暗黒騎士と人形遣い
川辺を歩いていた。キーゼル川と呼ばれる川だ。
「この川を上っていけばレジスタンスの本拠地であるヴィーダに着きます。」
キーシャが先頭を行き、川を上ってくのだった。
「休憩しよー。つらいっしょ。」
「そうですね。」
川辺で休憩をはさむ。手を眺めるリーヴァ。
「励むねー。」
「今のままだと使いづらいからな。」
手がうにょうにょと動き出す。
「気持ち悪!」
「しょうがないだろ、初めてなんだから。・・・でも、なんとなくわかってきた。」
川の中に何かの気配がした。
「なんだ?」
水が持ち上がる。ウンディーネだ。ウンディーネが表れた。
「助けてください。」
「どうした?」
恐る恐る近寄ってみる。
「指輪を悪魔に取られてしまったのです。奴の名はパーソン。奴は指輪を奪い取り、この奥へと行ってしまいました。」
洞窟を指さす。
「どうか取り戻してください。」
頷くと、ウンディーネは姿を消した。洞窟の中を進む。奥にはライオンの頭をした悪魔がいた。
「お前がパーソンか?」
「如何にも。吾輩がパーソンである。何用だ人間?今吾輩は忙しい。」
「ウンディーネの指輪を奪っただろう。返せ!」
「あれはもう吾輩の物である。・・・やめろ剣を取り出すな。」
抜きかけたナイフをしまう。
「ううむ、指輪は返せないが、いいことを教えてやろう。吾輩は未来を告げる力を持っておる。」
「そんなものはいい。指輪を返せ。」
「まあ、とりあえず聞いてみろ。月が満ちるまでにヴィーダに悪魔の軍勢が押し寄せてくるであろう。」
「ヴィーダに!」
「落ちつけキーシャ。でたらめ言ってるだけかもしれない。」
「人形遣いが表れ、人々の一部は傀儡となろう。」
人形遣い。
(ムルムルか。)
「しかし、闇の刃を携えた者が表れ、悪魔は去っていくだろう。」
「それは誰なんだ?」
「もういいだろう。未来を告げてやったのだ。ここから立ち去れ。」
「本当かどうかもわからないことを聞かされて、しかも悪魔に。信用できるか!」
「強情な人間だ。」
一度は抜きかけたナイフを取り出す。
「虐殺する気か!無抵抗の吾輩を!」
「指輪を渡せ!」
ナイフを振るう。ライオンの頬が傷つく。
「吾輩からすべて奪う気か!」
「指輪を渡せば何もしないさ。」
ライオンの腕の影から蛇が伸びてくる。噛まれる。毒がしみだす。
「痛た。毒なんて効かないぞ。」
ナイフでライオンの首を落とす。
「お前の中に悪魔がやって来るぞ。」
指輪がポロリと落ちる。それをキーシャが拾う。
「本当にこんなことしてよかったわけ?」
「相手は悪魔だ。慈悲はない。」
川に戻ると、ウンディーネが待っていた。ウンディーネに指輪を渡す。
「ありがとうございました。」
ウンディーネがそのまま去っていく。
「急いでヴィーダに向かいましょう。」
「信じているのか?」
「心配なだけです。」
都市ヴィーダ。たくさんの人が行きかう。都市の中心の一番高い建物に行く。
「マスターは居ますか?」
「キーシャ様、生きておられましたか。」
「レジスタンスが続く限り私も不滅です。ここにリーヴァ様もいらっしゃいます。」
「リーヴァ様ですと?」
ざわめく。
「リーヴァ。」
「いいのか。」
「きっと大丈夫です。」
リーヴァが外套を脱ぐ。そこにはファンシーな人形が出てくる。
「これは・・・何かの悪い冗談で?」
「本気です。リーヴァ様は魔王と戦い、このようなお姿に変えられてしまったのだ。」
