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愛し生き別れた姫の名で転生し、思い出を君と一から紡ぐ  作者: 呂兎来 弥欷助
第二章:選んだ恋(全26話)

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【20】確かな繋がり

「も、もしもし?」


 双子を起こしてはいけないと、留《リュウ》は咄嗟に受話器を上げる。すると──。


「あ! 留《リュウ》よね? わ! 繋がったわ!」


 庾月《ユツキ》の声がする。


「え? え!」


 現実ではない気がして、留《リュウ》は頭が真っ白になった。


「ど、どうして?」


 留《リュウ》が問うと、はしゃいでいた庾月《ユツキ》の声がピタリと止んだ。


「うれしくないの?」

「いや、うれしいけど……」

「あら……寂しかったのは、私だけだったのね……」

「ち、違うよ! 寂しかった、すごく。すんごく!」


 必死に言っていたら庾月《ユツキ》の笑い声が聞こえ、留《リュウ》は急に恥ずかしくなる。


「話せると……思ってなかった、から……その、驚いてるだけで……」


 こぼれ落ちた本音に、『うれしいわ』と庾月《ユツキ》は返してくれた。続けて『祖父のお陰』とも。

 どうやら、祖父が鴻嫗《トキウ》城の大臣に連絡を入れ、計らいをお願いしたらしい。


『あ』と言いそうになった。

 今朝、祖父が遅れてきたのは、それだったのだろう。


 ──そういえば、じぃちゃんって……俺が庾月《ユツキ》と付き合ってから、度々どっかに連絡してる感じだった……気が……。


「それでね、急遽この専用の線を引いてくれたの」


「で、でも……鳴ったタイミングが、すごくよかった気がするんだけど……」


「ふふ、それはね……留《リュウ》は留守番機能のボタンを、何度か押したんじゃないかしら?」


 ──ん?


 思い返せば、庾月《ユツキ》の言う通りだ。


「そうだね……明日の朝、確認する暇がないかもと、思って……」

「それよ。私の方で留《リュウ》が留守にしたか、解除したかがボタンの色でわかるの」

「え! そうなの?」

「ふふ、便利でしょ?」


『だから、私からかけるわね』と庾月《ユツキ》が楽しそうに笑う。


「でも……庾月《ユツキ》は、色々大変じゃない? その……先日、お母さんが亡くなったでしょ?」


 ピタリと笑い声が止まった。


「だから、無理しなくても……」

「留《リュウ》と話せない、繋がれない。その方が無理だわ」


 キッパリと庾月《ユツキ》が押し切ってきた。


「この電話を今日受け取って、私……頑張れると思った。毎日声を聞けるなら、頑張ろうと思った。……昨日なんて、私……夷吹《イブキ》とふたりでワンワン泣いちゃってたのよ?」


 浮かべた光景は、あまりにも昨日の留《リュウ》自身で──留《リュウ》は声を失う。


「だから、留《リュウ》が電話を繋げてくれるのを……今日すごく楽しみにしてたのよ。なのに、酷いわ。やっぱり私だけ寂しかったのね」

「ち、違うってば! その、俺も同じで……恥ずかしいけど、俺たちも昨日……たくさん泣いた……」


 庾月《ユツキ》が大きく息を吸った。


「ほんと?」


 疑うような声が、かわいらしい。


「ほんと」

「まぁ!」


 コロコロと庾月《ユツキ》は笑い、とても幸せそうに言う。


「私たち、すごく仲良しなのね!」




 他愛のない話しをして、すっかり遅くなってしまった。


 子どもたちはもう寝ているから、今後はまだ起きているときに、優先的に変わって話そうとなった。




 それから、次の日も、またその次の日も──庾月《ユツキ》から電話がくるようになった。


 いつからか留《リュウ》は仕事後の電話が楽しみになって──仕事中にホウッと『今日も話せる』と夢見心地になった。




 たまに早い時間に終われば、離れて暮らす夷吹《イブキも》の話を聞き。

 双子と受話器を変わり、姉妹と母娘が話して──最後に留《リュウ》に受話器が戻ってくる。


 娘たちが眠ったあとの電話は、庾月《ユツキ》とふたりで色々話してしまって──どうしても長くなってしまう。


 どんなに短く切ろうと思っても、名残惜しくて受話器を置けない。




 季節が巡れば、どうしても忙しい時期はやってきて。


 仕事が遅く終わるのに、そういうときでも庾月《ユツキ》は電話をくれて。庾月《ユツキ》とじっくり話すだけの夜も増えて。


 日に日に忙しさが落ち着けば、数秒だけでも夷吹《イブキ》の声を聞き、受話器を双子に受話器を託して──双子から再び受話器を受け取り、庾月《ユツキ》の声を聞く。




 子どもたちにまで家族と離れさせてしまったけれど、月日が過ぎて、双子でよかったと考えられるようになっていた。


 年端もいかないふたりは、ふ(・)た(・)り(・)だからか自然と助け合っていて。


 でも、寂しい思いをさせることになったのは、花月《カヅキ》と令舞生《ヨブキ》にだけじゃないとジリジリ胸が痛むこともある。


 夷吹《イブキ》も、姉妹から離してしまった。だから、できる限り双子との時間を電話で過ごしてくれたらいいと願う。




 庾月《ユツキ》が正式に鴻嫗《トキウ》城を継ぎ、約五ヶ月。夷吹《イブキ》が幼いながらに後継者と公表された。


「そういえば、柚子ちゃんって庾月《ユツキ》様に似てるわねぇ?」


 食堂で接客中に言われ、留《リュウキ》はドキリとする。


「そうですか? でも、柚子が聞いたら喜ぶかな?」

 と必死にごまかそうとしたら、

「あら、のろけさせちゃったわ」

 何て返ってきたから、照れたと思われたらしい。




 庾月《ユツキ》の姿を何かで見る度に、留《リュウ》は庾月《ユツキ》のきれいさに胸を打たれて。

 同時に、『姫』になった夷吹《イブキ》の姿にも、届かない距離を感じている。


 それでも、すっかり『姫』に戻った庾月《ユツキ》を見れば、留《リュウ》はひとりでうれしくもなる。


 庾月《ユツキ》がふたりで買った指輪を、まだしてくれているから。それに、結婚した日に留《リュウ》がプレゼントした黒い宝石のイヤリングを、こっそりとつけてくれているから。


 ──やっぱり、俺の妻だ。

 身に付ける物に確かな繋がりを得て、愛おしくもなる。




「おとー様」

 受話器から聞こえた夷吹《イブキ》の声に『あ』と思いながらも、留《リュウ》はこれまで通りに接し、双子に受話器を渡す。


 楽しそうに話すふたりを見守り、一周してきた受話器を受け取った。


 庾月《ユツキ》と少し話していると、いつの間にか双子が寝ていて、留《リュウ》はそっと布団をかける。


「夷吹《イブキ》はますます庾月《ユツキ》に似てきたね」

「ふたりは、留《リュウ》に似た?」

「ん~……」


 どこか似てるかと眺め、ふと気付く。


 ──そういえば庾月《ユツキ》は……花月《カヅキ》と令舞生《ヨブキ》に、生後半年のときから……会ってない。


 留《リュウ》の前では歩く練習をしたり、物を認識したりし始めているが──。


 ──庾月《ユツキ》の中では、ふたりともま(・)だ(・)生(・)後(・)半(・)年(・)の(・)ま(・)ま(・)なんだ……。


 それは留《リュウ》も同じ。

 夷吹《イブキ》が二歳半ほどで止まっている。


「そうだ、家族写真を撮ろう」

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