シュテルンでの戦い
シュテルン。星々のきらめきを持つその国は、国王が納めていた。しかしその国は今や見る影もなかった。スターシャ姫の護衛について中庭で木に登ろうとする姫に、あまりやんちゃをしてはいけないとたしなめてたな。崩れた城壁から悪魔がのぞく。笛を吹く。
「敵襲!敵襲!」
悪魔たちがそこかしこから顔を覗かす。
「全軍突撃!」
アインが叫ぶ。こちらも笛を吹く。悪魔と人がぶつかる。皆、剣や槍を手に持ち敵を切り裂いていく。悪魔たちも負けじと魔法で抵抗する。そこにサーガの土壁が立ちはだかる。長の首はどこに?俺たちはあたりを見回す。それらしき影はない。この期に及んで魔王はどこだ。魔王は姿を現さない。俺たちは奥へと入っていく。思い出の中庭を通り過ぎ、王家の間に入る。玉座が並んでいる。さみしそうにそれを眺めるセーレがいた。傍らには小太りの男がいた。
「セーレ様、お助けください!」
小太りの男は縋った。
「裏切り者のフェアラート!」
キーシャが叫ぶ。あまり滲ませたことのない怒りの声をキーシャが出した。フェアラートが叫ぶ。
「仲間を売ったんだぞ!僕だけでも助けろ!」
セーレの意識はそこに無かった。遠い昔、故郷の星で先代魔王と女王が玉座に腰かけ、現魔王のルシがまだ幼く、裏切り者の首を転がして遊ぶ様を眺めていた。セーレにとって、魔王一族と故郷は全てだった。争いに向いた力を持っていたが、あまり争いは好まなかった。先代魔王が魔族を統一し導くのを見るのが好きだった。ムルムルと他愛のない話をするのが好きだった。現魔王ルシはいまだ幼い。勇者を倒せる力を持っているかは甚だ疑問だ。となれば、自分が悪魔たちの未来を背負うしかない。セーレは覚悟を決めた。フェアラートの首が飛んだ。フェアラートは物言わぬ置物になった。王家の間に静寂が訪れる。
「セーレ。戦わなきゃダメか。」
リーヴァが一歩踏み出し言った。リーヴァはセーレの争いを好まない質に気づいていた。
「それでも、やらねばならないときはあるでしょう。」
セーレは弱弱しく微笑んだ。セーレが手をあげる。
「さあ、リーヴァと勇者たちよ。立ち向かってくるがいい。我はセーレ。魔王を守護するものにして、魔王の懐刀。」
目の前に剣が出現する。突然それは降って来る。キーシャとシンがそれを素早く弾く。リーヴァは覚悟を決めた。ならばと剣を抜く。水の力が全身を湧き立たせる。サーガが二弾目に来た刃を土杭で弾いた時、リーヴァは自分の足を鳥の足に変えて突っ込んだ。水の刃がセーレを切り裂こうと飛ぶ。しかしセーレはどこからともなく盾を召喚して構える。棘付きの盾。そこに水しぶきがあたり、続いて剣の斬撃が重くのしかかった。火花が散る。言葉はいらなかった。魂と魂がぶつかり合う。
「うおー!」
と叫びセーレがリーヴァを押し返す。
シンとキーシャはどこからともなく飛んでくる刃に近づけずにいた。やはり強い。キーシャは思った。でも、隙はあるはず。サーガは地面に砂を撒いた。もしもの時の準備はできていた。リーヴァが切り込む。セーレが今度は剣を出す。刃がかち合う。まるでダンスでもするように。セーレとリーヴァは踊り狂った。
「うっ。」
リーヴァの肩をどこからともなく降ってくる剣が引き裂いた。その隙をセーレは見逃さなかった。切り込む。黒い稲妻が走る。シンがリーヴァを押す。代わりに腹に剣を受ける。血が飛ぶ。
「シン!」
「僕なら平気です。」
よろめきながらもシンは崩れ落ちなかった。幸い傷は浅かった。とはいえそう長くは持たないだろう。セーレは手加減しなかった。その隙にも槍の雨が降って来る。キーシャがシンをかばい槍を薙ぎ払う。サーガが駆け寄る。シンの脇腹を抑え、自分のローブをちぎって、シンの脇腹を止血する。
「無理はするんじゃないし。」
「わかってる。」
その間に降り注ぐ剣をシンが弾く。リーヴァは果敢に攻めた。セーレはそれに押される。でも、足りない。リーヴァはわき腹から風のナイフを出した。一度は敗れた技をセーレに向かって仕掛けた。水龍の剣と風のナイフを大降りに一緒に振るう。渦潮が起きた。ウンディーネに力をもらったおかげか、渦潮は前よりも大きく力強い。
「一度見た技を!」
セーレは大量の土を召喚した。渦潮が土にせき止められる。
(ダメか・・・。)
そう思った時だった。僅かな隙をついて、キーシャがセーレの懐に入った。セーレの肩を切る。血が噴き出す。
「ぐっ。うわー!」
聖剣で切られた痛みか、声を漏らす。セーレが槌を召喚してキーシャを吹き飛ばす。キーシャが弾け飛ぶ。地面にたたきつけられる。
「ぐ、まだまだです。」
立ち上がる。
