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好感度が見えても上手くいくとは限らない  作者: かませ犬


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13/25

12.ドラマのような

 あまりに物騒な宣告にチビるかと思った。兄としての威厳を保つ為に意地で耐え抜いた自分を褒めてやりたい。


「あたしから逃げんなよ、兄貴」


 俺の首元をそっと撫でる。実際にされた訳ではないが、明日菜に首を絞められる光景を幻視して身震いしてしまう。


「それじゃ、あたしは戻るから」


「了解。⋯⋯おやすみ」


「⋯⋯おやすみ」


 言いたい事を言って満足したのか、明日菜が部屋を出て行った。


 昨日の飛鳥と違い部屋の扉をしっかりと閉めてくれていたので、俺がわざわざ扉を閉めに行く必要ない。


 心の中でありがとうとお礼を言っておく。本来、これが当たり前のことではあるんだがな。


「あれで好感度がMAXじゃないんだよな」


 明日菜の頭上に浮かんでいた数字は感情的になる瞬間に上がっていったが、上限までは達していない。


 最終的な数字で言えば91と俺が見た中では二番目に高いけど、ぶっちゃけこの数字がどこまでがどのラインか、まだ分かっていないんだよな。


 同性か異性かによってまた意味も変わってくるし。飛鳥や明日菜の発言がなければ数字が高くても家族愛として、認識出来たんだが⋯⋯二人は違うようだし。


 この数字について深く考えるとなると、比較する為の材料がいる。今のところ俺を嫌っていたクラスメイトや家族くらいしか判断材料がないからな。


 キッドさんのお店で働いていれば、不特定多数のお客さんと接する機会も増えるだろうし、色んな客がいるから比較対象としてはいいかも知れない。


 それはともかくとして。


「ちょっと、疲れたな」


 精神的にくる疲労感からため息を一つ吐き、重たい足取りでパソコンの前に戻る。


 ボイスチャットに猫大福さんがまだいる事を確認。画面端の時間を確認すると30分ほど明日菜と話していたことが分かる。


 飛鳥の時と比べれば早く済んだと思うが、短くない時間待たせた事に申し訳なさを感じてしまう。ひとまず合流しよう。


 椅子に腰掛けて、イヤホンを耳につける。その瞬間。


『矢が届いてまちぇんねー。さっきまでの威勢はどこへいったんでちゅかー』


 猫大福さんの煽り声が耳に入った。


 まぁ、いつもの事だ。


 ボイスチャットはミュートにしたままゲームを操作してログを確認すると、俺が席を離れてから5回ほど骨さんに射抜かれているのが分かる。


「なるほど⋯⋯」


 ミュートなのでこの呟きは聞こえてはいない。猫大福さんの煽りといい、死亡ログといい、どういう状況か気になるのでゲームキャラを操作して猫大福さんの元へと向かう。


 それほど離れた距離ではなかったので一分とかからずに現地に到着。すると、骨さんをブロックで囲んで矢の届かない位置で屈伸煽りをする猫大福さんの姿がそこにあった。


 出来れば見たくなかった、というのが本音だ。


『骨畜生の分際でボクの邪魔をするなよ!ボクはウイングさんに褒められたくて、頑張ってたんだぞ』


 今の発言は猫大福さんを思うと聞かなかった方が良かったし、骨さんに対して行っている屈伸煽りも見なかった方が良かっただろう。


「あっ───」


 猫大福さんの背後から忍び寄る影がある。


 奴は多くのブロッククラフトプレイヤーに阿鼻叫喚を与えてきた悪魔。音もなく静かに近寄り、そしてプレイヤーを巻き込んで爆発する事から自爆くんと呼ばれている。


 猫大福さんは骨さんに向けて屈伸煽りをするのに夢中で自爆くんが近寄って来ている事に気付いていない。


 弓矢を持っていたら自爆くんを止める事ができるんだけど、今回は持ってきてないから見届けるしかない⋯⋯。ごめんね、猫大福さん。


『きゃっ!!』


【猫大福は自爆くんと一緒に爆散した】


 ドカンとゲーム音が鳴って、自爆くんと一緒に猫大福さんが死亡した。綺麗な屈伸煽りの最中の出来事だ。


 骨さんが動画配信でもしていたら、コメ欄が『ざまぁwwww』で埋まっていた事だろう。


 あ、でもよく見れば骨さんも一緒に爆散している。つまり───そして誰もいなくなった、状態か。


 喧嘩両成敗って事で!


