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愛した姫の名で生まれ変わり、前世の誓いを果たす ~思い出すは、君の名~  作者: 呂兎来 弥欷助
第二章:選んだ恋(全26話)

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【12】言葉の深意

 それこそ、結婚するときには、庾月ユツキには後継者が必須とわかっていたことだ。




 翌日もリュウは何かにつけて庾月ユツキの部屋に顔を出す。


 食事はもとより、飲み物の不足がないかや、コップの交換──などと言いながら、必ず庾月ユツキに一声をかけていく。


 庾月ユツキの返答が、

「大丈夫」

 から、

「ありがとう」

 に変わり、昼過ぎにはゆったりと眠っていた。


 時間の経過とともに、庾月ユツキが安心しリラックスしていると伝わってきて、リュウも安心する。


「よかった」


 医師のとなりで眠る庾月ユツキの寝顔に、リュウは愛しさが募ってきた。

 つい庾月ユツキの頬に触れて、そのまま頭をなで始める。


 庾月ユツキがムニャムニャと何かを言って、ふふっと笑った。


 ──ああ、いつもの庾月ユツキだな……。


 仕事で時折、克主ナリス研究所に行っていた庾月ユツキ

 馨民カミン悠穂ユオとは、リュウと会う前からの知り合いだったのだろう。


 ──やっぱり、鴻嫗トキウ城から医師の手配をしてもらえて……よかった。


馨民カミンさん、ありがとうございます」


 リュウが言うと、馨民カミンはなぜか一瞬目を大きく見開いた。

 それにリュウのまばたきの回数が増える。


 すると馨民カミンは、

「あ、ううん。私は何も……」

 と言うなり、『あはは』とごまかすように笑った。そして──。


リュウくんって、地声は低いのね」


 想定外な言葉がきて、リュウは頭が真っ白になった。けれど、時差で言葉の理解がやってきて。

『ん?』と首を傾げたが、次の瞬間『あ』と気が抜けたと気付く。


「あ……ああ、あの、すみません……」


 人前では高い声で話そうと意識しているのに、庾月ユツキといると注意を払えなくなってしまうようだ。


 ──やっちゃった……。


 地声の低さを気にしているのに──と反省していたら、

「柚子ちゃんがリュウくんにぞっこんな理由が、ちょっとわかった気がするわ」

 なんて言われたから、リュウはまた『ん?』と首を傾げてしまった。


 ただ、庾月ユツキが医師たちに心を開いている理由は、リュウにも何となくわかった。


 庾月ユツキは割と何でも相手に伝える方だ。

 馨民カミンとも、恐らく悠穂ユオとも、ざっくばらんに話せるのだろう。


 柚子としてアヤにいる庾月ユツキを見てきた。多分、庾月ユツキはそういう人たちといられる方が心地いい。


「俺も、柚子が馨民カミンさんを信頼している理由が……少しわかった気がします」


 今度はきちんと人前を意識して話す。

 気恥ずかしさがどことなく抜けなくて、表情をうまく作れなかったけれど。


 お互い会話が微妙に噛み合わないと認識しただろうが、気持ちは伝わり合えた気がして──何だか妙な感じだとリュウは笑った。




 それからリュウが仕事中に顔を出す回数は徐々に減っていき、リュウ自身も仕事に集中できるようになってきた。




 数ヶ月が経ち、リュウは安堵のため息をつく。


 馨民カミン悠穂ユオのお陰もあって、庾月ユツキが無事に安定期に入った。


 庾月ユツキのつわりがやわらぎ、リュウ庾月ユツキと約束をしたケーキを作る。


 今日は医師の交代の日。

 一週間滞在してくれた悠穂ユオが帰る前に、馨民カミンがやってくる。


 リュウ馨民カミンがやってきたときに、改めてこれまでの感謝とケーキを渡す。今後もお願いしますと、ていねいに伝えて。


悠穂ユオさんの分もこちらに。あの、ご家族と馨民カミンさんのご家族の分も入っているので……よければ、みなさんで食べてください」


 すると、悠穂ユオが『わ!』と馨民カミンと顔を見合わせて、

「ありがとう!」

 と喜んでくれた。


 リュウ庾月ユツキと顔を見合わせ、微笑み合う。


「柚子ちゃん、また来週ね」

「はい、また来週お願いします」


 庾月ユツキが頭をさげ、リュウも一緒に一礼する。


 すると、悠穂ユオがにっこりと笑った。


「仲良くね」


『それじゃ、馨民カミンさん、お願いします』と、悠穂ユオは手を振って部屋を後にしていった。




 リュウ悠穂ユオの言葉を表面通りに受け取った。


 だが、そうではなかったとわかったのは、その日の夜で──。




 仕事が終わって部屋に戻ると、庾月ユツキが意外なことを言い出す。


「ねぇ……リュウ? あのね……もう、仲良くしても、いいんだって」


『仲良く』

 そういえば、悠穂ユオもそう言っていた──気がするなと、リュウは記憶を辿る。


「うん?」

 ──でも、喧嘩はしていないはず……。


 リュウ庾月ユツキの手を握る。

 ふと、庾月ユツキが両手で握ってきた。


 ──あれ?


