その名はサーガ
森の中。魔女に言われた通りに東の山の方へと進む。途中町が見えた。
「こんなところに町が。」
「さすがにこの格好は悪目立ちするな。」
「そうですね。とりあえず、服屋に行って外套でも探してきましょう。行ってきます。」
森の中で待つ。あの少女の目を思い出す。魔王。黙ってみている分にはただの少女だ。しかし、あれは魔王なのだ。故郷を撃ち滅ぼした魔王。なぜこの世界を支配しようとするのか。疑問は尽きない。
一方。キーシャは、町の中に入っていった。雰囲気は暗い。魔王の登場に皆意気消沈していた。服屋に入る。値札を見たところで、お金がないことに気づいた。服屋の主人に質屋はどこか聞いた。後でまた来るといったところで質屋に入る。耳に付けたイヤリングを外して見せる。それを売り払うとキーシャは服屋に戻った。キーシャは思い出していた。孤児院の仲間たちとお揃いのイヤリングをお金をためて買ったこと。なかなかいい値段だった。おかげで売値もよかった。外套に食料、食料を入れられるカバンを買って、リーヴァの元に戻った。
「お待たせしました。」
「イヤリングはどうした?」
「お金が必要だったので売り払いました。」
「いいのか。」
「はい。町で買った量産品です。金が入っていたのでそこそこの値段で売れましたが。それよりも外套です。どうでしょう?」
外套に身を包む。
「これなら全身包み隠せるな。
「うーん。知らない人が見たら大柄な人と勘違いしてくれるかも。食料です。いりますか?」
「多分この体には必要ないと思う。」
「そうですか。私はいただきますね。」
「ああ、気にせず食べてくれ。」
キーシャの身に久々のまともな食料は沁みた。
(うーん。生きてるって感じ。)
パンを食べながら報告する。
「町はどんよりとしていました。」
「そうか、早く体を取り戻して、奴らを滅ぼさなくては。」
「ごちそうさまでした。さあ、行きましょう。」
町の中へと入る。皆興味なさげに通り過ぎる。
「大丈夫そうですね。」
キーシャが小声で言った。
「そうだな。」
小声で返す。
町には掲示板が置かれていた。行方不明者が数多く張り出されている。その中にキーシャの姿もあった。
「いろいろ終わったらみんなの元に帰らないと。」
キーシャがつぶやく。
町を何事もなく通り過ぎ、東の山の方へ。道中、旅人とすれ違う。
「君らも旅人かい?」
声をかけられる。
「そうです。山の中の賢者に会いに来ました。」
「やめといたほうがいいよ。」
旅人がぶんぶんと首を振る。
「どうして?」
「魔物が住み着いたってもっぱらのうわささ。賢者様も無事かどうか。」
「心配してくれてありがとうございます。でも、行かないとですから。」
不意に強風が吹きつける。フードが風にさらされる。旅人と目が合う。気まずい沈黙。
「あの・・・。」
「ひっ。」
旅人が走り去っていく。やってしまった。風には気を付けないと。
山の中へ。山はなかなかに険しい道のりだった。キーシャの息が激しく切れる。
「大丈夫か?」
俺の方は人形だからか息切れ一つせず、疲れもせず。
「このくらい、何ともありません。」
山の奥の方に着くと泉があった。
「休憩しよう。」
キーシャが泉で喉を潤す。
「賢者様はどこにいるのでしょう。」
「かなり奥の方まで来たな。」
がさがさと物音。すると、魔物が出てくる。
「キーシャ。ナイフを取り出してくれ。」
歩くことで奥に追いやられたナイフをキーシャに取ってもらった。
相手は獰猛なキマイラだ。両手を振って、少しでも体を大きく見せて、威嚇しておく。ナイフを手渡される。構える。キマイラも覚悟が決まったのかこちらに飛び込んでくる。キマイラに向かって切りかかる。外してしまったが、風が起きキマイラの顔が切り裂かれる。ひるむキマイラ。しかし尻尾の蛇が襲い来る。しまった。と思ったときにはかみつかれていた。痛い。何かがしみだす。毒だ。蛇を切り落とす。しかしそれでもキマイラは向かってくる。そんな時、キマイラの横っ腹に土でできた柱が突き刺さる。キマイラが倒れる。奥から一人の女性が出てくる。特徴的なメイクをしていた。
「マジやばかったね。大丈夫?」
「あなたは?」
「あーし?あーしは賢者って呼ばれてる。サーガ」
「あなたが砂嵐のサーガ様?」
「そんな風に呼ばれてんだ。へー。」
「サーガ様、相談があってきたのです。」
「サーガでいいよ。その人形君の事?」
「はい。人形化の呪いを解いてほしいのです。」
「やってみるけど期待はしないでね。」
サーガがそばに寄って来る。キマイラに噛まれて、少し痛いが何ともない俺はサーガの方を見る。
「ふむふむふーん。人形の中に魂を入れて、操ってるっぽい。」
「どうにかできそうですか?」
「傀儡化は解けるよ。えい。」
頭にチョップが飛んでくる。
「ごばぁ。何するんだ!」
口から何かが飛び出す。石だ。
「それで操ってたんだね。マジ怖いし。預かっとくよ」
