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愛した姫の名で生まれ変わり、前世の誓いを果たす ~思い出すは、君の名~  作者: 呂兎来 弥欷助
第二章:選んだ恋(全26話)

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★【24】愛された存在

「俺も父ちゃんになって……父ちゃんの気持ち、少しはわかったよ」


 リュウは今晩、父と初めてふたりきりで過ごす。

 布団一式をリュウの部屋に持ってきて、父が布団で寝ることになり──リュウは布団の上に座った父のとなりにちょこんと座っている。


 あれから祖父が、今日は花月カヅキ令舞生ヨブキを預かると言ってくれた。

 それと、『アヤに残るのか』、『庾月ユツキと一緒に暮らすのか』ゆっくり考えろとも──。


 父は、リュウの部屋に入るなり、母の使っていた部屋だと言った。


「ねぇ、母ちゃんって……どんな人だったの?」


 一瞬だけ父は目を丸くして、リュウから視線を外した。


 そうしてグルッと何かを確認するかのように、部屋を見渡す。


「そうだな……色々自由奔放だったけど、それだけ心の底から笑ったり……怒ったりするような人、だったかな」


「母ちゃんが父ちゃんに一目惚れした?」


 リュウは真剣に聞いたのに、父は吹き出すように笑った。


「それはない。ぜーったいない。俺の初見なんて逆に最悪だったんじゃねぇかな」


 リュウは聞き間違いかと言葉を返す。


「そうかな? 父ちゃんかっこいいよ」

「お、それは惚気か?」

「え? 何で?」

庾月ユツキがよく『リュウと俺が似てる』って言ってた」


 ──それは、言い方も正しくないような……。

 そうだとしても、内容は妙に照れてしまう。


「じゃあ……どうして母ちゃんと付き合うことになったの?」


「そーだなぁ……好きって言われて、単純にうれしかったんだろぉな」


 意外な言葉で、リュウはまばたきが早くなった。


「父ちゃんって、いっぱい告白されてきたと……思ってた」


 父が祖父のように豪快に笑った。


「あー……、惜しいことしたな。そのままの印象にしときゃよかった」


 父はグッと体を伸ばし、そのまま体を倒した。


倭穏ワシズのお陰だな」


 天井を見つめる瞳が、やけに遠くを見ているようで。しんみりと言った気が──その一言に、ギュッと想いが詰められている気がした。


「俺さ、倭穏ワシズに救われたんだよ」


 クロッカスの父の瞳が、リュウに定まる。


 ──この瞳に……この人に、俺、ずっと憧れて……。


リュウの存在にも、だ。だから、心身ともに投げ出すようなことはするなよ? 何があっても」

「はい」


 どこかドキドキしてリュウが答えたら、父は満足そうに笑って──起き上がったと思ったら、右手でワシャワシャと頭をなでられた。


 すごくいい加減な、でもあたたかさがすごく伝わる、そんなやさしさだった。


 リュウは思わずキュッとくっつく。


「おい、お前……もう三十一だろ?」


 父の声が降ってきたから、

「そう。三十一年、我慢してたんだ」

『だからもっとなでて』と催促をした。


「しょうがねぇな」


 父に笑われたけれど、子どものころに溜めていた寂しさがスッと消えていくような、ある種の浄化のようだった。




 翌朝、リュウはカウンターで記帳のチェックを行っていた。ゆっくり考えていいという祖父の言葉に、甘える──つもりだった。


リュウ様」


 視線を上げて心臓が止まりかける。


 父の正妻だ。

 十年くらい月日が流れてもわかる。いや、むしろ『様』付けで呼ばれると考えられる人は、リュウにはこの人しかいない。


「あとで……読んでください」


 リュウはあいさつもできないでいたが、言わなきゃと感じたことをどうにか口に出そうと努める。


「あの、お願いがあるんですけど……」


 父の正妻の差し出した手が下がり──もう一段下がって、リュウの言葉を待っているように見えた。


 身構えている様子に、リュウは途端に申し訳なくなる。でも、どうしても──誰にも聞かれたくないと思ってしまった。


「様付けとかじゃなくて、その……『リュウ』って、呼んでくれませんか?」


 びっくりしたような顔された──が、瞬時微笑みに変わった。


「では、私からもひとつ……いいですか?」


 ドキリとする。


 でも、お願いをした。

 だから受け入れてもらうには、受け入れなくてはいけない。


「はい」


 リュウはそれなりの覚悟を持って返答をしたのに、予想外すぎる『お願い』がふんわりときた。


「『お母さん』って、呼んでほしいです」

「えっ……」


 一気に父の娘たちと息子の顔が浮かび上がる。


 庾月ユツキと婚約したとき、父の娘たちは『兄がほしかったから、願いが叶ってうれしい』と受け入れてくれて、歓迎をしてくれた。