 庾月ユツキが妙にジッと見てきている。


 妙な間が過ぎていく。


 ──何だか、認識の差が……あるような……。


 妙な緊張感のドキドキが、吊り橋効果のようで──リュウはようやく庾月ユツキの発言の意図を汲んだ。


 ──あれ? 悠穂ユオさんの言葉って、こういう意味の?


 意図を汲むのが遅かった。

 ドキドキが息苦しさを呼んできて、背中にじんわりと汗を感じている。


 庾月ユツキのことは、好きだ。間違いなく。

 妊娠がわかったときだって、とってもうれしかった。


 確かに、この数ヶ月間は──庾月ユツキのことも、お腹の子のことも心配で、不安でいっぱいだった。


 ようやく庾月ユツキのつわりが落ち着き、安定期に入ったと聞いて、このまま大丈夫だと思えた矢先──だからか。

 感情が追いつかないでいる。


 スッと、庾月ユツキが距離を詰めてきた。

 咄嗟にリュウはキュッと抱き寄せる。


 けれど背中に回った手は、抱き締めるとは違う動きをして──。


「ごめん、待って!」

 思わず言葉が突いて出た。


 一瞬止まった手が、今度はリュウの背中を支えるように動いた。


 今にも体が震えそうで、リュウは強く抱き締める。


 浮かんでくる言葉は『そういう気持ちになれない』とか『怖い』とか、何を言っても庾月ユツキを傷付けそうで。


 ──何も言えない……。


 もどかしい思いを抱え、口を閉ざす。しかし、口を閉ざしたままでは庾月ユツキを不安にさせてしまう。


 眉間にシワが寄った矢先、庾月ユツキがちいさな声で呟いた。


リュウは、もう……したいって思えない?」


 声が震えている。それが胸に重く刺さって、苦しい。


 傷付けないような言葉を──何とかリュウは絞り出す。


「今……じゃなくても、いいんじゃない?」

「でも、ずっとしてない」


『できる状態でもない』なんて言ったら、庾月ユツキがどう感じるかと思うから、リュウは言葉を返せない。


 押し黙ってしまったからか、庾月ユツキの震える声が聞こえた。


「このまま離れないといけなくなったら……と、思う、と……」


 胸に突き刺さる。

 これまで、庾月ユツキを泣かせたことはなかったのに。


 ──結局、すごく傷付けてる……。


 庾月ユツキの今の感覚はリュウにもわかる。

 結婚前に庾月ユツキと数日離れたとき、リュウも同じような状態になった。

 結婚直前だったのに、あのときはリュウの方が心のバランスを崩した。


 わかるのに──応えられない。心が立ち止まったままになっていて、遠い。


 庾月ユツキがグズグズと泣き始めた。

 ゆるいウェーブのある大好きなクロッカスの長い髪が、微かにゆれている。


リュウの、ぬくもりが……ほしい、の……」


 ──こんなに好きだと言ってくれているのに。……俺が、懐迂カイウの儀式をしていたら……。


 庾月ユツキを泣かせないで済んだのかもしれない。

 結婚前に庾月ユツキと離れて、自身も心のバランスを崩さなかったかもしれない。


 たらればが浮かんでくる。


 ──でも……いくら医師が大丈夫と言ってくれていても……。


 自らの行動で子どもに万が一があったら。

 庾月ユツキにも、万が一があったら。


 可能性を考えるだけで、リュウは怖くてたまらなくなる。


 ──絶対に、なんてない。


『それが原因じゃない』と言われても、『万が一』がもしあれば。リュウは絶対に己の行動を後悔する。


 ──だからと言って……。

 庾月ユツキを、泣かせていたくもない。


「わかった」


 結婚前は庾月ユツキが打開策をいつも出してくれていた。だから、リュウは『今の最善だ』と、意を決する。


「裸で寝よ」

「え?」

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