水龍の剣
朝が来た。小鳥が喜びの歌を歌っている。キーシャが来る。
「もう大丈夫なのか?」
「はい。リーヴァ、私も連れていくと言ってくれたそうですね。」
「そうだな。」
「なかなかお役に立てませんが、よろしくお願いします。」
「そんなことはない。キーシャがいて助かっている。大事なイヤリングを売り払い外套を買ってくれたこと、ヴィーダという道を示してくれたこと、ここでよくしてもらえるのも君のおかげだ。」
「ありがとうございます。」
このやり取りをシンが静かに見つめている。
「さて、行くっしょ!」
サーガが指を指す。
「南のシュミートへ!」
キーシャが手ごろな剣を腰に差す。リーヴァは荷物を背負う。サーガは片手に地図を、片手にクッキーを。シンは荷物をリーヴァから半分受け取る。
「出発!」
道中、キーゼル川で兵の集合を目の当たりにする。
「かなり多いな。どこにぶつける気なんだろう?」
「メテオアに向かうみたいですよ。」
メテオア。北の都市のひとつ。今は陥落している。取り戻すのに本気らしい。ゾンネとゴットの旗がそれぞれ見える。
「我々も頑張んなきゃね!」
「そうですね!」
険しい山道を超える。途中、野犬に襲われたが、シンが簡単に追い払ってくれた。シンは事あるごとに俺の体調を気にかけてくれた。しかし、この体になってから、痛みは感じるが、それ以外には、愚鈍というか何も感じなかった。疲れもない、腹もすかない、喉も乾かない。人間の体の不自由さを考えるとかなり楽だ。
(いかんいかん、それでも俺はできる事なら戻りたい!)
平地に降りると、のどかな景色が続いた。途中、柳の木の下で休憩をはさむ。
「柳と言えば、昔よく熱を出す子供だったんだけど、柳を煮出した薬をよく処方されたっけー。」
「サーガが?」
「これでも、子供のころはあったし。」
「私も飲んだことあります。一度大雪の中、外で駆けずり回って、熱を出したことがあります。」
「キーシャがそんな無邪気な子供だったとは!シンは?」
「僕ですか?おとなしい子供でした。・・・恥ずかしながら、エピソードとかはないですよ。」
「リーヴァは?」
「とにかくよく稽古してたな。」
昔のことを思い出す。木人人形を前にして、剣を打ち込む。親父に良く怒られてた。脇が甘いって。
「そろそろ行こう。」
空の様子がおかしかった。黒雲がシュミートへの道を覆っていた。シュミートへの道を歩く。シュミートが見えてきた。雷が都市に落ちたのが見えた。
「すごい稲妻!」
鍛冶都市シュミート。
都市の真ん中には亀裂が入っていた。嵐が巻き起こっている。中心に何かいるが見えない。
「なんなんだ?」
悲鳴。逃げ遅れた人が飛んでいく。そのまま地面にたたきつけられ、ぐしゃり。血の池ができた。嵐が静まる。中心には燃える尾をはやした牡鹿がいた。立派な角には人の死骸が刺さっている。
「フルフルは皆と仲良くしたい。」
悪魔だ!身構えた。シンとサーガが構え、キーシャが剣を抜いた。
「フルフルは皆と友達になりたいだけ。」
そういうと雷が落ちてくる。サーガが土壁を張る。キーシャの真正面に雷は落ちた。土壁がボロボロと崩れ落ちる。
「やめてあげて!」
子供が飛び出してくる。
「危ない!」
悪魔が子供の横に立つ。
「フルフルは優しい天使。」
雷が子供の真横に落ちる。
「危ないから逃げなさい!」
キーシャの忠告に耳を傾けない子供。
「フルフルはかわいそうな天使なんだ。お願い!意地悪しないで。」
フルフルの体を押す子供。
「さあ、帰るんだ。」
すると突然シカの顔が裂ける。子供の頭を一瞬で飲み込む。子供の体がフルフルの体に寄りかかる。それを前足でフルフルは踏みつぶした。
「フルフルは優しい。」
シンが始めに突っ込んでいった。サーガが土杭で援護する。雷が激しく落ちる。そのどれも避けて、シンはフルフルの元にたどり着く。フルフルの体を中心に嵐が巻き起こりだした。サーガが慌てて土杭を地面に埋める。浮き始めていたシンがそれで体を支える。キーシャは固まっていた。幼い命があっけなく奪われたことに気が動転していた。リーヴァがナイフを握る。すると、不思議な力を感じた。エウロスがよく使っていた変化をもたらす風を感じていた。ナイフを大降りに振るう。すると竜巻が舞い起こり、嵐とぶつかった。竜巻は嵐をいとも簡単にほぐし、分解した。フルフルがあらわになる。すかさずシンが剣を抜き放つ。フルフルの体が一刀両断される。汚い断末魔の後、フルフルが崩れ落ちる。悪魔は倒された。黒雲がサーっと引いていく。静かになった後、町の人々が扉を開ける。その中の一人が、フルフルのそばの死体に駆け寄っていく。その人は、子供の死体を見留めると、泣き崩れた。
