12話 夢の跡
あの武士には、魔眼は効かなかった。
そう、この戦いは、純粋な技のぶつけ合い。
何か、群を抜くような超能力が、あるわけではない武士であるが、幾千の戦いの度にその技を磨き上げていた。
勇は、守るので精一杯なのである。
少しでも気が抜ければ、命は、無いだろう。
けれど、2人にとって、お互いに負けられない。
1人は、前に進むため
1人は、大切な人のため
武士は、言う。
「志信のたろう影時
その日の出立装束は
肌に取りては
紺地錦の直垂に
卯の花卸の大鎧
五枚兜の緒をしかと締め
重藤巻きの大弓をしかと持ち
いかにも疾き駒に打乗りし
真先かけし 有様は
いつにも勝れて華やかなり
前の川原を見渡せば
真地晴にて ききよせれ
よせればよせれ
八つ花形と言者に
拙者は…
命をさかえて戦うたり」
勇は、剣と刀の打ち合いに、怯んでしまい、武士は、その一瞬の隙を見逃さない。
刀を振り下ろす瞬間のことだった。
武士の動きが、ぴたりと止まった。
「刻限のようです。拙者の体は、持ちませぬ」
影時の体の半分は、消え去っていた。
「勇殿の勝ちです。その力を正しき事にお使い下さい」
勇は、力強く頷いた。
「勝者、拙者の扇を。多少の魔除けになりましょう」
扇を受け取りその場を離れる
「気高き武士、影時殿、さようなら」
そこに、ある武士の影は、独り言を告げ、消えた行った。
「我が主、月の綺麗な夜ですね…」
登場人物紹介
志信のたろう影時
気高き武士
最後まで主を守り抜き
次の者に繋げて消えた




