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愛し生き別れた姫の名で転生し、思い出を君と一から紡ぐ  作者: 呂兎来 弥欷助
第二章:選んだ恋(全26話)

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【18】約束通り

「ねぇ?」

 庾月《ユツキ》のかわいさに、口元をゆるめたままで言えば、

「そうよ……」

 と庾月《ユツキ》が視線を逸らしたから、

「大好きだよ」

 囁いて、唇を頬に落とす。


 離れると吸い寄ってきた庾月《ユツキ》の瞳に捉えられて、頬に触れ──やわらかい髪が留《リュウ》の手に絡まり、愛しさが降り重なってきた。


 愛おしいクロッカスの髪に口づけをして、スッと頬を寄せる。庾月《ユツキ》の熱を感じ首元の脈打つリズムに安堵する。


 ゆったり、ゆったりと愛に浸っていく──。


 愛情表現で、庾月《ユツキ》とは少しのズレを感じてはいる。

 育ってきた環境のせいかもしれないし、男女の差かもしれないし、単純に個人の差かもしれない。


 でも、それを妥協ではなくて、埋め合うのが夫婦なんだろうなと──何となく留《リュウ》は思うようになった。


 片方だけが満たされるとか、満たされないとか、そうではなくて。

 互いに満たし合う方法を探って、幸せになっていく努力をしていくものなんだろうなと。


 ──俺って、変わってるのかもしれない……。


 互いの瞳に互いしか映っていないと断言できる、五感のすべてを使って感情を交し合っている最中で度々、妙に冷静になってしまう。


 庾月《ユツキ》が大好きだし、愛しているし、とてもかわいいと思うのに。


 愛情の確認は互いにできたと、満足して終わりにしてしまいそうになる。

 心地よい安らぎも、止められないほどの高鳴りも、どちらも感じているのに。


「留《リュウ》?」

 そんなときに限って庾月《ユツキ》が不安そうに呼ぶから、『大事だよ』と伝え続ける。


 留《リュウ》自身も、庾月《ユツキ》に触れなければ埋められないほどの想いを抱えたことがあるから。


 義務──とはずい分違う。


 確認作業──と言えば愛がない気がする。


 特別だって、理屈じゃなくわかりたい──そんな感覚に近い。




 目が覚めた留《リュウ》は、庾月《ユツキ》の寝顔を見て妙にドキドキとして──思わずチュッと口づけすれば、パチリと庾月《ユツキ》は目を開けた。


「おはよ」


 まるで起きていたかのような庾月《ユツキ》に、留《リュウ》は照れる。


「おはよう」


 すると庾月《ユツキ》はクスリと笑って、手招きをした。


 ──何だろう?


