【21】家族写真
「え?」
庾月の戸惑う声が聞こえたから、留は続ける。
「白い壁を背景にしてさ、結婚記念日にそれぞれで撮ろうよ。となりに、お互いがいるようにして」
「それって……」
「うん。それで、お互いに送り合ってさ。それぞれに手元で並べて一枚にするの」
『どうかな?』と聞けば、庾月が息を呑む様子が伝わってきた。
「すてき」
ホレボレとした声に、留はうっとりと聞き惚れた。
「よかった」
『じゃあ俺は、庾月と夷吹が左側にいると思って撮るからね』と続ける。
庾月も合わせるように、留たちが右側にいるように撮ると返してくれた。
しばらくして庾月の誕生日になり、午前中のうちに花月と令舞生と三人で家族写真を撮った。
『結婚六年目だね』と一言だけ書いて、輸送便の封を閉じる。
封筒は、克主研究所の物だ。
花月と令舞生の定期検診のとき、つい家族写真を撮って送ると口にしてしまったら、
「いいことを聞いたから、いい物を今度持ってくるわ」
と馨民が笑っていて──。
次の検診のとき、『馨民さんから』と悠穂が封筒をくれた。
「うちの封筒だったら、検問を受けずに必ず柚子ちゃんの手元に届くわ」
と言われ、ハッと留は身分差を忘れて言ってしまったと気付いた。
──そうだ。俺が送ったところで……届かなかったかもしれない。
庾月は最高位の城を継いだ姫。
片や留は貴族に属してすらいない。尚且つ、庾月の夫という立場まで、伏せられている。
「ありがとうございます」
『馨民さんによろしくお伝えください』と留は気遣いに感謝した。
「誕生日おめでとう」
から一日を締めくくる電話は始まり、
「送ったよ」
と続けて報告する。
庾月からも『送った』と返ってきて、『楽しみ』とはしゃぐ声が聞こえた。
数日後、上品な封筒が留宛てに届き、釘付けになる。
差出人は、『柚子』。
留は祖父に一言声をかけ、封筒を抱えて自室へ向かう。
急いで封を開け、すぐさま中の物を取り出せば写真で。一目見て吸い込まれ、けれど、次の瞬間には──。
──仕事に戻らなきゃ。
しっかり時間を意識する。
見惚れている場合ではないと双子の娘たちと撮った写真を手に取り、届いた写真と並べた。
手元には、約半年振りに揃った家族の光景があり──留は胸が詰まる。
ギュッと胸元で抱き締めて、苦しくなった胸を深呼吸で整える。
名残惜しく二枚を封筒の中に大事に入れ──留は双子の娘たちのもとへと、仕事へと戻っていった。
仕事が終わり、すっかり寝てしまった娘たちを抱えて自室に戻り。すぐに留守番電話を解除すれば、夜遅くとも電話が鳴った。
──庾月からだ。
電話が鳴っただけなのに、出る前から声の主を想像する。
受話器を上げれば心地いい声が聞こえ、紛れもなく愛おしい人だった。
「うまく撮れたね」
留が嬉々として言えば、庾月も写真を並べてから電話をくれたようで。
「留の名案のお陰だわ」
庾月の声が、涙声に聞こえた。
留もつられて涙がにじむ。
「一緒に叶えてくれたのは庾月だよ」
『ありがとう』と伝えれば、お互いに感極まって──電話越しに泣いて、笑った。
たわいのない会話を重ねて半年が過ぎて。更に数ヶ月が経ち、年が明け。そのころには、
「今度はお互いの方を向いて撮ってみようよ」
と留は言う。
すると、
「今年からは正面と、それぞれの方を向いた二枚を撮るのもいいわね」
弾んだ庾月の声が返ってきた。
花月と令舞生は、あっという間に二歳になり、色んなことに興味を持つようになっていた。
──夷吹よりも成長が早い気がする……。
夷吹は留が独占しすぎてしまったのか、それとも双子はいつもふたりでいるからこそか。
ただ、明確なことは、夷吹とは環境の差が明確ということ。
しかし、留は差をいいとも悪いとも、判断するのをやめた。
「ねぇ、おとーちゃん」
寝る準備をしていると、花月が何かを言いたそうに留を呼ぶ。
『ん~?』と聞けば、今度は令舞生が口を開いた。
「おかーちゃんとおねーたん、お名前何ていうのぉ?」
留は目を丸くした。
クロッカスの瞳は四つ、ジッと留を見つめている。
花月と令舞生のことも、庾月が城に戻ってから『花』と『舞』としか呼んでいない。
今の状況では『家族の前だけで本名で呼んでいい』と、留は統一ができないような気がしていて。
双子の娘たちが起きている間は、受話器ごしに庾月とも夷吹とも、正式な名では呼ばず『柚子』と『イブ』と呼んできたのに。
ふたりが寝ている間、庾月と話し込んでいるのを実は聞かれていたのかもしれない。
──この子たちなら……話しても、平気かな?




