真夏の神様
朝から僕らは、朝食の準備(主に配膳)を手伝い、手伝い終えた後に僕らは朝食を食べた。
そして、僕はおかみさんに頼まれて、ゴミ捨てをすることになり、僕は大きなゴミ袋を両手で抱えてごみ捨て場まで歩いた。
旅館の裏口から出て、1分くらいの場所にあるごみ捨て場。特段難しいことは何もなかった。途中で、熊や野犬に襲われるなんてことは、ここ江ノ島ではない。もしかしたら、猫が足元にきて、ほおづりをして帰るのではないかという妄想はあったのだが。
ゴミを捨てて一息つくと、見知らぬおじさんが僕に話かけてきた。
「きみは、あれかい。噂のバイトの子かい」
おじいさんは、優しい声で僕に話しかけてきた。
「はい。南商業の簿記部の合宿を兼ねてやってきました」
「そうかいそうかい。助かるよ。夏はなかなか大変でね。わたしらも若くないからさ。若い子が手伝ってくれると、なんだか自分たちも若くなった気分になるし、旅館にも活気が出てくるからね」
話を聞く感じ、どうやらここのご主人であった。
「きみは、いくつくらいなんだい」
「高校一年生です。今年、高校生になりました」
「そうだったのか。どおりで若いわけだ。若いうちはね、いろんなことをやるといい。失敗したってかすり傷にもならない。むしろ、失敗が君を成長させてくれる。成功体験というものは意外とすぐに忘れるものだけど、それはあまり大切じゃないからさ。成功よりも失敗。失敗はわすれにくい。でも、失敗を回避できるようになれば成功へと近づく」
おじいさんは、朝の日差しが強く照りつける中、自らの体験を語っていた。僕は、とてもいい話をしているのだろうと思っていたが、実際のところあまり理解できていなかった。
「でも、いつかは自分の道をしっかりと選ばないといけない。いつまでも自分探しの旅と称しての海外旅行や自己啓発本を読み漁ったところで、血にも肉にもならん。そんなもの自分のありもしない無限の可能性に酔っているだけだ。失敗もする分にはいいが、数も減らさないといけない。必ず進む道は決めなさい。大学生になってからでは、遅いとは思わんが早いとは言えない。怖いかもしれないが、皆、決断して生きてきているんだ。決めるなら若いうちだよ」
おじさんの、話がますます長くなりそうだった。僕は、一瞬相模湾の方を見た。海が綺麗に波打っていて、あの海に飛び込んだらどれだけ気持ち良いのだろうかと想像した。
「あのッ、そろそろ合宿が始まるので戻らなくちゃいけないんで!」と僕は言おうとして振り返ると、目の前におじさんはいなかった。むしろ、初めからその場所には誰もいなかったようだった。僕は、一度目をこすったりほほをつねったりしてみたが、現実世界であった。暑さにうなされたのだろうか。
「あら、こんなところにいた」
女将さんが僕のところにやってきた。どうやら、帰りが遅いから心配して探しにきてくれたようだった。1分の場所に30分といればそれは誰でも心配するのかもしれない。
「おばさん、ごめんなさい。なんか不思議なおじさんと話してたらこんな時間に」
「おや。もしかして、説教みたいなことをしゃべるおじさんじゃなかったかい」
「説教ではないですけど、なんか、将来は早く決めなさいとか、すごく僕の未来を心配してくれました。」
「そうなんだねぇ。うん、また来たかい。そうかそうか。彼らのことを心配してくれて」
「お知り合いですか」
僕は、女将さんにそう聞くと、女将さんは「そんなところだねぇ」と遠くの方を見て返事をした。女将さんは「それよりも、先生が呼んでいたよ。合宿始めるって」と僕に伝えてくれた。
僕は、「急がなくちゃ!ありがとうございます!」と言って、走って物置部屋に向かった。後々、先生に聞いたら、昔不慮の事故で亡くなった女将さんの旦那さんだったようだ。とても教育熱心でハートが熱い人だったらしい。先生も、大学生の頃によくご指導ご鞭撻をしてもらったとのことだった。




