最終決戦
俺は先陣として狭間の中に入った。狭間の中はまた別の城だった。悪魔たちが出迎える。とは言え雑魚だから相手にもならない。悪魔の首を切り落とし、階段を駆け上がった。戸を開くと食事の間だった。侍従たちが襲い来る。サーガが土杭を飛ばし足を止め、その間にシンが切り裂く。呆気ないほど簡単に敵はやられた。城には十分な戦力が残っていない。キーシャはそう判断した。残りは魔王ルシと、手負いのセーレだけ。しかしこちらも手負いだ。シンは腹をさすっているし、キーシャとサーガには疲れが見える。元気なのは縫い直してもらった俺だけだ。一つの扉の前で足を止める。プレッシャーを感じた。魔王はこの先にいる。
「準備はいいか!」
皆が頷く。剣を片手に持ち慎重に、しかし大胆に戸を開ける。
「ルシ!」
ルシは玉座に座っていた。セーレを供として。
「よくぞ来た。勇者御一行。我は待ちわびていたぞ、この時を!」
「もう他の悪魔は居ないお前たちだけだ!」
「たいした問題ではない。我さえいればあとは些細なことよ。」
セーレからグラスを受け取り、一気に飲み干す。立ち上がる。俺たちはわずかに後ずさった。グラスを落とす。ガシャンと割れる。
「脆いものだ。人間は脆い。押してやればすぐに崩れる。」
プレッシャーが大きくなる。額から湧きもしないのに汗が流れる感じがする。
「我は数多の命を屠り食らった。しかし足りぬ。腹はまだ飢えていて底を知らぬ。」
セーレがどこからともなく剣を出す。魔王が鞘から剣を抜く。
「今から楽しみだぞ。勇者どもの肉の味が!」
サーガが構える。それを合図にキーシャが先陣を切っていく。
「魔王!あなたを私は許さない!」
剣がかち合う。火花を散らす。魔王は笑った。彼女のその言葉を嘲笑うように。槍が降って来る。土杭がそれを弾く。俺が魔王の背後を取る。それに気づいた魔王がこちらに腕を伸ばす。闇の塊が飛んでくる。数は少ないがしっかりと切る。シンがセーレに突っ込んでいく。セーレはそれを棘突き盾で受け止める。俺は足を鳥の足に変えた。もう一方の手に風のナイフを持ち、大きく切り込む。渦潮が発生する。それを魔王はいともたやすく剣でたたき切る。
「造作もない。」
渦潮が散る。キーシャがその隙に後ろから切り込む。激しく打ち込む。魔王が受け止める。その表情は余裕そうだ。俺も突っ込んでいく。躱された。距離を取られる。セーレから片手に杖を受け取る魔王。杖を掲げる。足元に泥のようなものが湧く。
「動きにく。」
緩急をつけて闇の塊が飛んでくる。それを剣で撃ち落とす。
「重い。」
キーシャがつぶやく。サーガが何かの呪文を唱え始める。察した俺は、サーガの元に向かう。水の衝撃波で闇の塊を打ち落とす。サーガの呪文が完成すると同時に、足元の泥がさらさらとした砂に変わった。
「なかなかやるじゃないか。」
魔王が嬉しそうに言う。
「これで動けますね。」
キーシャが言う。俺は頷き、魔王に向き直った。膠着状態が続く。魔王が闇の塊を大量に飛ばした。それを打ち落とす。セーレが何かの呪文を唱えていた。ぶつぶつと声が聞こえてくる。嫌な予感がした。不意に下から大量の剣が生えてくる。足が引き裂かれる。悲鳴を上げた。キーシャもシンも避け損ねたらしく、赤い筋が足元にできていた。幸い傷は深そうではない。サーガが合図し、再び呪文を唱えだす。俺は医療用テープを取り出し、足に貼った。少なくともこれで動くことはできる。闇の塊は絶えず飛んでくる。サーガの呪文が途切れる。完成したのだ。砂嵐が巻き起こりだす。闇の塊が一斉に落ちる。その隙にキーシャが突っ込んでいく。魔王が杖で受け止め、反対の手に持った剣で薙ぐ。キーシャはそれでも引かなかった。距離を開けたら強力な魔法が飛んでくる。キーシャは攻めた。避け損ねて体が傷つくのもいとわない。シンがセーレに切りかかる。黒い稲妻が飛んでいく。セーレは寸でで受け止める。セーレの方は疲れているようだった。もしくは最後に付けた傷が響いているのかもしれない。魔王の注意がセーレに飛ぶ。シンの周りに闇の塊が飛んでいく。水しぶきでそれを打ち落とす。魔王の隙を、キーシャは見逃さなかった。魔王の耳が切れる。
