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好感度が見えても上手くいくとは限らない  作者: かませ犬


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19.言わない方がいいこと

 楽しい時間というものはあっという間に過ぎていくものだ。


 何が言いたいかというと猫大福さんやレオさんと楽しく遊んでいたらメイドカフェの初出勤の日になっていた。


 何を言ってるか分からないと思うが、俺も気付いたら日付が変わっていたので何が起きたか分からなかった。頭がどうにかなりそうだ。


 朝起きたら猫大福さんとゲームして遊び、休憩を挟んでからまた遊んで、夜中になったらレオさんも合流して三人で遊んで、満足して寝るという引きこもりにしか許さない生活をしていただけだ。


 それだけだと言うのに、気付けば二日も過ぎていた!


 うん、まぁ当然の結果である。


「ふざけてみたけど、まだ緊張してるな⋯⋯」


 心臓がドキドキしている。


 初出勤という言葉が脳裏に過ぎると鼓動が少し早くなった気がした。そりゃあ、緊張もするだろう。俺にとって人生初の仕事だ。


 学校や家の家事とは違う。仕事をこなしてお金を稼ぐ。社会人になった者が生きるために行う労働をこれから俺はこなさないといけない。


「大丈夫だ、俺ならやれる」


 深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


 部屋の壁にかけられた時計を見ると時計の針は12時を少し過ぎた位置にあった。あと15分もすれば家を出なければいけない。


「ふぅ⋯⋯」


 ご飯も食べた。髪型も佐藤さんに教えて貰った通りにセットした。必要ないとは言われたが念の為、準備した履歴書も鞄の中に入れてある。準備はバッチリだ。


 後は心の準備が出来るのを待つだけ。


「ここで足踏みしていても仕方ない!家を出よう」


 決心がつかないまま無下に時間を過ごしていた。このままではキッドさんとの約束の時間をすぎても家にいた可能性もある。


 いざ、働くってなるとプレッシャーを感じた。そんなダサい言い訳をして、部屋に引きこもって⋯⋯猫大福さんやレオさんに慰められながらゲームをしていた⋯⋯そんな可能性も見えた。


 ───それじゃあダメだ。


 今の生活がいつまでも続くとは限らない。だからこそ、一人で生きていけるように働く必要がある。今日はその最初の一日目だ!


 玄関を開けた俺は既に決心はついていた。


「さぁ、行こう」


 暖かい太陽の陽を浴びながら、家を出た。3分ほど歩いた後、施錠のし忘れに気付いて戻ったのは内緒だ。


 それはさておき。


「やっぱり見覚えのある建物だ」


 家から20分ほど歩いた商店街に目的のお店はあった。


 中学生の時に何度か前を通った事がある。見覚えのある建物に見覚えのないファンシーなテナントが入っている。


 近くのお店が精肉店だったり、呉服店だったりするので明らかにこのお店だけが浮いているな。


 お店の入口を見上げれば『メイド&バトラーカフェ』と書かれた看板が設置されていた。キッドさんの仕事が早いのか既に店名が変わっていた。


 視線を動かす。入口の近くには暖簾が立っていた。パチンコ店の『新台入替』の暖簾ように新人メイドが入店と!デカデカと書かれた文字が風に揺れていた。


 正直に言おう。気後れしている。


 決心はついていたのだが、実際に目の当たりにすると俺に出来るのかと不安になる。新人メイド⋯⋯つまり俺、メイド⋯⋯メイドかぁ。


 レオさんのとんでもない過去の写真を見せられたのもあり、お客さんに不快感を与えないようにムダ毛の処理はしてきた。


 これだと、俺がメイドさんになる気満々のように聞こえると思うが念の為だ。俺はメイドとしてではなく、バトラーとして初日から働く心持ちで来ている。


 レオさんのあんな写真を見た後だと、どうしてもメイド服を着る勇気が湧かない。


「あっ───」


 気後れしていたのもあり、お店に入れずしばらく入口で突っ立っていた。するとお店のドアが開き、中からメイド服を着た壮年の女性が出てきた。


 第一印象は無理するなBB⋯⋯。


 危うく言ってはいけない事を言うところだった。口に出していないとはいえ、こんな失礼な事を思ってはいけない。


「あら、もしかして貴方がキッドが言っていた新人さん?」


「あ、はい。柊 翔人です。今日からよろしくお願いいたします!」


「翔人君ね。わたくしは朝倉 マリア。ご存知とは思うけど、キッドの妻で貴方の先輩になりますわ」


 そう言ってスカートの裾を持って上品な挨拶をしてくれたのだが、年齢を考えてくれと心中で思ったのは内緒だ。


 キッドさんと同い年という事は目の前の女性───マリアさんも還暦を迎えている。確かに60代とは思えないくらい若々しくはある。


 あらかじめ、年齢を知らなければ50代⋯⋯いや、40代後半くらいの女性だと勘違いしていた事だろう。


 キッドさんとお揃いの白髪を後頭部で団子のように丸めており、髪が顔にかかっていないのでお顔が良く見える。


 白い肌に薄い青色の瞳、高めの鼻に濃い眉毛。顔のパーツは無駄が一切ない。名前から察してはいたけど、マリアさんもハーフのようだ。顔が日本人とは違う。


 正直、美人だとは思う。


 ただ、年相応にほうれい線だったり、小じわが見えるのでどうしても老けて見える。何歳に見える?って聞かれたてもお世辞で『40代ですか?』って答えるのがやっとだ。


 うん。なるほど。


 クチコミでマリアさんに対する低評価が多い理由が実際に会って分かった気がした。おそらく、見た目にあった立ち振る舞いをしていないからだ。


 他の若いメイドさんみたいに『萌え萌えキュン』と魔法の言葉をかけるよりも、仕事の出来るメイド長のような立ち振る舞いをすれば、見た目とのギャップが生まれないのでお客さんも受け入れられるんじゃないか?


