メテオアで
キーゼル川を上る。ゾンネとゴットの兵士たちの姿はすでにない。
「メテオアに向かったんだろうか?」
「ヴィーダで聞きましょう。」
ヴィーダ。少し騒がしい様子だ。
「アインが帰ってきたぞー。」
「ヒンメルを守り抜いてアインが戻ってきたぞー。」
キーシャが急いで中央の建物に入る。
「アイン!アイン・ザーム!」
「ああ、キーシャ様!無事だったのですね。」
「アインこそ!ヒンメルを守り抜いたのですか?」
「あそこは当分取られることはないはずです。兵たちが頑張ってくれました。・・・あなたがリーヴァ様ですね。お話は伺っております。お顔をお見せください。」
そばに来たリーヴァがフードを取る。
「おお、そのようなお姿になられて、さぞや大変だったでしょう。」
「苦労はあったが、仲間のおかげで何とかやれているよ。」
「戦線はメテオアまで押し上げています。ヒンメルが守られたおかげで、ゾンネとゴットがメテオアに攻め入る隙ができました。」
「すごいじゃないですか!」
「これからいくらか兵を連れ、メテオアに加勢に行くつもりです。」
「我々も行きましょうリーヴァ!
「そうだな!」
「おお、三英雄が一人リーヴァ様が加勢するとなったら士気も上がりましょう。」
「こんな姿だがな。」
「今宵は準備をして、明日の朝に出兵しましょう。」
食卓に豪勢な食事が並ぶ。兵士たちが機嫌よく歌いながら、エールをがぶ飲みする。リーヴァたちが席に座るとより一層盛り上がった。
リーヴァ様、地獄の縁より舞い戻ったリーヴァ様
砂嵐の賢者、サーガ様、山をも崩すサーガ様
我らがレジスタンスのリーダーキーシャ、戦う乙女、ヴァルキリー
我らは安泰だ、負けるはずがない!明日の未来に向かって乾杯だ!
サーガが肉に食いつく。骨を掲げる。
「悪魔どもを根絶やしにするぞー!」
場がより一層盛り上がる。キーシャは食べながら鼓舞し、シンは隅っこでジュースを飲んでいる。俺はシンの元へと寄っていった。
「いいのですか?このような暗いところで。」
「静かにいたい気分なんだ。皆の士気が上がってる。」
「メテオアは激しい戦いになるでしょうね。」
「シンはどう思う?悪魔どもはどう出ると思う?」
「メテオアは重要な要塞都市。向こうも必死でしょう。」
「水の女神が答えてくれるといいんだが。」
剣にそっと触れる。
「リーヴァ程の人です。きっと答えてくださるでしょう。」
宴会が終わり、皆机や床に突っ伏して寝ている。その間を通り抜け、外に出る。欠けた月。新月が近い。月を見上げていると、少年に声をかけられた。
「何を見ているの?」
「欠けた月の先を見ている。」
「体は取り戻せる?」
少年を見る。きれいな顔立ちをしていた。美少年。
「わからない。」
「負けるかも。」
「そうかもな。」
「死ぬのは怖い?」
「怖くないよ。いつでも覚悟はしてるんだ。」
あの時も死ぬのは怖くなかった。自害することさえ美徳と思った。
「どうして頑張るの?」
「故郷をこの目でまた見たいから。」
沈黙が流れる。少年が月を指さす。
「新月になったらきっと悪魔の力が増す。たくさんの人が死ぬんだろうね。」
「それでも、それでも戦わなくては。生き残れない。守りたいものを守れない。」
「何者です?」
シンの鋭い声がした。
「その人から離れろ!」
少年の姿が変わる。美麗な男、セーレ。
「お前は・・・。」
「あなたは苦難の道も行くのですね。」
翼の生えた馬が力強く飛んでくる。
「お待ちしております。メテオアで。」
馬に乗って飛んでいく。
「何かされました?」
「いや、大丈夫だ。」
シンの様子がおかしい。
「どうした?」
「あなたは・・・いえ、この身に変えてもお守りします。」
「おとぎ話の騎士様みたいだ。」
「私はあなたが心配なのです。」
「どうして?」
「お慕えしているから。」
「最初に会った時も言われたな。わかった。でも、自分の身も大事にしてくれ。」
「お優しいのですね。」
「そんなんじゃない。当たり前のことを言ってるだけだ。」
シンが見つめる。
「そろそろ寝るんだ。」
「はい、おやすみなさいませ。」
「おやすみ。」
翌朝。兵たちが整列している。アインが声をかける。
「これからメテオアを我らの手で取り戻す!諸君らの手にかかっている。行くぞ!」
兵たちがメテオアに向けて行進する。キーシャが槍にレジスタンスの旗を掲げている。
「行きましょうリーヴァ!」
「取り戻して見せるし。」
こくんと頷くシン。
「行くぞ!」
メテオアに向かって馬に乗っていく。
途中、ヒンメルに着く。鉄の棘で囲われたヒンメル。大砲が大量に設置してある。あの自由都市ヒンメルがここまで様変わりしているなんて。ヒンメルと言えば中央にある自由の像が有名だった。それは今は崩れ、レジスタンスの旗が立っている。
「ここで一度休憩しましょう。」
兵たちに混ざって、飯炊きの準備をする。馬にニンジンをやるシン。サーガとキーシャで野菜を切る。リーヴァは米を炊くための水を何往復も汲んでいた。
「力仕事お疲れ様です。」
キーシャのねぎらいの言葉が効く。皆の食べているところを眺め、横になる。アインがやって来る。
「もうじきメテオアです。」
「前線の様子は?」
