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好感度が見えても上手くいくとは限らない  作者: かませ犬


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7. 紳士と髪型

 白髪のオールバック、銀縁の眼鏡越しに見える青色の瞳、口元に生えた髭、日本人とか違う彫りの深い顔、そして燕尾服。


 振り返った先にはいたのは漫画やアニメから飛び出てきたのか思うほど、非現実的な姿をしたジェントルマン。


 少なくともこの町で、こんな格好の人は見たことはない。ぶっちゃけ、浮いている。通行人からの視線が注がれているのが正直恥ずかしい。


「おっと、ミーとした事が挨拶を忘れていたネ」


 そんな俺の心境を知らないらしいジェントルマンは俺の肩に置いていた手をそっと退けてから、数歩後ろに下がる。


 改めて目が合った俺に微笑むと、その見た目を決して裏切らない美しい動作で俺に対して一礼した。


「ミーの名前は朝倉キッド。もし、良ければボーイの名前も教えてくれないかな?」


 少し癖はあるが、滑らかな日本語を喋っている。日本に旅行にきた外国の人ではない。名前から察するハーフの人だろうか?一人称がミーとは思えないダンディな声が耳を通り抜ける。




 ───初対面だ。



 俺はこの人に会った事は一度もない。中学に通ってた頃も、当然だが引きこもりの時期もこんな特徴的な人と会った事はない。もし、会っていたら忘れる筈がない。


 つまり。初めて会う人だ。


 それはいい。俺がなんだこの人はと、思ったタイミングで、直ぐに挨拶してくれたのも好感を持てる。


 声は優しかったし、こちらを気遣うような気配りがこのジェントルマンからは伺えた。


 加えてジェントルマンの頭上に浮かぶ数字が『67』と、初対面とは思えないほどに高い。俺に対する好感度がこれほど高いという事は、悪意を持って俺に接してきた訳ではないだろう。


 ただ、ずっと尾を引いているのがジェントルマンの第一声だ。


『そこのボーイ! ミーのメイドカフェで働いてみないかい!?』


 言葉通りの意味であるならば、このジェントルマンは俺を雇いたいから声をかけたのだろう。なんで?


 いや、本当になんで?


 お店に行った訳でもなければ、面接に行った訳でもない。ただ、散歩をする為に歩いていただけの俺を見て⋯⋯かけた言葉がそれ!?


