23. 襲来
「行ってらっしゃいませ、ご主人様!メイド一同ご主人様のおかえりをお待ちしております」
「また来るねー!ツバサちゃん!マリにゃん!」
「お待ちしておりますご主人様!」
メイドカフェ初出勤にして面倒なお客さんを無事に送り出す事に成功した。
離れていく男性の頭上の数字は『59』。帰り際の言葉で分かると思うが十分に楽しんで、満足した筈だ。
やはりというか、年の功というか⋯⋯マリアさんは男性をたてるのが上手だ。お客さんも最初は見ての通り冷たい対応を取っていたが、料理を注文したり、一緒に写真を撮ったりする間に態度を軟化させていた。
それはひとえにマリアさんのトークスキルのおかげだ。男性を立てて自尊心を刺激する、見ていてお手本になる言葉選びだった。
だからこそ、歳───見た目に似合わない若いメイドさんの真似をすると違和感が出て、きっっつってなるわけだ。
それがなければマリアさんは十分にお客さんにメイドさんとして受け入れられる。キッドさんを説得できる材料ができたな。
「お疲れ様、ツバサちゃん」
「ありがとうございます」
お客さんの姿が見えなくなったのを確認して、二人で入口から移動する。すると奥の扉が開いてキッドさんがこちらに歩いてくるのが見えた。
俺たちと同じように笑顔をだな。上手くいったと確信しているようだ。
「どうだったよ、ボーイ?上手くできたかい?」
「マリアさんのサポートもあったのでなんとか⋯⋯」
これは本音だ。俺一人だったら好感度を気にしすぎて上手く接客出来なかったと思う。
「ツバサ君は初めてと思えないくらい上手だったわ。お客さんもずっとツバサ君を見ていたもの」
おしりとか、胸とかを特に凝視していたな。後半は顔を見て話してくれていたので最初よりはお客さんの印象が良かった。
「本来ならお客さん一人にメイド一人ですよね?」
「状況によるわね。今みたいに他にお客さんがいない場合は二人でつく事もあるし」
大きなお店みたいにメイドさんを指名みたいな事はしていない。お客さんがこのメイドさんがいいと、強く願った場合はそのメイドさんが対応にいく事はある。
従業員の少なさ故だな。
「次のお客さんは⋯⋯」
俺の言葉と共に三人とも入口を見るが今のところ人の気配はない。当分来ることはないかな。
「普段からこんな感じですか?」
「来ない日もあるよ。今日はどちらかと言えば早かった方ネ」
悲しい事実だ。
新人メイドさん入店と暖簾を出していてもお客さんは特に増えることはない⋯⋯と。
まぁ、今の時代はこんなアナログな宣伝ではなくSNSだな。
キッドさんから許可は貰っているから『メイド&バトラーカフェ』のアカウントをそのまま作成。
お二人はネットに疎いらしく、キッドさん夫婦の代わりに新人メイドの俺がSNSの広報を担当することに⋯⋯。俺でいいのか、本当に?
それこそ先輩メイドの学生の子とか、社会人の人とか?え?社会人の人は多忙で無理⋯⋯学生の子は? 性格的にやらせると危ない⋯⋯なるほど。
他に適任がいないという事で俺がSNSを担当か。とはいえ俺も素人である事に変わりはないからなー。詳しいやり方は後で根大福に相談しよう。こういう分野は得意って以前言っていたから。
ひとまずお店の情報をSNSで発信。その上で本日から新人メイドである俺が入店したと、告知しておく。
アカウントは作ったばっかりだから、宣伝効果はないに等しい気はするな⋯⋯。
「ん?」
「どうしたネ、ボーイ」
「いや、アカウントを作って直ぐにフォローされて⋯⋯」
お店の事を知っている人ならフォローしてくれると思って作成したけど、いくら何でも早くないか?
フォローしてくれた方は『コネまんじゅう』って人か⋯⋯うわ、この人フォロワー100万人超えてる⋯⋯。
そんな人がお店の告知に対して拡散してくれているのは助かるのだが、タイミングがタイミングだから怖くて仕方ない。
「あの、キッドさん」
「なんだい?」
「コネまんじゅうって人に心当たりありますか?」
キッドさんにスマホを見せるが、首を傾げるだけ。マリアさんに見せても同じだ。二人とも首を傾げている。覚えがない⋯⋯お客さんじゃないのか?
「何かまずい状況なのかネ?」
「いや、むしろ逆ですね」
フォロワーの多いコネまんじゅうって人が拡散してくれたお陰か、お店のアカウントのフォローが増えている。
普通に考えればいいことだ。
「なら、深く考える必要はないんじゃないか
ネ?たまたまボーイの投稿が目に付いた⋯⋯そういう事じゃないかな」
「そうですかね?」
俺の投稿がたまたま目に入り、行ってみたいと思ったからフォローした。よくあるSNSの使い方だ。おかしくはない⋯⋯。
それによく見るとこの人はうちの店以外にもメイドカフェ関連の投稿にいいねや、拡散をしている。
たまたまか⋯⋯。
「ひとまず、お店の事だと告知しておきますね」
「頼んだよ!」
幸先がいいに越した事はないけど、これでお客さんが一気に増えてもメイドさん少ないから対応できないんじゃないか?
それこそ取らぬ狸の皮算用か。
まずはお客さんが来てからだな、うん。
次のお客さんが来たのは17時を少し回ってからだった。
メイドカフェに来店するお客さんは圧倒的に男性が多い。メイドカフェのコンセプト的に男性が好むシチュエーションが多いからだと思う。
それでも女性客が全くいない訳ではない。メイドさんと話してみたいって思うのは何も男性だけではないからだ。
つまり、何が言いたいかというと⋯⋯俺にとって二人目のお客さんは女性だった。
「おかえりなさいませ⋯⋯お嬢様」
「ただいまー!!」
元気な挨拶と共にお店に来店してきたのは、地元では可愛いと有名な制服を着た女子高生。制服だけでどこの高校かが、分かる。
正直、それはどうでもいい。
俺にとって重要なのはその女子高生が知り合いであること。
最後に会ったのは中学二年生の時。あの頃に比べるとまた色々と大きくなって、綺麗になったと思う。また、変わらないところもある。
黒髪のショートボブ、三日月型の目、笑うとはみ出る犬歯。どれも見覚えがある。
けど、彼女の頭上に浮かぶ数字は俺の記憶とは大きく違う。
「新人メイドさんだよね!可愛い!!!」
───『67』。
初対面にしては高すぎる数字に目眩がする。かつての俺への好感度を知っているからこそ余計に、だ。
思い出すようにフラッシュバックする『3』の数字。完全にトラウマだ。
もうここまで言えば分かるだろう。
彼女は元、俺の初恋の相手。
そして恋愛に対してトラウマを与えた張本人。
───大葉 和葉。
俺の幼なじみだ。




