ホテルのプールでエッチなお仕事!?
それからメイにアイロンを掛けてもらったピシッとしたワイシャツに袖を通し、クールビズスタイルで準備完了。
最後に玄関前で鏡をチェックしていたら、メイが「んふふ」と笑った。
「ん? なんだよ?」
「や、おにーさんのシャツ姿久しぶりに見たかなーって。てかそんなラフなカッコでいいの? スーツは?」
「いや軽装でいいんだってさ。つってもTシャツとかで行くのはちょっとってなると、まぁこんなもんかって」
「ふーんそうなんだ。んじゃこれ。はいっ」
そう言って、メイは後ろ手に持っていたハンカチに包まれたなにかを俺に手渡した。
「ん? メイ? なんだよこれ」
「おべんとっ。冷蔵庫の残りモノとか朝の余りで作っといたの。メインは夏だから梅干しのおにぎりね」
「えっマジか。なんか悪いな」
「まぁまぁ? 頑張るカレシカッコカリを見送るJK嫁カッコカリですから~? 思う存分感謝してくれればいいよ~♪」
「いつまでそのノリやるんだよ……。けどまぁ、ホントありがとな。いただくよ」
「ん! お仕事ガンバってね! ってか今日のバイトってどんな仕事? どこまで行くの? あっ訊いてもいいヤツ?」
「ああ、そういやまだ言ってなかったっけ? 都内のホテルなんだけどな。割と近くだよ」
「えっホテル!? ……なんかエッチなお仕事じゃないよね? ママ活とか!」
「んなわけないだろ! ホテルの中のプールだよ! ほらなんかちょっとイイカンジの高級ホテルとかによくプールあるだろ!」
「ホテルのプールでママ活!? やっぱエッチなお仕事じゃん!」
「なんでだよだから違うっての! 監視員! よくあるプールの監視員バイト! そのホテル版!」
そこまで言うと、メイはようやく「あ~!」と得心したように手を打った。なんだよママ活って俺がそんなもんされる側の人間か?
「でもホテルのプールに監視員とかってフツーいなくない? イイトコだとそういうのもあるのかな?」
「さぁな。俺もたまたま知り合った人に紹介してもらっただけでまだよくわからんけど、仕事内容的にはフツーの監視員バイトと変わらんらしいぞ。大学の頃にそういうバイトやってたことあるからさ、なおさら是非ってことだったんだが」
「は? たまたま知り合った人? ってことはフツーの求人じゃないってこと? ナニソレやっぱなんか怪しくない? 大丈夫なヤツっ?」
「ま、まぁ大丈夫だとは思うが」
「ちょい待って。もちょっと詳しく話してよ。こんなご時世だしなんか心配なんだけど!」
「わかったわかった。実はちょい前にだな──」
以前のことを思い出しながら、メイに説明をする俺。
──それは、メイに部屋の合い鍵を渡した夜のことだった。
『つーか、付き合ってもない年下のJKに合い鍵渡すとか……俺もどうかしてんなぁ』
そんなことを思いながらメイを見送ってアパートへ戻る途中、妙な人を見つけた。
『……ん?』
海浜公園の片隅。夜で人通りも少ないその場所で、1人の女性がある自販機の前でおろおろしていた。
自販機のLEDに照らされるのはブロンドの髪と白い肌。年齢は20後半くらいだろうか。遠目からでもすごく綺麗な女性だとわかる。ちょっとメイに似てるか……なんて思ったその顔は、今にも泣きそうであった。
少し周囲を探ってみたが、付き添いの人などもいないようだ。インバウンドの観光客はもはや珍しいものでもないが、夜中に若い女性が1人でというのはあまり見かけない。それにどこかビジネススタイルな格好をしていたので、観光客でもないだろうという気はした。そして鞄にはアニメキャラクターらしきぬいぐるみやキーホルダーがめちゃんこいっぱい付いている。推し活ってヤツか?
だが話しかけようにも相手は外国人。英語などろくに話せないぞと気後れしていたところ、キョロキョロ辺りを見回していた女性がこちらを見る。
──目が合った。合ってしまった。
途端に女性はパァと表情を明るくする。さすがにこれで放っておくことはできなかった。
俺はそちらまで駆け寄ると尋ねた。
『あー、What's wrong? Are you okay?』
『あのあのすみませぇんっ! 自動販売機がおかしくなっちゃったみたいで、商品が出てこないんです~!」
『えっ? あ、そ、そうなんですか』
アニメキャラみたいなめっちゃ可愛らしい声色で流暢な母国語が帰ってきて呆然な俺。まぁ日本在住の方はこのレベルにペラペラな人もよくいるからな。緊張して損したわ!
が、そういうことならと俺も安心して自販機の前に立つ。
『あのあのっ、お金を入れても反応がなくって、ボタンを押してもなにも出てこなくってっ。これです! この癒やし系温泉アニメ『湯けむり温泉郷シリーズ』のコラボ缶が欲しくってようやくようやく見つけたのですが買えないんですぅ~!』
『ああ~、最近よくあるタイプのコラボ商品ですね。それで、お金は戻ってきましたか?』
『ダ、ダメでしたぁ。レバーを引いても戻ってこなくって、こ、こんなこと初めてなのでどうしていいのかわからなくって』
『なるほど。となると故障かもしれないですね。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません』
『えっ?』
『──あ。いやついクセでというか。あ、あはは!』
前職の影響かすぐに謝ってしまった俺。
だがそれも無理はないだろう。なんたってこのZマークが刻まれた自販機は──先日まで俺が勤めていたゼッタードリンクのモノだったからだ。




