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愛した姫の名で生まれ変わり、前世の誓いを果たす ~思い出すは、君の名~  作者: 呂兎来 弥欷助
第二章:選んだ恋(全26話)

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【13】互いの温度

 戸惑う庾月ユツキをよそに、リュウは起き上がって上着を脱ぐ。一枚、二枚と次々に。


 全部脱ぎ終わって庾月ユツキを見れば、顔を赤くしながらもリュウを一直線に見ていて。

 リュウはにっこりと笑って、庾月ユツキの上着を今度はつかむ。


 ポイポイとあちこちにモヤモヤと一緒に服を投げ、庾月ユツキも同じ状態にした。

 リュウは気持ちがどこかスッキリとして──再び庾月ユツキをキュッと抱き締める。


「ほら、こうしていればお互いの体温を感じられる。俺が熱いから寒くはないだろうけど……寒くなったら、また考えよう」


 涙が止まった庾月ユツキの目元を、やさしくなぞる。


庾月ユツキが安心するように、俺ができることはしていくから」


 ホウッとしていた庾月ユツキが息を呑んだ。そして、『じゃあ……』と一度視線を目を伏せて、リュウをまたジッと見つめる。


リュウの、髪の毛がほしい」


 庾月ユツキが唐突なことを言って、リュウは思考が一次停止した。


「今、このまま……永遠に会えなくなっても、大丈夫なように」


 少し震える庾月ユツキの声は、リュウの思考を動かす。


 ──そういえば、色に意味を込めたのは……俺だった。


 結婚する日に、庾月ユツキの誕生日だからとプレゼントしたイヤリング。

 いつか離れるときが来ても、忘れないでほしいと──リュウは自身の色のイヤリングを選んだ。


 その黒いイヤリングを見て、『リュウの色だわ』と庾月ユツキが気付いてくれて。その上で身に付けてくれたことが、とてもうれしかった。


「うん。……いいよ」


 リュウはスルリとベッドから降りてハサミを取り、庾月ユツキに渡す。


 庾月ユツキに背を向けて座り、

「どこを切ってもいいよ」

 と任せる。


 根元から切られる感覚が、何度かした。


 リュウの髪は庾月ユツキのように長くはないから、ある程度の長さにするには根元から切るしかない。


 庾月ユツキは手間を惜しまず、不自然にならないよう数本ずつ一ヶ所から切っているようだった。


「瓶に入れて大切にするわ」


 うれしそうな声が聞こえて、リュウは振り返る。


「俺も」


 ハサミをちょうだいと手で催促する。


「俺も、庾月ユツキの髪がほしい」


 庾月ユツキが恥ずかしそうに笑い、ハサミを渡してくれた。


「うれしい」


 今度は庾月ユツキが背を向ける。


 どう切ろうかと迷う。

 サラサラと大好きな髪に触れる。


 庾月ユツキが父と同じクロッカスの色を持っていたから、出会ったときは父を鮮明に思い出した。


 ずっと、憧れの色だった。

 でも、今は違う。


 愛おしい人の色になった。


 ──俺も、切ったところが目立たないように切りたいな……。


 ていねいに髪をわけて、奥の方から数本を切る。


 庾月ユツキの髪の毛は長いから、それだけで庾月ユツキが切ったリュウの髪の毛と同じくらいの量になった。


 大事に髪の毛を持ちながらハサミを置きにいくと、

「もういいの?」

 と庾月ユツキが言う。


「うん」


 ソロソロとベッドに戻り、庾月ユツキに切った髪の毛を見せる。

 庾月ユツキも同様に手を並べてきた。


 互いに切った髪を見て、なぜだか妙に照れてしまった。


「俺も瓶に入れる。それで、もし……もう会えなくなっても……今度は俺が、庾月ユツキを見付けるよ」


「私もきっと貴男だって、わかるわ」


「そうだね、きっと」


「また、必ず貴男に巡り会えるわね」




 抱き締め合って、ウトウトして──さっきは妙な会話をしたと思えてきた。


 ずっとずっと昔に、同じような約束をした気がする。でも、違うような気もするし、そもそも庾月ユツキとは初めての約束だった気もする。


 ──あれは……何だったっけ?


 思い出せない。


 ただ、ずっとずっと昔にした約束は、叶っている気がした。




 翌朝起きると、裸だと驚く。一気に目が覚めたからか、昨夜の一連のことを嵐のようにリュウは思い出した。


 ──そういえば、切った髪の毛は……見せ合ったあと机の上に置いたはず……。


 遠目で髪の毛を置いた場所を見ていたら、庾月ユツキがうっすら目を覚ました。


 頬をなでて、『おはよう』と耳元で言う。

 パッと庾月ユツキの目が開いた。


「ねぇ、見てよ」


 リュウは笑いながら部屋をグルッと指をさす。


 見渡した庾月ユツキは『わぁ』と息を吸って、楽しそうに声を出し笑い始めた。


 室内はリュウが昨夜、無造作に投げた服で散乱していた。




 数ヶ月が更に経ち、無事に娘が産まれる。


 リュウ庾月ユツキの無事も確認して、ようやく心から安堵し、

「よかった……」

 と、その場に座り込むほど脱力した。




 馨民カミン悠穂ユオは、庾月ユツキの出産予定日が近づいてから、ずっとふたりともいてくれた。


 リュウはふたりの指導を感謝しながらよく聞いて、

「ありがとうございます」

 と何度も頭を垂れて、ふたりを見送る。




 庾月ユツキが抱く赤ん坊は、よく泣いたあとぐっすりと寝ていて。枕元に簡易ベッドを作って、そっと寝かせた。


 ──初めてガラスを持ったときの感覚に……似てる……。


 かわいいというより、まだ触れていけないような、そんな怖さを感じた。ちいさくて、すぐに壊れてしまいそうで。


 庾月ユツキを見ると、愛おしそうに赤ん坊を眺めていて──庾月ユツキにとっては体の一部のような感覚なんだろう。


「女性は出産すると体も変わるのに……どうして男は変われないんだろうね」


 庾月ユツキの手を取り、両手を温める。


 庾月ユツキの体は、しばらく産後のケアが必要だと医師から指導を受けた。マッサージをして血流をよくすると産後のダメージが回復しやすくなるらしい。


「俺の子が生まれたんだから、俺も変われたらいいのに」


 少し冷えた庾月ユツキの手を、リュウはやさしくもみほぐしていく。


 約十ヶ月間、庾月ユツキの体は変わってばかりで、負担も大きかったはず。ポツリと呟いたら、思いがけなくまたポツリと口から出た。


「ちょっと……悔しいよ」

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