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愛した姫の名で生まれ変わり、前世の誓いを果たす ~思い出すは、君の名~  作者: 呂兎来 弥欷助
第二章:選んだ恋(全26話)

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【22】未来の約束

 きっと、『庾月ユツキ』が母だと、気付いている。それなら早くにきちんと話した方が、きっといい。


「家族の前以外では、話しちゃダメだよ? ふたりを守るためだからね」


 リュウがやさしくもしっかり言うと、ふたりは静かにうなずいた。


「おかーちゃんを『柚子』って呼んでいたけど……あれも、守るため。おかーちゃんも、ココも……おとーちゃんのことも」


「花と舞と……」

「おんなじ?」


 花月カヅキ令舞生ヨブキが、不安そうな瞳でリュウに問いかけてくる。


 ──ああ、『花』も『舞』も、『呼び名』だって……この子たちはわかっていたんだ……。


 リュウはキュッとふたりを抱き寄せる。


「そうだよ。花月カヅキを『ハナ』、令舞生ヨブキを『マイ』って呼んでるのと、同じだよ」


 今度はふたりの頭をなで、顔が見える距離に離れる。


「蝶よ花よと、育てようと思ったのは本当。でもね……」


 リュウは少し恥ずかしくなってしまって、双子の手をそれぞれ握る。


花月カヅキは……花と月は、世界のどこにいても見ることができる。どこにいても存在を確認できる、そんな美しい存在って意味。令舞生ヨブキは、美しい音色を響かせるように生きてほしいっていう願い。……名前は別々だけど、ふたりのその由来は合わせてひとつ……って、感じかな」