「しかしこれは、サーカスの人形のようですよ。」
笑いがかすかに起こる。
「呪いのせいなのです。魔王の側近でもある人形遣いを倒せばいいのです。」
「キーシャ様、王家の紋章は?」
「魔王に取られ、壊されてしまいました。」
沈黙。マスターがこちらに歩み寄る。
「いやはや、まさかこのようなことが起きようとは・・・。キーシャ様を騙るこの不届き者を捕らえよ!」
「私は本物です!今喋ったことも事実なのです!」
兵が寄って来る。
「話は牢の中で聞こう。」
両腕を抑えられ捕まる。そのまま牢へと連れていかれる。牢屋の中に入れられる。
「すみません。このようなことになってしまうとは・・・。」
「仕方がない。誰もこんな人形がリーヴァだとは気づくまいよ。」
「これからどうしましょう。」
「パーソンって悪魔の話によれば、明日にでも悪魔が来るはずだよね。」
「当てにならない。そもそもどうしたものか。」
兵士が一人下りてくる。
「本当に人形が動いているんだな。」
「ここから出してください。」
「無理なお願いだ。これからキーシャ様を騙るものには尋問を受けてもらう。出ろ。」
「わーマジか・・・。」
「私は正真正銘本物です。」
「それは尋問の後ではっきりすることだ。」
キーシャが連れていかれる。
「ひひっ、災難だなー。」
隣の牢から声がする。
「あれは尋問じゃなくて拷問だろうなー。」
「どういうことだ?」
「言葉通りさー。あのキーシャを騙るんだ。相当ひどいことになるぞー。」
一方キーシャ。
石の床の上に正座させられていた。膝に石板を乗っけられていく。兵士が鞭を取り出す。
「お前は悪魔の仲間か?」
「いいえ、違います。」
背中に鞭が打たれる。
「キーシャ様をなぜ騙った?」
「本物だからです。」
背中に鞭が打たれる。
「信じてください!」
「信じられるか!キーシャ様は魔王に捕らえられ、殺されたんだ!」
「キーシャは死んではいなかったのです。リーヴァ様が助けてくださいました。」
背中に鞭が打たれる。
「では、なぜ王家の紋章がない?」
「魔王に破壊されてしまったのです。」
「水桶を持ってこい。」
水桶が、石板の上に置かれる。頭をつかまれ、水桶に顔面から突っ込む。息ができない。顔を持ち上げられる。
「真実を言えば、命だけは助かるんだぞ。」
キーシャは微笑んだ。
「私は屈しません。」
水桶に突っ込まれる。
檻の外で鳥が鳴いている。朝が来た。手に集中する。グニャグニャ波打って、人の指の形になる。
「思ってたより早かったかも。」
サーガが起きた。
「人の姿になれたら・・・。」
「高望みしすぎっしょ。」
「キーシャは大丈夫だろうか?」
「今頃寝ずの拷問っしょ。恐ろしい。」
不意に外が騒がしくなる。
「なんだ?」
「わかんない。」
「透視魔法とかはないのか?」
「ちょっと集中力がいるじゃん。」
サーガが胡坐をかいて集中しだす。それをじっと眺めるしかない。
「どうだ?」
「今外に出たとこ。!あれは。」
「なんだ?どうした?」
「悪魔の軍勢がいる!」
「ムルムルは居るのか?」
「それらしき奴は今のところ見えないし。下級の悪魔がいっぱいいる。!人が襲われてるじゃん!」
「どうにかならないか?おーい兵士!」
呼び掛けても反応はない。
「くそ。」
「あっ!」
「今度は何だ?」
「ムルムルかもしんない。死んだ人を操ってる。」
(ムルムル!)
