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愛した姫の名で生まれ変わり、前世の誓いを果たす ~思い出すは、君の名~  作者: 呂兎来 弥欷助
第二章:選んだ恋(全26話)

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【19】心の隅に残るもの

 異変だった。


 仕事が終わって、自室に戻って──花月カヅキ令舞生ヨブキが珍しく泣きわめいた。


 赤ちゃんは泣くのが普通で、当たり前で、これまでもずっとそうで──だからリュウはすぐさま笑顔を向けあやし始めた──のに。


 一向にどちらも泣き止まなくて。


 泣き声がどんどん脳に貼り付いてきて。


 庾月ユツキを、求めているように感じてきてしまって──。


「俺が……おと~ちゃんが、いるでしょ?」


 ポツリと、漏れてしまった。


「おか~ちゃんに、会いたいの? 俺だけじゃ、駄目なの?」


 弱音がボロボロとこぼれてくる。

 泣き止まないふたりに、ついには涙まで落ちてしまって──。


「俺だって……俺だって、庾月ユツキに、会い、たい……」


 ボロボロと落ちた涙が、止まらなくなって。ワンワンと一緒になって泣いていて。




 子どもに戻ったかのように、声を上げて泣いていた。




 息がしにくくなって。

 頬を拭った手は、涙でぐしゃぐしゃになっていて。


 しゃくりあげている。


 こんな風に泣いたのは、いつ振りか。

 いつまでも止まらない涙と泣き声に、リュウはプチンと何かが切れた。


 ただ、次の瞬間には双子に意識がいって──花月カヅキ令舞生ヨブキを抱き上げ、走り出す。




「じ~ぃちゃぁ~ん!」


 時間も何もお構いなしに叫ぶ。


 祖父の部屋がガチャリと開いて、糸目の祖父の目がバッチリと見開かれた。


「おう、入れ!」


 祖父はリュウを見るなり招き入れてくれた。


 それでも涙は止まらず、双子を抱え込んでうぐうぐと泣き声を堪え座っていると、コトリと何かが聞こえてリュウは視線を上げる。


 湯飲みだ。

 あたたかそうに、ほんわりとお茶が湯気をあげている。


「おう、リュウ。ちょっとの間、花と舞を抱かせてくれや」


 少しぼんやりしたからか、祖父から手を差し伸べられた。


「うん……」


 双子を預けようとすると、代わりにリュウの側にはティッシュが置かれる。そして、双子を手放したリュウは、今更気付いたように鼻をかむ。


 双子の泣き声が収まってきて、徐々にリュウの涙が止まり、呼吸がしやすくなってきた。


 ──しっかりしなきゃ……。


 庾月ユツキが残していってくれたのだから。

 大事な娘たちを、託されているのだから。


 ──しっかりしろ!


