一緒にごはん♪
「ほーいおまたせー。んじゃ冷めないうちに食べちゃお」
普段はコンビニ弁当や牛丼屋の一杯。家ではせいぜいおかずが一品とかカップラーメンとか適当なものしか並んでこなかった我が家の小さなテーブルいっぱいに、色とりどりの見事な晩ご飯が並んでいた。
白いご飯に豆腐のお味噌汁と卵焼き。ごまドレッシングのかかったサラダ。そして先ほど味見した鶏の肉じゃが。必要十分にして最良。漂う湯気と香りによって腹の底から食欲が刺激された。
エプロンを着たままのメイが対面に座ったところで切り出してみる。
「なぁ。お前、なんでメシなんて作ってくれてんの?」
「んー? だって晩ご飯の時間だし? おにーさん出てくるまでヒマだったしさ。ていうかお前はやめてってば」
「あ、悪いメイ」
「ん! ひょっとしてお腹空いてなかった?」
「いやめっちゃ空いてる」
「アハハ素直! まぁお弁当とか買ってるしそうだよね。コンビニのお弁当も最近はかなり美味しくなってるし悪くないと思うけどさ、でもちょっと寂しいじゃん? 特に一人はさ。ハイお箸」
「おう。そう……だな」
同意しながら箸を受け取る俺。メイは朗らかに笑う。
「だからお弁当は明日にして、今日はこっち食べちゃお? てか作んないとあたしが食べれないしさー。まー細かい話はあとでいいじゃん! 食べよ食べよ! それではお手を合わせまして。いただきます!」
「お、おう。いただきます」
キチンと手を合わせて食事を始めたメイ。
よく見れば正座をしていて姿勢も良いし、箸の持ち方も綺麗だし、なんというか、食事する様にも品がある。こいつ、意外と育ちがいいのかもな。
「んー我ながらウマー♪ っておにーさん、なにみてんの? ほら、せっかく作ったんだから早く食べてよ」
「あ、ああ……」
「あ、それともまたあーんしてほしいの? 甘えんぼタイプか~?」
「は? い、いやいいってそんなじゃないわ!」
「アハハ遠慮しなくてもいいじゃん。お仕事お疲れサマでした! ほら、あーん♪」
箸でじゃがいもをつまんで本当にしてくるメイ。
無性に恥ずかしくなってきたが、わざわざメシまで作ってくれたヤツを邪険に扱うわけにもいかず、仕方なく口を開いて受け入れることにした。
「……!」
そんでもってその味に心から仰天し感心する俺。
こうなるともう自分の箸が止まらなくなり、もう一つもう一つと食べ進めていく。肉じゃがは先ほどよりさらに味が整っていたし、鶏やにんじんがより柔らかくなっている。卵焼きはふわふわと柔らかく安心する味で、サラダはなぜか自分で作るよりみずみずしくシャキッとしていたし、味噌汁は程よい塩味が疲れた身体に染み渡った。
ついさっきまで――あの公園で一人やけ酒してたときは食欲なんてまったくなかったのに、今は身体がこれを求めていたとばかりにいくらでも入ってくれる。
メイがずいっと身を乗り出してきた。その目は期待に満ちている。
「どうどう? 残ってた野菜とかテキトーに使っただけだけど、そんなに悪くないっしょ?」
「悪いどころかめちゃくちゃウマイぞ!」
「ホントーっ? アハハよかったよかった! 男の人ってこーゆー肉じゃがとか好きってゆーけどホントなんだね。んじゃいっぱい食べてよ食べ尽くしちゃってー」
「おう!」
ガツガツと食べ進めていく俺を見て、メイは「ちゃんと噛みなよー」とおかしそうに笑ってから、自分の料理には手をつけずしばらくじっと俺のことを見ていた。
「――ん? な、なんだよ冷めるぞ?」
「んふふっ。誰かと一緒にごはん食べるのってさ、幸せってカンジしない?」
「は?」
「一緒にごはん♪ そういうのが大事なんだって、おばーちゃんが言ってたんだー」
言われてみれば……誰かと一緒にメシを食うのは、久しぶりだったかもしれない。
実家を出て東京に来て、大学ではあまり誰かとメシなんてしなかった。就職して最初の頃は上司や同僚と昼を一緒になんてこともあったが、次第に消えて食事のときはいつも一人だった。特に夜、こうして誰かと食事なんてしたのは実家にいたとき以来かもしれない。
「……まぁ、少なくとも寂しくはない……よな」
素直には同意できずそう答えると、メイはなんだか楽しげにニコニコ笑った。
「さ、さっきからなに笑ってんだよ?」
「や、ちゃんと感想言ってくれたの嬉しくってさー。フツー、いきなりどっかのJKが作った料理なんて食べたくないじゃん? なのに思春期の運動部男子みたいにガツガツ!」
「わ、悪かったな。思った以上に美味かったもんでつい……」
「アハハハ! おにーさん、やっぱイイ人だよね」
「こ、今度はなんだよ? いいからさっさと食えって。あとでアイスもう1本やっから!」
「ん♪」
家族でも親戚でもなければ、恋人でも友達でもない。
出会ったばかりの女子高生と──二人きりの珍妙な夕食タイム。
でもそれは、なぜだかホッと落ち着ける心地よい時間で。
すべての料理は、あっという間にテーブルから消えていったのだった。




