【20】確かな繋がり
「も、もしもし?」
双子を起こしてはいけないと、留は咄嗟に受話器を上げる。すると──。
「あ! 留よね? わ! 繋がったわ!」
庾月の声がする。
「え? え!」
現実ではない気がして、留は頭が真っ白になった。
「ど、どうして?」
留が問うと、はしゃいでいた庾月の声がピタリと止んだ。
「うれしくないの?」
「いや、うれしいけど……」
「あら……寂しかったのは、私だけだったのね……」
「ち、違うよ! 寂しかった、すごく。すんごく!」
必死に言っていたら庾月の笑い声が聞こえ、留は急に恥ずかしくなる。
「話せると……思ってなかった、から……その、驚いてるだけで……」
こぼれ落ちた本音に、『うれしいわ』と庾月は返してくれた。続けて『祖父のお陰』とも。
どうやら、祖父が鴻嫗城の大臣に連絡を入れ、計らいをお願いしたらしい。
『あ』と言いそうになった。
今朝、祖父が遅れてきたのは、それだったのだろう。
──そういえば、じぃちゃんって……俺が庾月と付き合ってから、度々どっかに連絡してる感じだった……気が……。
「それでね、急遽この専用の線を引いてくれたの」
「で、でも……鳴ったタイミングが、すごくよかった気がするんだけど……」
「ふふ、それはね……留は留守番機能のボタンを、何度か押したんじゃないかしら?」
──ん?
思い返せば、庾月の言う通りだ。
「そうだね……明日の朝、確認する暇がないかもと、思って……」
「それよ。私の方で留が留守にしたか、解除したかがボタンの色でわかるの」
「え! そうなの?」
「ふふ、便利でしょ?」
『だから、私からかけるわね』と庾月が楽しそうに笑う。
「でも……庾月は、色々大変じゃない? その……先日、お母さんが亡くなったでしょ?」
ピタリと笑い声が止まった。
「だから、無理しなくても……」
「留と話せない、繋がれない。その方が無理だわ」
キッパリと庾月が押し切ってきた。
「この電話を今日受け取って、私……頑張れると思った。毎日声を聞けるなら、頑張ろうと思った。……昨日なんて、私……夷吹とふたりでワンワン泣いちゃってたのよ?」
浮かべた光景は、あまりにも昨日の留自身で──留は声を失う。
「だから、留が電話を繋げてくれるのを……今日すごく楽しみにしてたのよ。なのに、酷いわ。やっぱり私だけ寂しかったのね」
「ち、違うってば! その、俺も同じで……恥ずかしいけど、俺たちも昨日……たくさん泣いた……」
庾月が大きく息を吸った。
「ほんと?」
疑うような声が、かわいらしい。
「ほんと」
「まぁ!」
コロコロと庾月は笑い、とても幸せそうに言う。
「私たち、すごく仲良しなのね!」
他愛のない話しをして、すっかり遅くなってしまった。
子どもたちはもう寝ているから、今後はまだ起きているときに、優先的に変わって話そうとなった。
それから、次の日も、またその次の日も──庾月から電話がくるようになった。
いつからか留は仕事後の電話が楽しみになって──仕事中にホウッと『今日も話せる』と夢見心地になった。
たまに早い時間に終われば、離れて暮らす夷吹の話を聞き。
双子と受話器を変わり、姉妹と母娘が話して──最後に留に受話器が戻ってくる。
娘たちが眠ったあとの電話は、庾月とふたりで色々話してしまって──どうしても長くなってしまう。
どんなに短く切ろうと思っても、名残惜しくて受話器を置けない。
季節が巡れば、どうしても忙しい時期はやってきて。
仕事が遅く終わるのに、そういうときでも庾月は電話をくれて。庾月とじっくり話すだけの夜も増えて。
日に日に忙しさが落ち着けば、数秒だけでも夷吹の声を聞き、受話器を双子に受話器を託して──双子から再び受話器を受け取り、庾月の声を聞く。
子どもたちにまで家族と離れさせてしまったけれど、月日が過ぎて、双子でよかったと考えられるようになっていた。
年端もいかないふたりは、ふたりだからか自然と助け合っていて。
でも、寂しい思いをさせることになったのは、花月と令舞生にだけじゃないとジリジリ胸が痛むこともある。
夷吹も、姉妹から離してしまった。だから、できる限り双子との時間を電話で過ごしてくれたらいいと願う。
庾月が正式に鴻嫗城を継ぎ、約五ヶ月。夷吹が幼いながらに後継者と公表された。
「そういえば、柚子ちゃんって庾月様に似てるわねぇ?」
食堂で接客中に言われ、留はドキリとする。
「そうですか? でも、柚子が聞いたら喜ぶかな?」
と必死にごまかそうとしたら、
「あら、のろけさせちゃったわ」
何て返ってきたから、照れたと思われたらしい。
庾月の姿を何かで見る度に、留は庾月のきれいさに胸を打たれて。
同時に、『姫』になった夷吹の姿にも、届かない距離を感じている。
それでも、すっかり『姫』に戻った庾月を見れば、留はひとりでうれしくもなる。
庾月がふたりで買った指輪を、まだしてくれているから。それに、結婚した日に留がプレゼントした黒い宝石のイヤリングを、こっそりとつけてくれているから。
──やっぱり、俺の妻だ。
身に付ける物に確かな繋がりを得て、愛おしくもなる。
「おとー様」
受話器から聞こえた夷吹の声に『あ』と思いながらも、留はこれまで通りに接し、双子に受話器を渡す。
楽しそうに話すふたりを見守り、一周してきた受話器を受け取った。
庾月と少し話していると、いつの間にか双子が寝ていて、留はそっと布団をかける。
「夷吹はますます庾月に似てきたね」
「ふたりは、留に似た?」
「ん~……」
どこか似てるかと眺め、ふと気付く。
──そういえば庾月は……花月と令舞生に、生後半年のときから……会ってない。
留の前では歩く練習をしたり、物を認識したりし始めているが──。
──庾月の中では、ふたりともまだ生後半年のままなんだ……。
それは留も同じ。
夷吹が二歳半ほどで止まっている。
「そうだ、家族写真を撮ろう」