「何もできなかった・・・。」
キーシャがつぶやくように言った。俺はどうしたらいいかわからず、キーシャを見つめた。シンが駆け寄って来る。
「大丈夫でしたか?」
「あ、ああ。」
「キーシャ、しっかりしな!」
サーガがキーシャを励ますように声をかける。
「私、動けませんでした。」
「子供を人質に取られたようなものだったんだから仕方ないし。」
男がそばに寄って来る
「助かったよ。突然嵐が来たもんだから驚いたぜ!アンダーソンさんちのツツが飛び出して行っちまうとはな、気の毒だぜ。」
「悪魔のことを信じてるみたいだった。」
「そそのかされたんだろう。悪魔はうそつきだって、日ごろから教えてるんだがな。」
「腕のいい鍛冶師を知らないか?」
「それなら家に来な。シュミート一の腕利き鍛冶師と言ったら、このコーレ・スミスさんよ。」
「本当か?悪魔を殺すための武器を作ってほしいんだが。」
「要望は家で聞こう。さあ、入った!」
キーシャたちを呼び寄せ、コーレの鍛冶屋へ。たくさんの武器が飾られていた。奥に炉が見える。そばの机に通される。
「で、何を作ればいい?」
「剣が欲しい。魔力のこもった剣が。」
「私は・・・槍がいいです。」
「僕は小刀を。」
「あーしは大丈夫かな。」
「そうだな・・・どんな魔力を込めるんだ?」
「水、水がいい。」
「リーヴァ様と言えば水龍の剣でしたね。」
「リーヴァ・シュトロームね、あの名剣に匹敵するものを作ろう。材料だが・・・水龍の鱗がいるな。」
「剥ぎ取ってくればいいのか?」
「近くに小型の水龍の生息地がある。」
「すぐに行ってこよう。」
「準備して待ってるよ。」
シュミートを出て、近くの湿地帯へ。
湿地帯。
小型の水獣がうようよしている。人を惑わす人魚、馬に似たケルピー、こちらの様子をうかがう水虎。しばらく行くと、水龍を発見した。どれも小型だ。
「大きいのは居ないか?」
突如、水柱が立ち上がる。大きな水龍だ。
「こりゃいい。」
ナイフを構える。突進してくる水龍の頭を一突き。
「お見事です。」
下半身をばたつかせる水龍。その場で捌く。鱗のついた皮、新鮮な肉。
「持って帰って、夕飯にでもしよう。」
シュミートに戻ると鍛冶師が待っていた。
「どうだい?」
どさりと鱗付きの皮を置く。
「これまた立派だな。」
苦笑する鍛冶師。
「腕が鳴るぜ。」
「どのくらいかかる?」
「三日で作ってやるよ。」
鱗を渡す。
「どこか休める場所はないか?」
「宿屋が上にある。出来たら呼んでやる。」
宿屋。肉を持って、店主に見せる。
「調理してもらえるか。」
「ええ、かまいませんよ。お客さん、あの嵐の悪魔を倒してくれた人たちでしょう。」
「ああ。」
「割引しちゃう!」
「それは助かる。」
「部屋はそこを使っておくれ。」
部屋に入り、外套を脱ぐ。みんなそれぞれ休憩する。キーシャは荷物の整理、サーガは鏡を見て、メイクを整える。シンは剣の手入れ。
「シンの剣はどこで作ってもらったんだ?」
「父のお古です。腕のいい鍛冶師に作らせたと言っていました。それから西にいる魔法使いに闇の魔力をこめてもらったと。」
「親父さんも暗黒騎士?」
「そうです。と言っても無名でしたが。早くに母と結婚して、暗黒騎士をやめてしまいましたから。」
「そうなのか。」
「リーヴァ様は・・・。」
「思ってたんだが、リーヴァでいい。」
「恐れ多いです。」
「そんなことはないって。」
「では、リーヴァはどうして剣の道に?」
「親父がシュテルンの兵士だったから。俺も兵士になるのが当たり前だった。それが、エアロスとフォービと共にドラゴン退治しに行ったら、いつの間にか三英雄なんて呼ばれるようになってた。」
「黄金龍ドラド。相当邪悪でしたからね。」
「今の悪魔どもと比べたらかわいいもんだけどな。」
「ご謙遜を。黄金龍ドラドと言ったら、都市を二つも破壊し、あのシュテルンを脅かすほどだったとか。」
「でも、より強力な魔王にシュテルンは滅ぼされた。」
「魔王は別格ですからね。とはいえしかし、復活なされたリーヴァが倒すのでしょう?」
「だといいんだが。」
体を順当に休め、三日が立った。
「コーレ・スミスさんだ。約束通り、武器ができたぞ。まずは小刀。」
シンが受け取る。
「次に槍。」
キーシャが礼を言う。
「そして最後に水龍の剣だ。」
鱗が張られた長剣を渡される。
「ありがとう。」
握ると魔力を感じた。宿を出る。
「次はどこ行くー?」
「ヴィーダに戻りましょう。メテオアのことも気になりますし。」
俺たちは、ヴィーダに向かって出発した。