サーガが石を拾う。
「人形であることはどうにかできませんか?」
「マジ無理。魂が繊細に人形に絡みついてるから。術師の腕相当いいよ。マジでほれぼれする。」
「他の物にに移るとかも無理ですか?」
「マジ無理。もっと腕のいい者がいたらできるかもだけど。でも、そんなのきいたことないっしょ。」
首を振るキーシャ。
「あ、でもぉ、変化の術ならいけるかも。」
「変化?」
「見た目を変えられる魔術教えてあげてもいーよ。」
「どんなものに姿を変えられるんだ?」
「それこそ、上手い人なら何でも。少なくとも、その腕は器用にできるかもね。」
「なるほど。」
「話はそんだけ?」
「ゆくゆくは魔王を倒したいのです。力を貸していただけませんか。」
「オッケー。ついってってあげる。どこ行く?」
「とりあえず、レジスタンスの本部に戻ろうかと。
「いいね。んじゃ、こんな辛気臭いとこおさらばしよっか。」
山を下る。平地に戻り、野宿する。
「魔法使ったことある?」
「武器に込めた魔力を扱ったことなら。」
「それだと難しいかも。変化の術は繊細だから。」
「どうすればいい?」
「まずは、手を変えてみることを考えよー。」
手を見つめる。
「魔力をためて指先が枝分かれするのをイメージして。」
何も起こらない。
「だめだな。」
「焦らずやるしかないね。魔力を腹の底にためるイメージ。それを指に移す。そしたら指先が枝分かれするイメージ。練習あるのみですぞ。」
サーガの指が枝のように分かれる。
「すごいですね。私は魔法はからっきしです。才能ないって言われました。」
「まーあーしはチビのころからやってっかんね。練習はこのぐらいにして寝ようか。」
「はい。」
「火の番をしているからゆっくり休んでくれ。」
「任せたし。」
翌日。
物音で二人が目を覚ます。町の方から火の手が見えた。
「なにが?」
「行ってみましょう。」
町中で悪魔が暴れている。
「命を差し出せ。」
「魔王様のためにニャー。」
町中が燃えていた。キーシャがその辺に落ちていた剣を拾いあげる。
「やめなさい。」
「何ニャ?」
「悪魔よ。今すぐ町を襲うのをやめるのです。」
「小娘がうるさいなー。」
「それに僕にはアイムって立派な名前があるニャー。」
蛇、人、猫の三つの顔を持った悪魔が言った。
「アイムよ。今すぐ去りなさい。」
「嫌なこった。」
そばで動けない住民をつかみ、蛇の顔が火を噴く。悲鳴が上がる。肉の焼けこげる嫌な臭い。死体になったそれを投げ捨てる。
「許しません!」
キーシャが切りかかる。炎のブレスを吐かれる。剣が溶ける。
「キーシャ、大丈夫か?」
ナイフを持って飛び込む。
「ん?お前、あの三英雄か?魔王様が殺したはずじゃ?」
「どうしてわかった?」
「僕には秘密を暴く力があるんだよー。んんん、そしてお前、フムフム、面白いな!」
「?」
土のかけらが飛んでくる。ブレスで燃やし尽くされる。
「これ以上この町を傷つけるのはやめろし。」
「嫌ニャこった。止められるもんなら止めてみな。」
俺は切りかかった。避けられた。しかし、風で皮膚が少し切れる。
「痛いなもう!」
ブレスを吐く。土壁でサーガがそれを防ぐ。
「どうしましょう。」
「いい考えがあるよ。そっちの建物に誘導して。」
俺が挑発を試みる。
「その程度の炎たいしたことないな。」
「なんだと!僕はすごいんだ!」
指示された建物の方に逃げる。アイムが追いかけてくる。サーガが建物に向かって魔法を放つ。土の杭が建物を崩壊させる。寸でで逃げ切る。アイムは下敷きになった。そこに向かって土の杭を立てる。
「ニャー!!」
断末魔が響く。赤く血がにじんでくる。
「やりましたね。」
キーシャがそばによって確認する。町に燻った炎が消えていく。人々が集まって来る。
「助けてくれてありがとう。」
町長が進み出てくる。
「ぜひお礼を。」
「戦士として当然のことをしたまでだ。」
「そうだね、助けるのが仕事みたいなもんだし。」
「せめて、一晩泊って行ってください」
町長の家
豪勢な夕食が出される。
「あなたも食べてください。」
「いや、俺は・・・。」
「さあさ、遠慮なさらず。」
「リーヴァは修行中の身でね、気にしないで上げて欲しいし。」
「そうですか。それは残念。」
夜。ベットの中。
「一人悪魔を退けることができました。」
俺は窓辺に立ち、キーシャの声を聞いていた。
「ああ、ここから再スタートだな。」
「あの日、魔王につかまった日。密かに絶望しました。しかしそれは今は、希望へと変わっています。やっと、ひとまずはヴィーダに帰れる。」
「そうだな。長い夜だった。それももうじき明ける。」
寝息が聞こえてきた。夜は長い。
翌朝。
出発の時だ。町の人々に見送られる。
「次こそレジスタンスの本拠地を目指しましょう。」
「ここからどのぐらいかかんの?」
「そう、遠くはないはずです。」
もらった食料を背負う。
「行こう。」




