✧白面金色との邂逅、それの旅。:其の三。
「御愛鈴創葉、ふぅん。」
――
「面白いねぇ、貴女。気に入ったよ」
ギョク……と名付けたそのヒト?キツネ?はにこりと笑って愉快げに尾のような長髪を揺らす。気に入られても困る、と言いたかったが、どうにも満足そうだし気に入られている方がまあマシだろうと考えて、飲み込んだ。
「ほう?気に入られたようで何よりじゃ。こやつがお主の先輩になる故な、幸先は良いのう。」
先輩になると言ってもまだ説得すらしてないのに?と抗議の目を向けるが涼しい顔で流された。泰嗣さんに至っては観客かのように楽しそうにこちらを見つめている。
「先輩?この子が?われを貴女の下につけるというの?」
心の底から疑問に思っているような声色で片眉をあげる仕草すらも、このヒト……ヒトってことにしようややこしいし。このヒトはつい目が向いてしまうような綺麗さだった。さすがはあんな伝説がある程の存在だ、なんて思う。でも、ドギマギしてるのは多分私だけなようで、泰嗣さんも綾姫ちゃんも平然な顔をしていた。
「まあー、ええと、私たち、人手不足で。狐の手も借りたいという状況でしてー。綾姫ちゃん……店長が知ってる顔がいるかもしれないって言って、挨拶にきました!」
最後の方は投げやりだっただろう。とにかく私はやることはやったと思う。まあ実感が薄すぎて逆に緊張も薄れてるところもあるが。言い切ると、泰嗣さんがおおー、と言っていた。そんな暇があるなら説得に協力してくれと一瞬よぎったが、そういや呼び出す?のに手を貸してくれたんだったと思い直した。
「……あはは!本当に、面白いね。貴女」
まばたきを一つしてからギョクはそう笑った。まるで初めて遊具で遊ぶあどけない子供みたいに。
「ねえ、貴女、われが何かを知っていて、そう言うのでしょう?名乗ったのでしょう?面白いよ。」
ひとしきり楽しそうにしたあと、ふと少しだけ真面目な顔をしてギョクはちらりと私と泰嗣さんをみたあと、綾姫ちゃんに向き直った。
「いいけれどね、でもねぇ、一つだけお約束ね。」
「言うてみろ。できることなら努めようとも。」
私たちがじっと見つめる中、その小さく形の整った口を開く。
「もうね、仕舞わないで頂戴。われはもう悪事を為さないから」
ちょっとの間、風が凪いだような感じしたのは気のせいではなかった。そしてまた風が吹いてギョクを向かい風が晒す。髪で隠れていた顔が影があるとはいえ見えたけど、私の目にはそれが嘘をついている顔だとは思わなかった。
「……ふぅむ。良いぞ。そのようなことであれば。」
あっけらかんとそう言う綾姫の顔は、追い風のせいで見えなかった。……でも、その声はなんだか、私の心を少しだけ引っ掻くような、くすぐるような、そんな声で、口を開きかける。
「うん、綾姫がそう言うなら、ぼくも協力をするよ。力強いでしょ、陰陽頭の助力だし、ね。」
ふ、と微笑む泰嗣さんも、あんまりいつもより落ち着いてるものだから、開きかけた口をもたつかせたあと、黙った。
「そう言ってくれるなら、構わないよう。うん、いいね。さ、先輩と店主さま、あと後ろ盾の陰陽師さま、これからよろしくね。あらためて、われはギョク。そう名付けてもらったからね。」
軽やかにそういった彼女の柔らかな声でふっと空気も柔らかくなる。ギョク。私がつけた名前。名乗ってくれたってことは気に入ってもらえたのかな。そう思うと、自然と口角が緩んだ。
そうして玉藻の前、改めギョクが曙宵誰彼堂のバイトとして雇われることになった。
――
旅も終わって四人で帰路へと着く。泰嗣さんはまるでそうなることを分かっていたようにさも当然と帰りは四席用意していた。
……ゴールデンウィークが終わった私のバイト先、曙宵誰彼堂に、私の同僚が一人増える。いらっしゃいませ、とギョクの声が響くのも、もうすぐの話。




