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愛した姫の名で生まれ変わり、前世の誓いを果たす ~思い出すは、君の名~  作者: 呂兎来 弥欷助
第二章:選んだ恋(全26話)

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【11】鮮明で曖昧な記憶

「親ってのは、子どもや孫には何だってしてやりたいもんだ。それでもよ、できることなんて限られてんだ。だから、『向こうができることは、やらせてやろう』くらいに思っとけ」

『今は向こうが、いくら世話をしたくでもできないって状況なんだからよ』と、流すように祖父は言い足した。


 ──やっぱり……じぃちゃんって『大人』だなぁ……。


「それに、お前にしかできないことはたくさんあるんだからよ。それは金じゃ解決できねぇ。……よく覚えとけ」


 リュウは息を呑む。

 何においても平等な価値であるはずの唯一無二。そんな物であっても、価値は変化すると目から鱗だ。


 ──状況や人により、何事も……『価値』は変動する……。


「ありがとう。そうだね……よく覚えておく」


 だからこそ、『今できることをする』のが一番と胸に刻む。


 ──わかっていたはずなんだけど……な。


 見失っていた。


 でも、また見付けられた。素直に受け入れられた。祖父の言葉は、いつもリュウに道を見失わないよう、ヒントをくれる。




 仕事が終わり、庾月ユツキを迎えに行く。


 リュウが顔を出せば、パァッと庾月ユツキの表情が変わって。『失礼します』と部屋に上がり、庾月ユツキが立ち上がるのを支える。


馨民カミンさんたちは滞在中、私が前に使っていた部屋を使ってくれるって」

「俺たちの部屋と近いね」


『一緒に行きましょう』とリュウは道案内をして、『ありがとう』と『お疲れ様でした』を伝えて別れた。


 部屋に入れば、今日話したことを庾月ユツキが教えてくれて、つわりには波があるとも教えてくれた。


「昨日は約束のケーキを作れなかったけど……庾月ユツキの体調が落ち着いたら、必ず作るからね」


 約束を再提示すれば、

「楽しみだわ」

 と、庾月ユツキがゆるやかな笑みを浮かべた。


 そして、ポツリポツリと話し始める。


「お父様も、ケーキを作ってくださったことがあったの……」

「そうなんだ」

リュウのお父様と、双子だった」


 そう言われてみれば、父同士が兄弟という距離感よりも、父は庾月ユツキに近い存在として物事を言っていた──気がする。

『父同士が双子だった』と聞けば、だからかもしれない。


 でも、腑に落ちないのは──。


「私はお父様に継承を受けたの」


 これだ。

 現状の『最高位』は、庾月ユツキの母のはず。


 それに、父は鴻嫗トキウ城の長男。だから庾月ユツキの父は、『鴻嫗トキウ城の次男』になる。


庾月ユツキのお母さんは……継承者だった人と結婚したから……あれ、でもそれで庾月ユツキが継承をした、じゃなくて……お母さんが継承をしたの?」


 継承は次世代になるのでは──と、リュウは混乱する。


「お父様の中では、ずっと……お母様が一番だったのよ、きっと」


 珍しく庾月ユツキと会話が噛み合っていない気がした。


 ──でも……多分、俺が聞いたところで理解できないんだろうな……。


 庾月ユツキの父が亡くなったのは、リュウが十四歳くらいのころだ。


 別の大陸のことだし、ましてや貴族のこと。リュウは興味がなかったと言えばそうなのだが──耳に入って、頭の片隅には残っている。

鴻嫗トキウ城』イコール『姫』だったような気がすると、引っかかっていたのだろう。


「混乱しちゃうわよね……ごめんなさい。でも、私も……色々あったころだったから、うまく説明できないの。ただ、お父様が生きていらしたころは、確かに……お父様が継承していらしたのよ」

『いつか真実が明るみになる日が来ると信じているけれど』と言う庾月ユツキは、見たことのないほど寂しげだった。


 リュウは切なくなって、抱き締める。


「辛いことを、話そうとしてくれて……ありがとう」


 庾月ユツキの父が亡くなる前後、庾月ユツキはしばらくリュウの父の家にいたと言っていた。その時期の記憶は、あいまいだとも。


 でも、今話してくれた『覚えていること』は、真実なのだろう。


 きっと、リュウが話を聞いてわからなかった以上に、庾月ユツキは消化できていないのだ。


 庾月ユツキの泣き声が聞こえる。

 びっくりしてリュウは腕の中を覗く。


 わからないながらも、必死に『鴻嫗トキウ城の姫』でいたんだろう。記憶の父を消したくないと、その一心で庾月ユツキは、継承の重荷を背負って頑張ってきたんだろう。


「大好きだったんだね。お父さんのこと」


 目尻の涙を拭えば、庾月ユツキの表情が一気に崩れた。そうして、ワンワンと声を上げて泣き始める。


 ──庾月ユツキは……ずっと泣けなかったんだな……。


 リュウは頭をなでる。

『いい子だ』と見守るように、何度も。


 すると、庾月ユツキの泣き声は収まってきて、次第にグズグズと泣き始めた。


「いいんだよ。我慢しないで。庾月ユツキは……ずっと頑張ってきたんだから」


 ふんわり抱き締めると、庾月ユツキがしゃっくりをし出して、苦しそうに言う。


「いい、の?」

「うん」

「でも……恥ずか……しい」

「そんな庾月ユツキもかわいいよ」


 庾月ユツキが泣いているのに、かわいいが止まらない。妙な感覚だと思いつつも、感情が抑えきれず背中もさする。


「本当に……すてき、な、旦那様だわ……」


 ふふっと照れ笑いをしてしまい、

「あ、庾月ユツキを笑ったわけじゃないからね」

 と言えば、

「わかっ……てるわ……」

 庾月ユツキの恥ずかしそうな言葉が返ってきて。


「かわいい」


 リュウは思わず口にして、また頭をなで始めていた。




 そのうち庾月ユツキは安心したように眠りについた。


 ──庾月ユツキはちいさいころ、お父さんにこんな感じで甘えられていたのかな……。


 スヤスヤと眠る姿を見て、庾月ユツキの中の大きな存在と並べた気がした。


 ──産まれてくる子が、庾月ユツキに似たらいいな……。


 幸せな想像をしたのに、ふいに不安が心を覆ってくる。


 ──無事に……母子ともに元気でいてほしい……。


 大丈夫、大丈夫とリュウは心の中で繰り返す。けれど、繰り返す度に苦しくなって、覆ってきた不安に負けそうになる。


 ギュッと庾月ユツキに抱き付く。


 辛い。とても怖い想像をしてしまった。


 耳元では、庾月ユツキの静かな寝息が聞こえる。この安らかさを、庾月ユツキを信じようと必死になる。


リュウ……」


 微かな寝言なのに、ハッキリと聞こえて。ハッとリュウは息を吸えた。


 手をゆるめて、庾月ユツキの髪をやさしくなぞる。


『ふふっ』と笑った庾月ユツキが、髪に触れるリュウの手を握った。

 またスーッと庾月ユツキは熟睡したようで──リュウ庾月ユツキの手を握り直し、目を閉じる。


 今、庾月ユツキがいる──それ以上のことは考えるのをやめて、去った不安を追いかけないようにする。


 庾月ユツキの呼吸に合わせて呼吸をすれば、確かな繋がりを感じられて──リュウはゆっくり眠りに落ちていく。




 浮かんだのは、最悪なことばかりだった。


 不安の原因は考えなくてもわかる。生まれのせいだ。


 庾月ユツキのせいでも、もちろん子どものせいでもない。リュウ自身の問題で。

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