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好感度が見えても上手くいくとは限らない  作者: かませ犬


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6. メールと一歩目

 朝の目覚めはいつもよりスッキリとしたものだった。


 規則正しい睡眠時間で就寝したからじゃない。俺の中にずっと溜まっていたものを吐き出せたからだ。


 誰にも言えず、ずっと抱え込んでいた。


 猫大福さんのお陰で俺も気持ちの整理がついた気がする。といっても人を簡単に信用できないって考えは何も変わっちゃいない。


 この目に人の好感度が見える以上、嫌でも向き合ってしまう。信用を寄せれば寄せるほど裏切られた時のショックは大きい。それはもう、十分すぎるくらい分かってる。


 猫大福さんは違う。


 俺がこれまで接してきた人達と⋯⋯違うって信じたい。猫大福さんまで、本当は俺の事を嫌っていたら?そう考えたら怖くて仕方ない。


 だから、俺と猫大福さんの距離感はこのままでいい。顔を見なければ俺は真実を知ることはない。


 いつものように楽しく、一緒に遊べれば⋯⋯それでいいじゃないか。


「ん?」


 スマホを見ると猫大福さんからメッセージが届いていた。どうなら俺より少し早く目が覚めていたらしい。


 いつものように遊ぶ時間の約束かと思ったら違う。どうやら猫大福さんは今日は日中予定があるみたいで遊べないそうだ。


 ゲームで遊べるのは夕方以降。猫大福さんは18時から遊ばないかと提案してくれている。


 珍しいな、と思いながら了解と返事を返しておく。


「さて、どうしたものか」


 時計は6時を指している。


 朝早く目覚めてたのもあって、猫大福さんとの約束の時間までが果てしなく長く感じる。一人でゲームをする? 正直そんな気分ではない。


 とはいえ、猫大福さんと違って俺には予定がない。つまるところ暇だ。


 どうしたらものかと、思考を巡らせていると⋯⋯知らないアドレスからメールがきている事に気付いた。届いたのはほんの5分前。


 迷惑メールの類いだろうな。見る価値はないと判断して慣れた手つきで消そうとした。件名に何も書いてなかったので怪しさしかない。


「あっ⋯⋯」


 よくあるスマホの誤タップで、メールを開いてしまった。とはいえ、迷惑メールを開いたらウイルスに感染する訳ではない。


 多くはメールの本文に記載されているURLを踏んだり、添付ファイルを開いて感染するものだ。だから問題はない。


「え?」


 正直、気にもとめていなかったメールの本文。


 けど、一瞬視界に映ったその一文は俺の目を引き付けた。何の変哲もない、メールの送り主が誰かを表す挨拶の言葉。


【急なメールで申し訳ない、山神(やまがみ) (いつき)だ。】


 そこにあったのは、親父の名前だ。


 見覚えのある苗字。知っている文面。間違いない⋯⋯親父だ。


 送り主が誰か分かった瞬間から俺の中で削除する選択肢は消えていた。


 メールにはこう続いている。


【知らないアドレスからのメールでびっくりした事だろう。訳あってアドレスを変えてこの文を送っている。


このメールは届いていても届いていなくても構わない。返信もまた、期待していない。俺はそれだけの事を翔人にしてしまった。


俺は、最低な父親だ。


親としてあるまじき行いをした。俺は、親友に諭されるまでそれを理解できず逃げるように仕事に打ち込んでいた。


今更、こんなメール送る資格すらないのは承知している。


だが、もし⋯⋯まだ、翔人が俺の事を父親だと⋯⋯親父だと思ってくれているのなら、このメールに返信して欲しい。


もう一度、翔人と会って話がしたい。


最低の親の、最低な我儘だ。


無視してくれても構わない。削除してくれても構わない。翔人が望まない限り俺はもうお前にメールは送らない。


翔人の意志を尊重する。


ここまで読んでくれてありがとう。


もしかすると、これが最後のやり取りになるかも知れない。だから最後に言わせて欲しい。


俺にとって、翔人と過ごした14年は偽りなんかじゃない。親子として過ごした14年間だった。


その事に気付くのが遅くなってしまった。俺は、本当にどうしようもない父親だった。


くだらない感情に流され、翔人に当たってしまった。


愚かな父を許さないくれ。


そして願わくば⋯⋯、いつか翔人が俺に語ってくれたように。


楽しい日々を、大好きな人と笑って過ごせる毎日を過ごしてくれ。】




 なんで、今更こんなメールを送ってくるんだろうな。親父の中で一体どんな心境の変化があったんだ⋯⋯。


 残念な事に俺は親父じゃないから、心境は分からない。


 文面の通り受け取るのならば、親父はあの日の事を後悔しているらしい。


 メールの中に出てきた親父を諭した親友のお陰か、あるいは3年の月日が親父に気持ちの整理をする時間を与えたのかも知れない。


 俺も同じだよ、親父。


 3年前にこのメールを受け取っていたら、親父の気持ちを汲むことなどせずに削除していた。ふざけるなってスマホを投げていたかも知れない。


 それだけあの日の事はショックだったし、未だに悪夢で見ることだってある。親父も被害者だって分かってるのに⋯⋯それでも、許せない自分がいた。


 親父と過ごした日々を、一緒に笑って、一緒に泣いた、これまでの人生全てを否定された気がしたから。


「猫大福さんに感謝だな」


 親父からメールを読んでも、平常心でいられるのは心に余裕があるからだ。


 自分の中に溜め込んでいたものを全て吐き出す事ができた。不満も鬱憤も、自己嫌悪も⋯⋯全部、猫大福さんが受け止めてくれた。心を救ってくれた。感謝してもしきれない。


「⋯⋯⋯⋯」


 俺と、もう一度会って話がしたい⋯⋯か。


 期待していいのか?


