間話 カガミの気持ち
【カガミ視点】
私は一度挫折した人間だ。
自分の過ちを悔い嘆き、酒に溺れ何も出来ずにいた人間だ。
しかし、運命とはこういうことを言うのだろう。一通の手紙が届いた。
それは、子供の頃にお世話になった孤児院の院長からだった。
内容は孤児院の子供に剣と魔法を教えてほしいというもの。
私は最初笑い飛ばした。
だが、手紙には受けてもらわなければ一人の少年が不幸になるかもしれないとあった。それは、自分の失態で仲間を失った身として受け入れがたいものがあった。
だから、院長の顔を見に行くと建前を自分の中につくり、私は孤児院に向かった。
思えばこの時から何かが変わるきっかけを感じていたのかもしれない。
孤児院で出会った少年は不思議だった。変に大人びておりこちらのことを常に気遣ってくれているようだった。
とても五歳の子には思えなかった。
ある日その少年ネロと中庭の隅で話をした。ネロはある男の話をした。努力しても報われなかった男があるきっかけ一つで報われる話。その話からネロは人は変われると言った。そして、私の気持ちにも折り合いがつくと。それまでの間でいいから教えを説いてくれませんかとお願いもしてきた。ネロが直接お願いしてきたのは初めてだった。
私は何かに誘われるようにそのお願いを聞き入れていた。
今でもはっきりとその理由は分からない。
ただ、何かが変わる気がしたのだ。
しかし、これが私の未来を変えることとなるのである。
訓練を引き受けたからにはしっかりとすることにした。
剣術は基礎から教え、魔法はネロの実力を見てから判断しようとしていた。
するとネロが私の事を師匠と呼びたいと言ってきた。断ろうとしたが押し切られた。だが、師匠と言って笑いかけてくるネロは可愛かった。
だが、可愛いところばかりではなかった。ネロの魔法は化け物じみていた。
伝説の魔法使いが再臨したと言われても納得できるほどだ。
私に教えられることは少なかったが、精一杯教えた。
ネロはメキメキ上達していく。それを見て眩しく思った。
この頃からだろうか。自分はこの子を育てる為にあの失態があったのではないかと考えるようになった。もし、私が普通に冒険者活動をしていたら絶対この依頼は受けなかったからだろうから。
だからだろうか、この子が大きくなればなるほど私の過去の罪悪感は消えていった。
それもありさらにネロを強くするために、冒険者になることを提案した。
ネロは了承してくれた。
この時にはもうネロは、魔法抜きでもB級冒険者ほどの強さがあった。
依頼を軽々とこなしネロは瞬く間にD級となった。またこの頃から文字の読み書きも教えることになった。私は自分の過ちをネロに繰り返して欲しくなくて、真っ先に魔物図鑑を読ませた。魔物の知識は生死を分けるのだ。
そして、D級になりダンジョンにも潜った。ダンジョン攻略は順調にすすんだが、五階層でネロが麻痺毒にやられた。麻痺耐性のある指輪をしていたとはいえ私は酷く焦った。この時、もしこの子を失うことはことになれば私は二度と立ち直れないかもしれないと思った。それほど、私の中でネロが大きな存在になっていたのだ。
ダンジョンをその後軽く攻略し、私は玄海一刀流の奥義を教えることにした。
私の二つ名神速の由来の技だ。
ネロはすぐに奥義を習得した。しかも、私よりも精度の高いものを。
天才とは恐ろしいものだと思ったが、同時に誇らしかった。
剣術全体で言えばまだ私が強いがもう教えられることはない。
私はネロに免許皆伝を言い渡した。
それからしばらくするとネロは一人の少女に稽古をつけるようになった。
どうやら訳ありのようだったが、勉強も教えてほしいと私にお願いし、大変気にかけているようだった。
ある夜その子がネロと一緒に宿にきた。
少女ミルフィは服が切り裂かれ傷だらけの肌が晒されている。事情を聞くとネロはすぐにゴロツキのところへ行った。その顔は冷静でありながら空寒さを覚えるものだった。
一応マフィアについて言及したが、ネロなら壊滅させることも容易だっただろう。
