✧逸れ子の来店、火花舞い。:其の一。
ギョクが入ってから2週間後ぐらい、しばらくは五月にふさわしいのんびりとした空気がこの店にも流れ続けていた。そうしてぼんやりしながら机を拭いていると、窓の外に何かが張り付いているのが見えた。
「……」
「……」
綺麗な人だな。角が生えてるけど。……うん。綺麗だな。……はっ、いけない。つい癖で現実逃避しかけた。亜麻色の髪の綺麗な長髪を可愛らしく結んだその女の子の鬼?はべったりと窓に顔を寄せてこちらをしかめっ面で見ていた。は、い、り、ま、す、か、?と口を大きく動かしながら言えばさらに眉間にしわを寄せて口を開ける。
「うるせー!」
変声期を迎えた直後のような男の子の声がその口から出てきたことにまず驚き、そのあとうるさいと言われたことにさらに驚く。仕方がないので無視をしようと思ったけれど、どうにもコツコツと角をぶつけながらこちらをみてくるものだから窓に傷がついたらいけないってていで注意しにいくことにした。雑巾をバケツに投げ込んだあと店を出てさっきの窓のところへ向かう。
「……ンだよ。」
ぶっきらぼうにそう言うその子の額にはやっぱり角が生えてて、現実なのか、と再認識させられた。……とにかく、角で小突くのはやめてもらわないと。
「あのー、角?が窓に当たってて、傷ついちゃうかもしれないんでー、やめてもらえると助かります。あと、ずっと見てるっぽいけど、お店、入ります?」
これでいいのだろうか。角が生えた人に常識は通じるのか……いや、それは差別かな。よくないよくない。通じるだろう。きっと。
「!……悪ィ。」
すんなり落ち着いた。なんなら少し申し訳なさそうにしてる。素直な子でよかった。うん。で、肝心なとこだけど店内にははいるのかな。
「店入ってもいいけどよ、アレ近づけさせんな。」
「アレ?」
「あの男。ノッポの」
ああ、泰嗣さんのことかな。そういや来てたな。
「まあ……言っておきますね。とりあえずもう暑い季節ですし、入りましょうか」
そうして二人でお店にはいる。その時に一瞬だけキレイな男の人と目があったが、なんだかゾワッとしたからすぐに目をそらした。なんだろう。この感覚。まあ、まずはこの人を案内しなきゃ。
「はい、お茶どうぞ。」
「フン」
受け取る手は素直で、この人はすこし荒っぽいけど存外素直な人なのかもしれないなって思った。そうしてお茶とかも出し終わって掃除のつづきを始めると、泰嗣さんが面白いものを見つけたように私に近づいてくる。嫌な予感……。
「へぇ、創葉ちゃん、面白いの拾ってきたね。鬼かー。しかも……」
泰嗣さんがそう言いかけたとき、カランと扉の鈴がなる。
「いらっしゃいませー……」
振り向くと、さっき目があった男の人。荘厳な感じで中に入ってきて、今案内したばかりのお客さんを指さす。
「コイツと相席で構わん。」
そういうなりズカズカと席に近づいて座る。構うも何もその人は大丈夫なのか?とひやりとしたけれど、受け入れてるってことは知り合いなのかな。お茶を出さなきゃ。そう準備しようとカウンターに足を向けたとき、愉快そうな声が聞こえる。
「あはは、揃いも揃って来るなんて仲間意識が高いなぁ。」
泰嗣さん……。
「お二人のことを知ってるんですか?」
少しだけ怪訝そうな声になってしまったけれどまあいいだろう。実際不思議に思うし、さっき近づけるなって言われた手前もある。
「知ってるも何も、有名だよ。茨木童子と酒呑童子だろう?」
泰嗣さんがその名前を出した瞬間、その二人の視線が鋭く泰嗣さんを射るように見つめた。それより、茨木童子と酒呑童子だって……!?あの、鬼のなかでも有名で、凶悪で歴史のある……?バッとついそちらを向いてしまえば、角の生えてる方の人がまるでオマエの不手際だと言わんばかりに忌々しげにこちらをみていた。
……沈黙が気まずい。なにか言おうかと口を開きかけたら、私より先に大きい方の人……鬼の口が開く。
「今の名を仮に茨彦と酒彌とする。このチビが茨彦、当方を酒彌と呼べ。いいな?」
茨彦、酒彌……。茨木の茨に酒呑の酒、うん、それはわかるけど彦、彌…?んー、……あ
「彌彦神社から……か」
思わず口に出てしまう。出すつもりはなかったから慌てて口をふさぐ。でも大きい方の酒呑童子……酒彌さんはわかるか、というような関心に近い感じの目でこちらをみてきた。泰嗣さんはへぇ、といったような声をあげて、目は鬼たちから離してなかった。
「そうだ。酒呑童子と茨木童子の名は討たれた後の名であるゆえ、当方らとしては些か不快な名である。」
なるほど、たしかに負けた後に付けられた名前って考えると、嫌だよね。




