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愛した姫の名で生まれ変わり、前世の誓いを果たす ~思い出すは、君の名~  作者: 呂兎来 弥欷助
第二章:選んだ恋(全26話)

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【23】自由にしていい

 春になってしばらくして、三度目の家族写真を撮って送る。


 夜の電話では庾月ユツキの誕生日をみんなで祝い、子どもたちが寝てから八年目の結婚記念日だとふたりで祝う。




 後日、『柚子』から封筒が届いて。開封すれば、離れて暮らすふたりの写真が入っている。


 仕事後に双子の娘たちと、届いた写真と手元にある写真を並べて飾る。


 今年はみんなで白一色の服装に揃えた。二枚の写真を並べれば、思った以上の出来映え。

 結婚式での衣装を思い出しつつも、娘たちもいる現状に胸がじんわりと熱い。


 ──こうして一年ずつ増えていくのも、何だかいいな……。


 家族写真が一組増え、子どもの成長度合いが明確になる。


 ──夷吹イブキは最近遣う言葉が……すっかりきれいになった。


 先日は、『おとー様』と呼ばれたときにはびっくりした。


夷吹イブキは お姉さんになったね」

 と返すと、もっと『お姉さん』な言葉が返ってきた。


「そーなのよ、私には花と舞っていう、かわいい妹がいるのよ! おかー様がね、かわいい妹も、大好きなおとー様も、私には守れるのよって、教えてくれるの! あのね、他のところで暮らすみんなにも、私がおとー様たちを思う気持ちと同じように、大事な人がいるんだって! だから、おとー様と妹たちを守れるように頑張れば、そーゆー人たちのことも、私が守れるんだって。だから、頑張りたいなって!」


 まだまだ幼い娘の言葉に、リュウは感動してしまった。


 すっかり夷吹イブキは姫になった。

 やっぱり庾月ユツキはすごい姫だったと感嘆した。さすがは世界に君臨する城の姫だとも思った。


 大陸が違うからか、夷吹イブキは言葉のイントネーションも随分変わってきている。


 でも、その成長がリュウにはうれしかった。


 きっと、鴻嫗トキウ城の姫になるというのは、こういうこと。

 話し始めたくらいで鴻嫗トキウ城に行けたのは、夷吹イブキのためにはよかったのかもしれない。


 リュウが名に思いを込めたように、夷吹イブキならきっと、安寧の世を築いてくれるだろう。




 新年が明け、忙しい日が続き、あっという間に家族写真を撮る日が近づいてきた。


 春の足音が聞こえ、庾月ユツキの誕生日をみんなで祝い、一年に一度の楽しみが届く。

 双子と封筒を開ける瞬間も楽しんで、四歳になったふたりに写真を並べてもらう。


 同じ色の椅子に娘たちが座っている。リュウ庾月ユツキはその後ろ。だが、椅子が同じ色というだけでも、統一感がきちんと出ている。


 ──来年は、みんなでリボンを付けるんだよな……。


 しみじみ結婚十年目に向かっていると、心が弾む。




 花月カヅキ令舞生ヨブキの踊りがだんだんきちんとした振り付けになってきた。


 その変化を楽しんでいたら、季節が駆け足で過ぎていって。


 夏も月見も、クリスマスも正月も大盛況だった。気付けばもう春はすぐそこで。そろそろリボンを用意しようとリュウが思っていたころ──店の電話が鳴った。


「よぉ」


 リュウの目が大きく見開かれる。声を出せないほど驚いていると、更に驚愕の内容が聞こえてきた。


「え……」

「俺も、オヤジ孝行したいんだよね。だから、交代」


 どういうことがと聞こうとしたら、

「じゃ、明後日な」

 と電話は切れてしまった。




 リュウは衝撃的な言葉を処理できず、祖父に言った方がいいと思いながらも口に出せなかった。


 庾月ユツキに対しても同じで。ただ、心のどこかで──庾月が言わないなら、リュウが想像したようなことはないんだろうと、流してしまった。




 しかし、リュウが受け取った通り、電話の主は数日後に現れた。


「よぉ」

 十年ぶりくらいに会ったのに、月日を感じさせない若々しさで。


 己の目を疑いつつ、前回は会ったときを思い浮かべ──庾月ユツキと婚約をしに鴻嫗トキウ城に行ったときだと着地する。


 その前は、それより十五年くらい前で──今日は、その初めて会った日と同じような格好をしていると違和感に辿り着いた。


「父……ちゃん……」

「この間電話で言ったけど、今日から俺ここで働くから」

 

