに魔法的狭間があるのです。魔王はそこでいくらかの悪魔たちと暮らしています。」
「軍勢は?」
「シュテルンの方にすべています。シュテルンはたくさんの悪魔で溢れています。それと大事なことを一つ。魔王はほかの場所から来ました。」
「突然どこでもないところから湧いたんだろう。」
偵察兵のほとんどがやられて戻ってきたことを思い出した。
「魔王をこの世界に追いやった元凶がいます。」
セーレの言っていた、故郷を追われた時というのはそういうことか。
「元凶はまだ、この世界への扉を見つけていません。しかし、時間の問題でしょう。」
「とりあえず魔王をどうにかする。話はそれからだ。」
魔女が頷く。
「力を付けましたね。」
キーシャと顔を見合わせる。ここに初めて来たとき、俺たちには何も無かった。
「古代の森に行きなさい。そこで老木から一本枝をもらうのです。聖剣で切り落としなさい。そして魂の糸と結ぶのです。」
「悪魔の力はそれで操れるだろうか。」
「完全ではないでしょう。しかし、それでも十分なはずです。お前たちの頑張りを見ていますよ。」
魔女の元を去り、ゴットへ帰る道すがらキーゼル川が光っているのが見えた。
「あれは・・・。」
馬から降りて近づく。
「リーヴァ。リーヴァよ。水の子よ。」
「精霊が・・・。」
川の周りをオーブが飛ぶ。
「いつかウンディーネを助けましたね。」
「ああ。」
川にいた、美しいウンディーネを思い出す。ついでにパーソンのことも。奴の予言、当たってしまったな。悪魔は確かに俺の中にいた。
「その時のお返しをしましょう。今、世界の命運はあなたたちに握られている。剣を。」
「わかった。」
剣を差し出す。水が渦巻いて剣へと入って来る。
「キーゼルの水はあなたと共に。」
キーゼル川から光が消える。
ゴットにたどり着く。セイオウに事情を話して古代の森へ。剣を引き抜かれた老木が静かにたたずんでいた。枝を選ぶ。老木に生える新芽。しっかりしていそうなものを選んだ。キーシャがそれを聖剣バルムンクで断ち切る。サーガが体の中、魂のところに木を結び付けてくれた。ゴットに戻ると、兵たちが出兵の準備をしていた。場所はシュテルン。ここからだとだいぶ遠い遠征になる。サーガは食べ物を準備しに行った。キーシャはアインと最後の確認だ。シンが隣に来る。
「この国も見納めですね。」
「ゴットもゾンネも美しい国だった。」
シンが俺の腕に手を重ねる。
「シュテルンに戻れますね。」
「ああ。やっとだ。長かった。」
俺の手の中に何かを落とす。
「これは?」
「鉢巻です。ミヤギリに教わって作ってみました。」
「つけてくよ。」
「嬉しいです。」
シュテルンと同じ黄色の鉢巻。頭に巻き付ける。
「うん、気合が入るな。」
キーシャが駆け寄って来る。
「お二人とも準備ができました。おや、鉢巻ですか?」
「ああ。」
「似合っていますよ。目指すはシュテルン。この世界を取り戻す時がやってきました。」
「おう!」
進軍には二週間ほどかかった。ゾンネを超え、キーゼル川を越え、ヴィーダを超え、ヒンメルで補給し、メテオアに着いた。そこまでの道すがらでレジスタンスの兵は二万を超えた。大群の兵が動く。壮観だった。その先頭に俺たちは居た。キーシャがレジスタンスの旗を持ち、馬に乗って駆けた。キーシャは励ましの言葉を絶やさなかった。
「明日はいよいよシュテルンですね。」
最後の晩。焚火を囲いながらキーシャが言う。
「どのぐらいの硬さでしょうか。」
「数万の悪魔はいるみたいだが。」
「先の戦争で向こうもだいぶ兵力をそがれているはず。」
「我々の兵は士気が高い。今、勢いがある。そのまま押しつぶせるさ。」
「アイン。」
「なんでしょうか?」
「戦いが終わったら話があります。」
アインがつばを飲みこむ音がこちらまで伝わってきた。
「わかりました。」
(うまくいきますように。)
ささやかに祈った。
「とりあえず食べ納めじゃん。」
肉を頬張りながらサーガが言う。
「腕の調子はどうだ?」
「ばっちしだし。」
「サーガはマイペースですね。」
皆で笑った。こういう時だからこそ笑顔が温かかった。シンが俺の肩に手を置く。
「勝って帰りましょう。」
「もちろんだ。」
夜が更けていく。




