✧逸れ子の来店、火花舞い。:其のニ。
「へーえ、茨彦に酒彌ねぇ。ふぅん」
相変わらず目は離さないまま、泰嗣さんはにたりと笑って近づく。あ、そうだった。近づけるなって言われてたんだった。
「えっとー、泰嗣さん、茨彦さんがあんまり近づかないでほしいって言ってました」
ド直球すぎるかな?でもまあそれ以外にどう言えばいいかわからないし。そういうと、泰嗣さんはぷっと吹き出して、肩を震わせた。
「あはは、わかりやすいね君。うんうん、いいよ。わかった。まあぼくはなから別に君たちを傷つけたりしないけどね、ふふっ……」
ひらひらと手を振って二人から距離をとってくれる。うん、聞き分けがいいのか悪いのかわからないなこの人は相変わらず。
「……」
茨彦さんがすごい嫌そうな顔してる。そりゃそうだ。
「……で、えっと、お二人はなにかご用があった感じですか……?」
「ああ、最近怪異共を追うものが動き出したようでな。この店が玉藻の前を匿ったと風の噂に流れてきて、当方らとしても正直……困っている。」
「旦那、なにもそこまで正直に話さなくても……」
「否、この陰陽師二人の前では嘘も隠しも通じんとわかっているだろう?茨彦」
「そうだけどよォ」
怪異を追う……?私はなんにも知らなかったけれど、そんなことが起こっているのか。怪異とか鬼とか陰陽師とかからしたら、今って忙しくなってる頃……なのかな?
「おや、うん。お二方、今のわれは玉藻の前ではなく、ギョク。貴方達であればわかるでしょう?」
「……失礼した。以降は気をつけよう。」
この二人、やっぱり悪い人じゃなさそうだな。いや、でもあの伝説の鬼、なんだよな?そんなふうにはあんまり見えないけれど。でもその鬼が困るほどの存在って、私たちの手に負えるものなのかな。いくら泰嗣さんと綾姫ちゃんが強いらしいといっても……。相手、相手は誰なんだろう。……。鬼、しかもこの二人の鬼といえば、思い当たらないことはない。源頼光。頼光四天王が酒呑童子らを退治したのは有名な話だ。でも源頼光は平安時代の人だし、……綾姫ちゃんみたいな例外じゃなければ、生きてるわけがない。そんな事を考えていると、泰嗣さんが少し遠慮気味に口を開く
「頼光四天王軍、かな。」
そういった瞬間、二人が固まる。
「ああ、創葉ちゃんは多分わかんないよね。うん、公務のなかでもわりと秘匿されてるからね。……頼光四天王軍。一応国が管理してる機関でさ。ここだけの話、あんまりいい噂は聞かないよ。陰陽寮としてもあんまり関わるのは好きじゃないかな〜。」
公的な機関でも好き嫌いってあるんだ。というより
「頼光四天王軍って、平安時代に源頼光がまとめていた伝説の存在じゃ……?」
「うん。でもね、四天王軍は特殊なんだ。代々頭首がいてね。そんでもって当代の頭首様はずいぶん有能なのさ。」
なるほど?つまり、頼光四天王軍ってのは受け継がれてて、今の時代も存在してる……ってことか。
「ンでその当代のヤツが大層神秘やら怪異やらを気に食わないらしくてな。片っ端から潰してこうっていう噂を聞いたもんで、まだ本格的には動いてないようだが、俺たちからしたらたまったもんじゃねェんだよ」
茨彦がそういい終わるかくらいに、ツカツカと綾姫ちゃんが奥からやってきた。
「でもな酒彌やら、ぼくたちとしてもおぬしらの様な問題児をすぐさま抱えられるほどの力は持っておらぬ。それは分かっておろう?」
意外。ギョクの件があるから受け入れるものだと思ってた。でも、そうなるとこの二人はどうなるんだろう。もし本格的にその四天王軍たちが動いたら、潰す……ってことは、殺されちゃうのかな。それはなんか、やだな。
「でも、ほっといたらこの二人が大変なことになるんだよね……?」
「うむ。そのまま見殺しにしたいわけではないが、四天王軍と対立するとなれば話は変わってくる。」
そういうと、鬼の二人は頷く。わかってて、でもどうしても頼らざるを得なかったような感じだった。
「それに、おそらくおぬしらが今の姿で動いていることは薄々察している様子じゃろう。ともすれば、策もないまま匿えばここさえも標的にされかねん。故、しばし待ってはくれぬか。」
「待て、と申すか。」
すこし訝しげに酒彌は唸る。泰嗣さんも珍しく黙っていて、頼光四天王軍の影響がどれだけこの界隈にとって強力なのかを、何も知らない私でも、なんとなくわかるほどだった。……その時、一つだけ閃いた。