 父なのだから。


 ──親が不安定になったら、子どもたちが不安がるのは……当たり前だ。


 またポツンポツリと落ちる涙をギュッと拭う。顔を上げれば、祖父が花月カヅキ令舞生ヨブキと笑い合っていて。


 ──じぃちゃんは、さすがだな……。


 尊敬の眼差しを送る。


「じぃちゃん、ありがとう。もう、大丈夫だよ」


 声をかけると祖父は、『ん?』と顔を向け、

「とりあえず、茶を飲め」

 と気遣ってくれた。


 一口飲むと、すっかり冷めていて。


 ──結構泣いてたんだな……。


 胸にぽっかり空いた大きな空洞をしっかり自覚したとき、

「そりゃ、ふたり面倒みるんじゃ、大変だろうよ」

 祖父がポツリと言った。


「こうやって、いつだって頼ってきて……構わねぇんだからな」




 翌朝、リュウは目を覚まして驚く。

 あのまま祖父の部屋で寝てしまったらしい。


 かかっていた布団を懐かしいと触れて、すっかり子どものころに戻った気になる。


 祖父がいる。

 その事実に、安心をした。


 けれど、次の瞬間にはきちんと『今』に戻って、双子に意識が向く。


「おう、起きたか」

「じぃちゃん」


 祖父はすっかり身支度を済ませていて、少しの気まずさから横目で時計を見る。


「ごめん。いつもより寝た……ねぇ……」

「構わねぇよ。ほら、支度しな」

「うん」


 パタパタと顔を洗い、髪を整え戻ってくれば──双子の身支度もほとんど終わっている。

 手助けに感謝して、双子とちょっとじゃれて、『仕上げ』と言わんばかりに前と後ろでふたりを抱える。


 リュウが記帳に向かおうとすると、

「悪いが、ちょっとやんなきゃなんねぇことがあるから……しばらく任せるわ」

 唐突に祖父が言ってきて。


 パチクリとしたまま、

「わかった……」

 と返し記帳に向かう。




 カウンター作業を終えても祖父は来ず。だからと言って待っているわけにもいかないと、リュウはパタパタと食堂へ向かった。


 一直線にステージに向かい、

「今日は早くからでごめんね。ふたりで仲良く遊んでるんだよ」

 双子をなでて、駆け足で掃除をし、仕込みを行う。


 ──キッチンからだと、花月カヅキ令舞生ヨブキが見えにくいんだよな……。


 意識が散乱しそうになるのをグッと堪えて、なるべく集中──と切り替えようとしても、生後7ヶ月弱では気が気でもなく。


 ただ、わかってはいる。

 ふたりを囲っている範囲に段差はない。何か凶器になるような小物もない。クッション性のある物が敷かれていて、他は布団があるくらいだ。


 何度も身を屈めて見て、様子の見える範囲に行って──としていたら、

「おうおう、悪かったな!」

 と、祖父がやってきた。


 スッと滑らかに空気が体に入ってきて、リュウは身が軽くなる。


 思うほど準備ができていない旨を謝ると、祖父は『お互い様だ』と言ってくれた。


 こうしているうちに常連客が顔を出し、リュウは接客に入る。


「できるだけ見てるから、頑張んなよ」


 激励をもらい、リュウは感謝を返す。


 そんなやりとりが何回か繰り返され、リュウは心の隅に残っていた昨日の痛みを『何だったのか』と流せた。




 夕食の忙しさが過ぎ、明日の用意をリュウがしようとしたとき、

「今日はもう上がっていいぞ」

 祖父は『朝の代わりだ』と付け加えてきた。


 そう言われてしまうとリュウは、気遣いを受け取るしかなくなり、

「じゃあ……言葉に甘える」

 と双子に駆け寄ろうとしたところで──。


「ああ! これを持ってけ!」


 祖父の声に振り向くと、紙袋を渡された。


「え?」

「ああ、部屋に戻ってから開けてみな」


 そそくさと祖父がキッチンへ戻っていき──リュウは従うことにした。




 双子を抱っこ紐で固定し、自室へ戻る。そのままふたりを寝かしつけ──祖父から受け取った紙袋に視線を投げた。


 おもむろに覗くと──利便性を第一にと、店内に導入していた物が入っていた。


 リュウには疑問符が浮かぶ。


 子機付属の電話──をリュウは紙袋から出し、見つめて考え込む。


 ──考えても仕方ない、か……。


 ふぅと息を吐き、『まさか部屋に設置するとは』と配線を位置を見ながら設置場所を検討し始める。


 ベッドの側に配線がある。手を伸ばして刺し、庾月ユツキがいなくなって広く感じていた枕元に、子機も電話本体も置いた。


 入っていた説明書を見れば、

『留守のときは必ず留守番機能のボタンを押すこと。戻ったら必ず留守番機能を解除すること』

 と、書かれている。


 リュウは首を傾げる。

 けれど、基本操作なら覚えなくてはと、何度かボタンを押し色を確認──していると、控えめなコールが鳴った。

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