表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛した姫の名で生まれ変わり、前世の誓いを果たす ~思い出すは、君の名~  作者: 呂兎来 弥欷助
第二章:選んだ恋(全26話)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/38

【7】若者の特権

 言葉にして、リュウはこれまでの些細な積み重ねがバラバラとガタガタと、微かにズレていくような感覚を覚える。


 あれは、結婚のとき──も、そうだった気がする。

 告白も──唐突だった。


 リュウには心の余裕がまったくなかったから、当時は気付かなかったけれど。


 いや、そもそも貴族は結婚が早いのかもしれないが──でも、庾月ユツキの場合は少し違う気がする。


 今まで気にかけなかったのに、ひとつのズレに気付いたら、あれもこれもとズレてきた。


 ガタガタ動いて、今まで見えなかったものが見えてくるような、妙な感じだ。


 ──もしかして。


 庾月ユツキは十六歳で──結婚できる年齢になったらすぐに結婚しなければならないような、そんな事情でもあったのだろうか。


 リュウは未解消だった、あの違和感を思い出す。


「ねぇ、庾月ユツキのお母さんって……そんなに体調が、悪いの?」


 涙を堪えていた庾月ユツキの瞳から、大きな涙の粒がひとつ、またひとつと落ちる。


 ドキドキするのに、なぜか血の気が引いていく。庾月ユツキの恐怖の理由を履き違えていたと、じわりじわりと理解ができてくる。


 庾月ユツキは母が亡くなれば、城を継がなくてはいけない。それは、城に戻らなくてはならないということ。


 アヤで働き始めた恋人同士の期間のときも。

 婚約してから、結婚する間までも。

 今、このときも。


 ──だから……。

 告白も、返事を催促してきたときも、迷いも躊躇いもなかったと今更知る。


 ──ただただ、必死だったんだ。


 ひとつひとつの思い出が、バラバラと一度粉々になって違う形になった感覚だ。リュウ庾月ユツキとでは、見てきた世界が違うようにさえ思える。


 ──庾月ユツキは、どれだけの不安と戦ってきたんだろう……。


 同じベッドの中にいるのに、庾月ユツキが幻のように感じてきた。


「そうね。弟の颯唏サツキが生まれてからは……あまり長い時間出歩けなくなったみたいで……」


 結婚前の顔合わせのあのとき、感じた奇妙な感覚は──義母を、どこかこの世と離れた存在に感じたからかもしれない。


「お父様とお母様は、懐迂カイウの儀式をしたの」


 ギョッとするほど驚いたが、続く言葉にも更に驚く。


「数百年振りに、海が輝いたらしいわ。そうして、生まれた第一子が私」


 耳を疑うほど驚いたが、確認しながら順に脳裏で再生してみる。


 ──懐迂カイウの儀式をして、海が輝いたなら……娘が産まれて当然、か……。


 懐迂カイウの儀式は、互いへの愛の証明。

 尚且つ、鴻嫗トキウ城の血を継ぐ者は、『真に愛し合う人との間に授かる初めての子が女の子』と言われている──とも聞いた。


 だから、第一子が『娘』なのは、納得しかない。


 こうして話すまで、まったく辿り着かなかった。


「だから、私は……鴻嫗トキウ城を放棄できないの。でも、私だけで終わらせるわけにもいかない。後継者が、必須なの」


 庾月ユツキは、鴻嫗トキウ城の『真の後継者』。それも、何百年振りの。

 それが、どれほど重かったのか。


「だから、どうしてもリュウと結婚したかった。リュウ以外と結婚するなんて嫌だった」


 庾月ユツキの背負っていたものの重さが、リュウにまとわり付く。


リュウの言う通りよ。私……ずっとリュウの子がほしいと願っている。娘か、息子かなんて関係ない。好きな人の子を……産みたいの」


 ──俺が、アヤを出ないと言っているから。


 だから庾月ユツキを、ここまで追い詰めてしまった。


 ズシリと重い。

 庾月ユツキが生まれながらに背負ってきた重みは、恐らく庾月ユツキの父が亡くなったときに膨れ上がった。

 父が大好きだった庾月ユツキだからこそ、受け止めて一心に背負ってきたのだろう。


「わかった」

 リュウ庾月ユツキの抱える重さを一度引き受け、『でも』と続ける。


「妊娠も出産も、庾月ユツキの体調が第一だよ。だから、体調が悪いときはきちんと休む! 無理をしない。……約束してくれる?」


 眉間にシワが寄ってしまったが、庾月ユツキはパッと笑顔になった。


「はい!」


 途端、リュウに抱き付いてくる。


「わ!」


 リュウの胸にスッと頬を付けた庾月ユツキは、飼い猫のようにスリスリとしてきた。


 ──かわいい……。


 胸がキュンとし、髪をなでる。


 ようやく感情が追いついてきた。だが、感情に呑み込まれずに、肝心なことをきちんと伝えようと言葉を紡ぐ。


「その……子どもはもちろん授かれればうれしいけど、『目的』にはしたくなくて……。えっと、だから……俺は単純に庾月ユツキが好きだからしたいし、庾月ユツキも同じ気持ちならうれしいなって……。そういう延長線上に『希望』として置いておきたいっていうか……」