 ふたりの顔を見れば、ちょっと考えているような表情になっていて。リュウは子ども相手に難しいことを言ってしまったと少し反省する。


「要はね、お母ちゃんみたいになってほしいって感じだよ」


 パッと花月カヅキ令舞生ヨブキの表情が変わり、ふたりがとも互いを見て、ニコニコとうれしそうに笑った。


「あのねー、『花月カヅキ』はねー、きれいって感じで好きだけどぉ……『花』はねぇ、かわいいって感じで好きなのぉ」

「舞もねー、『令舞生ヨブキ』ぃって、きれーな感じなの好きぃでねぇ~、『舞』ってのもねぇ、踊りぃって感じなの好きなのぉ」


 ふたりはちょっと左右に揺れながら、恥ずかしそうにリュウから手を離した。


 かわいいとリュウが見ていると、ふたりはおずおずと手を繋いで、頬をほんのり染めて幸せそうに口を揃える。


「おとーちゃん、すてきなお名前、ありがとぉ~!」


 目元がじんわりと熱くなる。──そのとき、電話が鳴った。


 リュウはふたりの頬をちょっとなでて、急いで受話器を取る。


「お仕事、お疲れ様」


 庾月ユツキを労えば、同じ言葉が返ってきた。礼を言って『ふたりに変わる』と言い受話器を渡せば──。


「おかーちゃんは、『庾月ユツキ様』、なのぉ?」


 開口一番の、花月カヅキの言葉にドキリとする。


 リュウがまだ庾月ユツキに事情を話す前だったのに──受話器からは、庾月ユツキの『そうよ』とアッサリとした声がもれて聞こえた。


「そーなんだぁ!」


 花月カヅキ令舞生ヨブキをパッと見て、受話器を変わる。


「舞はねぇ、『令舞生ヨブキ』だよぉ!」


 リュウがドキドキしていると、『お父さんに聞いたのね』と庾月ユツキの朗らかな声が聞こえてくる。


「そ~なのぉ~!」

「他の人には秘密なのぉ~!」


 何だか楽しそうに話し始めて──リュウは『ああ、大丈夫だ』と己の判断に胸をなで下ろした。




 たまに報道で見る庾月ユツキの姿も夷吹イブキの姿も、

「きれ~ねぇ~」

 と、花月カヅキ令舞生ヨブキは『憧れ』として客人の前で話すようになった。


「そうだねぇ」


 同意をリュウは返しながら、

「でも俺の中では花も舞も、きれいだからねぇ」

 踊りが好きになったふたりを着飾りながら伝える。


 いつの間にか、ちいさなステージが始まるようになっていた。

 子どもならではの元気な踊りは、客人にも好評で、ちょっとしたアイドルのよう。


 キチンへ戻ったリュウは、ふたりが踊り始めたのを眺め、祖父にポツリと言う。


「母ちゃんって……踊り子だったんでしょ?」

「あ~、そうだ。ははっ、倭穏ワシズもあんな年くらいから、あ~やって踊ってたなぁ」


 幸せそうな祖父の表情に、リュウはほっこりする。


 ──ちょっとは……じぃちゃん孝行ができた気がする……。


 よかったと思う反面、庾月ユツキにも見せたくなって──そんな日が、くるといいなと願う。




 庾月ユツキの誕生日がきて。年に一度の家族写真を今年は二枚撮る。


 娘たちと、届いた写真を並べて『みんな集合だ』と笑い合う。


 電話が鳴り反射的に出れば、

「すごくいいんだけど!」

 と歓喜する庾月ユツキの声が聞こえてきた。


「そうだよね、すごくいい」


 キャッキャッとはしゃぐ花月カヅキ令舞生ヨブキに受話器を渡せば、両手で大切そうに持つ。

 庾月ユツキ夷吹イブキを、ふたりは『自慢の母と姉』と接していて。


 リュウはついつい、終始笑顔で双子を見守る。




 数十分が過ぎ、双子は徐々にまぶたが落ちてきて──布団に運んで、リュウはまだ繋がっている受話器をそっと持つ。


「俺たち、離れていても……ちゃんと家族をしているね」

リュウのお陰よ」

庾月ユツキが協力してくれるからだよ」

「だって、リュウの言うことがすてきなんですもの」


 ほめてもらったと内心喜んでいたら、ふと、リュウの中に眠る思いを庾月ユツキが言った。


「会いたいわ」


 庾月ユツキが言葉にしてくれたから、

「俺も。会いたい」

 リュウも言えた。


リュウは絶対かっこよくなってると思うのよね」

「そんなことないよ。今年三十だから、もうオジサンだよ」

「あら、リュウは伯父様の子だもの。伯父様に似てくると思えば、かっこよさが増してるだけよ」


 父を思い浮かべれてみれば、滲み出るかっこよさしか浮かばない。


「父ちゃんを引き合いに出されると、ハードルが高いなぁ……」

『シャンとしてなきゃね』とリュウは笑う。


庾月ユツキはますますきれいになったよね」

「あら、見ててくれてるのね?」

「もちろんだよ」

「でも、あれは撮ってくれる人の腕がいいだけよ? いいところを選ばれているから……本物を見られたら幻滅されちゃうかも」


 庾月ユツキの謙遜に、リュウは思わず笑ってしまった。


「そうかな? あ~……まぁ、俺ならもっときれいにもかわいくも撮られるのに……とは、いつも思ってるよ」


 そうは言ったものの、違う感情も湧いてきて。つい口走る。

「あー、でも……きれいな庾月ユツキも、かわいい庾月ユツキも、誰にも見せたくないなぁ」


 独り言のように言ったのに、庾月ユツキはしっかり聞いていたようで──クスクスと笑い声が聞こえた。


「うれしいこと言ってくれるのね」

「会えない分、今必死に口説いてるからね」

「そうなの?」

「そうだよ」


 真正面からリュウは気持ちをぶつけたのに、

「遠距離なのも悪くないって思っちゃったわ」

 なんて庾月ユツキは言い、しかも楽しそうに笑っている。


庾月ユツキ


 からかわれた気になって、リュウが『やめて』と言うように名を呼んだのに、

「ふふふ、まだしばらく遠距離恋愛を楽しみたくなってきたわ」

 やっぱり庾月ユツキは楽しそうで。


「今、絶対すごくかわいい顔してる……」


 表情がまざまざと想像できる分、会いたい気持ちも強くなる。


 すると、庾月ユツキがまたからかってきた。


「それも口説てるの?」

「これは感想だよ」


 いくら頑張ってみても、庾月ユツキはただただ楽しいと笑うだろう──と想像して、リュウは早々に白旗を揚げた。


「そうだ。結婚十年目にはみんなでリボンでも付けようよ」


 わかっている。

 結婚十年目は、まだ先の三年後。


「すごくいいわ! ねぇ、何色がいいかしら……黒いリボンにする?」

「お祝いなのに?」

「あら、すてきな色なんですもの」


 リュウは照れる。

 どれだけ離れても、庾月ユツキは変わらないでいてくれる。


「じゃあ……俺は、クロッカスの蝶ネクタイを探しておこ」


 庾月ユツキがクスクスと笑った。


「すてきな色だから、いいでしょう?」

「もちろんよ」


 双子の娘も、庾月ユツキと同じクロッカスの瞳と髪の毛の色──だけど、やっぱり庾月ユツキの瞳も髪も見たい。




 来年の話しをすると鬼が笑うというけれど、三年も後の話しだから、鬼は笑わないだろう。

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