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半強制結婚宣言っ!~女々しき王子と花屋の少女~  作者: 歌月碧威
最終章 偽りの終わりと青薔薇が囁く始まり
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今日も騎士道に則って(アクセラ視点)

「いいな。部屋が明るくなる」

寝具に座りながら俺は姉上に頂いた花を眺めていた。

オレンジや黄色の花々で作られたアレンジ。

手中に収まるぐらいの小さなものだけれども、姉上のように元気で可愛らしい。

それはベッドサイドに置いており、目の保養として心を潤し癒してくれていた。

騎士をしているためガタイが良く、花なんて似合わないと思われているのか、一度も贈られた事が無いので内心嬉しくて仕方がない。


――今日は良い夢を見られそうだ。


ここの所ライト兄上の件でばたばたしていたが、鍵も替えたし天井部分も侵入しにくいように細工をしたので対策は万全だ。

まさか合鍵を使って侵入するとは……


昨夜イレイザ兄上が部屋まで尋ねてきた。

ライト兄上を連れて。

こんな時間に? と首を傾げながら話を伺えば、ちょうど姉上の部屋から出たところで遭遇したらしい。

話を聞けば、てっきり盗聴器だと思って居たが、まさかそっちか! という斜め上の方向。

しかも、「機械を通じてではなく、天井裏から見ます」なんて危なすぎる!

というわけで、早急に鍵の交換と天井の工事を行った。

部屋も一階部分ではないので、地上からの進入は不可。

そのため、これで姉上も安全だろう。


気が付いたら姉上が兄上に攫われてしまった。

……なんて事が起きたら、危険極まりない。


「今日はゆっくりと眠れるな」

ドタバタしていて体も疲れている。寝ずに番をとも考えたが、さすがに今日は兄上も諦めるだろう。

なんせばっちりと対策しているから。

そろそろゆっくりと体を休めようと身をベッドへと沈めようとした時だった。


――ガタッ


という物音が、バルコニーから届いた。


「風か?」

そう呟くが、妙に胸騒ぎがする。

賊かもしれない。そう思う間もなく、足が勝手にバルコニーへと向かう。

きっと職業病なのだろう。

騎士として安全を守らねばなるまいという想いから――


「問題なさそうだな」

扉を開けて外を眺めるが異変がない。


そうだよな、気のせいだ……

首を左右に振り部屋へと戻ろうと体の向きを変えようと思ったら、妙な物が目に留まり思わず足を止めた。


「……」

隣の――ライト兄上の部屋。つまり姉上がいる部屋のバルコニーにとあるモノが、違和感丸出しで存在を主張していたのだ。


「な、縄ばしごっ!?」

バルコニーの柵に引っかけられているのは、二つのフック。

そしてそれには綱で出来たはしごがくくりつけられている。

どうしてだろう。賊かっ!? 等ではなく、犯人が必然的に断定出来てしまうのは。


見たくない。現実逃避したい。でも、これも騎士の勤めだ。

この国に住む、全ての人々を守りたい。

そう剣を取ったのだ。

だから姉上の事をお守りする。騎士道の名のもとに。


一歩前へと足を進め、斜めを覗けばやっぱり居た。

嬉々と顔を緩め、昇ってくる兄上の姿が。

しかも片手に大きな花束を持ち、器用に片腕でバランスを取りながらだ。



「兄上……」

準備が良すぎますよ……

恐らく、昨日イレイザ兄上にバレて鍵等を替えられる事を悟ったのだろう。


これが敵だったらどんなに良いだろう。躊躇無く縄を断ち切れるのに――






「何故ですか!? 僕にヒスイさんと会うなと?」

「いいえ、会うなとは申していません。ただ、さすがに淑女の部屋に侵入するのは倫理に反します。紳士的ではないと」

なんとかバルコニーにて兄上を確保。

犯行前で良かった。

兄上が昇り切るのを見届けると、無言でこちらへ誘導。


「それにこんな暗い中では、兄上も危険ですよ。もし怪我でもされたら、姉上が心配なさいます」

「……なら鍵の交換なんてしないでくれませんか?」

「それはちょっと出来ない相談ですね」

兄上はむすっとしたまま、そっぽを向いてしまう。

だが、すぐにとある場所へと目が釘づけになってしまった。


「どうなさいましたか?」

何か兄上の興味を引くモノがあっただろうか?

