閑話 ヴァルテス家
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クレメンス国王都。
貴族たちの屋敷が立ち並ぶ、貴族区と呼ばれている場所に建つ、ひときわ大きな屋敷。
白い壁に青い屋根、小さな森・・・に見える広い庭はよく手入れがされていて、王宮の庭園にも負けない。
王ですら無視することができない、この国の権力者、ヴァルテス家の王都邸宅である。
いつもは、明るく、優雅な雰囲気の、誰もがうらやむ屋敷であるが、この日は少し違った。どこか、暗い雰囲気をまとっていたのだった。道を行く者も、その雰囲気の違いに首をかしげたが、気にせず去っていった。
灯りがともされた部屋に、一人の青年がいた。腰まであるまっすぐな銀の髪を首の後ろで緩くひとまとめにし、無造作に垂らしている。長い銀のまつげが縁取る瞳は青く、白磁の肌が目に眩しい。神々しさも相まって、まるで、月の化身のようだ。そんな、控えめに言って美青年な彼の名は、シリウス・ヴァルテス、歳は16――ヴァルテス公爵家の次期当主である。
シリウスは、何かが書かれた紙を見ていた。
何が書かれたいるのか、時節顔をしかめながら読み進めていた。
最後の一枚を読み終わり、悲しげに顔をゆがませる。ふっ、と息を吐く様は、どこかはかなく見える。
しかし、彼の口から出た言葉は全然はかなくなかった。
「王子がここまで愚かだったとは・・・。エリシアは結構遠くに行ってしまったし・・・・・・うぅ、シア、早く帰ってきておくれ。もう父上も母上も止まらないし、シノは爆発寸前だし、僕もそろそろ限界に近いんだよ・・・?・・・シア・・・エリシア・・・・・・私の妹・・・。」
そう言って、シリウスは泣き出した。
絵になるような場面が台無しである。しかし、そんな姿ですら絵になるのは美形だからだろうか・・・・・・何故かイラついてしまう。
はかなげに見えた彼はシスコンという名の、エリシア至上主義者である。
この発言からも分かるように、彼が読んでいたのは、エリシアの断罪イベント(笑)の報告書である。かれはエリシアが学園を出ていってすぐに情報を集めたのだ。その結果、提出された報告書には王子が何をしたのかこと細かく書かれており、王子への罵倒が添えられていた。ちなみに、報告書を書いたのはエリシアと同じ学園に通っていた彼の弟である。
「何なんだよ、もう! シアが学園から卒業して、家に帰ってきたら皆でお祝いしようと思っていたのに・・・・・・! シアっ! シアーーー・・・」
とうとう、机に伏せて号泣し始めたシリウス。その姿さえ美しい。
妹が離れてしまったシスコンは、情緒不安定である。
そこに一人の少年がやってきた。
シリウスの様子を見て、あきれたような顔をする。
「・・・何をしているんですか、兄上。」
そう、彼が ”あの” 報告書を書いた弟――シノルーカ・ヴァルテスである。歳は12。頭の後ろに行くほど短くなっていく髪は、白金色で少しふわふわしている。ぱっちりと開いた瞳は紫水晶の色で、グラデーションになっている。うっすらと、桃色に染まった頬が愛らしい。白磁の肌も相まって、まるで、天使のようだ。そんな、控えめに言って美少年な彼は、手にティーセットを持っていた。何故使用人ではなく、彼がティーセットを持ってきてのか、突っ込む者は誰もいない。
「・・・シノか。ごめん。シアがいないのが寂しくて・・・・・・気持ちが高ぶったんだ。」
「ふーん、それなら仕方ないね。」
そうこたえて、お茶を入れ始めたシノルーカを見るシリウス。もう一度言うが、この状況を突っ込む者は誰もいない。
「シノ、父上と母上は?」
「お城」
「おぅ」
父と母がこれからすることが予想できたシリウスは頭を抱えた。それを憐みの目で見るシノルーカ。
「兄上、これは必要なことなんだよ。」
「・・・・・・。」
「分かってるんでしょ? 今回、姉上がこのような目にあったのは、ほかでもない、王様がしっかり教育を施していなかったからだよ。だったら、王様が責任を取るのは当たり前でしょ?」
「・・・・・・分かってはいるんだ。陛下が、もっと、王子のことを見ていたらこんなことにはならなかったということは。でもな、あの王子も悪いんだよ。学ぶことから逃げて・・・・・・。」
「それ、王子を椅子に縛り付けたらよかったんじゃないですか?」
否定できない言葉を投げかけられて、シリウスは黙る。
「ま、今となってはどうでもいいんですよ。それよりも姉上ですよ。どこにいったんでしょうかね?」
「わからない・・・・・・。でも、絶対にもう一度会う。」
そう言って、ぎゅっと手を握り締めるシリウス。
「・・・・・・連れ戻す、とは言わないんですね。」
「当たり前だ。シアは自分の意志でどこかに向かったんだ。それに・・・・・・必ず会えると確信しているからな。」
「そうですね。・・・・・・では、そんな兄上にご褒美を上げましょう。」
少し待っていてくださいね、と言ってシノルーカは部屋を出る。しばらく経って、部屋にノックの音が響き、ドアが開く。
そこには、シノルーカではなく、一人の美少女が立っていた。
「・・・・・・シノ?」
「ええ、そうですわお兄様!」
何故か胸を張って部屋に入ってきたシノルーカを見て、シリウスは頭を抱える。
シノルーカは・・・・・・女装をしていた。
長い白金色のかつらを被り、淡いピンク色の膝下丈のドレスを身にまとっている。ご丁寧に化粧まで施されていた。
「ふふん、驚きましたか? お姉さま直伝のお化粧法ですの。この口調や作法も、お姉さまが教えてくだったのよ。いつか役に立つと言って、ドレスや小物、化粧品もくださったの!」
そう言って上品に笑う弟を見てさらに頭を抱える兄。
その場は混沌としていた。
こうして、ヴァルテス家のいろんな意味で濃い一日は過ぎていった。
余談だが、この日からシリウスとシノルーカの間で、女装のする・しないで、もめたとか、もめなかったとか。
今回は、エリシアのお兄さんと弟のお話でした。