「悪魔どもが激しく抵抗しているそうです。リーヴァ殿にはぜひ切り込み役をして頂きたい。」
「わかった。」
「キーシャ様は・・・。」
「キーシャがどうかしたか?」
「その、あの、キーシャ様とはどうでしょう?」
「キーシャはよくやってくれている。優しい言葉もかけてくれるしな。」
「ええ、お優しい方です。誰もかれも好きになってしまうようなお方・・・。」
「好きなのか?」
「えええ、そ、そんな恐れ多いです。私なんかがキーシャ様などと。いえ、し、し、しかし・・・。」
「ずっと目で追ってたもんな。」
「気づかれていたのですね。」
「露骨だったし。」
「そ、そんなつもりはなかったのですが。・・・キーシャ様が魔王に捕らえられたと聞いたとき、気が気じゃありませんでした。」
「あなた様がいなかったら、どうなっていたことか。」
「キーシャのおかげでリーヴァに戻れた。でなきゃ、俺は一生バアルのままだった。」
「どうか、キーシャ様をお守りください。」
「言われずとも。」
アインが去って翌日。進軍する。メテオアとは目と鼻の先。煙が見えた。悪魔の姿を目の端に捕らえた。ゾンネとゴットの兵士が戦っている。それぞれの旗が天高く突き上げられる。リーヴァは先頭に立っていた。馬に乗って、剣を引き抜く。水滴が垂れた。剣に手をやり、集中する。
「全軍突撃!」
アインの声が響く。突進して真っ先に、目の前にいた悪魔の首をはねる。レジスタンスの兵たちが次々と悪魔へとぶつかっていく。そこかしこで切りあいが始まる。俺は、要塞都市の中央を駆け抜け、頭領の首を狙う。そいつは上の方に鎮座していた。俺を見留めると、馬とともに降りてくる。ランスに黒い旗を持っている。
「貴殿が三英雄が一人リーヴァ・シュトロームか?」
「いかにも」
「待っていたこの時を!私はエリゴス。心躍る戦をしようではないか!」
突っ込んでくるエリゴス。間一髪で避ける。馬が暴れる。転げ落ちる。
「その体たらくで私を殺せるか!」
ランスで薙ぎ払う。剣で受け止める。水が中心に集まって、エリゴスの顔に飛ぶ。首を曲げて避ける。兜に傷がつく。
「いいぞ!」
その場で剣を振る。水の衝撃波が飛ぶ。ランスで薙ぎ払う。
一方、槍を高く掲げ旗をたなびかせキーシャが兵を鼓舞していた。
「さあ、突き進め!恐れることはない。我らは世界を取り戻す者!」
サーガが馬の上から土杭を飛ばす。悪魔が倒れていく。黒い閃光が走る。シンがその足で、悪魔たちを次々になぎ倒していく。
「リーヴァは?」
シンがサーガに聞く。
「中央で戦ってるっぽい。」
シンがリーヴァの元に行こうとして阻まれる。
「ええい、じゃまくさい!」
戦いは続いていた。エリゴスのランスがリーヴァの胸を貫く。途端にドクンとした。血が流れ出ていないのに流れる感じがした。
「私の勝ちだ!」
エリゴスが勝ち誇る。力が中心に集まって来るのを感じた。変化の術は手にしか使っていないのに。全身に力がみなぎっていくのを感じた。
変わる。
そう思った次の瞬間にはメテオアの町の中心に一人の悪魔が生まれた。
「なんだ?」
エリゴスがのんきに言った。その次の瞬間には、彼の首が地面に転がっていた。次々と悪魔をなぎ倒していった。さながら鬼神のように。人々は突然のことに呆然として見上げる。リーヴァだったものは悪魔をその口で食べていた。力がみなぎって来る。叫ぶ。その目は人に向いていた。人に近寄り手をかざす。突然のことに驚いた人は仰け反る。運よく光線を躱す。メテオアの頑丈な要塞の壁に粘土に指でも突いたように穴が開いた。悲鳴が飛び交う。皆逃げていく。キーシャはそれを見てすぐさま立ち向かった。人波に真っ向から逆らい、リーヴァの元にたどり着いた。
「リーヴァ!しっかりしてくださいリーヴァ!」
悪魔はキーシャを見留めると指で突いた。槍が吹き飛んだ。旗が千切れる。
「まずい。正気を失ってるし。」
サーガが二人の元へ急いだ。シンは突然のことに固まっていた。人波に逆らうことも従うこともなくただ茫然と立っていた。サーガがたどり着くと、悪魔はキーシャの体を突こうとしていた。土壁がそれを防ぐ。土壁はケーキを崩すように簡単に崩れた。
「リーヴァ!」
キーシャが叫ぶ。そこを指で突く。
金属の破片が飛び散った。
そこに一人の悪魔が舞い降りてくる。
「セーレ。」
キーシャがつぶやいた。
「あなたはそのような人ではないでしょう。」
セーレが手をかざす。リーヴァはセーレを突こうとする。
金属片が飛び散る。
また何かの手を使って防いだのだとキーシャは思った。
「お眠りなさい。今はその力、ふさわしくない。」
セーレが悪魔に触れる。すると、ファンシーな人形が戻って来る。
「リーヴァ!」
キーシャがリーヴァを抱えに行く。セーレがキーシャにリーヴァを預けると、翼の生えた馬の背にまたがる。
「人間ども、よく聞きなさい。これから一月後魔王ルシ様はゾンネを落としにかかります。それまで準備しておくようにと、ルシ様からのお言葉です。」
そう伝えると、セーレは飛び去って行った。ハッとしたシンが駆け寄る。
「リーヴァ!」
「今は眠ってるだけみたい。」
サーガが言う。
かくして、要塞都市メテオアは人々の手に取り戻されたのだった。