 また、裏切られるんじゃないのか?


 上辺だけの謝罪を口にして、本心はまるで変わっていなかったらどうする?


 親子である事を否定した人間の言葉⋯⋯俺は信じる事ができるのか?


 家族じゃなくて⋯⋯今は他人でしかない男の言葉を───。


「⋯⋯女々しいな、本当に」


 最悪ばかりを想像して、引きこもって動けずにいる。


 それじゃダメだって分かってるのに前に進めずにいる。


 怖いんだ。もう一度裏切られるのが。信じたものが、砂のように崩れていくのが⋯⋯。


 どれだけ言葉で着飾っても⋯⋯俺の目は真実を見抜いてしまう。この目で好感度が見えてなかったら、その嘘を信じて苦しむ事もなかったのに⋯⋯。


「弱いな⋯⋯俺は」


 3年前から何も変わっちゃいない。


 時間は過ぎているのに、俺はずっとあの日の事を引きずっている。


 いい加減⋯⋯吹っ切れろよ。


「⋯⋯⋯⋯」


 スマホの画面には親父が俺宛に書いたメールが映っている。このメールを俺に送るまで経過した年数は3年。


 親父もまた⋯⋯ずっと苦しんでいたんじゃないか?


 ───なぁ、親父。


 愛した人に裏切られて、息子と思っていたものが偽りだって⋯⋯全てを知った時⋯⋯親父、どういう想いだったんだ?


「⋯⋯俺も、」


 いい加減、前に進まないといけないよな。


 こんな日々を過ごしていて、いい訳がない。


 嫌な現実から逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて。


 部屋に引きこもっても何一つ変わらないだろ。


 先のない生活だ。堕落の日々だ。


 それが子供の頃に描いた未来(おれ)か?


 違うだろ。


「ごめん、もう少しだけ待っててくれないか」


 スマホに映るメールを見て謝る。


 ───今の俺に、親父に会う勇気はない。


 また、裏切られたら⋯⋯その時はきっと立ち直れなくなる。怖いから⋯⋯まだ会えない。


 けど、俺もこのままじゃダメだってずっと思ってた。だから、俺も前へ踏み出すよ。


「親父に会う⋯⋯当分の目標はそれで決まりだな」


 我ながら⋯⋯低い目標だ。


 けど、今の俺じゃ⋯⋯その目標にすら届かない。まずはこの部屋を出ないとな。いつまでも引きこもってる訳にはいかない。


 親父だって⋯⋯引きこもりになった息子(おれ)に会いたい訳じゃないだろ? 俺も、今のままじゃ合わす顔がない。


「ありがとう」


 親父にそんな気はなかったと思う。けど、親父に背中を押された気がした。


「ん?」


 スマホの通知音が鳴る。猫大福さんからのメッセージが届いていた。


【18時に遊べるの楽しみしてるよ!それじゃ、また後でね!ウイングさんが日中ナニしてたか、遊ぶ時に教えてね⋯⋯】


「尚更、家に引きこもって場合じゃなくなったな⋯⋯」


 ゲームをしてた。ダラダラしてた。あまりにいつもと同じだ。話題としてあまりに弱い。


 さて、何をするか⋯⋯パッと浮かんだものでいいだろう。そうだな⋯⋯散歩でいいや。


 三年ぶりにこの部屋を出て、外に出てみよう。


 人は劇的には変わらない。けど、最初の一歩は誰だって小さなものだ。一歩一歩踏みしめて、今よりずっと成長して、胸を張って親父と会おう!





















 ───時刻は10時過ぎ。


 社会人や学生の多い時間帯を避けて、久しぶりに家を出た。三年ぶりに出た外は、俺が思っていたよりも普通だった。


 俺とすれ違う通行人は別に俺の事を嫌っていない。好いてもいない。それが普通で当たり前だ。


 学校のクラスメイトはみんな俺の事を嫌っていた。全員が敵に見えた。けど、学校の外へ出れば違うって事を当時の俺は知らなかった。


 小さな世界(コミニティー)で、現実は厳しいと⋯⋯打ちのめされて引きこもってただけか⋯⋯。


「いい天気だな」


 久しぶりに肌に感じる陽のぬくもりは暖かくて、自然と俺の足を進ませた。


 最初の一歩目だからちょっとの距離で帰ろうと思ってたのに、思っていたよりも普通な世界に拍子抜けして、少し気が大きくなっていたのだろう。予定よりもずっと、遠くまで歩いてきていた。


 昔はよくここまで買い物に来てたなー、なんて見覚えのあるスーパーを見ていると不意に肩を叩かれた。


 体が跳ねた。


 慌てて振り返るとそこに一人の男性がいて、






「そこのボーイ! ミーのメイドカフェで働いてみないかい!?」

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