今すぐにでも飛び出していきたい気分だった。そこに兵士がやって来る。
「お前たち、解放してやる。」
檻が開く。
「悪魔が来ている。どうにかしろ!」
「キーシャは?」
「あの女ならそっちの部屋に。」
急いでキーシャの元に向かう。ぐったりとしたキーシャが床で倒れている。
「キーシャ!大丈夫か!」
助け起こす。
「私の事より悪魔を・・・。」
弱弱しく言う。
「外はこっちみたいじゃん!」
サーガの後について外へ。あちこちで火の手が上がる。ムルムルが死人を操作しているのが見えた。
「ムルムル!」
「おや、誰かと思えばバアル、あなたでしたか。」
「俺はリーヴァだ!シュテルンの戦士リーヴァ・シュトローム!」
「すっかり自我に目覚めてしまいましたね。つまらない。あのまま傀儡でいればよいものを。」
「つまらない。つまらない。」
肩のグリフォン人形が鳴く。
風のナイフを器用な人の手で握る。
「おや、魔王様が失くしたと仰られていた失せ物がこんなところに。」
「盗人。盗人。」
「これは、エアロスの物だった!お前らの物じゃない!」
「そうでしたかね。うーん。覚えていないな。そもそもエアロスとは誰でしたかな?」
怒りがふつふつと湧き上がって来る。ムルムルに向かって、切りかかる。ムルムルが、死人を盾に使う。まだ温かく柔らかい肉を切り裂く。血を浴びる。
「いいのですかな。無垢な町人の死体を傷つけて。」
「残虐。残虐。」
「お前が!」
「リーヴァ落ちつけし!焦っても仕方ないじゃん。」
サーガがそばに来ていた悪魔を土杭で倒しながら言う。
「合わせて一気にやろうじゃん!」
頷く。ムルムルが死人を飛ばしてくる。それをサーガが土壁で防ぐ。土壁をリーヴァの足元にはやす。即席のジャンプ台。勢いよく飛び上がる。ナイフを突き刺す。ムルムルが避ける。風で肩が切り裂かれる。
「やはりそれは厄介ですね!」
「サーガ!」
「あいよ。」
サーガが土壁でムルムルの移動を阻害する。リーヴァがそこに切りかかる。今度は頬が傷つく。死体を飛ばす。リーヴァがなぎ倒される。
「リーヴァ!」
「油断しすぎですよ!」
サーガに剣を持った死体が飛び込んでくる。寸でで土壁を張る。リーヴァが抱き着く死体を剥がす。もう一度突っ込むリーヴァ。
「芸がないな。」
死体が上から降って来る。潰されてしまう。
「私の術から逃れたとはいえ、それでは私を殺せませんね。」
「愚鈍。愚鈍。」
死体から這い出てくる。
「くそ。」
届き切らない。そう思っていると、不意に黒い閃光がムルムルの右腕に走る。右腕が飛んでいく。
「いったいなー!」
余裕をなくし顔がゆがむ。
「悪魔って言ってもその程度か。」
少年がリーヴァの前を歩く。黒い鎧が日に照らされて光る。
「お前は?」
「僕はシン。お前を殺すものの名だ!」
一気に間合いを詰める。速い!剣を抜くと死体の体が真っ二つに飛び散る。
「面倒だな・・・。」
ムルムルが手で何かの指示を出す。すると、複数の悪魔に囲まれる。
「逃げる気か!」
シンが素早く何かを投げる。逃げるムルムルの体に刺さる。
「うわぁ。」
ジューと言う音。焼けている。しかしそのまま逃げられる。悪魔たちが間合いを詰める。サーガが土杭を飛ばす。リーヴァが立ち上がる。その間にシンが魔物の間を素早く通り抜ける。魔物の首が飛ぶ。あっという間にあたり一面血の海に。寄ってきた悪魔の首をナイフで刈る。
「これで最後か。」
人々が建物の隙間から出てくる。地下からよたよたと、キーシャが歩いて来る。
「悪魔を退けたのですね。」
キーシャを支えてやる。
「ああ、とりあえず危機は去った。」
「ああ、我々は何ということを!見ておりましたリーヴァ様。」
マスターが近づいて来る。
「あなた様こそあの三英雄が一人リーヴァ様!」
「リーヴァ様だって!」
シンが驚く。
「見間違えるはずがございません!勇敢にも悪魔を切り殺していく姿。どうか、数々の非礼をお詫びさせください。」
マスターが土下座する。
「キーシャ様、どうか我々をお導きください!」
キーシャと目を合わせる。彼女の目には優しさが湛えられていた。
「いいんだ。この姿だ。勘違いをされても仕方ない。道化の操る人形にしか見えないだろう。」