その視線を追えば、自室へ。

なんだろうか? まさか、寝具だろうか? いや、でも兄上は見慣れているだろうし。

と、小首を傾げた。


「あれ、ヒスイさんのお店のですよね?」

「あぁ、なるほど」

どうやら兄上は姉上に頂いた花が気になったようだ。


「そうです。姉上に頂きました。綺麗ですよね。さすが兄上です。姉上のお店だとわかるなんて」

さすがは日々専門書を嗜んでいる兄上だ。

記憶力と洞察力がすばらしい!

これなんだよな、尊敬するライト兄上の本来の姿は。


「え? ヒスイさんに貰った……?」

ぐっと眉間に皺を寄せた兄上は、がしっと何故か俺の腕を掴んだ。

何故だろう? 背筋が寒くなって来た。

まさか、また地雷を掘ってしまったのか!?


「どうしてヒスイさんがプレゼントを!? 僕は貰った事がないのに!」

「は、はっ、花はたまたま今まで無かっただけですよ! ほら、誕生日プレゼントとか他に貰っているじゃないですか」

「無いです。頂いた事がありません」

「え……」

姉上―っ!

俺は心の中で姉上に懇願した。

交際期間中にそういうイベントごとはしないタイプなんですか!?


「今年の誕生日は一人ですよ。正確には今日ですね。十二時過ぎましたし」

「お、おめでとうございます! き、きっ、きっと用意して下さっていますよ! えぇ、姉上の事ですから」

「えぇ、用意してくれていました。サプライズで。しかも、僕に似合うようにとゴアのワイングラスを」

「それは良かったですね! ゴアのガラス製品は希少価値が高く、なかなか入手困難じゃないですか!」

姉上、ありがとうございます。

あぁ、やっぱり姉上が忘れるはずなんて無いんですよ。

俺はやっと安堵の息を漏らした。

もう何が地雷がわからない。だから、これからは慎重に言葉を選ばなければ!


「良くないですよ。知らずとは言え、僕はそれでメサイアと一緒にワインを呑んでしまいましたからね……まさか、メサイアが用意したグラスがヒスイさんの誕生日プレゼントだったなんて……」

「兄上、まさか姉上が家を出た原因って……?」

「えぇ、そうですよ。僕が悪いんです」

兄上は眉を下げて斜め左側にあるバルコニーを眺めている。

そこは世界を遮断しるかのように、真っ赤なカーテンがしっかりとガードしていた。


ここで「それは兄上が完全に悪いですね」なんて留めをさす事はさすがに出来ない。

そんな非道な事は言えない。


――そりゃあ、姉上は家出なさいますよ。


ただでさえ元婚約者が家に居座っている上に、兄上の子だという子供も現れている最中、

兄上とメサイアがそのような心外な事をやってのけてしまったのだ。

そりゃあ、姉上だって屋敷に戻りたくもないだろう。


もしも姉上が完全に兄上と縁を切りたいのなら、協力を惜しまない。

でも今の状況を見ると、まだ兄上の事は好きでいてくれているようだ。


――だったら、尚更兄上に目を光らせねばならない! これ以上兄上の好感度を下がるのは食い止めねば!


「アクセラはいいですよね。ヒスイさんと毎日会えて。一緒の空気を吸えるなんて貴方は世界一幸福です」

「く、空気!?」

どうしよう。だんだん兄上が変態に思えて……いや、きっと違う。

愛情だ。愛が深いからだ!


「なんて羨ましい。僕はもうヒスイさんが居ないと生きていけません。あの小さくて可愛くて柔らかい、あの甘美なヒスイさんを抱きしめないと眠れない……おかげで睡眠不足です」

兄上、俺も同じく睡眠不足です。


「あぁ、早くヒスイさんと一緒に新しい家で暮らしたい。死が二人を分かつ時まで。いえ、魂となっても一緒です。そして生まれ変わってもずっと……えぇ、ずっとです」

そう言いながら、兄上は姉上が眠っているであろう部屋の方向をうっとりと眺めた。


なんて粘着質。いえ、きっと愛情が深いだけだ。


……明日からバルコニー下も警備強化しよう。





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