だが、裏社会から恨まれると生きづらくなる。だから、ただのゴロツキだったとネロから聞いた時は心底安心した。
それから依頼をこなすのだが、高ランクの依頼がA級ダンジョン付近で多いことが気になった。もしかしたらと思った私は保険をかけておくことにした。
「それでなんだ話って」
ギルド長のドミニクがソファに座って私に問いかける。
「もしこの先強い冒険者の力が必要な時、ネロを是非とも頼ってほしい。信じられるか分からないがあの子はS級冒険者にも匹敵する」
「ネロってあの八歳の子供がかぁ? どういう冗談だカガミ」
ドミニクが笑い飛ばそうとする。
「事実だ。私の冒険者資格を賭けてもいい」
ドミニクが真剣な顔つきになる。
「そこまでの覚悟か……わかった考えておこう」
「あぁ、よろしく頼む」
そして、私の悪い予想は的中する。
A級ダンジョンのスタンピート。
それを阻止するために無謀なダンジョンアタックが計画された。
しかし、私は悲観的ではなかった。ドミニクが私の助言を聞き入れネロを参加させて、くれた。これで安心だ。この一件は片付いた。そう思えるほど私はネロを信頼し、希望としていた。
ネロは私の予想通りS級の魔物を打ち倒した。それも魔法耐性のある魔物相手に魔法で。理由を聞くとスキルの発動原理まで理解していた。これには驚かされた。ネロは頭がいいが、それは年の割にはと考えていたから。こんな学者じみた考え方ができるとは思ってなかった。
だが、それをネロは知られたくないようだったので私も口外しないようにした。
それからしばし休息をいいつけられる。だが、必要最低限の訓練は続けた。
そうしてる間にネロが王城に招聘され騎士爵を叙爵された。
ネロは嫌がっていたが、これで教会は手を出しづらくなっただろう。
これでS級冒険者となれば教会はほとんど何もネロの許可なしに出来ない。
そして、ネロはS級冒険者となった。
ネロの安全は担保されたと見ていい。
つまり、当初私に教えを説いた理由は無くなったわけだ。
だが、ネロが帰省すると言った時私は迷わずついていった。
理由は剣術はまだ私の方が強いから。と、いうのは言い訳だろう。少しでも長くネロと一緒にいたかったのだ。尊敬する部分もあり頼る気持ちもある。そしてなにより、もう家族のようなものなのだネロは。
孤児院でスコット神父と久しぶりに会うと二人だけで話をした。
ソファに対面して座り、テーブルには紅茶が湯気を立てていた。
「それで答えは出たかね」
スコット神父が微笑みながら私に問いかけた。
「答え……そうですね。私が失敗した理由は見つかった気がします」
「ほう? それは何か聞いてもいいかね?」
「ネロです。私はネロと出会う為にあの失敗があったのだと思ってます。あの失敗が良かったとは思えません。でも、もう後悔することはなくなりました」
「それは良かった」
スコット神父は尚更笑みを深めた。
「子供達は凄いですね、ホントに未来を見せてくれる」
「だろう? 君もシスターになるかい?」
「今はネロに任されたもう一人の子供がいるんです。その子を一人前にするまでは他の道は考えられません」
「冗談だよ」
スコット神父が声を出して笑った。
「でも、引退したら考えておきます。そんな道もいいかもしれません」
「そうか、では前向きに考えておいてくれ」
スコット神父はいつもの優しい笑みを浮かべ、テーブルの紅茶に口をつけた。
それから約一年孤児院で暮らす。
子供達を鍛える日々は充実していた。
シスターになるのは意外と向いているのかもしれない。
そんな折、ネロに手紙が届く。
教会からの招集だ。
ついにくるのだ別れが。
ネロの誕生日は皆んなで盛大に祝った。
私はネロに足につけるミサンガを送った。
切れると願いが叶うというやつだ。
ネロの願いが叶えばいいと思い送らせてもらった。
そして出発の日。
最後の言葉を交わす。
いや、今生の別れではないのだ。
また、会えるさ。
その時まで達者でなネロ。
私の希望。
私の誇り。
そして私の愛する弟子よ。
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