王都の教会
ネロがS級冒険者の資格を得て少しした頃。
王都の教会にて、ネロにスキルの検証の為、教会に来るよう言い渡したニコル司教と王都の大司教ルービットが会談をしていた。
内容はネロに関して。
現在分かっている情報の共有を行った後、ルービット大司教がニコル司教に尋ねる。
「それでネロという少年のスキルは本当に健康になるだけのものだったのかね?」
「正確にはわかりません。ただ、名前から察するにそのようだと判断します」
ルービット大司教が唸る。
「究極健康体か……健康なだけで八歳の少年がS級の魔物を単独討伐出来るものなのか?」
「それは私には分かりかねます。しかし、未知なスキルにはどんな能力が隠されているか分かりません。スキルが強さの一因である可能性は考えられます」
ニコル司教が自分の考えを吐露した。
「その通りだな。ニコル司教の采配は正しかったよ。このスキルは今後の為に検証しなければいけない。しかし、相手はS級冒険者な上リストリアの騎士だ。安易に手出し出来ない。丁重に扱いつつ情報を引き出すしかないか……」
S級冒険者とはまさしく天災なのである。下手に怒らせでもしたら都市など一瞬で塵になる。また、リストリアの所有物という点でも扱いづらかった。
「そうですね……」
ニコル司教が同意する。
「厄介なものだよ全く」
ルービット大司教が大きくため息を吐きその日の会談は終わった。
後日、ルービット大司教はリストリアの王、サイモン・ルクラ・リストリアと密会していた。
場所は王城の一室。豪華な調度品が至るところに飾られている。
そんな部屋でソファに座って対面し二人は話し合っていた。
議題はもちろんネロについて。
「それで、彼について分かったことはあるか?」
王がルービット大司教に問いかけた。
ルービット大司教は首を横に振り答える。
「新しい情報は何も。スキルについてもスキル名を目の当たりにしたニコル司教に聴収してみましたが、有益な情報は得られませんでした」
「そうか……」
王がソファの背もたれに寄りかかった。
「S級の魔物を単独討伐したとして、彼を国のものとし、上手く扱えればと思っていたがそう簡単にはいかぬのう……教会でのスキル検証はどのように行うのだ?」
「やはり、S級冒険者であることから安易に手出しは出来ないので、本人の自己申告制で検証していこうと考えております」
「そうか、そこで素直に協力してくれることを願うがな」
王が嘆息する。
ちなみにルービット大司教は王に対して敬語を使っているが、基本的に国と宗教は持ちつ持たれつの関係にある。
どちらかが強いということはない。
ルービット大司教が敬語なのは、単に位が違うからである。
これが教会の最高権威の教皇と王ならば、ほぼ対等に話が出来る。
しかしここでネロについて言うと、ネロは騎士爵を得てリストリアのものとなっている。
つまり、王がその所有権を主張すれば、教会は強く拒否は出来ない。
故に王は提案する。
「国の方でも彼について調べたい。教会で調べるのは二年にして、その後はリストリアの学園に入れて調べる。それでどうだ?」
ルービット大司教が少し逡巡するも答えを返す。
「中央に確認を取ってからまたお返事させてもらいます」
「うむ」
王が思慮深げに頷き、その後中央に報告する内容を擦り合わせてその日の密会は終わった。
それより数ヶ月後、ネロは十三歳の年から十五歳の年まで、リストリアの学園都市にあるラルスフォンド学園に通うことが決まったのだった。
-----
馬車の旅は順調に進んだ。
リーネットから王都までは二週間と少しだ。
護衛の冒険者達は俺のことを知らないようで、特に話しかけてくることはなかった。
もう一年ほど経つが、まだ俺がS級冒険者だとはそんなに広まっていないらしい。
それとも俺の容姿を知らないだけなのかは分からないが。
まぁ話しかけられても、もしかしたら面倒なことになるかもしれないので良かったが。
そんなことを思いつつ馬車に揺られ続けた。
そして、予定通り二週間と少しで王都へと到着した。
馬車を降り教会の場所を街ゆく人に聞いた。
大通りを宗教区へ向けて進む。
相変わらず凄い活気だ。
教会に行くことに緊張もあるが、この賑やかな雰囲気で少し心が落ち着いた。
教会が遠くの方に見えた。
青い石造の巨大な建物だ。至る所に細工がされており、神秘的な雰囲気を醸し出している。
教会に辿り着き中に入る。
中は赤い絨毯が敷かれその先に七体の像があった。絨毯の横には椅子が並べらせている。
孤児院とカサンドラの教会と同じ作りだが、中の大きさが全然違った。
孤児院は教室ほどの大きさ、カサンドラは体育館ほどの大きさ。
ここは運動場ほどの広さがあった。
天井には天使? の絵が書かれ、窓には綺麗なステンドグラスが嵌め込まれている。
そこから差し込む光が聖堂内を神秘的に彩っていた。
俺が聖堂内の容貌を見てぽけーっとしていると、一人のシスターが話しかけてきた。
「今日はどのような用事で来られたのですか?」
俺はハッと意識を戻して答える。
「あっスキルの検証のため来るように言われてきました。ネロ・リーネットです。お取次頂いてもいいですか?」
「あなたが……! 畏まりました。少々お待ち下さい」
シスターがパタパタとかけていった。
