帰省
カサンドラへ戻ってから数日。
いつも通り朝冒険者ギルドへ行くと受付嬢にドミニクが呼んでいると言ってきた。
俺と師匠、ミルフィは受付嬢について行って応接室へと入る。
しばしお茶など飲んで待っているとドミニクが部屋に入ってきた。
「悪い待たせちまったな」
「いえ、そんな待ってませんよ」
なんてカップルみたいなやり取りをし、ドミニクが対面のソファに座った。
「それで、結果が出たんですか?」
俺は単刀直入に聞く。
「あぁ問題なくお前は今日からS級だ。これでこの国では四人目のS級冒険者だな」
「そういえばあと三人いるんでしたね」
たしか、蜂の魔物の討伐の時、アランが言ってた気がする。
「あぁ長槍乱舞のランドルク、爆砕のミッドレイド、炎熱奏者のミラージェンだな」
「三人はどこに?」
「ミッドレイドはどこぞで修行だ。ミラージェンは学園都市で研究。ランドルクは放浪の旅。今は国外じゃないか? 全員自由人だよ」
ドミニクは疲れたように肩を落とした。
そりゃトップがやりたい放題だと大変か。
「お前は言うことを聞いてくれることを願ってるよ」
「善処します」
そう言うとドミニクは力無く笑っていた。
S級になってから、午後の討伐はA級ダンジョンに潜った。
蜂の魔物の時は最短ルートを突っ切って来たので、今度は宝箱などを求めて丁寧に攻略した。
通常ボスのポイズンスライムも倒した。俺に毒は効かないので、補食だけ気をつけていれば良く正直余裕だった。
ボスの宝箱からはミスリルの長剣が出てきた。長さが俺には長すぎるし、俺が使うのは刀なので、これは売ってしまった。
やはり、A級ダンジョンの宝物。言い値になった。まぁ金には不自由してないんだけどね。
そんなこんなで月日は流れついに九歳となった。
当初の目的であった教会を黙らせるほどの力はS級冒険者になることと、騎士になったことで手に入れた。
もう、好きなようにはされないだろう。
ずっと続けていた文字の読み書きも完璧だ。ミルフィはまだ不安が残るがミルフィは俺が教会へいったらまたカサンドラへ戻ってくる。その時に勉強してもらえばいいだろう。
ということで、もうカサンドラでやれることは無くなった。
俺は帰省の準備を整えた。
昨日のうちにお世話になった各所には挨拶を終わらせた。
あとは出発するだけだ。
俺は師匠とミルフィと乗り合い馬車のところへと向かう。
馬車へと乗り込みカサンドラを出発する。
長いことお世話になったカサンドラを眺めて哀愁に浸り、心の中でありがとうと呟くのだった。
馬車の旅は順調に進み三日後懐かしのリーネットへ着いた。
すぐさま孤児院へと向かう。
孤児院へ近づくと懐かしい子供達の声が聞こえて来た。
教会に入りシスターに挨拶する。
シスターは俺を初めて見つけてくれ、鑑定の儀へついて来てくれたスーザンだった。
相変わらず筋肉質だ。今でも負ける気しかしない。
スーザンはすぐ院長を呼んできた。
「ネロ! ネロなのか?」
「はい、ネロです」
院長が噛み締めるように確認する。
「随分逞しくなった。当然か。色々あったそうだからな。ネロの名前はこのリーネットにも届いていたよ」
「そうなんですね、お恥ずかしい限りです」
「何を言っている。多くの人を救ったそうじゃないか。私は誇らしいよ」
「ありがとうございます」
俺は院長の目を見て笑った。
「ところでそこの子は?」
院長がミルフィを見て言った。
「あっ俺が教会に行くまでここで一緒にお世話になりたいんです。お金はあるんで心配しないで下さい」
「そうか、わかった。新しい仲間ということだね。よろしく、私はここの院長のスコットだ」
院長がミルフィに手を差し出す。
「ミルフィです。よろしくお願いします」
ミルフィが院長の差し出した手を取った。
「カガミも久しぶりだね。また後でいろいろ話そう。今はそれよりも早く子供達に会ってあげてほしい。皆んなネロ達に会いたがっている」
「わかりました」
俺は子供達の声のする中庭へ向かう。
中庭を覗くと少し大きくなった子供達と見たことのない子供が二人増えていた。