 画面を指さし現場に異常がない事を確認、『よしっ』と呟いてから、猫大福さんがリスポーンしている拠点へと戻る事にした。


 タイミングとしてちょうどいいので、ミュートを解除して話し合いが終わったことを告げよう。


「今、戻りましたー」


『おかえりー』


 先程、骨さんに向かって屈伸煽りをしていた人と同一人物とは思えないほど、明るい声だ。


「すみません、遅くなっちゃって」


『その様子だと色々あったみたいだね。ま、聞かない方が良さそうだし言わなくてもいいよ』


「ありがとうございます。ちなみに本音は?」


『気になるに決まってるじゃん!昨日の今日だよ!妹さんは別の子みたいだけどさー、双子ちゃんでしょ?似るよね!?もしてしてって想像しちゃうじゃん!』


 俺が猫大福さんの立場なら確かに、気になる。昨日の会話をずっと聞いていたなら、尚の事だ。


 俺が言うのも何だが、俺の家庭環境はかなり特殊だ。両親が離婚しているケースは世の中で探せばないことはない。けど、双子の妹がいるというケースがまずは稀。


 更に加えると、妹から異性として見られているなんてまずは有り得ない。ゲームや漫画の世界だ。そんな有り得ない状況がマイク越しに聞こえてくるんだ。当然気になる。


 なんだったらその現場を遠目から見たいくらいだ。なので猫大福さんが興奮していても俺は共感できるのだ引く事はない。


「端的に言えば昨日と似たような状況になりましたね」


『ウイングさんの疲れきった声で察するよ⋯⋯ふふ。それでも昨日よりは早かったね』


「まだ物分りはいい方だったので⋯⋯」


『そっか⋯⋯でも、ボクとしては羨ましいな』


 羨ましい?


 妹に襲われる事が? 人によってはムフフな展開かも知れないが妹が生まれてから15年ずっと妹として接してきた二人に、性的な意味で襲われるのは結構メンタルにくるぞ。


『ウイングさんにはまだ言ってなかったけど、ボクには妹がいてね』


「そうだったんですか」


『うん。けど、ウイングの兄妹と違って仲は良くなくてね』


 猫大福さんの声が沈んでいる。


 聞いていいのか判断に迷うところだが、前回俺が相談に乗った時のように、人に聞いて貰うことで楽になる事あるかもしれない。


「俺に話して楽になるなら、聞きますよ。けど、言い難い事なら無理に言わなくても大丈夫です」


 人の兄妹仲を羨ましい、と思うレベルならおそらく猫大福さんの姉妹仲はかなり悪いのだと思う。勝手な想像だけどな。


『聞いてくれるかな?』


「俺で良ければ⋯⋯」


『ありがとう⋯⋯』


 いつになく元気がない。昨日の俺もこんな感じだったのかもしれないな。


『ボクはさ、愛人の子供なんだ』


「あの、⋯⋯猫大福さん?」


『ウイングさんも気付いてると思うけど、ボクの家はそれなりに裕福でね。それだけならいいんだけど、家格を重んじる古臭い家だったんだ』


「⋯⋯⋯⋯」


 重たい。思っていた数十倍重たい話が出てきた。


『いまどき有り得ないと思うけど、自由恋愛は許さないって⋯⋯父様は御祖父様が選んだ女性と結婚する事になった』


「なるほど⋯⋯」


『その当時、父様には家族に内緒でこっそり付き合っていた恋人がいたんだ。けど、二人の関係を知った御祖父様が持ってきた縁談を破談させる訳にはいかないと二人の仲を引き裂いた』


「なんというか⋯⋯昼ドラみたいな展開ですね」


 俺はあまりテレビ見ないので、実際に昼ドラを見た訳ではない。けど、提示版とかでたまにネタにされているから知っている。


 昼ドラは人間関係がドロドロしてるって。


『相手の家は仕事上で切っても切れない取引先。父様は家格の為に結婚を余儀なくされたんだ。愛してもいない相手との結婚⋯⋯辛かったと思うよ』


「そうだな⋯⋯」


 漫画やドラマなら家を捨てでも恋人を取るなんて展開もよくあるけど、実際にそれを選ぶのは勇気がいる。


 仕事や家、これまで培ってきた関係値。愛のために全てを捨てるのはそう簡単じゃない。


 猫大福さんのお父さんは受け入れる事を選んだ。それを責められる人間は捨てられた恋人くらいだろう。


『御祖父様にとっても父様にとっても想定外の事が一つあってね』


「なにがあったんですか?」


『父様と別れた恋人のお腹に、赤ちゃんがいたんだ』


「それが、もしかして⋯⋯」


 猫大福さんは愛人の子供と言っていた。


 そして先程の話。後は連想ゲームのように導き出せる。


『うん。ウイングさんの予想通り⋯⋯ボクだよ。といっても、父様がボクの存在を知ったのは母様と父様が別れさせられた10年後でね』


「⋯⋯⋯⋯」


『それまで一人でボクを育てようと無理をした母様が、過労で倒れたんだ』


 猫大福さんを生んだという事は、無理矢理別れさせられた後も猫大福さんお母さんは愛していたんだろうな。


 愛した人の娘だから、一人で必死に育てた。けど、無理がたかった。


『母様と父様には共通の友人がいたんだ。その人にも母様はボクの事は伝えないように、強く言っていたみたいだけど⋯⋯母様が倒れてそれどころではないって』


「それでその御友人から、猫大福さんのお父さんに⋯⋯」


 こんな⋯⋯ドラマみたいな話が本当にあるんだな。


『母様が倒れたと聞いて、家に内緒で母様の元に訪れた父様はそこでボクの存在を知った。その後、父様と母様との間にどんなやり取りがあったかは知らないけど⋯⋯』


「⋯⋯⋯⋯」


『母様が亡くなった後、ボクは父様に引き取られる事になったんだ』


 そこまで言い切った猫大福さんが、一息つくのが分かった。


 このタイミングなら俺も言えるかもしれない。


「猫大福さん⋯⋯俺が言えたことではないけど、重たいです」


『それが、昨日のボクの気持ちだよぉぉぉぉぉ!!』


 ───申し訳ない気持ちでいっぱいである。

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