第29話_対覚醒フィア戦です
【フィア選手、ここに来て息を吹き返したかぁ!?】
【うむ。確実に動きがよくなっておる。一体何があったのか気になるのう】
実況席での会話通り、フィアの変化は劇的であり、観客たちもフィアに対して悲壮な表情を向けていたのだが一気に歓声が沸き起こる。
シュウがジワジワとフィアを追い詰めていた舞台上は一点シュウが防戦一方となっていたのである。
シュウはこの状況に満足していた。
これまでの特訓の中でも片鱗のさらに端っこくらいは見え隠れしていた物がいまほぼ完全体となって自分の前に立っているのである。
フィアは今までどこかパーティの中で自分を低く評価していた節がある。
それが自身の実力がパーティの中で劣っているという勘違いから来ていることを感じていた。
そのためこの大会の話を聞いた時、自身のためにもなるし、フィアも自分の殻を破るキッカケになってくれれば、と参加を勧めたのである。
それから事あるごとにフィアを焚きつけるような発言を繰り返していたのだが、あまり効果が見られなかったため、シュウも少し焦り始めていたのだがここに来て見事に開花したフィアの才能に心のなかで素直な賞賛を送る。
しかし同時にフィアに怪我をさせたり痛めつけたりしたことに関しては後でしっかり謝ろうと決めていた。
さて、試合のほうだがフィアが押している。
シュウを持ってしても覚醒したフィアの動きに付いて行くことが出来ていないのだ。
筋力や魔力の運用においてはシュウの方に分があるのだが、速度に関しては元からフィアの方が上だったのだ。
それがここに来て格段に増しており、最早シュウでなければ防御すら出来ないレベルになっている。
もしフィアが万全の状態であればこの時点でシュウの負けが確定していたかもしれないが、フィアは未だ片腕が動かせない状態であり、剣を片手で持っての攻撃であるため辛うじて防御が間に合っている状態なのだ。
ひとしきりやり取りを終えた後、シュウは防御と同時にほんの少しだけ纏っていた魔力を開放する。
それに伴いフィアは本能的に危険を感じ取り飛び退った。
「・・・?」
「俺が何をするのか分かった?」
「いえ。でもなんとなく嫌な感じがしたっす」
「流石だね。多分今のフィアは本能と理性がちょうどよく働き合っている状況だと思うから本能的に感じ取れたのかもしれないね」
未だ自分の動きが何故良くなったのかいまいち分かっていないフィアは不思議そうな表情を浮かべるがすぐにシュウに意識を向ける。
先程より力強く感じるようになった自分の体がシュウに対して警告を発しているように感じるからである。
「さて、フィアの疑問には後で答えるとして・・・こっちもちょっと試させてもらうよ」
シュウがニコリと笑う。
いつも見ているはずのシュウの笑顔だがこの時のフィアには全く質の違うものに感じられた。
全身が粟立ちシュウから目が離せなくなる。
額から嫌な汗が溢れでて頬を伝って流れていく。
このままではマズイ。フィアの本能が命の危険を訴えかけてくる。
頭ではシュウが最終的に自分を害するはずがない、と理解できているが体は既にシュウへと襲いかかっていた。
命の危険を感じたためか攻撃の速度はこれまで一番でシュウでも反応は出来ても防御が間に合うか分からない、という一撃だ。
だがシュウの目は確実に自分の剣を捉えている。
今までの経験からこれは防御される、と思ったのだがシュウの体が動くことはなく、フィアの一撃は奇しくもシュウがフィアにしたのと同じようにシュウの左腕へと叩きこまれた。
フィアの全力を持って繰り出された一撃は見事に腕を痺れさせる。・・・フィアの右腕を。
自分が攻撃したはずなのに自分の右腕に走った痺れをフィアは驚きながら感じていた。
それでも剣を落とさなかったのはさすがだろう。
一方攻撃をまともに受けたはずのシュウは微動だにしておらず、口元には変わらず笑みが張り付いていた。
一向になくならない嫌な感じと辛うじて剣を握っていられる右腕が変わらずに危険を訴えてくるがもうフィアにはどうすることも出来ない。
「よし、それじゃそろそろ終わらせよう」
シュウは右手に持った刀を鞘に納めた。
観客からすれば状況が目まぐるしく変化していっているため着いて行けない面もあるがシュウが刀を鞘に納めるところだけははっきり認識できた。
武器を納める、つまり戦闘の意思を放棄するに等しい行為は、だがシュウの次の行動でそのつもりが全く無いことを示された。
シュウは右手を握ると中腰に構える。
観客からは分からなかったが相対しているフィアから見るとシュウの魔力が右腕に集まっているのが分かった。
仮にカエデ同様に『魔拳』として放たれると確実に体が保たない。
だが回避しようにも足がすくんで動けないのだ。
どの位そうしていただろうか。フィアからすれば物凄く長い時間が流れたように感じたが実際は一瞬であった。
シュウが攻撃を開始する。
しかしシュウの拳はフィアに放たれたものではなく、自分たちが立っている舞台に向かって撃ち込まれた。
とてつもない衝撃が舞台を通してフィアに伝わってくる。
一瞬遅れて舞台上にヒビが入り、自分の足元まで達してきた。
この時シュウは舞台の端の方におり、フィアは真ん中近くにいた。
そしてシュウが自分より前方、つまりフィアの要る真ん中方面へ向けて拳の角度を調整したためシュウの足元にはヒビが少なく、フィアの方へ向かうに連れて大きくなっている。
ヒビが入っただけでは終わらず順番に舞台が砕けていく。
フィアは崩壊が自分の足元まで来ても動くことが出来ずそのまま砕かれて地面へ落下した。
