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✧彼方なる隣人、出会う。

 初めて会ったのはいつだったか。ああ、きっと迷子になっていると勘違いして、声をかけたのが初めてだったのか。それが私の物語の門だったのかもしれない。あるいは、鍵だったかもしれない。

――

 平凡な人間だった。テストの点数も平均点、運動もそこそこ。いや、むしろちょっと出来ないし。美術だって出来るってほどじゃなかった。

 強いて言えば小説が好きだ。本を読むのが好きで、文字を書くのが好きで。それくらいだった。


 お父さんの仕事の都合で京都に引っ越してから四ヶ月くらい。学校もまだ始まってない三月の終わり。そのときにあの子…いや、あの人に会った。ちっちゃくて、キョロキョロしてて、道に迷ってるのかなー、なんて思ったから、柄でもなく声をかけちゃった。

「あの、大丈夫?迷ってるの?」

 慣れないことだったから、少しだけ不自然だったかもしれないけど、彼女は困ったように微笑んで

「そうじゃね、道に迷うてしまった。」

 びっくり、変な喋り方。のじゃロリってやつ?……じゃなくて、迷ってるなら交番にでも届けなきゃ。そう思って歩こうとしたらその子は「家の見た目ならわかるんじゃが…この背丈ではちと探しにくくてのう……」と言ったから、その子の家まで送ることにした。

 暗めの赤い屋根に紺色の壁。古めの建物。そう言われて一緒に探す。途中ではぐれたらいけないからって手を繋ごうとしたらその子は少しびっくりしたあと、嬉しそうに手を握ってくれた。少しだけかわいいな、って思った。

「して、お主。名はなんと言う?ああ、ぼくは土御門の綾姫(あひめ)。綾姫と呼べばよい。」

「あひめ……?変わった名前だね。綾姫ちゃん、私は御愛鈴創葉(おめすずきずは)。ま、私も変わった名前か。えへへ」

 自己紹介の時間が何気なく始まった。綾姫ちゃんは歩くのがそんなに速くなくて、少しだけ歩幅を狭める。それに気づいたのか知らないけれど、きゅ、と小さく手を握って、こっちを向いて微笑んだ。

 ――

「ここじゃ、ここがぼくの家である」

 着いたのは少しだけ言い方が悪いけどボロっちい……よく言えば、古めかしい?建物。本当にこんなところに住んでるのか?この子が、とか思ったけど、まあいいかっておもって、別れようと思ったら声をかけられた。

「待て、着いてきてもらった恩を返せておらぬ。茶ぐらい出そう。」

「君が?」

「?そうじゃが。家主がもてなさずしてだれがもてなそう?」

 家主?この子が?迷子になっちゃうようなちっちゃい娘が?

「家主……?」

 思わず声に出てしまう。

「うむ。ここの家主……まあ、店主のようなものじゃ。」

 店主?さらに謎が深まった。

「じゃ、じゃあお邪魔しようかな」

 好奇心は猫を殺す、とはこのことだろう。

 家の中、店内?に入るとそこは案外整頓されてて、間接照明みたいなかんじのおしゃれなライトがぼんやり薄く光ってて、ちょっと高いカフェみたいな雰囲気だった。

「茶は何でも良いか?今はほうじ茶しかのうてな」

「うん!大丈夫。むしろ出してくれるだけでありがたいよ」

 そうであるか、と満足げに頷いたあと、キッチンへと向かっていく綾姫ちゃん。

 不思議な子だなぁと思ったけれど、嫌な感じは全くしなかった。むしろ不思議なのがかわいらしくて、まるでアニメのキャラクターが飛び出てきたみたいな新鮮さがある。店主……って言ってたけど、ここはお店なのかな。と言うより保護者さんはどこにいるんだろう。

「持ってきたぞ。冷たいのでよかったか?」

 カランカランと氷の音と綾姫ちゃんの声が聞こえてそっちをみれば、コップを2つお盆にのっけて歩いてきた綾姫ちゃんが。見た目も相まってお母さんのお手伝いをしてる子供みたいだった。

「うん、冷たいので大丈夫!」

「……しかし、茶を出したほどでは恩としては足りなかろう。何か困っておることはないか?ぼくにできることであれば話を聞こう。」

 義理堅いな、見かけによらず。なんて思って、手伝ってほしいことか……と考える。あ、そういえば

「えっとねー、手伝ってほしいっていうか聞いてほしいだけなんだけど」

 なんて、ちょっと下手な話し出しをしてしまったけれど、綾姫ちゃんはうん、と頷いてくれた。

「バイトが見つからなくてさ〜あはは。」

「ばいと、とな?」

 あ、ちっちゃいからバイトとかわからないかな、そっか。

「えっとね、働く場所。お小遣い少なくてね、少しでも趣味のこととかしたくて。」

 そう言うと綾姫ちゃんは一回ゆっくり頷いてから、まばたきを一つ。そして

「ではここで働くかえ?給金ならでるぞ。」

 ……え?

「え?」

「そのままの意味である。ここで働けばよかろう。給金も出る、創葉は金がもらえる。ぼくは労働力が手にはいる。よい提案であろ?」

 そうなんだけど、そうじゃなくて。

「えっと……まず、ここは何屋さん?屋ってのも変かな、何するところ、なの?」

「うむ、茶店を開こうと思ってな。じゃが古本屋も捨てがたい。かつ夜も経営しとうしできれば祓い屋も続けたい……故に万屋にあたるな」

 万屋。何でも屋さんってこと?というより

「というより、君大人なの……?全く見えないけど」

 言ってから、失礼かもしれない、と思ったけどまあ口に出てしまったことはもう遅いか。

 綾姫ちゃんが口を開きかけたその時、そのヒトは来た。

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