 歳を考えずに無理して若いメイドさんと同じような事をしているから、無理するなBB⋯⋯ゲフンゲフン、みたいことになって低評価に繋がっている。そんな気がするな。


 一人で納得していると、マリアさんがどうしたの?と声をかけてくれた。マリアさんに低評価が多い理由を考えてました!なんて口が裂けても言えないので、初出勤で緊張してますと答える。


「ふふふ、大丈夫よ。ここに来店するお客さんは優しいし、仕事も楽しいから直ぐに慣れますわ」


 その優しいお客さんが、低評価書いてます。とは言えない。


「それじゃあ中へどうぞ。キッドも準備して待っててくれているわ」


 マリアさんに促されてお店の中へと入る。


 メイドカフェってこんな感じかなって想像していた通りの内装だ。薄いピンクの壁、天井から降りるシャンデリア、個人から団体まで対応出来るように机は大小様々のものを用意している。


「お店はね、わたくしが拘ったの」


 口元に手を当ててマリアさんがふふふと笑う。


 壁の色からライトの位置、インテリア一つ一つに拘ったらしい。その話をよほど聞いて欲しいのか、口が回る回る。この話はいったい、いつ終わるのだろうかと遠い目をしていると、奥の部屋からキッドから出てきた。


「ボーイ!やっと来たネ!待ってたよ!」


 手を振りながら嬉しそうに笑うキッドさんは、以前出会った時と違いウェイターのような格好をしている。その上からエプロンを付けており、一目でキッチン担当だと分かる。


 いいなぁ、俺もその格好がいいな。燕尾服よりもそっちの方がしっくりする気がする。メイド服?論外だ論外だ。


「それじゃあさっそく着替えるネ!いつもより開店時間を遅くしてるけど、お客さまを待たせる訳にはいかないネ!」


「あ、そうだ。伝えておこうと思ったんですけど、俺メイドじゃなくてバトラーとして⋯⋯」


 キッドさんにメイドさんではなく、バトラーとして働きますと伝えようとした時、後ろから肩を強く掴まれた。


「メイドさんとして、ですわよね翔人君?」


「え、はひ?」


 くるんっと体の向きが代わりマリアさんと向かい合う形になる。


「キッドから男にメイドさんをやらせると聞かされた時は頭が可笑しくなったのかと心配しておりましたけど、翔人君を見て分かりました。この子は逸材だと!バトラー?もったいないからやめましょう。メイドさんに専念しなさい。そっちの方がずっといいわ」


 さぁ、着替えるわよ!と俺の返答をまったく聞かずに俺の背を押して奥の部屋へと連行する。スタッフフロアと書かれた扉を開けると直ぐに廊下が見えた。正面に扉少し歩いて右手にも扉がある。


「キッチンはこのまま真っ直ぐ行ったところで、右の扉を開けるとスタッフ専用の出入口と2階に繋がる階段がありますわ」


「なるほど⋯⋯」


「メイドさんの衣装に着替えたり、休憩を取る時は2階に休憩室があるのでそこでお願いね」


「はい」


 それじゃあ、2階に行きましょうと笑顔のマリアさんに促されて言われるがままに進む。笑顔なのに妙に威圧感があって逆らえない。


 ここまで来る途中でキッドさんに助けを求めたら顔を背けられたし、諦めるしかないのだろう。


 階段を登って2階に上がると廊下が続いており、部屋が3つあるのが視認できた。


 階段を登って直ぐの部屋が資材室。その隣が男性用の休憩室、その隣が女性用。廊下の突き当たりを曲がった先にトイレが男女別にあるそうだ。


「そこの休憩室に翔人君が着るメイド服があるから、まずはお着替えしましょう!メイクは後でわたくしがしてあげますわ」


「いや、あの⋯⋯俺は」


「もしかして、わたくしに着替えさせて欲しいの?」


「着替えてきます」


 何故か逆らえない。


 ため息をグッと堪えて男性用の休憩室に入る。中は意外とこざっぱりとしていた。


 目につくのは少し大きめのソファーだろうか?ベッド代わりに寝ることができそうなくらいの大きさ。触ってみるとフカフカだ。


 壁際には鍵付きのロッカーがあり、律儀に名札が付けられていた。キッドさんの直ぐ横に俺の名前がある。このロッカールームには貴重品とかを入れて、鍵を各自で保管しておくようにとマリアさんは言っていたな。


 着替えはロッカーの隣にあるハンガーラックにかけてあった。キッドさんが着ていたウェイター服と、俺がバトラーとして働く為の燕尾服、そして⋯⋯メイド服。


「メイドさんかぁ⋯⋯」


 気が乗らない。


 そうだ、昨日のレオさんから後で経験者としてのアドバイスをくれるって言っていたな。メイドさんの経験であるレオさんからのアドバイスだ。参考にしよう。


 スマホを開くとお昼前にレオさんからメッセージが届いていた。そのメッセージがこれ。




『可愛い可愛いってチヤホヤされて気持ちよくなるかもしれない!だからこそ気をつけろ!スカートを履いてても盛り上がるとバレる!だから勃起しないように注意だ!』




 ───スマホを叩き割りそうになった。

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