舞台は地面から50センチ程の高さしかないためそこから落下してもダメージはない。
だがこの大会のルール上致命的な結果となる。
【じ、場外ッ!フィア選手が舞台から落ちた、いえ舞台が砕かれたこの場合はどうなのでしょう?しかしフィア選手が地面に接したためこの試合シュウ選手の勝利ですッ!!】
【クックック。まさか舞台を崩すとはのう】
【いや、笑い事じゃありませんよ!?今までの大会の歴史であの舞台が破壊されるなんてことは一度もなかったんですよ!】
【それほどあの小僧が規格外だった、ということじゃろう】
実況席ではギルマスが笑っていた。
それにより口を開けてポカンと舞台を見ていた観客が一斉に沸き立つ。
とんでもない方法で優勝したシュウへの惜しみない賛辞が送られていった。
と、勝利が確定したシュウは僅かに残った舞台から降りフィアの元へと向かっていく。
彼女は舞台にいた時からストンとそのまま地面に着地しており、舞台の破片によって足を挫いたりもしていないようだった。
「フィア、大丈夫かい?」
「・・・ハッ!?シュウさん?あれ、うち・・・負けたんすね」
「ちょっと卑怯だったけどね」
「いえ、あのまま攻撃されていても結果は同じ、というかうちは無事じゃ済まなかったのでシュウさんの勝ちは変わらないっすよ」
シュウから発せられていた圧力から開放されたフィアはゆっくりと深呼吸をしつつ自らの負けを宣言する。
「ところでシュウさんは一体何をしたんすか?途中からシュウさんが物凄く怖くなったんすけど・・・」
「あぁ、あれはね・・・」
シュウの説明によればシュウが行ったのは単純に魔力を放出して周囲に撒き散らしただけらしい。
その時、ほんの少しだけ敵意を乗せたらしいが。
その敵意こそ悪いものではなく、『私はアナタを敵だと思ってますよ~』位の軽いものらしいのだが、問題はそれが乗せられた魔力の方である。
「可能な限り全力で、それも濃密に出してみた」
「ちょ!?」
シュウの全力などできれば見たくなかった、というのが本音である。
そんな濃度で放出された魔力に敵意が僅かでも乗ればどうなるか。
答えはフィアが経験した通りである。
さらにとてつもない密度を誇っていたそれはフィアの攻撃など意に介さず、むしろ逆に弾き返しフィアの腕を痺れさせた。
極めつけはその攻撃性能だ。
シュウがこれまで行ってきた魔力による身体強化やフィアが成功した本能を押し出した動きはあくまでも『肉体』が仲介し自らの身体や魔力を操作していた。
それが魔力を外に吹き出した状態だとどうなるか。
認識した出来事、もしくは魔力に触れたものに対して自動的に反応、迎撃、防御を行うことになった。
これはシュウとしても予想外であり、自身の肉体内に循環させきれない魔力を外側に纏えれば面白いことになるかも?位の軽い気持ちがこのとんでもない結果に繋がったのであった。
「じゃあ最後の舞台を砕いたのもいつも以上に強化された腕力のおかげだったんすか?」
「それだけじゃあ舞台の一部は壊せても全部は無理かな?仮にやろうとしたら俺の立っていた部分まで壊れる、というか舞台の下にあった地面もかなりの被害を受けただろうし」
それを聞いたフィアはシュウが立っていた辛うじて残る舞台部分を見やる。
確かにシュウが自らの拳を用いてこれをやろうとしたらフィアよりも爆心地に近いあの部分が残っているのはおかしいし、地面もクレーターが出来ていないのが不思議である。
この答えは単純で、シュウは拳を地面に叩きつけると同時にその勢いを利用して纏っていた魔力の一部を舞台上に流し込んだのだ。
鉱物と違い魔鋼にならない石材であるため濃密な魔力が通るとそこにはひび割れという形で道が残る。
その道に魔力を残しておき、ある程度まで行き渡ったら後はその魔力を膨張させひび割れを拡大、その結果舞台が崩壊したということらしい。
この方法ならば派手な破壊も起こらないし(シュウ基準)、残したい部分を残すことも可能である。
ただし、舞台上のほぼ全体にある程度の濃度を持つ魔力を行き渡らせる必要があったり、それを離れた位置から一気に膨張させるような魔力操作能力も必要なので誰でもおいそれと出来はしない。
というかシュウ意外には到底ムリな芸当だろう。
「という感じだよ。分かった?」
「はぁ。シュウさんの非常識さについてうちが思っていた以上に非常識だってことが分かったっす」
「ひどくない!?」
この会話の最中にシュウはフィアの怪我を治療したのでフィアは既に健全な状態に戻っていた。
無論、派手な怪我をしていたわけでもないので観客から見ればフィアは思ったよりも軽症だったのか、という認識を持っていたが。
「何はともあれシュウさん、優勝おめでとうっす!」
「ありがとう、フィア」
試合に負けてはしまったがフィアの顔には晴れやかな笑顔があるのみであった。
そんなフィアに対してシュウも笑顔で答え、お互いどちらからともなく握手を交わす。
そんな様子を見ていた観客たちからは試合の途中で2人が見せた非常識の塊のようなやり取りは一度置き、素晴らしい戦いを見せてくれ、更にはお互いの健闘をたたえ合う2人に対して惜しみない拍手と歓声を向けるのであった。
こうして様々な戦いが繰り広げられた今年の武術大会の全試合が終了し、この大会は今後伝説の回として長く語り継がれていくことになるのであるがそれはまた別のお話なのである。
フィア戦終了です。
動きの早くなりすぎたフィアに対してシュウがどう対抗すれば良いのか考えた結果、相手を動けなくすればいいという結論に至ったのでこのような戦いになりました。
賛否両論あると思いますがご都合主義ストーリーなのでご容赦を。