「それでもリーヴァ様は立派な戦士です!すぐに凱旋の準備をします。どうか今しばらくお待ちください。」
マスターが去っていく。
「あなたは本当にあのリーヴァ様なのですか?」
少年、暗黒騎士が近づいて来る。
「こんななりだがそうだ。リーヴァ・シュトロームだ。」
暗黒騎士が片膝を立てる。
「お慕えしておりました。リーヴァ様。」
「え?」
「ずっと、会いとうございました。」
恍惚とした表情すら見せる暗黒騎士。キーシャと目を合わせる。戸惑いの色が見て取れた。
「君はシンって言ったね。」
「はい。シン・モーントシャインです。恐れ多いです。あのリーヴァ様に名前を呼んでいただけるとは。」
「一国の主というわけでもないのに。」
「一国の主に等しいお方です。あなたの強さを知っていますから。」
調子が狂う。
「えっと、マスター?」
マスターを呼び戻す。
「はい。」
「キーシャの手当てをだな・・・。」
「ああ、はい。失礼いたしました。すぐに手配します。」
キーシャが担架で運ばれていく。
「他にお怪我はありませんか?」
「大丈夫だ。」
「暗黒騎士君はなんでここに?」
サーガが聞く。
「あなたは?」
「サーガ。賢者してるし。」
「ああ、あの砂嵐のサーガ様ですか。僕は旅人なのです。」
「旅人?」
「リーヴァ様と悪魔を探す旅人。」
「悪魔はわかるがなぜ俺を?」
「お力添えしたくて。」
「んまあ、ちょうどいいな。人手が欲しかったところだ。特に君は強いみたいだし。」
「恐れ多いです。」
「準備ができました!」
マスターの声に会話を中断する。シンは残念そうな顔をした。最初に来た、都市で一番高い建物に案内される。
「ここはレジスタンスの本部です。」
たくさんの人がせっせと行きかい、端の方で怪我人の手当てをしている。真ん中の大きいテーブルに通される。
「食事をお持ちします。」
色んな食事が並ぶ。エールを注がれる。俺は飲めないのだが・・・。マスターが席に着く。
「今一度、数々の非礼を・・・。」
「構わないよ。仕方のないことだったんだ。」
隣でサーガが食べ物に手を出す。シンはじっとこちらを見ている。
「悪魔の進行具合は?」
「はい、ここヴィーダを中心に戦線を張っておりますが、北の都市は軒並み落とされました。」
「シュテルンもか?」
「はい。」
唇をかむ。無いけど。シュテルン。スターシャ姫が亡き今、落とされるのは時間の問題だっただろう。
「ゾンネとゴットでキーゼル川に兵を集めていると聞きます。」
キーゼル川は広い。どちらも大国だ。しかし魔王までは届かないだろう。
「勇者の剣はどうだ?抜いたものは?」
「いいえ、聞きません。」
思い出す。古代の森にて、勇者の試しをしたことを。やはり勇者は現れない。
「魔王の居所はどうだ?」
「変わらずわかりません。」
ついこの前までいた場所。どこにあるかはさっぱりだ。鳥が飛んでこれたんだ、魔女なら知っているかも。
「レジスタンスはどうしてる?」
「ここ、ヴィーダを守りながら、北のヒンメルで踏ん張っております。戦線は何とか維持できています。キーシャ様の右腕であるアインが指揮を執っております。」
「これからどうする?」
「力をつける必要があるっしょ。」
「何処へでもお供しますリーヴァ様。」
「まずは上等な武器がいると思うんだ。シュミートに行こう。・・・キーシャを連れて行っても?」
「キーシャ様がいいと仰るなら構いません。」
食事を済ませ、用意されたベットに横にならず、体育座りで月を見上げる。今宵は満月。シンが隣に来る。サーガはすでに寝息を立てている。
「眠らないのですか?」
「人形だから眠れない。」
「なら、僕もお供します。」
「いや、人間の体は疲れるんだ。これから先のこともある。ゆっくり休んでくれ。」
「なら少しだけ。」
一緒に月を見上げる。
「これから先どうなっていくのだろうな。魔王は倒せるのだろうか。その前にムルムルは?奴は手ごわい。人形の身でうまくできるだろうか。シュミートの鍛冶師は腕がいいと聞くが、扱える武器がうまく手に入るといいのだが・・・。シン?」
声をかけるが、眠ってしまったらしい。ベッドまで運び、布団をかけてやる。窓際に戻り、いつまでも月を見上げていた。




