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自分で自分をダメって言うな!

 俺のお腹様が大満足にふくれたところで、神妙に手を合わせる俺。


「ごちそうさまっした! あー……なんか久しぶりにちゃんと食ったって気がするわ……」

「はいおそまつさま。そんであたしもごちそうさま!」


 二人揃って手を合わせる。

 俺がじっとメイの方を見ていたら、彼女も「ん?」とこっちを見た。


「なに? やっぱ足りなかった? つまみでも作ったげよっか?」

「いや十分。ただ、メイみたいなJKというかギャルって料理とかしないもんかと思ってたから」

「うっわヘンケン! JKなめんなよーってことではんせーしな?」

「すんませんした」

「よろし! じゃ、ちゃちゃっと片付けちゃうねー」


 と言って食器をまとめだしたメイに、俺は慌てて立ち上がり食器を手に取る。


「いや待てそれくらい俺がやるって! いきなりメシ作ってもらったうえんなことまでさせられるかっての」

「そう? じゃー二人でちゃちゃちゃちゃっと洗おうよ。そっちのが倍速じゃん」

「早く終わるだろっていうニュアンスは伝わるが……まぁそうするか」


 てなわけで、狭いミニキッチンに並んで立つ俺たち。手際の良いメイが本当に倍速みたいな速さで食器を洗い、それを俺が拭いて片付ける。


「ほい」

「おう」


 初めての共同作業は不思議とスムーズで、メイがうちにいることの違和感なんてそのときにはさっぱり消えていた。


 そんな流れ作業を続けている中、メイがつぶやく。


「でさー。結局何があったわけ? ほい」

「ん? ああ、別に大したことじゃねぇよ」

「大したことなかったらお酒ニガテな人がフラフラ酔っ払って海に飛び込まないでしょ。空き缶放り投げてたとっからワケありかなって思ってたし」

「えっそっから見られてたの?」

「そ。んでちょっと注意してたら飛び込みそうだったから止め行ったの。あたし、あれけっこー本気で慌ててたんだけどー? ほい」


 メイが手渡してきた皿を受け取り、俺は少し悩んでから話すことにした。少なくとも、本気で俺を心配してあんな風に止めてにきてくれたヤツに隠し事をするのは誠意がないと思ったからだ。


「お得意先の会社でな。うちの商品――あー、俺のいた会社って自販機の飲料とか作ってるんだけどな、新商品がボロクソに言われてよ、こんなもの売れるわけないし本気で作ってるのは情けないって笑われちまったんだ」

「え? ちょっとなにそれひどくない!?」

「開発部の人たちが頑張ってたの知ってたからさ、俺もそれはないだろってその場でキレちまって。一緒にいた上司がずっと平謝りでとにかく関係を続けてくれって頭を下げて、まぁ俺もカタチだけは謝ってその場はどうにか収まったんだけど、お得意先から直接クレームが来てな。たぶんそのせいなんだろうけど、会社に戻ったらさらに上司──部長から『明日から来なくていい』ってさ。要はクビだよ』

「ハアァァァ~~~~!?」


 メイは食器洗いの手を止めて荒々しい声を上げ、眉をひそめてこちらを見た。


「なにそれ! それでおにーさんが会社クビになっちゃったの!? さすがにクビはないでしょマジ意味ワカンナイんだけど!」

「ま、それだけお得意先を怒らせたってのは影響デカいんだろうな。むしろ俺のクビ程度じゃすまないレベルかもしれねぇし」

「だからってさぁ! おにーさんそれで納得してるワケ!?」

「……そんなわけねぇよ」


 その声は、少し震えていたかもしれない。

 だからメイは、少しハッとした顔で俺を見た。


「俺な、大学入るときにいろいろあって実家と縁切っててさ。勘当されたようなもんでもう帰れないんだ。ま、母親は今でもこっそり野菜とか送ってくれるんだけど。んで、大学通いながらバイトして金貯めて、でも結局やりたいこととか見つからなくて。なんとなくで入った会社だから最初はやり甲斐もなくてさ。でも、最近ようやく好きになれ始めてたんだ。ウチの自販機で飲み物買ってくれてる人とか見るとすげー嬉しいんだよ」

「おにーさん……」


 おいおい、なんだって俺は今日出会ったばかりの年下ギャルな女子高校生に身の上話なんてしてんだ? でも、なんでかこいつにはスラスラと恥ずかしげもなくそういう話が出来た。


「もう実家には帰れねぇし、会社にも戻れねぇし、そもそも仕事なくなったらこれからどうすりゃいいんだろなぁ。はは。やっぱ親父の言う通りにしときゃよかったんだろうな。結局、中途半端なダメ人間じゃねぇかよ」


 自嘲めいた笑いがもれてくる。

 メイに話すことでようやく自分の置かれた立場を客観的に理解出来たのか、悔しさや後悔や情けなさみたいなもんで胸がいっぱいになっていた。


 俺は今まで──何をやってきたんだろう?


「どうよ? ボロアパート暮らしで親にも見放された無職童貞の末路だぞ。ダサすぎて笑えてくるだろ」


 そうやって、軽々しく自分を蔑みでもしなければ泣けてしまいそうだった。



 するとメイは――いきなり俺の両頬を両手でパンッと挟むように叩いてきた。



「いってぇ!? ちょ、なん――」



 つい声が止まる。

 メイが、真っ直ぐに俺を見つめていた。



「自分で自分をダメって言うな!」



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