 父の息子は譲歩をしてはくれたが──やはり、『そこまで踏み込んではいけない』と急ブレーキがかかる。


「あの、でも……みんなみたいに俺、『お母様』って呼ぶ柄でも……」


「だったら、『母ちゃん』でいいじゃねぇか」


 ふと父の声が聞こえて、リュウの視線はバッと変わる。


「いいですよ」


 父の正妻の了承が聞こえ、リュウの視線は戻り、慌てる。


「いや、それは……ちょっと……」


 言いながら父を見ると、どうしてか不満そうな表情を浮かべていて──。リュウは、真逆の意見を言うしかできなくなった。


「ん~……はい。じゃあ……『お母さん』で……」


 いいのかなと思いながらも、父も、父の正妻も、とってもうれしそうに──なぜかふたりではしゃぎ始めた。


瑠既リュウキ様! 私、願いが叶いました!」


 ──願……い?


 リュウが疑問に思っていると、父と目が合う。


 視線を泳がせた父は、言いにくそうに理由を教えてくれた。


「俺に似た息子がほしいって、言われてた」


 ──すごい惚気を聞いてしまった。


 しかし、ハタと止まる。


 ──あれ? 今……父ちゃんの奥さんに『似てる』って、お墨付きをもらった……ってこと、だよねぇ?


『え? え?』と照れとうれしさが半端なく。

 髪の色も瞳の色も、父と違うことなど心底どうでもよくなってしまった。




 父の正妻が渡そうとしていたのは、手紙だった。

 リュウが受け取ったあと、双子に会ってくれて『孫』と言ってかわいがってくれた。


 アヤから片道一時間ほどのところにある克主ナリス研究所に、今は三女と父の正妻はいるらしい。


 あの一番幼く見えた妹が──と思えば意外だが、立派だとも思った。


 克主ナリス研究所といえば、庾月ユツキの妊娠と出産、子どもたちの定期検診など、たくさんお世話になった馨民カミン悠穂ユオがいる。


 結婚してからも庾月ユツキがしばらく『社会勉強』とたまに行っていたことも、懐かしい。




 昼のピークが過ぎ、リュウは祖父に断りを入れて一度自室へ戻る。


 受け取った手紙を広げ、多少の呼吸のしにくさを感じながら目を通し始めた。




 リュウ様へ


 瑠既リュウキ様が話されないと思うので、こっそりお伝えしようと思い手紙を書きます。


 私は、リュウ様が瑠既リュウキ様を救ってくれたと思っています。

 だから、とても感謝しています。


 昔、瑠既リュウキ様は行方不明になりました。そうして、あるときリュウ様のお母様の倭穏ワシズさんと一緒に、鴻嫗トキウ城に戻ってきました。


 私は瑠既リュウキ様が倭穏ワシズさんと結婚しようと思われたから、鴻嫗トキウ城に戻ってきたんだと思っています。


 あのとき、倭穏ワシズさんは騒動に巻き込まれ、大けがをされて。『亡くなった』と聞きました。

 けれどもし、そう聞かされていなかったら、私たちは絶対に結ばれなかったでしょう。


 瑠既リュウキ様の中ではずっと倭穏ワシズさんは生きていて、でも、現実は違って。ずっと苦しまれていたと思うんです。


 瑠既リュウキ様はリュウ様を知ったとき、大変喜ばれていました。一緒に暮らしたいと願っていました。

 そうできなかったのは、『お爺様から孫まで奪えない』と思われたからです。苦渋の判断をされたのだと、私は思っています。


 リュウ様に倭穏ワシズさんの面影を見られて、『そっくりだった。愛しかったし、うれしかった』とおっしゃっていたんです。


 瑠既リュウキ様を救ってくださって、ありがとうございます。


 もし、克主ナリス研究所にお越しの際には、お呼びください。

 鐙鷃トウアン城にも、いつでも遊びにいらしてください。城を継いだ彩綺サイキを始め、リュウ様をいつでも歓迎しております。




 所々、リュウは何度も止まり、戻り、驚きながら繰り返し読んだ。


 読み終わり、ギュウッと手紙を胸に押し当てる。


 ──ああ、だから初対面でもあんなに……みんな歓迎してくれたんだ。


 これまで何も言わずに普通に接してくれた父を、改めてかっこいいと思う。


 そして、さすがは父の正妻だと感嘆する。今にも涙があふれそうだ。


庾月ユツキといい、父ちゃんといい……みんなすごい人たちばっかりだけど……俺、父ちゃんと母ちゃんの子に生まれて、よかった……」


 リュウは引き出しの一番上の段を開け、両手を合わせる。


 数秒後、写真立てに入った写真を見つめる。


「母ちゃん、産んでくれて……ありがとう。俺、もう……『愛人の子』なんて見られても、『違う』って胸を張っていられるからね」


 手紙をきれいにたたみ、写真の上に手紙をおく。




「行ってきます」

















完結カウントダウンイラスト3


挿絵(By みてみん)

リュウ庾月ユツキ

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