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第28話_フィアの力です

フィアの左腕が使えなくなり、シュウの攻撃が開始してからフィアは必死でこの状況をどうにか出来ないか考えていた。

降参はすぐにでも出来る。

しかしフィアの脳内では降参という選択肢は存在していなかった。

無様な戦いを見せればカエデの特訓、というのは既に回避出来るだけの試合は見せたはずなのでその点については大丈夫という妥協というのは少しある。

しかしそれ以上にこの時間を終わらせたくない、という思いが強かった。

いつものシュウやカエデとの特訓も厳しいが、ここまで苛烈なものでは無かった。

あくまで特訓であり、相手を倒すことが目的ではないため、ここまで力を使っているシュウの相手をするのは初めてなのである。

そのためここで降参してしまうと貴重な体験をする機会が失われてしまう。

なのでフィアは必死にシュウの攻撃に食らいついていったのだ。


◇◆◇


何度防御しただろうか。

その度に剣を弾かれ、また防御のために剣を構える。

それを繰り返したことにより無事だった右腕も徐々に痺れてきた。

そしてその衝撃が腕を通して体、そして頭にまで響いてくる。

いつ意識を手放してもおかしくない状態まで追い込まれつつもフィアはまだ諦めない。

しかし頭ではまだ諦めていなくても体が悲鳴を上げ始める。

少しずつ弾かれた剣を引き戻す速度が遅くなる。

それにともなって剣を弾かれた際の体勢が崩される。

そしてまた剣を引き戻すのに時間が、と悪循環に陥り始めたのである。

こうなるとフィアの頭に『降参』の言葉が浮かび始める。

だが、つい口走りそうになるそれを意地で抑えこみフィアはシュウの攻撃を防ぎ続けた。

勿論、ただの意地なので状況が劇的に変化するわけもなくフィアは更に押し込まれ行く。

と、ここでフィアが違和感に気づいた。

剣を引き戻す力すらなくなってきたと思ったのだが何故か今はすんなりと剣が動かせたような気がしたのだ。


(・・・今のは?)


不思議に思ったフィアは思わず考えてしまった。

そのため再び剣を引き戻すのが遅れ更に体勢を崩される。

その衝撃でフィアの体は芯から痺れてしまう。

そこでフィアの目に飛び込んできたのは追撃をしようと刀を振り上げるシュウの姿。

あぁ、これはもうだめだな、と思った瞬間何故か自分の剣が防御に間に合っていた。

これには意識を手放しかけていたフィアも目を見開き状況の理解に苦しんでいる。


(な、何すか今のは?どうして今そこに剣があったんすか?)