「ネロ?」
はじめに気づいたのはテファだった。
「ネロとカガミさんだー!」
テファが駆け寄ってきて抱きついてきた。
俺はそれを抱きしめ返す。
「おかえり! ネロ!」
「ただいまテファ」
それから、ドントとラステル、ヒースが近寄って来た。
「ネロ!? ネロじゃねーか! S級冒険者になったってホントか!? 詳しく教えろよ!」
ヒースが興奮気味に質問してくる。
ドントとヒースも冒険者関連でいろいろ知りたいようだ。
俺はそれに一つずつ答えながら、この騒がしい感じ、戻ってきたんだなーと実感していた。
質問がひと段落し、皆んなが落ち着いた時、俺は新しい家族のもとに行っていた。
テファに聞いたところ二人とも親に捨てられたらしい。男の子と女の子で男の子が九歳で女の子が十歳だ。
「初めまして、俺はネロ。君達は?」
「俺はカーティス」
「私はキリシャ」
「そっか、これから一年程一緒に暮らすことになる。よろしくね」
「よっよろしくお願いします」
キリシャがぺこりと挨拶する。
「お前S級冒険者らしいな。どうやってなったんだ?」
カーティスが俺の挨拶を無視して質問する。
「めちゃくちゃ頑張った」
俺は胸を張って答えた。
「がんばっ…‥馬鹿にしてんのか?」
「馬鹿になんかしてないよ。ホントのことだ。カーティスも頑張ればなれる」
「ほっ本当か? なら俺に稽古をつけてくれよ!」
「ああ、別にいいよ」
「なっなら私も!」
キリシャが横から入ってきた。
「わっ私スキルが水魔法なの。だから、魔法を教えてほしい」
「わかったいいよ」
「やったー!」
「俺のスキルは身体強化だ」
カーティスが自分のスキルをつげる。
「身体強化なら俺の得意分野だ。しっかり教えてあげるよ」
「うっし!」
「なになに? ネロ二人のこと鍛えるの? なら僕も僕も!」
ラステルが話を聞きつけ自分も稽古をつけてほしいとねだる。
もちろんそうなると名乗り出る子がもう一人。
「もちろん俺もだ。元々俺はカガミさんの弟子だしな。引き続き教えてもらうぞ」
そうヒースだ。
こうして、俺は孤児院にいる間、子供達に稽古をつけることになった。
「カーティスもっと魔力を練れ! それじゃほとんど強化出来てないぞ!」
「くそっ」
今はカーティスに身体強化をさせ、素手で打ち込ませている。
俺は魔法は使わずに目で追ってそれをかわしている。
カーティスはスキルのおかげかすぐに身体強化を行えたがその練度は極めて低かった。
魔力操作がなってないのだ。
それを今は一から教えている。
打ち合いがひと段落してから、次はラステルに剣術を教える。
ラステルは俺が教会へ行ってからすぐ孤児院を出る。
そこからカサンドラで冒険者になるつもりらしい。
なので、こうして訓練しているわけだが……
「ラステルは体の動かし方から学んだ方がいいかもね。まずは……走ろっか」
「え〜!」
「頑張ってラステル!」
テファがラステルを応援する。
ラステルは赤くなりわかったと言って素直に走り始めた。
テファもラステル同様成人し俺が行ってから孤児院を出る。
そして、行き先もラステル同様カサンドラだ。今後も仲良くしてほしいね。
二人の指導を終えたら今度はミルフィだ。ミルフィもだいぶ上達した。
俺とミルフィの打ち合いを見て子供達が驚いていた。
俺たちの横ではヒースとミルフィが師匠に訓練を受けている。
見るとヒースも一人で訓練していたのか以前よりも上達している。
しかし、まだまだだ。
これからも励んでほしい。
午後は孤児院の外でキリシャとミルフィを連れて魔法の練習だ。
「そうそう、明確に水の玉を想像して」
「うぬぬ……」
キリシャが目を瞑って唸っている。
しかし、なかなか上手くいかない。
まずはカーティス同様、魔力操作を練習しないといけないかもしれない。
俺はキリシャに魔力操作のイメージを伝える。
それをキリシャは一生懸命再現しようとしている。
うんうん、頑張ってもらいたいものだ。
そこからミルフィの魔法訓練に入る。
ミルフィは火、水、風、氷属性を使える。