 理解が追いつかない⋯⋯いや、まて。冷静になれ。


 一人で考えようとするから答えを出せずに混乱するんだ。相手が友好的に接してきているのであれば、会話で引き出せばいい。


「朝倉キッドさん⋯⋯ですか」


「イエス!!気軽にキッドさんって呼んでくれて構わないよ!」


「それじゃあ、キッドさんって呼ばせて貰います」


「グッド!!」


 ジェントルマン、改めてキッドさんは胸に手を当ててまた一礼した。


「それはそうと、さっきはソーリーね。初対面なのにいきなり声をかけて⋯⋯びっくりしたよね」


「それは⋯⋯まぁ」


 見た目通り紳士的な人なんだろうな。声や接した方がこちらを気遣ってくれているのが分かる。


 悪い人ではないと思う。


 正直、人を見る目がある方ではないが、数字は嘘をつかないからな。俺に好意を持って接してきてくれている人だ。名乗っても問題はないだろう。


「すみません、名乗るのが遅れました。柊 翔人です」


「おお、素晴らしい名前ネ!ボーイにとても似合ってるよ」


「ありがとうございます」


「挨拶も済んだ事だし一つ提案だ。ボーイが良ければだが、場所を移さないかな?どうやらミーとボーイはスーパースター並に人の目を惹きつけるらしい」


 キッドさんに言われて周囲を見渡すと、言われた通り俺たちを遠巻きに見ている人がちらほらといる。


 ───うん、気持ちは分かる。


 俺も当事者じゃなかったら同じように遠巻きで見ていた可能性が高い。いや、気になるよそら。


 ジャージ姿の少年が燕尾服のTheジェントルマンに絡まれていたら誰だってその現場を見る。


 好奇心もあるだろうし、正義感の強い人だったらいつでも助けにいけるように目を離さないだろう。


 けど、今はやめて欲しいな。キッドさんに言われて気付いてしまったら⋯⋯視線を凄い感じる。全身が穴だらけになるんじゃないかってくらい視線が飛んできてる。


「場所を移す⋯⋯ですか」


「イエス!そこにカフェとかどうですか?」


 これで変なところに連れて行かれたりは⋯⋯しなそうだな。


 キッドさんが会話の席として提案してきたのは昔からある喫茶店だ。親父と何度か行った事があるのでどういう場所かわかっているので安心感がある。


「それじゃあ、中へGOネ!」


 前を歩くキッドさんに付いて入店すると、見知った店主さんが空いている席に案内してくれた。


「ここの支払いはミーが持つから好きな食べ物、飲み物⋯⋯どんどん注文していいよー」


「ありがとうございます」


 散歩する為だけに出てきたので、財布は持ってきていなかった。正直ありがたい提案なので、甘えさせてもらおう。


 人の金で食べる飯が一番美味い、なんて言葉もあるが⋯⋯あれは一定の関係値がある場合に限ると思う。


 キッドさんは遠慮なく頼んでいいよと、声をかけてくれてはいるが、どうしても申し訳ない気持ちが勝ち、メロンソーダだけを注文する結果となった。


 ちなみにキッドさんはホットコーヒーだ。


「流石に店内までは来なかったネ」


「そうですねー」


 窓の外を見ると俺たちを遠巻きに見ていた人が、一人また一人と離れていくのが目視できる。遠巻きで見る程度には興味はあるが、店内まで入ってくるほどの関心はないらしい。


「さて、飲み物が届く前にミーの自己紹介といこうか!ミーの名前はさっき言ったから省くよ」


「あ、はい」


「ミーはこの先におる商店街、ライオン通りにお店を構えているマスターネ」


「なるほど⋯⋯」


 小学生の頃の話だが、親のお遣いでライオン通りまで何度か買い物に行った覚えがある。中学に上がる前に先程見ていたスーパーが出来て足を運ぶ機会はめっきりと減った。


 シャッター街と呼ばれるほどではないが、お店を閉めたところも多いと聞いている。昔通っていた場所から人が離れていっている。寂しいことだ。


 キッドさんがお店を構えている場所は、昔パン屋さんがあった場所だ。


「ボーイはメイドカフェって知ってるかな」


「知識だけは」


 店舗を屋敷に、お客さんを家主に見立て、給仕などのサービスを提供するカフェ。正直、言った事はないがテレビはSNS等の動画で見た事はある。


「ミーは最近、メイドカフェをオープンしたばかりなんだけど⋯⋯店員が足りなくてネ」


「俺に声をかけたって事は裏方ですよね?キッチンの人が足りてないんですか?」


 メイドカフェなので、主役はもちろんメイドさん⋯⋯つまり女性だ。男の俺にメイドカフェで働かない?と声をかける場合は裏方だろうと、予測を立てる。


 けど、その場合はなんで俺なんだ? キッチンに立つならある程度の料理スキルは必要だろう。それは道を歩いている人を観察して分かるようなものではない。


「ノーノー!ミーがボーイに声をかけたのはボーイに給仕として働いて貰いたいからさ」


 脳裏に、メイドを服を着た自分の姿が浮かび、即掻き消えた。ないないないないない。


「俺、男ですよ!メイド服は絶対似合いませんよ!」


「そうかなー?」


 そんな不思議そう顔をしないで頂きたい。絶対に似合わない。断言する。


「なら、バトラーならどうだい?」


「バトラー?⋯⋯執事って事ですか?」


「イエス!メイド服が嫌ならバトラーとしてお客さんに給仕するのはなら?」


