第31話_実はいました
第4章がこれで終了です。
時は少し戻って、3位だった選手の賞品授与直後である。
彼は賞品を受け取ると即座に舞台から降りていた。
しかしその動きを誰も認識しておらず、3位まで食い込んだにも関わらず全く目立つこともなく舞台を後にした彼は人知れず地団駄を踏んでいた。
本来であれば優勝するのは自分だったのだ。
それも圧倒的な実力で。
この大会に参加するものは全員優勝を目指すのだが、彼の自信の持ち方は少し異常であった。
しかしそれも納得できるものがある。
何故ならば彼は『魔族』なのだから。
獣人の血が濃く出たせいか見た目は獣人そのものだが、その身体能力等は魔族のそれである。
シュウが以前戦ったヴァレスやベニアルドといった魔将軍クラスには及ばないがその能力はただの獣人などとは比べ物にならないほど高く、優勝することなど容易いはずだった。
それもただ優勝することが目的ではない。
優勝者に賞品が授与されるときは獣王が側におり、しかも武器を所持したままである。
彼を害するとすればこれ以上のチャンスはない。
なのでまずは優勝を狙っていたのだがイレギュラーが現れる。
他の誰でもない、シュウたちである。
シュウ達が参戦したことで彼の計画は一気に狂った。
何しろ獣人たちより圧倒的に強いはずの自分を、さらに余裕で上回る強さを持っていたのだ。
運良く予選や本戦の序盤では当たらなかったが優勝を狙うとすれば確実にぶつかる。
それが準決勝であり仮に負けたとしても3位に入り込むことが出来た。
が、ここで作戦を実行しようとしても再びシュウ達が立ちはだかる。
いや、別に物理的に邪魔をされたわけではない。
あまりにシュウ達が目立ちすぎ、自分が目立たなすぎたので受賞時間がほんの僅かしかなく獣王の前から追い出されてしまった。
仮にその場でヘタに動こうとすれば同じ舞台上にいるシュウたちにも察知され、一瞬で倒されてしまうだろう。
それでも受賞時間が長ければまだチャンスはあったのだがそれすらも叶わない。
つまり今回の作戦も失敗に終わったということである。
今回の作戦を成功させれば自分の立場がかなり向上し、もしかしたら魔将軍の末席にまで上り詰めれるかもしれない。
そんな夢を見て皮算用をしていたのだから彼の絶望感は大きい。
ここで獣王を倒すことさえできれば獣人という今後の作戦で大きな障害となる種族をある程度除外できるはずだったのだがこれでは到底無理だろう。
残る手段は真正面から部隊を率いて獣人の国に攻め入るしか早い段階での作戦遂行手段は残されていないのだが、獣人が魔族の障害になるから排除したいのに、その排除のために魔族にもかなりの大ダメージが入るという本末転倒な結果になることが予想に容易いのでその選択肢もない。
つまり自分にできることは最後まで魔族だと気づかれないうちに秘密裏にこの国を出て顛末を報告するしかない。
どのような責任を取らされるか分からないがヤケを起こすよりはマシだろう、という判断で速やかに出国の準備を進めるのであった。
◇◆◇
場面は移ってシュウたちの方である。
一行はかつてないトラブルに巻き込まれていた。
「おう、飲んでるかい」
「がははは。あんちゃん強かったなぁ。さすがは『竜殺し』だぁ」
「いやいや、姉ちゃんの方もなかなか・・・」
「出場した2人以外のお仲間も強そうだよ」
「なんでもいい!強者との出会いに!」
「「「「出会いに!!」」」」
何度目の乾杯であろうか。
既に夜も遅いのだがまったくもって解散する気配がない。
シュウたち、というかフィアは大会で動き回っていたのでもう限界近いのだが未だ捕まったままである。
現状を説明するとするならばシュウたちVS酔っぱらい(国中の獣人全て)という状況である。
大会期間中はより良い試合を見るために参加選手に必要以上の干渉はしないという暗黙のルールがあるのだが、大会が終わってしまえば関係ない。
像に関しては色々と諦め、宿屋に戻って賞品の確認をしようとしたところで併設されている酒場で待ち伏せに会いなし崩し的に巻き込まれたのである。
夕方近い位の時間から始まった宴会は時間が経つごとに参加者が増え、既に酒場内には収まりきらず外にまで進出している。
それでもまだまだ集まってきているのだから驚きである。
さらに言えば参加者が増える度にまずはシュウ達の元へ挨拶、というか絡みに来るため逃げ出すことも出来ない。
その際に酒を注がれるのだが、さすがのシュウとはいえそう何杯も飲めないためどうしようかと思っていたのだが、意外というか当たり前というか、そんなところから助け舟が出されていた。
「わははは~。もっと持ってくるのじゃぁ」
