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✧力の渦動、そして雇用

「やあ綾姫。今日も元気――……お客さん?」

 扉を遠慮なく開けてやってきたその長身の男はまるで私のことに気づいていなかったかのように綾姫ちゃんに声をかけて、私が目に入ったときにあ、という顔をした。

「はじめまして、ぼくは倉橋泰嗣(くらはしたいじ)。君はお客さんのようだね?綾姫がお客さんを呼ぶだなんて珍しいなぁ。あ、もしかしてココで働こうとしてたりして〜?」

「突然やってきておいて無礼なやつじゃな泰嗣。弁えよ。」

 綾姫ちゃんが見るからに嫌そ〜な顔をして泰嗣さん?をグイグイと押しやる。なるほど、知り合いか。

「え、ま、はい。働く……かはわからないけれど。」

「なになに〜?せっかく綾姫が誘ってるのに断るのかい君は!」

 圧が強い。圧が強すぎる。なんなんだこの人……。

「よせ泰嗣。困っておろう。」

「ええ、じゃあ……働こう……かな?」

 綾姫ちゃんは目を瞬かせた。

「本当かえ!それは頼もしいのう!」

 うれしそうだ。まあ、バイト先が決まってお給料も出て、家からそんなに遠くないし……。というかこの泰嗣さんって人は本当になんなんだろう。

「ほれ泰嗣。後押しをしてくれたのは助かったがここに居座られると居心地が悪うてな。帰れ」

 毒舌だ……。

「はいはーい。ぼくはじゃあお暇しようかな〜。またね、綾姫!」

 来たときと同じようにバタンとドアを閉めて去っていった。嵐のような男の人だなぁ。

 ――

「で、あの人はどういう人なの……?」

「ああ、泰嗣はな。うーむ、最近の言葉はわからぬな。陰陽師、で伝わるか?」

 陰陽師……!?というより最近の人って……

「さっきの話に戻るけど……何歳?」

 場が静まり返った。

 しまった、と思ったけれど、どうしても気になってしまったから、返答を待つ。

「うむ、幾つかは正確には覚えておらぬ。だが、のう?なんじゃ、何年ほどかのう。明徳か応永の頃からは、生きておるのう。」

 明徳?応永?……室町時代の元号だけど……本当に?いや、嘘とも思えない。むしろ綾姫ちゃんの見た目年齢でその元号を知ってたらおかしいし……

「て、てことは、私より年上……ってこと?」

「そうであろうな。お主は見たところ……齢十八も行っておらぬじゃろうし」

 まさか年上だなんて誰も思わないだろ……とツッコミつつも、まあそれなら喋り方も古風な感じも納得がいく。いや、正確には行かないんだけど、そういう事にはできる。うん。

「で、話を戻すけれど……陰陽師?陰陽師と関わりがあるの?あるんですか、のほうが、いいかな……」

「ははは、遠慮は無用よ。好きに話せばよい。うむ。あやつ…泰嗣は陰陽師じゃ。陰陽師のなかでも陰陽頭、つまり総括する立場のものじゃな。して、関わりがあるというよりも、ぼくも陰陽寮に勤めていた頃もあるほどじゃよ。」

 陰陽師だった……?とんでもない迷子に遭っちゃったんだな、私。ま、まぁ、落ち着こう。深呼吸をして、まばたきをして。うん。

「えっとー……で、私はその元?陰陽師さんのところで働くわけだけど、仕事内容は?」

 綾姫ちゃんは待ってました!と言わんばかりの顔で顔を上げた。

「給仕と雑用をしてもらいとうてな!」

「給仕と雑用……。」

 思わず復唱してしまう。室町だったり陰陽師だったり当主だったり、とんでもない話を聞いてきたから、大層なことを言われるんじゃないかと張り詰めていた気がふっと抜ける。

「そ、それなら私にもできそう……かも?」

「無理はさせぬよ。ここの掃除と昼の茶店の給仕をしてもらいたいだけじゃ」

 あ、本当に喫茶店開くつもりなんだ。やっぱりちょっとかわいいな、って思っちゃってふ、と笑ってしまう。

「む?何かおかしいか?」

「い、いや、可愛いなって思って」

「かわいい?愛いということかえ?……物好きじゃな。」

 よくわかってない顔をしてる。ちっちゃい子供みたいなのに、内にある物が重くて古い、不思議な人。

 春の始まりに訪れた、私に変化をもってきてくれた、人。

 コホン、と咳払いをして頭を下げる。

「これから、よろしくお願いします」

「よろしく頼む。ようこそ、曙宵誰彼堂じょしょうたそがれどうへ」

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