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愛した姫の名で生まれ変わり、前世の誓いを果たす ~思い出すは、君の名~  作者: 呂兎来 弥欷助
第二章:選んだ恋(全26話)

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【17】駆け足の幸せ

「おめでとう」


 食堂から数歩離れた場所で、馨民カミンが唐突に祝いの言葉を言い──リュウの思考は瞬時停止する。


 ──何かあったかな?


 フル稼働で脳内を探る。

 ただ、馨民カミンにはフリーズしていたように感じたのか、ハッとしたように見えた。


「柚子ちゃん……今回はつわりがひどくないみたいね」


 そこまで言われて、リュウは祝われた意味を理解する。


 グ~ッと体が酸素を取り込んで、体が膨らむのと同調するように喜びが湧いてきた。

 でも言葉は浮かばず──少し体が震えた。


「あ、ありがとうございます……」

 何とか返答する。


 深呼吸のように長く息を吸ったのに、過呼吸みたいに間隔が短くなっていて、うまく呼吸ができない。


「また悠穂ユオちゃんと交互にくるから……大船に乗ったつもりでいてね」


 気遣いに感謝しつつ、どうにか返答をする。

 確かに、馨民カミン悠穂ユオがいてくれるなら、これ以上の安心はないだろう。




 けれど、しばらくして──庾月ユツキのつわりが、夷吹イブキのときより重くなって。


 リュウが心配していたら、安定期に入るころ馨民カミンから血の気の引く報告があった。


「双子かもしれない」


 うれしいのに、正反対の感情も湧いてきて。あれもこれもと立て続けにガヤガヤと心が騒ぎ立ててきた。


「そういえば、柚子ちゃんのお父さんって、双子だったのよね?」


 リュウは横になっている庾月ユツキの手を、自然とキュッと握っていた。


「俺の父も……というか、柚子のお父さんと、双子だったみたいです……」


『まぁ!』と馨民カミンが驚く。


「そういえば、双子って孫に出現しやすいって聞いたことがあるわ」

 青白い顔をした庾月ユツキが言う。


 ──俺たちの親がどっちも双子なら、可能性は高かったのかもしれない。


 庾月ユツキが妊娠したらまた心配すると思っていたのに、双子と想定したことがなかった。

 手が冷えていく感覚に、庾月ユツキの手を離そうとした直後──。


「楽しみね。双子もきっと、もっとかわいいわ」


 馨民カミンか満面の笑みで言ってくれたから、リュウは改めて『柚子をお願いします』と頭を下げる。


 ポンポンと、頭に何かが触れた。


 リュウが頭を上げると、夷吹イブキだった。


 プツンと緊張の糸が切れて──リュウが思わず笑うと、続けて庾月ユツキも朗らかに笑った。




 ほどなくして庾月ユツキのつわりが始まり、リュウは部屋で安静を勧める。

 だが、

リュウの近くにいたい」

 と庾月ユツキは言い──リュウ夷吹イブキを抱える庾月ユツキを更に抱え、食堂裏の部屋へと連れていくのが日課になった。




 そのうち夷吹イブキが『と~』や『あ~』と言い始め、

「そろそろ話すかなぁ?」

 とリュウ庾月ユツキと微笑む。


 夷吹イブキに言葉を教え始め、庾月ユツキのつわりは徐々に軽くなっていった。


 ──他に気が向くのがよかったのかな?


