3.軽いノリと重たい話
猫大福さんに相談するって事で、立ちっぱなしの状態から椅子に座り直して色々と準備をしていた。すると。
【猫大福が骨さんに射抜かれた】
以下のようにゲームのログがモニターに映る。また猫大福さんがモンスターに殺されたようだ。
これで猫大福さんが殺されるのはモニターを見始めてから4度目になるな。完全にリスキルされている。
『骨ぇぇぇぇ!!』
猫大福さんの怒りの声も聞こえてくるが。
【猫大福は骨さんに射抜かれた】
結果は無情である。
『くそっ!骨の分際でボクを笑うな!』
モンスターがプレイヤーを笑うなんて挙動はこのゲームには存在しないのだが、リスキルをされすぎておかしくなってしまったのだろう。
「大丈夫ですか、猫大福さん?」
『大丈夫じゃないよ!ウイングさん、早くこの忌々しい骨を倒して!はやく!役目でしょ!』
良かった。
まだ聞き覚えのあるミームを喋るくらいには機嫌はいいみたいだ。
「今助けに行きますから耐えてください⋯⋯あっ」
【猫大福は骨さんに射抜かれた】
「すみません⋯⋯」
『謝らなくていいから、早くきて!』
「了解です!」
さてさて、猫大福さんに相談に乗って貰うってなってるのに何故まだゲームをしているかと言うと、猫大福さんにできれば軽い気持ちで聞いて欲しいからだ。
何を話すかはまだ自分の中で決めきれていないが、家族の事を話すとなるとどうしても重たくなる。
ゲームをしながらだったら、話だけでなくゲームの方にも意識が向く分、重い話でも聞き流す事ができるんじゃないかと考えた。
俺自身が経験した事ではないが、普段のゲーム風景を思い返せば大丈夫だと思う。
「さて、猫大福さんは⋯⋯」
ゲームを操作して猫大福さんの現在地を確認する。俺が拠点として作った家からそれなりに離れた位置にいるのが確認できた。
リスキルされ続けているという事は猫大福さんはその地点にリスポーン地点を設置した訳だ。やり方は教えた訳だけど、どうして俺の拠点から離れた場所に設置したのかが疑問だな。
それはともかく。妹が突撃してくる前に作業していたのが宝箱の整理で良かった。安全な拠点で待機していたお陰で俺はモンスターに殺されるような事はなかったから。
「今から行きますね」
『早くぅぅぅ!』
あまりに悲痛な叫びだ。
早く助けてあげようという気持ちはあるが、まずは空腹ゲージの回復が最優先である。このゲームは空腹ゲージが減っていると体力が回復しないので気をつける必要がある。
よし、回復した。それじゃあ向かおう。
「それで猫大福さんに相談したい事なんですけど」
『今!?この状況で話すような内容かな!?』
猫大福さんの迫真の言葉に勘違いしそうになるが、このゲームは普段やっているFPSのような一瞬の油断が命取りの緊張感のあるゲームではない。
どちらかというと自分のペースでまったりとやるゲームだ。
モンスターとの戦闘はあるが、ここまで大騒ぎするようなものではないと俺は思っている。猫大福さんには申し訳ないけどね。
「以前、言いかけたと思うんですけど⋯⋯俺の両親、中学の時に離婚したんです」
『ボクの話聞いてた!?この状況でそんな重い話する普通!?』
マップを見た感じ、猫大福さんがいる場所まで30秒もあればつくかな。
「あ、後30秒くらいで着くのでもう少し頑張ってください」
『待って!待ってよ!話の転換にボクがついていけてない!まだウイングさんの両親が離婚したって話を受け止めている最中だよ!』
猫大福さんが必死に叫んでいる。
彼女には悪いがいいリアクションをするなと、ついつい思ってしまった。話を受け止めている猫大福さんからすれば重たく感じていそうだが、話している当人からするとその反応のお陰で非常に話しやすい。
「そうなんですよ。離婚なんてものは世の中でみればよくある事なんですけど」
『ないよ!⋯⋯いや、あるけど!当たり前みたいに言わないで、お願いだから!ボクの将来に希望が持てなくなるから!』
「あ、猫大福さん見つけました。今助けますね」
『どっちかに集中してぇぇ!』
マップの表記を頼りに猫大福さんを発見した訳だけど、猫大福がいたのはまさかの洞窟の中。モンスターは暗いところに湧く性質があるって説明したと思うんだけど⋯⋯。
それはまぁいいか。モニターをよく見ると猫大福さんが必死に逃げ回っており、彼女を狙うように5体の骨さんが矢を放っている。
なるほど⋯⋯この数は流石に初心者には無理だと納得した。いくら猫大福さんが初心者とはいえ、何度もリスポーンしてたらいずれはモンスターを倒せる。
けど、今回の場合は多勢に無勢。装備も整っていないのもあり、近付く前に5体の骨さんに蜂の巣にされていたようだ。
ゲームのログを見る限りだと、かなりの回数リス狩りされたみたいだな。それで倒すのは諦めて、殺されないように逃げ回るようになったみたいだ。それじゃあ何も状況が変わらない訳だが⋯⋯。
いや、猫大福さんの場合は俺が来るのを待てばいいんだ。俺が来れば状況が変わると分かっている。だから必死に逃げ回っている訳か!
それはともかくとして、俺が妹に兄妹は結婚できないと必死に説得している間も猫大福さんはずっと骨さんに殺されていた、なんて事はないよな?