 それなら別に拒否感はない。メイド服は男のプライドにかけて着れないだけなので、執事の姿になるのは⋯⋯まぁ気恥しいだろうが、大丈夫だ。


 って、なんで俺はキッドさんのお店で働くていで考えているんだ? そんな気はなかっただろ、俺。一息吐く。


 そのタイミングで注文していた商品を店主さんが運んできてくれた。俺の元にバニラアイスが乗ったメロンソーダが、キッドさんの元にはホットコーヒーが。


 店主さんが離れていたタイミングで、俺から声をかける。


「キッドさんのお店はメイドカフェですよね?バトラーとして働くのは⋯⋯違うんじゃないですか?コンセプト的に」


「問題ないよ!メイド&バトラーカフェに改名すればいいネ!」


 いや、そんな簡単に変えていいものなのかそれ。


「というより、俺⋯⋯まだ働くとは言ってない」


「それはミーも分かってるよ。ボーイが働いてくれたらとって嬉しいってだけ。最初はボーイがメイドさんとしてお店で働いてくれたら華が増えると思ってネ」


「キッドさんって目が腐ってますか?」


「oh⋯⋯。言葉がナイフネー!」


 俺に声をかけたのはメイドとして働いて貰いたいから? つまりキッドさんは俺を見て女装した俺の姿を思い浮かべた訳だ。


 鳥肌が立った。普通に気持ち悪い。


「あの、気持ち悪いんで帰ってもいいですか⋯⋯」


「待って、待って欲しいネ!ボーイにはそれだけの素質があるって事ネ!」


「女装の素質があるって風にしか聞こえないので、いい気分はしないです。もういいでしょうか?」


「NOーーーー!!お願いデース!もう少しだけ話を聞いて欲しい!一生のお願いデース!」


 外国人みたいな見た目の人に一生のお願いって単語を言われると思わなかった。それでも席を立とうとすると、素早い身のこなしで床に座り込み、そこから見事な土下座を披露。


 お客さんが少ないとはいえ、狭い店内で土下座なんてすれば注目の的だ。人の視線があまりに痛い。


「あの、話を聞くんで⋯⋯やめて貰っていいですか?」


「帰らない?」


「ひとまず、話を聞き終わるまでは」


「ありがとうございまーす!!」


 この人、もしかして性格悪いじゃないかって思い始めてきた。全て計算づくでやってるなら中々に腹黒いぞ。


 キッドさんが席に着くのを確認してから、ため息を吐く。これは当てつけのようなものだ。仕返しだ⋯⋯くそが。


「ソーリー!!ミーとした事が恥ずかしい真似をしてしまいました」


「それは本当にそう⋯⋯」


 他のお客さん、さっきまで気にもしてなかったのに一度見てしまったから気になってしまって仕方ないのかチラチラとこっちを見てるぞ、おい。


 場所を変えたのにまた視線を感じてる。凄い居心地が悪い。


「弁明させて欲しいよ。ミーがボーイに声をかけたのは素質があるからネ!」

 

「メイドさんの素質だったらもう話は聞きませんよ」


「違う違う違う違うネ!メイドさんの素質もあるけど、ボーイの素質は別!」


 俺の事をキッドさんが急に指さす。


 人の事を指さしてはいけないって教わらなかったのだろうか?


「ボーイはダイヤの原石ネ!髪型のせいでかなりマイナスが入ってるけど、それでも人の視線を惹きつけるルックス!!メイドさんはもちろん、バトラーとしてもお客さんを魅了すること間違いないよ!」


 キッドさんが興奮するように叫んでいるせいか、また人の注目が集まっている気がする。やめてくれ。


 というより、髪型をディスられたか今? いや、まぁディスられても特に思う事はない。時間をかけて髪をセットした訳でもなければ、美容室に行って髪を整えて貰った訳でもない。


 三年前から伸ばしっぱなしの長髪だ。窓に反射した自分を見ると所々寝癖で跳ねているのが分かる。これは恥ずかしい。


 とにもかくにも、キッドさんが俺の心を取ろうと言葉巧みに語っているがまるで響かない。


 人の視線を惹きつける容姿(ルックス)?お客さんを魅了するに違いない? 嘘にしたってついていい嘘と悪い嘘がある。


「キッドさん、俺にはそんな素質はないです」


「ノーノー!ボーイにはそれだけの素質がある!磨けば光る!間違いないネ!」


「だったら⋯⋯なんで俺は中学の時モテなかったんですか⋯⋯」


「それは⋯⋯ミーにも、分からないネ」


 それが答えた。人を惹きつけ、人を魅了するルックスがあるのなら俺は中学の時にモテた筈だ。


 キッドさんが語る通りなら⋯⋯俺は、クラスメイトに嫌われる事もなかったんじゃないか?俺の話を信じず、クラスの人気者の流した噂を信じたのは全て『人』を見ているからだ。


 イケメン、学力あり、更にはサッカー部のエース。それだけで捏造された噂を本当のようにみせた。


 俺にもし、人を魅了するルックスがあったなら⋯⋯クラスメイト全員が敵なんて事はなかった筈だ。つまりキッドさんが言っている事は嘘。


 俺を丸め込む為のおべっか。


「えーと、⋯⋯そうネ!髪型!ボーイは中学の時どんな髪型をしていたネ?」


「俺がモテなかったのは髪型が原因だと!?」


「いや、断言は出来ないけど可能性高いんじゃないかと!」


 中学時代の俺の髪型か。


「⋯⋯坊主でした」


「NOーーー!!!!」


 ちなみに野球部だった。

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