がんばったじゃん!
そのたった一言が、俺の頭の中まで叩いたような気がした。
メイは俺の両頬を平手で挟んだままグイッと顔を近づけてくる。
「後悔先に立たず! 塞翁が馬!」
「は?」
「おばーちゃんがよく言ってた。やったことを後悔しても仕方ないんだって。おにーさんは正しいと思ったことをしたんでしょ? だったらそれは間違いじゃないよ! てか、自分んとこの商品をバカにされたら怒ってフツーじゃん!? それでヘコヘコしてる方がダサすぎなんだけど! むしろあとでよく言ったなって言ってくれる上司じゃなきゃダメっしょ!」
「……メイ……」
「ずっと一人でやってきたんでしょ? やりたいこと見つけるためにがんばってきたんでしょ? 目の前のことに一生懸命になって戦ってきたんでしょ? すごいじゃんかっこいいじゃん! おにーさんがやってきたことはちゃんとすごいことなんだからさ、おにーさんは自分で自分を褒めてあげなきゃダメだよ!」
真剣に。
こんな俺の話を真剣に聞いて、真剣に怒って、真剣に向き合ってくれている。
そしてメイは俺の頬からパッと手を離すと――
「まっ、でもクビになっちゃったもんはしょーがないもんねっ。反省して切り替えてさ、また次がんばればいーじゃん? ほらほら、今回はあたしが褒めたげるからさ♪ おにーさん、よくがんばりました! エライエライ♪」
太陽みたいに明るく笑い、背伸びをして俺の頭を撫でてきた。
……は?
ウソ、だろ?
「……ん? アレ? おにーさん?」
ちょっと待ってくれよ。
さすがにこんなの、ダサすぎるだろ。
「え? ちょ、ちょっとおにーさんっ? 泣いてるのっ?」
メイが目をパッチリさせて驚く。
俺は顔を背けて答える。
「いや泣いてねぇよ」
「いや泣いてるじゃん」
「泣いてねぇって」
「泣いてるってば。あーもう男って無駄にいじっぱり! 別に泣きたきゃ泣けばいいし、それでダサイとか思わないから。あたしだって水泳で中学最後の大会負けたときフツーに泣いたし。しょーがないなぁ。特別にハグもしたげる」
メイはそう言って優しく俺に抱きつくと、また頭をポンポン撫でてきた。
「よしよし。がんばったじゃん」
ちくしょう。なんでだよ。
親父に勘当されても、母さんから野菜と一緒に手紙が届いても、夢さえ見つからずどうしても東京に馴染めなくても、ようやく内定もらっても、そこをクビになっても、まったく泣くことなんてなかったのによ。
なんで今なんだ。
なんでメイの表情や、声や、温もりが、こんなに心にガンガンくるんだ。
俺は──メイに抱きしめられたままつぶやいた。
「……なぁ」
「んー?」
「成人男性が出会ったばっかの女子高校生に慰められて泣くとかさ、やっぱダサイだろ」
「そーかなー? あたし的にはけっこーカワイく見えるけど」
「マジかよ」
「あっ母性本能ってヤツ? 普段イキってる男の子が弱って子犬みたいな顔するとキュンとくるのあるじゃん。そういうカンジ。あれ、ひょっとしてあたしイイお母さんの素質ある?」
「……そうかもな。てか俺はイキったガキか子犬かよ」
「マジかー! やっばい、新たな才能開花しそう! あっ、保育士さんとか目指しちゃおうかな! どうどう似合うと思う? ピアノとかもちょっとは出来るし!」
「聞いてねぇし。悪くないんじゃねぇの」
「そっかー。あたしも将来の夢とかなかったからさ、候補が見つかってラッキーってカンジ! おにーさんのおかげかも。ありがとね!」
「なんでお前が礼を言うんだよ」
メイの無邪気な笑い声が、何の嫌みもなくスッと心に入ってくる。
だから──こっちからも素直に言えた。
「……ありがとうな」
そんな俺のつぶやきを聞いて。
メイは「んふふっ」と嬉しそうに笑ったあと、また俺の頭をポンポンとした。