そうであって欲しいと俺は切に願うよ。うん。
ひとまず助けるとしよう。今回の場合は相手が骨さんと事前に分かっていたので、シールドを作って準備は万端。骨さんごときに遅れを取ることはない!
「それで、俺の両親が離婚した原因っていうのが母親の不倫なんですよね⋯⋯」
『ヒーローみたいに助けてくれたのはカッコイイけど、話が重いよウイングさん』
まずは一体。シールドで迫ってくる矢を受けつつ骨さんとの距離を詰める。後は近付いて斧を振るだけ。
「ここだけの話、俺⋯⋯母さんの不倫相手との間にできた子供なんです」
『重いよぉぉ!ボクが想定していたよりずっと重いよウイングさん!本当に待って!いったん待とう』
「あ、はい」
『ゲームはプレイして、ウイングさん!骨さん倒してくれないとボクの方にも流れ矢が⋯⋯あっ!』
【猫大福が骨さんに射抜かれた】
目の前で猫大福さんが骨さんが放った矢に射抜かれて死んだ。その後、直ぐに近くに設置していたベッドからリスポーンしたのが見えた。
洞窟に置かれたこの場違いなベッドがこのゲームにおけるリスポーン地点になる。猫大福さんはこの洞窟を探索する為にベッドを置いてリス地を設置したと考えていいのだろうか?
『待ってって言ったボクが悪いけど、先に骨さん倒そう!後でゆっくりボクが話を聞いてあげるから!お姉さんからのお願いだよ』
「それもそうですね」
どうやら猫大福さんは骨さんと戦いながらでは話を聞く余裕がないみたいなので、まずは戦闘を終わらせる事を最優先にしよう。
と言ってもこの場にいるモンスターは骨さんだけ。対策もバッチリだったので、猫大福さんの必死さが嘘のようにあっさりと倒せた。
「とりあえず決着ですかね」
『うん、そうだね⋯⋯ボクはなんか疲れたよ。⋯⋯なんでだろうね』
イヤホンから深いため息が聞こえてきた。可哀想に。
「長時間、骨さんにリス狩りされ続けたらそら疲れますよ」
『それもあるけどさ⋯⋯って、ウイングさん、わざとやってるでしょ』
「まー、少しでも軽くなればって思って」
『気持ち分かるけど⋯⋯流石にそのレベルの話はボクもちゃんと聞いて、相談に乗りたいよ』
いつもより猫大福さんの声が優しい。
気を遣わせないようにしていたら、逆にってやつか。
俺も逆の立場なら、流石にゲームどころではない気がする。うん。凄い悪い事をした。ひとまず謝ろう。
「すみません⋯⋯」
『いいよいいよ、それくらいの事で謝らなくて。それに僕にもう少しプレイヤースキルがあればここまで大騒ぎする事もなかったし』
「それはそうですね」
笑いながら肯定すると、イヤホンから『そこは否定してよ!』と猫大福さんがツッコミを入れてきた。
うん、いつものやり取りだ。この方がずっと楽だな。
「ひとまず洞窟を出て俺の拠点に行きましょう。ここだとまた骨さんに襲われるかもしれないので」
『ゲームやりながらでいいの? 大事な相談みたいだけど』
「いや、相談というより⋯⋯聞いて欲しいだけですね。誰も言えなかったから」
『そっか⋯⋯ならお姉さんに任せなさい!ボクがちゃんと聞いてあげるよ』
妹たちには心配をかけたくない思いから、あの日の事や両親の離婚についてはずっと胸の内に留めてきた。相談すれば今より楽になると分かっていながら。
母さんとは、俺が離婚の原因だと責め立てられてから距離を置くようになった。
親父は⋯⋯あの日から一言も喋ってない。一番、話をしたいのはあの人で⋯⋯けど、一番顔を合わせにくいのも⋯⋯あの人だ。
だから誰にも言えずにずっと抱え込んでいた。リアルの友達にも相談出来なかった事だけど、ネットで知り合ったゲーム友達に俺はなんで相談しようって思ったんだろう。
いや、それはきっと猫大福さんの人徳かな。多分そうだ。
「こっちです、付いてきてください」
『ゆっくりね!ボク直ぐに迷子になるのウイングさんも分かってるでしょ!頼むよ』
「はい!」
洞窟に設置されたベッドを破壊して、リス地を初期地点に戻してから洞窟を出る。後は俺が作った拠点まで帰るだけなので、特に大きな問題はないだろう。
その道中で、なんで洞窟にリス地を置いたのか確認すると⋯⋯この洞窟にロマンを感じたから、なんて面白い答えが返ってきた。それでこそ猫大福さんだ。
「そういえば気になっていた事があるんですよ」
『なになに?』
「女性にこんな事を聞いていいのか、俺には判断出来ないのでダメだったら怒ってください」
『質問によるけど⋯⋯なんだろう? あっ!スリーサイズとかはダメだよ!』
猫大福さんとは、かれこれ半年ほどの付き合いになる。ほぼ毎日遊んでいると考えると短い付き合いではないと思っている。
その上で、タイミングを逃して聞き忘れていた事を今聞こうと思う!間違ってもスリーサイズではない。
「猫大福さんが歳上なのは分かっているんですけど⋯⋯お幾つですか?」
女性に年齢を聞くのはNGってよく言うけど、やっぱりダメだったか?
押し黙った猫大福さんに質問を間違えたと、自省し謝罪の言葉を述べようとしたその時だ。
集中していないと聞き取れないくらいの小さな声で猫大福さんが呟いた。
『32歳⋯⋯』
思っていたより上だった。