しばらくして、先ほどのシスターが戻ってきて、こちらですと案内される。
案内された先は応接室のようなところだった。
特別豪華なわけではないが、神が書かれていると思われる絵画が飾ってあったり、綺麗な壺が置いてあり花がいけられていたりした。
部屋の様子を観察している俺にシスターが口を開いた。
「こちらで少々お待ち下さい。大司教様が参ります」
シスターはそのまま退出していった。
俺は中央に設けられたソファに座り、しばらく部屋の観察の続きをして待った。
待つこと五分ほど、部屋の扉が開かれる。
「お待たせしてしまい申し訳ありません」
部屋の中に痩せ型で黒の髪を短く切り揃えた生真面目そうな男が入ってきた。
男は謝辞を述べたのち俺のソファの対面に座った。
「この教会で大司教を務めさせて頂いているルービットと申します。以後、お見知りおきを」
ルービットが手を差し出してきた。
「ネロ・リーネットです。よろしくお願いします」
そう自己紹介して俺はその手をとった。
その後、長旅ご苦労様でしたや、聖堂の雰囲気が凄いですね、などと言葉を交わし、本題へと入る。
「ところで、スキルの検証の件なのですが、今回はネロ様自身に検証してもらい、それを我々に伝えてもらうという形にしたいと思います。まず、今の段階で何か分かっていることはありますか?」
ここで、何も知らないというのは不自然だろう。きっと俺がS級冒険者になれたのもスキルの力と思われているだろうし……自分の考えは通すが、これからここで暮らす以上、ある程度の信頼関係は必要だ。
なので、俺は少し能力を開示する。
「傷が出来てもすぐに治りますね。再生と同じようなものだと思われます。それ以上は分かっていません」
「なんと! あの再生の能力を有しているのですか! それだけでも稀有なスキルですね」
「今後は自主的に傷をつけて、治る箇所、治らない箇所があるかや、傷の程度で再生速度に違いがでるかなど検証してみたいと思います」
「そうですか。それはありがとうございます。ご無理はなさらずゆっくりお調べ下さいね」
「ありがとうございます」
「そして、そのスキルの検証期間なのですがこれから二年の間となります。それ以降は国から学園へ入るようにとの指示が出ています」
「学園?」
俺は思わず怪訝な顔をしてしまう。
「はい、平民から貴族までが剣と魔法を学ぶ学園です。名前をラルスフォンド学園と言います。13歳の年から成人する15歳の年まで通うことになります」
「そうですか……」
「はい、なので二年間という短い期間ではありますがよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
それで話はひと段落し、俺はルービットと別れシスターに泊まる部屋に案内された。
こちらの部屋は簡素だが、広さは教室ほどの広さがあり、ベットもダブルベットだった。他に机と椅子が一組み。
贅沢をしない印象の教会にしては破格の待遇ではないだろうか。
先ほどのルービットとのやり取りでも常に丁重に扱われている感じがしたし、俺の思惑通り上手く牽制できているようだ。
しかし、学園か……検証が二年で済むのは良かったが学園とはまた面倒そうだ。
なぜ国は俺を学園に入れるのか。将来戦争にでも駆り出す気なのだろうか? うん、たぶんそうなんだろうな。
そうなると魔王とかと戦わないといけないのだろうか。
あー面倒だ。
しかし、この国ひいては世界に愛着があるのは事実だ。それを脅かす存在は排除しなければいけないのかもしれない。
そう考えると悪いことでもないのか……
俺は靴を脱いでベットへ仰向けにダイブした。
まぁ、なるようになるか。
俺は今後のことを思いながらシミひとつない天井をぼーっと見上げたのだった。
-----
【ルービット視点】
件の少年との接触が終わって自室で一人考える。
少年、いやネロは十歳とは思えぬほどしっかりしており、また物腰も柔らかかった。
スキルのことも多少だが教えてくれた。
だが、あれが全てではないだろう。
私の推測だが健康になるスキルなら、傷を治すだけでなく、毒も効かず病気にもならないはずである。
それを試してほしいが、ネロは傷の検証のみをすると言った。
あくまで、情報は最小限に留めておくつもりなのだろう。
ここで、普通なら私達がスキルの検証内容を指示し、簡単に割り出せるのだが……歯がゆい限りである。
相手はS級冒険者な上、リストリアの騎士である。
単純な暴力も怖いが、リストリアの所有物ということからも強くは出れない。
王もスキルの検証を推奨しているが、手荒な真似は許さないだろうからな。
一度折を見て頼んでみるか?
いや、いくらしっかりしているとは言え相手は十歳の子供だ。癇癪など起こされたらたまらない。ここは、大人しくネロに任せるしかないのかもしれない。
教会での検証の後は学園での検証もある。
そう焦る必要はない……
ルービットは椅子に背を預け、深いため息を一つ吐くのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
これからの投稿ですが、体調不良の為、不定期更新にしたいと思います。
速度は遅くなりますが、これからもお付き合い頂けると幸いです。
それでは、よろしければ次話もよろしくお願いします。