 ふふっと庾月ユツキが笑った気がした。


 リュウは恥ずかしさを感じながら、庾月ユツキをのぞく。


「駄目?」


 庾月ユツキはまた笑って、首を横に振った。


「駄目じゃないわ」


 にこりとした──刹那、スッと庾月ユツキの顔が近づいてきて。


 それは『愛している』と、リュウに伝わった。




 翌日から庾月ユツキは、『柚子』としても元気を取り戻した。

 リュウは『よかった』と仕事中も見守る。


「まぁた柚子を見てんなぁ?」


 祖父にポツリと言われ、

「そ、そんなこと……ごめん、じぃちゃん。そう、だね……」

 恥ずかしさに思わず口元を手で覆う。


「若者の特権だ」


 パンと背中を叩かれ、

「柚子が元気になってよかったじゃねぇか」

 と、またポソリと言われた。


『うん』と返し、

「柚子は女の子だからさ……その、また体調悪いときは、無理させたくないんだよね」


『お?』と祖父は一度目を丸くし、

「当たり前じゃねぇか。無理させんなよ」

 再度、リュウの背を叩く。


 祖父に背を叩かれると、ふしぎなもので。活力が入ってくる気がした。


「はいはい。仕事だ、仕事」


 ガッハッハと豪快に笑った祖父は、調理場に向かっていく。


 切り替えの早い祖父に追いつかねばと、リュウも仕事に集中しようと心がけた。




 しばらくテキパキ働いていると、朝の祖父の言葉が次々に腑に落ちてきた。


 リュウは祖父とふたりで育ってきた。女性の体特有のバイオリズムを、まったく気にかけずに生活してきた。

 そんなリュウが、『柚子は女の子だから』と体調不良を性別のせいにした。だから、祖父は『お?』と反応したのだ。


 ──何だか、安易に……。


『男になったな』と言われた気がして、リュウは時差で照れる。


 ──やっぱり、じぃちゃんはすごいや。


 祖父でありながら、リュウを男手ひとつで育ててきてくれただけでもすごいと思っていたのに。それだけではないと再認識する。


 リュウを育てる前は、リュウの母を──娘を男手ひとつで育てていた。

 その前には、同然ながら『妻の妊娠』という経験もあったわけで。


 ──そっか……。じぃちゃんの中では、『当たり前』だったんだ。


 祖父に申し訳ないとどこかで思っていたから、『そんな遠慮はいらない』と背中を叩かれた。


 ──俺とじぃちゃんじゃ、根底がそもそも違ったんだな……。


 妙な力が入っていた気がする。

 きっと、庾月ユツキと結婚して『夫になったから』とか『夫として』とか、無意識で変な責任感を負おうとしていた。


 祖父のお陰で、心身ともに軽くなった気がする。


 ──俺には、じぃちゃんっていう人生の大先輩がいるし。悩んだり抱え込んだりする前に、じぃちゃんに話を聞いてもらえばいいんだ。


 ふふっとリュウはひとりで笑みをこぼし──それを庾月ユツキが見いてて、同じように笑った。




 忙しい一日が終わり、リュウ庾月ユツキと手を繋いで部屋へと戻る。


 部屋に入って、パタリと扉を閉め、それぞれに就寝の準備を──普段なら始めるが、リュウ庾月ユツキの姿を少しぼんやり眺める。


 リュウの視線に気付いたのか、庾月ユツキが振り返った。


 思わずリュウは駆け寄り、庾月ユツキを抱き寄せる。


「好きがいっぱいになっちゃった」


 スリッと頬を合わせて見つめれば、庾月ユツキは真っ赤な顔をしていた。


 思わず口角の上がったリュウはチュッと短く唇を合わせる。それが妙に恥ずかしくて、自身のしたことなのに照れて笑う。


 庾月ユツキの鈴の鳴るような笑い声が聞こえてきた。


 固くなっていた庾月ユツキの表情も、ふんわりとやわらかくなっている。


 そのままふたりで笑い合って、わずかな静寂に照れて──互いに吸い込まれた。




 おだやかに時間が過ぎ、結婚してから三ヶ月が経った。




「行ってきます」


 今日は庾月ユツキが朝から出かけるらしい。


「おお、行ってらっしゃい!」


 笑顔で祖父が見送ったのに、リュウはぼんやりとしてしまった。


「柚子って………俺と付き合ってるときから、たまーにきれーなかっこして、どっか行くよね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
惹き込まれすぎて、感情が大きくなりすぎてしまって言葉にうまくならずにすいません 本当に二人を見守っているように吸い込まれて、お互いが本当の意味で結ばれた瞬間がすごく感激しました 最後の何気ない疑問がす…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