と、また体勢が崩される。

ここに来てフィアは違和感の正体に気づき始めていた。

突然動きの良くなる自分の体、そして考えると元に戻る動き。

フィアの脳内には今まで経験した様々な出来事が蘇っている。

特に昨日のカイとの試合は最後にいきなりカイの動きが良くなり大分苦戦した。

そして今朝のシュウの言葉。


『最後のカイの動きを意識を保ったまま出来たら凄いんじゃないか?』


これが何故かフィアの本能を刺激する。

もしや、と思いフィアは様々な可能性を試し始めたのであった。


◇◆◇


フィアの動きが時たま良くなるようになってシュウは内心自分の賭けが成功し始めていることを実感していた。

実は今までの試合中にシュウは少しだけ違和感を感じていたのだ。

獣人の選手と戦っている時、最後の方になると少し相手の動きが鋭くなるような気がしていたのだ。

しかし結局はシュウの前になすすべもなく倒れていったので気のせいかと思っていたのだが、前日のカイの戦いぶりを聞いて仮説を立ててみたのだ。


『獣人は追い込まれる、もしくは本能が危険を察知するようになると体に掛かっているリミッターが外れる』


本来人間の体には自身を壊さないためのリミッターが掛かっており、本当の意味で全力を出せる者はいない。

ではそのリミッターが外れるとどうなるか。

所謂(いわゆる)限界を超えた状態となるためそれまで以上のパフォーマンスが可能となる。

その反面、自身の体を守るためのリミッターがない状態なので動く度にダメージが蓄積されすぐに体が壊れてしまうだろう。

だが命の危険がある状態ではそんなことも言っていられない。

『火事場の馬鹿力』という言葉はそういったところから生まれたのでは、と考えた。

そんな力を仮に人族であるシュウやティアナが使ったら。

想像するまでもなくあっという間に体中の筋肉という筋肉がボロボロになりすぐに行動不能になるだろう。

しかしそれが獣人族ではどうか。

フィアの腕などシュウの腕より細いにもかかわらず、素の状態ではシュウよりも強い腕力を発揮するのである。

勿論魔力で強化すれば負けることはないのだが、それでも肉体の強靭さは圧倒的にフィアの方が上なのだ。

そしてシュウの考える仮説に当てはめれば、リミッターは掛かっているが、元々の肉体が強靭な分リミッターを外した際の反動が人族よりは少なく、そのため長い時間戦えるのでは?という結果に落ち着いた。

この仮説が正しいことは前日のカイが証明してくれている。

魔力で強化したフィアの速度に勝るとも劣らない動きをかなり長い時間繰り返していたという事実からある程度確信を得ている。


(そこから考えるとフィアもその状態になれる可能性は高い。そして魔力で強化できる分更に長い時間動くことも出来るはず。つまり今のフィアは・・・)


闘いながらもシュウが感じているフィアの成長。

自身の体の限界を超えつつもダメージとならない範囲で繰り出される動きはシュウでも決して軽くさばけるものではない。

その片鱗をほんの少しずつであるがフィアも実感し始めているように感じる。

フィアがここに達するまで耐えれるかどうかは本当にただの賭けだったのだが、それは見事にシュウの予想通りの結果となりつつあった。


◇◆◇


一度体が動き始めると今までの動きが嘘のように体が軽かった。

フィアはそんな自分の変化に戸惑いつつも今はシュウの相手をすることに集中する。

実は今までにも似たような体験をしたことがある。

キッカケは王都での魔獣襲撃事件だろうか。

最後に王亀の相手をした時にティアナやリエルの動きを見て、あの時は焦っていたこと思い出す。

ティアナの魔法に関しては知っていたがリエルの攻撃が王亀に大ダメージを与えた後のことである。

まさか2人があそこまで威力のある攻撃を繰り出せるとは思わなかったのだ。

このまま自分が大したダメージを与えられなければこのパーティの中で一番役に立た無かったことになる。

それまでの戦い方を見ると確実に自分がパーティの足を引っ張っているという事実がのしかかってくる。

最初は無理矢理シュウに付いて来ることを了承してもらったのにそれがこのザマでは申し訳のしようもない。

なんとかしなければ、と1人で焦ってしまい、完全に混乱してしまっていた。

その結果思考が固まってしまい、フィアは何も思い浮かばないまま王亀のもとにたどり着いてしまう。

目の前には王亀の巨大な体が壁のようにそびえ立っている。

そこで混乱して頭の働かないフィアの体が勝手に動き出した、というのも語弊があるが、自然と自分が何をするべきなのかが何故か理解できた。

その考えに従い体を動かした所、今まで体験したことのない速度で剣が振るわれ王亀の首が落ちたのだ。

周りも驚いていたが、他の誰よりもフィアが驚いている。

しかし驚きよりも自分の仕出かしたことでの結果が物凄いことで疑問が吹き飛び、純粋な喜びが湧き上がってきた。

そのままのテンションでシュウのもとまでたどり着き結果の報告をし、更には祝勝会まで行った後でようやく疑問を思い出した。

その後再び同じ動きをしようとしたのだが、確かに以前よりも素早い動きが出来るようになっていたが王亀の首を落とした時の動きが終ぞ再現出来なかったのだ。

あの時は無我夢中だったので今くらいの動きをもっと早く感じたのかと半ば無理矢理納得していたのだが、今の自分の動きから考えると全く筋違いな納得をしていたことに気づいた。

それほどまでに先程までとの自分の動きに差がありすぎるのである。

感覚としては同じように動いているはずなのにシュウに対して優位に立てているという事実がフィアに成長を実感させているのだった。


フィアが覚醒しました。

そして何故か当初の予定よりもかなり強くなっています。

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