やっぱりしっかり訓練してない子達と比べると、実戦経験のあるミルフィは頭一つどころか三つ四つ抜きん出ているね。
頑張って鍛えた甲斐があるってもんだ。
えっへん。
ちなみに、皆んなが訓練している時ドントは庭の隅で土いじりをしていた。
ドントのスキルは建築だ。
それに活かせることをしているのだろう。
根暗というなかれ。
そして、子供達の訓練が終われば師匠と自分の訓練。
そうして、子供達と自分を鍛えている間にあっという間に一年が経とうとしていた。
ある日一通の郵便が届いた。
中には10歳になったのち王都の教会へ来てほしいというものだった。
来いと書かれていないあたり、配慮されているのが分かる。
俺は10歳の誕生日に孤児院の皆んなに盛大に祝ってもらってから、すぐに旅立つことにした。
馬車のところまで皆んなが送り出してくれる。今日は新しい子供が来るとかで院長、シスター達とは孤児院で別れをすませている。なので、ここにいるのは師匠、ミルフィ、そして孤児院の子供達だ。
「ネロ、元気でね……」
テファが泣きそうになりながら言う。
テファとラステルは春になると孤児院を出る。なのでまだギリギリ孤児院にいるので、こうして送り出しに参加してくれているというわけだ。
「うん、ありがとう」
俺はテファに笑顔を向ける。
「ネロ、気をつけて」
ラステルが手を差し出してくる。
「うん、ラステルも冒険者頑張って」
俺は差し出された手をとった。
「ネロ一年間ありがとう」
カーティスがペコリと頭を下げる。
「いいよ。カーティスはこれからも頑張って」
「おうっ」
「ネロ、私も一年間ありがとう。元気でね」
「うん、キリシャも元気で」
「ネロ、俺もいつかS級冒険者になってみせる! その時は勝負だ!」
ヒースが拳を向けてくる。
「ああ、望むところだ」
俺も拳を突き出しコツンと打ち合わせた。
「ネロ、王都の教会がどんな作りだったかまた教えてね!」
「う、うん、わかったよドント」
ドントはマイペースだ。まぁそれでいいけど。
「ネロ……」
ミルフィは泣きながら俺の胸へと抱きついてくる。
「ミルフィ……手紙書くから」
「うん、絶対ね……」
「ああ」
ミルフィがゆっくりと俺から離れる。
最後に……
「師匠……」
師匠が前に出てくる。
「ネロ……ネロは気づいてないだろうが、私はネロに救われたんだよずっと前にね。だから、ありがとう。ネロがいたから私は今こうしていられる。本当に心から感謝している。新しい地でもネロがネロらしくいられることを願っているよ。達者でな」
「師匠……僕も師匠には世話になってばかりで……本当にお世話になりました。師匠には僕の方こそ救われました。師匠の教えがあったから今の僕があります。てっこれ、師匠と同じこと言ってますね。すいません。でも、ホントなんです。だから、こちらこそ本当にありがとうございました。師匠も体には気をつけて元気で」
「ああ、ありがとう」
師匠が微笑んだのを見て俺も笑った。
「それじゃそろそろいきます」
俺は馬車に乗る。
馬車が少しずつ進み出す。
子供達が走って追いかけてくる。
俺は皆んなに声を張り上げる。
「ありがとう皆んな! ありがとう! また会おう!」
馬車がスピードを上げる。
それは、子供達を置いて進んでいく。
進んでいく。進んでいく。
今までの軌跡を轍として残して。
進んでいく。進んでいく。
新しい未来を見つめて前へ前へと。
さて、俺はこれからどう生きていこう。
どうせなら人を助けて生きていきたいな。
馬車から見える空を眺めて、ネロは一人自分の生き方を考えるのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
これにて冒険者編は終わりです。
間話を一話挟んで教会編が始まります。
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作者のモチベーションが爆上がりします。
それでは、よろしければ次話もお願いします。