「小癪な。」
魔王の顔がゆがむ。杖を前に向け呪文を短く唱える。風が吹いた。強い風だ。台風並みの。俺たちは壁にたたきつけられた。魔王が次いで呪文を唱える。今度は長い。強力な魔法を唱えようとしている。俺は急いで立ち上がり、風のナイフを投げた。ナイフは逸れたが、風は魔王の肩を切り裂いた。しかし、止めるには届かず。サーガが土杭を飛ばす。上空から現れた大量の剣に撃ち落とされる。シンも小刀を投げる。セーレがその手で撃ち落とす。キーシャが立ち上がり、突っ込んでいく。間に合わない。そう思ったとき、玉座の方からひびが入った。なんだ?そう思った。呪文が止む。何も起こらない。魔王の視線を追うと亀裂の方を見ていた。
「サタンだ。」
ルシがつぶやく。
「とうとうこちらに気づいたか。」
巨大な手が伸びる。手は空間事我々をそちらの世界にやった。大きな顔がのぞいていた。
「我々をこちらの世界に追いやった元凶だよ。終わったな。」
ルシが言う。静かな声だった。全てをあきらめた静かな声。
「我は憤怒の者なり。」
声が響く。
「逃げおおせると思うなよ小悪魔。我は原初の罪。罪が全てを焼き尽くそう。」
呆気に取られていた。相手はあまりに強大すぎる。キーシャが大きな手に聖剣を突き立てる。聖剣が光り輝く。
「終わってなどいません!道を断とうとするものが表れたのならば、逆に断ち切ってやるのみです!」
大きな手が上からこぶしを振り上げる。サーガが土壁を張る。砂埃が舞い上がる。
「やるしかないじゃん!」
俺とキーシャ、シンは手に飛び乗る。そのまま体へと駆けていく。
「全く馬鹿なものだ。セーレ、支援しろ。」
ルシが指示を出す。
「かしこまりました。」
ルシはそのまま飛んでいく。サタンが息を吸ったのがわかった。強力な風が飛んでくる。セーレが大きな盾を召喚する。盾というより壁何だろうが。サーガの土壁が何重にも貼られる。風が収まった。俺はサタンの肩に乗り、耳に向かって水しぶきを飛ばした。耳が千切れ落ちる。シンは唇に向かって剣を向ける。唇がずたずたに切れる。血の波ができた。キーシャはサーガの作ってくれたジャンプ台から眉間を狙う。聖剣が突き立てられる。サタンがたまらず呻く。ルシが呪文を唱える。長い呪文はそのまま闇の炎の鞭となり、サタンの目に打ち付けた。
「ぐわあ。」
サタンの体が崩れる。俺たちは地上に降りた。サタンが倒れこむ。瓦礫が空から落ちてくる。セーレが召喚した武器でそれを弾く。サタンの頭が割れる。すると中から暗闇があふれ出し、俺たちをつかみ取った。
「許さぬぞ!」
怒りに震える声でサタンは言った。苦しい。誰一人として、身じろぎ一つ許されなかった。
「何か手は?」
「こうなっては無理だな。」
キーシャとルシがやり取りする。
「これに皆やられたのだ。」
「しかし何かあるはず。」
俺の中にふと冷たいものが流れた。悪魔の力。レヴィアタン。嫉妬の悪魔の力が込み上げてくる。
(これしかない。)
俺は意識を集中させていく。体が泡になった。泡は暗闇を抜け出した。
(よし、意識は保っていられた。次は・・・。)
泡が闇へと広がっていく。
「何が起きている?」
誰かが言った。泡はどんどん闇を覆った。そのまま泡は全てを飲み込んだ。泡の中では走馬灯のように、リーヴァの記憶がみんなの中に流れていた。
「リーヴァ・・・。」
途端、泡がはじけ飛ぶ。暗闇は泡に吸着され、汚れのように無くなっていた。泡が一点に集まる。何かの形を取ろうとして、弾け飛んだ。
「リーヴァ!」
黄色い鉢巻だけが風に流されていく。長き戦いは終わった。人々は勝ったのだ。