 リュウは少し安心しつつも様子をみて過ごす。幸いなことに、安定期を迎えるころには、庾月ユツキの具合も改善していた。




 春真っ只中には、夷吹イブキが話せるようになって──リュウの目の前には、四つの大好きな色彩の瞳の花が咲いた。


 泣きそうになるほど感動して、何より母子ともに無事で安心して。

 リュウ庾月ユツキに微笑む。


「ありがとう。すごくうれしい」




 双子を花月カヅキ令舞生ヨブキと名付け、呼び名は『ハナ』と『マイ』に決めた。


 抱っこ紐は将来的にと前後にひとりずつの物も用意したが、ふたりを抱っこできる新生児用の物を真っ先に手にする。


 いそいそと身に付け、

「やだ、これすんごく幸せな状態だね」

 リュウの頬が急激にゆるんだ。


 仕事が始まってもリュウの頬はゆるみっぱなしで、客に双子を紹介すれば、

「蝶よ花よと、育てようと思って」

 と、もっともらしい名の由来を添える。


 本当の由来は、本人たちにいつか伝えればいいと、胸に秘めて。




 産後の庾月ユツキは、夷吹イブキと食堂裏の部屋で過ごしている。


 昼になる前にリュウは顔を出す。花月カヅキ令舞生ヨブキを交互に託し、夷吹イブキと少し遊ぶ。


 昼の忙しい時間に子どもたちは昼寝をしてくれるようで、

「私も一緒にちょっと寝ちゃうの」

 と庾月ユツキも体を休めてくれているらしい。




 忙しさが過ぎたころ、リュウは祖父と昼食を軽く食べ、

「様子を見てくるね」

 と庾月ユツキたちに顔を出す。


「おと~ちゃん!」


 夷吹イブキが呼んでくれればリュウの顔は一気にゆるみ、ぎゅ~っと抱き締めて、頭をなで、頬をふにふにする。


「ふふふっ」

 夷吹イブキが同じようにリュウの頬をつまむから、すぐには離れがたくなる。


 ただ、そこは仕事中とリュウは多少割り切り、

「よろしくね」

 と庾月ユツキに託す。


「さて、またと~ちゃんとこにおいで」


 花月カヅキ令舞生ヨブキを片方ずつ抱っこ紐で固定して、

「じゃあ、またね」

 手を振れば、庾月ユツキ夷吹イブキの手を振ってくれる。




 そうして、また忙しくなる前に顔を出し──昼と同じように庾月ユツキに子どもたちを託して仕事に戻り。

 忙しさが過ぎるころには子どもたちが寝ているとわかっていても、一度顔を出す。




 そんな毎日が過ぎていったある日の夜。

 自室に庾月ユツキと子どもたちを連れて戻り、『ふぅ』と一息ついた。すると、庾月ユツキがポソリと呟く。


リュウの子なんだから、ひとりくらい……リュウの色だったらよかったのに……」

「そうかな? 俺は自分の子がクロッカスの色を持っているのは、誇らしいよ」


 リュウが幸せを噛み締めるように言うと、庾月ユツキは一瞬目を大きくした気がした。


 リュウには違和感で、

「ん?」

 と首を傾げる。


「あ、ううん……。リュウがそう思ってくれているなら、いいわ」


 ふと、庾月ユツキは子どもたちのベッドに顔を向けた。


「人数が増えたから……狭くなってしまってない?」


 心配そうに言われ、リュウは部屋を見渡す。


 ──確かに……。


 元々ひとり用の部屋。庾月ユツキと同じ部屋で過ごすようになって夷吹イブキが生まれても、部屋を変えようと提案してこなかった。


 でも、明確な理由がリュウの中にはあって。今もそれが変わらないかと、リュウは自身に問いかける。


 ──俺……今の状態が嫌、かなぁ?


 思わず考え込みそうになり、リュウはふふっと笑う。


庾月ユツキとも子どもたちとも近い……今の状況が、俺好きかも」


 よくわからないが、すごく安心する。それに、すごく心が満たされていて──こんな状況が、ずっと続けばいいと奥底で願っている。


 いつになく強く感情が走ってきて、リュウは咄嗟にまた笑う。


「ああ。でも、もし庾月ユツキが広い部屋がいいって言うなら……」

 キュッと庾月ユツキがくっついてきた。


「私も。リュウにすぐこうできる距離にいたい」


 呼吸が一回分止まった気がした。

 息を大きく吸って、リュウ庾月ユツキをふんわりと抱き締める。


「同じだ。うれしいな」


 もぞりと胸元で庾月ユツキが動いた。

 リュウが少し距離をとって様子をうかがうと、庾月ユツキが微笑んだ。


「すごく安心するわ」




 馨民カミン悠穂ユオのどちらかが定期的に検診で来てくれて、半年。


 庾月ユツキは順調に回復し、子どもたちも順調に育っていると聞いてリュウが安心した──夜のこと。


「もう……半年経つんだけど」

 不満そうな庾月ユツキの声に、リュウはドキリとする。


 ベッドの上に座った庾月ユツキのとなりに座るや否や、不服を言われたものの──。


 ──むうっとする庾月ユツキもかわいらしい。

 なんて、見とれていたら。


「『まだいいんじゃない?』って言いそう」


 痛いところを突かれ、リュウはつい視線を逸らす。


 子どもたちがスヤスヤと眠っているのを見ても、意識は庾月ユツキにある。

 しかも、いくらリュウが視線を戻さなくても、庾月ユツキは視線を離なさそうで。


 耐えられなくなってリュウは『あ~……』と、場を繋ぐような声が出る。


 ──困った……。


 返す言葉がない。

 そう思う一方で、もうひとりの自分が囁いた気がした。


 ──俺って……贅沢者じゃない?


 はたと思考が止まる。


「ねぇ、俺って贅沢者……だねぇ?」

 言っている途中で照れて、笑ってしまった。


 いけないと庾月ユツキを見てみれば、きょとんとしていて。目が合えば、耳まで赤くなりそうに見えた。


「そっ……そうよ! 女の子に、毎回こんなこと……言わせるなんて」


 目を伏せて口まで歪ませるから、リュウの心はガッシリと捕まれてしまった。


「そうだね。こんなことばっかり、大事な子に言わせてちゃいけない」


 リュウが片手をベッドについて近づくと、庾月ユツキがゆっくりと視線を上げた。

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