 留《リュウ》が耳を近づけると、今度は庾月《ユツキ》からしてきて。留《リュウ》は全身で照れてしまった。


「ふふふ、私が起きてたと思ったんでしょ? 違うわよ。留《リュウ》は私の王子様だから目が覚めたのよ?」


 ──絶対かわいい顔してるなぁ……。


 想いとは裏腹に庾月《ユツキ》の顔は見られず、降参ですと言うようにくっつく。


「前から庾月《ユツキ》は俺のこと、そう言うよね」

「だって、そうなんですもの」

「俺は王子様じゃないよ?」

「私にとっては唯一無二の王子様よ?」


 とっておきの特別枠はうれしい。でも恥ずかしさは重なりすぎて、どうしようもできなくなってしまった。


「私の大事な、特別な人」

「それは、俺も同じだよ……」


 瞬時、頬にキスをされた。

 反射的に体を離してしまったら、庾月《ユツキ》がふふふと笑い、

「残念だけど、もう朝ね」

 と胸元を隠す。


「うん」


 留《リュウ》はお陰で少し切り替えができて、身支度を済ませる。


 子どもたちが起きればそれぞれに構い、双子を前後におぶった。


 夷吹《イブキ》と手を繋ぐ庾月《ユツキ》と手を繋いで、今日もまた、一日が始まる──そう、思っていたのに。




「柚子!」


 慌てた様子の祖父の言葉で、一日が変わってしまった。


「母ちゃんが危篤になったって、さっき連絡があってよ!」


 ドクンドクンと嘘みたいに体が揺れそうで。


「一時間後に専用の船が……」


 途中から祖父の声が聞こえなくなって──。


 ──こんな日が、いつか来ると……わかっていたのに……。


 庾月《ユツキ》の顔を見て、グッと意識を入れ直す。


「戻ろう。俺も一緒に、用意するから」


 力の抜けた庾月《ユツキ》の手をギュッと握り、来た道を戻る。




 長い別れの始まりだ。


 終わりは──どうしたらやってくるのか、わからない。




 結婚をふたりで決めたときの約束通り、庾月《ユツキ》は長女を連れて最(・)高(・)位(・)の(・)姫(・)に戻っていった。


「必ず会おう」


「ずっと『家族』でいよう」


「愛している」


 何度も何度も、言い合った気がする。




 風が吹いている。

 町中よりも時折強い風は、港風だ。


 抱っこ紐から花月《カヅキ》を外し、庾月《ユツキ》に抱かせる。


 その間に留《リュウ》は令舞生《ヨブキ》を抱っこひもから外して──花月《カヅキ》を受取り、令舞生《ヨブキ》を渡す。


 花月《カヅキ》をまた抱っこ紐で支え終わったころ、庾月《ユツキ》から令舞生《ヨブキ》を受取り、同じ動作を繰り返す。


 夷吹《イブキ》の頭をなでると、クロッカス髪の毛はしっかりとした髪の毛が多くなっていて──そんな折、夷吹《イブキ》がキュッと留《リュウ》の服を握った。


 ジッと見てくるクロッカスの大きな瞳に、気が取られる。


「柚子似だね」

「あら、目の形は留《リュウ》にそっくりよ?」


 庾月《ユツキ》の視点に、思わず笑みがこぼれた。


「そうかなぁ?」

「そうよ」


 面影があると言われたのが妙にうれしくて、夷吹《イブキ》のちいさな手を頬に寄せる。


「俺が父ちゃんだからね」

 キュッと服をつかむ手を握った瞬間──。


 ──忘れないでいてほしい。


 浮かんできた想いに目元がじんわりとして、留《リュウ》は咄嗟に思考を止める。


 思わず庾月《ユツキ》を抱き寄せていた。


「愛してる」


 こうなると知っていたんだから、夷吹《イブキ》をもっと庾月《ユツキ》に任せていればよかった。


「花と舞を、よく見てあげて」


 こうなると知っていたのに、結婚する前はこんな場面を想像できなかった。


「ずっと『家族』でいよう」


 こうなると知っていたのに、姉妹を一緒にいさせられるよう、話し合えなかった。


「必ず会おう」




 大きく息を吸って、留《リュウ》は目を覚ました。


 ボロボロを涙が落ちて、見送ったときの感情があのときよりも強く残っている。

 体を起こしてみても感情は去らず、一週間経ってなぜこんな再現をされたのかもわからない。


 双子用のベッドでは、ふたりがまだスヤスヤと眠っていて──留《リュウ》は顔を洗いにいく。


 バシャバシャと流せば感情も一緒に流れていってくれて、ふと、昨日の報道が頭を過った。


 双子の名が公表されたあと、庾月《ユツキ》のコメントが流れた。


『双子の娘たちも、夫と同じように一(・)般(・)の(・)方(・)ですから……ふたりのことも、そっとしておいてください』


 庾月《ユツキ》の発言は花月《カヅキ》のことも、令舞生《ヨブキ》のことも──留《リュウ》のことも守るためだ。


 それなのに──明確な一線を引かれてしまったように感じてしまった。




 サッと着替えて、髪を寝癖がないよう整える。


 ふたりの着替えを準備して、どっちから起きるかなと声をかける。


「おはよう」


 すると、花月《カヅキ》も令舞生《ヨブキ》も同じように手足を動かして──同時に目を覚ました。


 留《リュウ》はハハッと笑う。

 両手で同じようにふたりに触れて──でも、着替えの順番も、抱っこをする順番も決まっている。


「さて、花月《カヅキ》から準備しようね」




 留《リュウ》は花月《カヅキ》をおんぶして、令舞生《ヨブキ》を抱っこする。


 あれから祖父が食堂のステージを子どもの遊び場に変えてくれて、

「ここならたくさんの目があるからな」

『常連の目はた~くさん使え』と豪快に笑い飛ばしてくれたから、留《リュウ》は忙しさのピークには手を離すようになった。


 ──じぃちゃんは俺のときも、母ちゃんを育てたときも、きっとこうしてたんだろうな……。


 これまで見守ってくれていたのは、やっぱり愛情だったんだろう。




 食堂に双子がいれば、留《リュウ》はいつでも目が届く。声も聞こえるし、寂しいとは感じない。


「柚子ちゃんとイブはど~した?」


 声をかけてくれる客人は、心配してくれているとわかるから、

「柚子のお母さんが体調悪くて……イブも連れて、元気出してもらえればって行っているんですよ」

 と、嘘ではない範囲の言葉を返す。


「早く帰ってくるといいなぁ!」

「ええ、本当に」


 みんながやさしい。けれど、少し、そのやさしさが痛い。

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