 確かに聞いた。

 聞いたのに、理解がまったく追いつかなかった。それは、今も同じで。


 それなのに、父は淡々と話を進めようとしてくる。


「だから、リュウ鴻嫗トキウ城に行けって」

「え? 父ちゃん、ちょっと……え? どういう……」

「まぁまぁ、俺にもオヤジ孝行させてくれってこと」


 これも、電話で聞いた内容と重複している。


 ただ、リュウが聞きたい答えではない。


「で、でも……そうしたら今度は父ちゃんが……」

 父の家族が今度はバラバラになると言おうとしたが、

「なぁに、妻も三女もこっちの大陸にきたんだぜ? それに、長女も息子もこっからの方が近い。まぁ、城を継ぐ次女とは離れるけど……みんな離れようが、家族は家族だから」


 実にあっさりと。

『何も問題ない』と返ってきた。


 それは──リュウともずっと家族だったと言われた気がしてうれしいが、少し恥ずかしい。


「うちは親離れも子離れもしたから……リュウもそろそろヨシさん離れしてもいいんじゃねぇ?」


 キュッと軌道が一瞬閉まった気がした。


 ──あれ? 俺がアヤを継ごうと思っていたのって……。


「そういうわけだから。ヨシさん、またよろしく」


「『またよろしく』ってお前……俺ぁまぁたお前に色々教えるのか?」

「一から……とは、ならないはず。まぁ……二から三からになるかもだけど」


 いつの間にかリュウのとなりにいる祖父は、ハァとため息をつく。


「仕方ねぇ……」


 祖父の返答に、リュウは慌てる。


「待ってよ、じぃちゃん! 俺ようやく……」

「心配すんなってリュウ。俺だって一応、アヤには十一年いたんだから」

「それ以上のブランクだけどな」

「でも案外、リュウくらい使えるかもよ?」

「バカ言え。ソイツはもうひとり立ちしたぞ」


 リュウが『入る余地がない』と口を閉ざした間に、なぜか父と祖父の視線が集まった。


「マジ?」

「ソイツはお前の十一年どころか、生まれてからずっとココにいるんだぞ。しかもたった五歳で、数時間くらいならひとりで店番もしてたサラブレッドだ」


 ──それは褒めすぎでは……。

 リュウは余計に言葉を発せなくなる。


 顔が熱い。

 でも、このまま引き下がるわけにもいかない。


「が、頑張ったんだよ……庾月ユツキも、もう城を継いだし……俺だってやれることはやんなきゃって……」


「へぇ……かっこい~じゃん」


 父にまで褒められ、リュウは余計に恥ずかしくなって、つい視線を逸らした。


「じゃあさ、息子に負けてられないから。ビシバシしごいてもらわないとね」

「アッハッハ! なら、やってやるか! リュウにソイツほどの根性があるか、試してやろう!」


「じゃ、そういうわけだから!」


 ──親子?


 父と祖父の声が揃ったと思ったら、仕草まで同じ──敬礼のようなポーズをとっていて。

 あまりも息がピッタリで、リュウは思わず疑いをかけてしまった。


 けれど言われた内容は、決して微笑ましくないことで。

 要は『アヤを継がずに』、『鴻嫗トキウ城に行け』ということだ。


 これまでリュウは、祖父の跡を継ぐつもりで生きてきた。

 庾月ユツキと付き合ってからも、結婚してからも変わらなかったこと。


アヤから出ない』とずっと決めていたから──庾月ユツキとも、夷吹イブキとも離れて暮らすことになった。


 そう約束して結婚した。

 だから。


 それなのに──父にも、ましてや祖父にも『鴻嫗トキウ城に行け』と言われてしまった。


 理由はわかる。


 ふたりとも、言葉にしないけれど。


庾月ユツキと一緒に暮らせ』ということだ。


 もう、縛られるなということだ。




 そんなリュウを見てか、花月カヅキ令舞生ヨブキがキュッとリュウの服を握ってきた。

 人見知りかのようにリュウに隠れ、父に近づこうとしない。


「花、舞。お父ちゃんのお父ちゃん……えと、ふたりのじぃちゃんだよ」


 一生懸命『怖くない』と伝えていたら、父が笑った。


「孫に俺の人見知りがうつったか」


 すると、パッと双子の表情が変わって、

「寂しくない?」

「大丈夫、みんないるよ?」

 と父を励まし始める。


 スルリと握られていた手が離れ、双子が父へと歩いていった。


 父は両手を広げて双子を迎え、ワッとハグする。


「ありがと」




 ちょっとした違和感があった。


 なぜかリュウは一瞬で心にモヤがかかったかのようになり──気付くと少し記憶が飛んでいた。




 父がいつの間にかまた祖父と話していて、

ヨシさんは、俺の『おとーさん』でいいんだよな?」

 と抱き付いている。


 祖父は『そーいうのはやめだぁ』と叫びながらも──リュウにはうれしそうに見えて。


 父が、

「うれしいんだよ」

 としんみり言ったあと、

「俺、甘えん坊だから」

 と笑って離れる。


 ──また、これで……父ちゃんと、しばらく会えなくなるのかな……。


 できることなら、花月カヅキ令舞生ヨブキに一目でもいいから庾月ユツキに会わせてあげたいと思っていた。


 一刻も早く、庾月ユツキにふたりを会わせてあげたいとも、夷吹イブキにも双子を会わせたいとも、双子を夷吹イブキにも会わせてあげたいとも。


 感情がバラバラだ。


 いや、感情がゴチャゴチャうるさくて、どうしたらいいのか──いや、そもそも何にそんなにモヤモヤしているのかが、わからない。


「ほら、どーした?」

「自由にしていいんだぞ」


 父に続いた祖父の声。


「父ちゃんも……じぃちゃんも……ひどいよ」


 リュウは走り出す。そうして、ポフッと父の背に抱き付いた。


「一日くらい、一緒に過ごさせてくれたって……いいじゃないか」


 リュウは必死になって言ったのに──父にも祖父にも、なぜか大いに笑われてしまった。

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