「こっちのお嬢ちゃん、小さいのによく飲むねぇ。よぉし、ドンッドン持ってこいやぁ」
「わははは~」
竜と酒とか本当に組み合わせ的にはバッチリである。
ちなみに最初はその見た目から酒を取り上げられていたのだが途中から酔っ払いだらけとなっていたためこっそり飲み始めたらしい。
それを見ていた獣人達が面白がって徐々に酒を与え始め、いつの間にかこの状況が出来上がっていた。
まぁ、見た目こそ少女だが中身はドラゴンなので全く問題はないだろうが。
それによりシュウたちへの関心がややカエデ寄りに流れていっているのは助かっている。
「この宴会はいつまで続くんだろうね」
「ホントですよ。皆ずっと飲みっぱなしですしフィアさんなんか半分寝てますよ」
「・・・ふぇっ!?寝てません!寝てまふぇんにょ!!」
「ま、無理も無いだろ。カエデと違って俺たちは普通の・・・あ、リエルもそっち側か」
リエルの方を見ると獣人からどんどん食べ物を渡されており、それを次々と口の中に運んでいた。
実はシュウたちもリエルからもらった加護のおかげで言うほど苦しくはないのだが、実際の腹加減よりも精神的な面で見ているだけでもう限界を迎えているのだ。
「ま、ああいうのはできる人に任せて俺たちは普通に楽しもう」
「そういえば商品の方は確認できたのですか?」
「いや、まだだよ。んー、今がチャンスっぽいし先に見ちゃおうか」
カエデとリエルが獣人たちに絡まれているが、彼女たちには後で見せればいいだろう。
先にシュウがもらった賞品の袋を開ける。
と、そこには石が一つだけ入っていた。
「・・・石?」
「・・・石ですね」
「・・・石っすね」
ただの石ではないことは分かる。
見た目がとてもキラキラとしていて綺麗だ。
だが、宝石の類ではなさそうである。
何故分かるかといえば宝石にしては色が不均一で所々に濁りのようなものが存在しているのだ。
これを研磨すればそれなりの数の宝飾が出来上がるだろうが、それならばこの状態で渡す意味が無いし、加工にだってお金がかかる。
まぁ貰えるものだし、とシュウは何気なく宝石に手を伸ばしてみた。
そこでシュウは違和感に気づく。
近づけていた手を離し、再度じっくりとその石を観察してみた。
と、そこでカエデがフラフラと近づいてきた。
「美味そうな匂いじゃのう」
「美味しそう?それならリエルさんが色々食べていますが、こちらには特に食べ物はないですよ?」
「何を言っておるか。そこにあるじゃろう、ほれ」
「ティアナ、カエデが言っているのはこの石だよ」
「この石、ですか?」
「これ、ただの石じゃなくて魔石だよ。とんでもなく大きいけどね」
シュウの言った通り賞品としてもらったのは魔石である。
そしてその魔石から発せられる魔力につられてカエデがやって来た、ということである。
「魔石、ですか・・・、これが・・・」
「全く、こんなのをどこで・・・ん?何か紙が入って・・・」
シュウがよく見ると魔石とともに紙が一枚入っていたため取り出してみる。
そこにはこう記されていた。
この魔石はずっと昔、それこそ建国の時代にやって来た超巨大な魔物から取ったらしいものよ。
その魔物がどんなものかは伝わっていないけどかなりの強さだったらしいわ。
ま、それはいいとして、シュウくんには優勝のお祝いと良い技を教えてもらったお礼にあげちゃうわ。
国宝とか言われてたけど文句は言わせないから安心してね。
「目が滑る・・・」
「国宝、ですか」
ハートマークが散りばめられた手紙には確かに国宝という単語が書かれていた。
それをあっさりと賞品として出してしまうとはさすが獣王である。
「で、どうするんですか?こんな大きさの魔石なんて砕いて使う以外使いみちがありませんよ?」
「そうだよね・・・。どうしようか」
物凄い価値の賞品をもらってここまで困ることもあるんだなぁ、とシュウは思わずため息が出てしまう。
酒場の喧騒の中にシュウのため息が響き渡りそれを聞いた仲間たちも同じような表情を浮かべてしまう。
優勝した結果宴会に巻き込まれ、更に使い道の分からない賞品までもらってしまった。
思わず苦笑いしか出てこない。
本来であれば武術大会優勝となればとてつもない名誉を得てほぼ全ての優勝者はしばらくの間祭り上げられ、それに笑顔で応えるものだがさすがはシュウ、といったところだろう。
こうして歴代初かもしれない苦笑いを浮かべる優勝者とともに武術大会は終了を迎えたのであった。
無事に武術大会が終了しました。
実は魔族が紛れ込んでいたりしましたが、まぁいつも通り適当にやり過ごしたのでありました。
昨日の活動報告でも上げましたが、今回の更新からしばらく投稿を休止します。
再開は8月初旬を目指していますのでよろしくお願いします。