戦争は熾烈を極めた。悪魔たちが人間の兵士たちが、次々に倒れていく。あちこちで火の手が上がった。それでも人間側の優勢だった。アインが指揮を執り、悪魔たちが押されていく。一部の悪魔は武器を投げ捨てた。それを許さない人間の兵たちが後ろから切る。この分だと日が沈むころに終わるな。アインはそう見立てた。
(後はキーシャ様、リーヴァ様あなた達次第です。)
セーレは肩の傷を抑えながら、息を荒くしていた。だいぶ大きなダメージを与えられた。とはいえ、こちらも余裕とは言えない。シンは腹を負傷した。そう長くは動けない。キーシャは体を打ち付けた。立っているのがやっとな感じだ。サーガが隙を窺ってくれていた。こちらを一瞬見る。頷く。サーガが土杭を飛ばす。その下を俺は駆けた。土杭が降ってくる剣によって弾き飛ばされる。それでもセーレの元にたどり着くには十分だった。長い事戦っているような気がした。実際には数分だろう。とはいえセーレも疲れを見せていた。幸い人形の体は疲れなかった。セーレの持つ盾を思い切り弾き飛ばす。切っ先が喉元に届く。そう思ったが、小さな食事用ナイフに阻まれた。ナイフが頬を引き裂く。痛みを感じる。でもまだ動ける。その時だった。
「セーレ、戻ってまいれ。」
ルシの声。セーレが戸惑う。
「しかし魔王様。」
「今そなたを失うわけにはいかぬ。戻ってまいれ。シュテルンは捨てる。しかし、問題ない。」
「ルシ様・・・。はい、わかりました。」
セーレが一瞬こっちを見やる。そうかと思えば玉座の裏の方に下がる。
「逃がすわけないじゃん!」
サーガが土の球を飛ばす。爆発は一歩届かず。セーレは一瞬でいなくなった。俺が玉座に駆け寄る。すると、玉座の後ろの空間が揺らいでいるのが見えた。ここが狭間!そう直感した。
「一度退避しよう。」
提案する。笛の音が鳴った。勝利の合図だ。俺はシンを支え、
「サーガはキーシャを頼む。」
サーガはキーシャを支えた。王家の間を出ると、アインが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
「何とか。」
「四対一だってのにあいつ強すぎるっしょ。」
「とりあえず医療テントを設置します。怪我人の方はこちらに。」
アインの一声で医療テントが立っていく。シンを降ろして布の上に寝かせる。
「かばってくれたな。」
「あなたをお守りすると心に固く誓っていましたから。」
ミヤギリが来る。
「お怪我は?」
「頼んだ。」
ミヤギリに縫ってもらってる間、考え事をしていた。
「どった?リーヴァ。」
サーガが来る。
「魔王は追い詰められている。」
「だろうね。」
「セーレを殺させなかった。話し合いの余地はあるだろうか?」
「無理だよ。」
サーガはいつになく真剣な顔をして言う。
「魔王は多くをこの世界から奪いすぎたし。」
「だよな。」
ため息をつく。
「それに魔王の居場所はもうここにしかないし。相手も必死だよ。帰るも地獄、行くも地獄。」
セーレの寂しそうな瞳を思い出す。
「シュテルン。シュテルン取り戻したのになー。」
頭によぎるのはバアルに抱き着くルシと、それをほほえましく見つめるセーレだ。悪魔は憎い。でも、ほかの道があるんじゃないかと模索してしまう。頭を振り払う。あともう少しで戦は終わる。このことだけに集中する。
「狭間には俺たちだけで乗り込もう。何があるかわからないしな。」
「まあ、大量の兵を送り込む余地はないじゃん。」
シンが起き上がる。
「すぐにでも出発しますか?」
シンを抑える。
「いや、明け方にしよう。それまで休んでてくれ。」
俺はシュテルンの中庭へと降りた。ここでも医療用テントが立ち並んでいた。中庭にある巨木に近づく。スターシャ姫が登ろうとしていた木。その根元に目を向ける。根には傷がついていた。
スターシャ×リーヴァ
苦い思い出がよみがえる。ただの兵士だったころの思い出だ。スターシャに猛アタックされていた。リーヴァと結婚すると。そのたび王は複雑な顔をなされた。肝が冷えた。三英雄になって。スターシャはますます激しくアタックしてきた。王もまんざらではない顔をするようになった。それがリーヴァの立場を悪くした。リーヴァにその気はなかった。フォービに良くからかわれたのを思い出す。戦いが終わるたびに、スターシャ姫には伝えなくていいのと聞かれた。エウロスは苦労するなと、苦笑していた。エウロスもよくモテたから気持ちはわかってくれた。目を閉じる。それらはもうここに無い。さみしさはあった。でも
「リーヴァ。」
キーシャの呼ぶ声が聞こえた。
「作戦を立てましょう。」
俺は踵を返し、仲間の元に駆けてった。




